大きな窓の会議室で健康経営の資料を広げる4人の若い男女

「健康経営銘柄」とは?2021年・2022年選定基準やそのメリット・デメリット

国を挙げての「働き方改革」の潮流に、予期せぬコロナ禍の猛威も加わり、企業における従業員の健康管理は近年、さらに大きな意味を持つようになりました。そうしたなか、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、投資を行う「健康経営」の概念、取り組みへの注目も改めて高まっています。

健康経営の導入、実践に関心を持つ企業にとって、ほぼ例外なく気になる制度が「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人」。いずれも「優良な健康経営に取り組む法人を『見える化』」するために創設された制度で、前者は経済産業省と東京証券取引所が、後者は日本健康会議が運営しています。
知名度は向上しつつあるものの、両者の違いを含め、詳細をご存じないケースも多いことでしょう。今回は、これらの制度について、申請要件や選定のメリット・デメリットなどを詳しくお伝えします。

文/横山 晴美

健康経営銘柄とは?健康経営優良法人との違い

太陽を指さす健康的な手

「健康経営」は、企業が従業員等の心身の健康管理を経営的な視点で考え、投資(健康投資)を実行することを指します。健康投資の内容に明確な定義はなく、企業ごとに施策は異なります。優良投資先としての企業イメージアップのほか、医療費削減、離職防止、求職者の質や人数の向上など実益を求めて行われる場合もあります。

少子高齢化によって、長期的に労働力人口が減少するのに加え、コロナ禍という大きな災厄もあって、従業員の健康を慮るのは企業として自然な流れでしょう。また健康問題を抱えた従業員による生産性の低下(プレゼンティーズム)や、そもそも出勤できなくなる(アブセンティーズム)などの事態は、企業の存続と成長を脅かし、ひいては持続可能な社会の実現を左右しかねない問題にもなります。
また近年は、企業経営や企業評価の判断軸としてESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治)の視点が重要視されるようになっていますが、「健康」はこのうちの「S」に位置づけられる、とされています。

健康経営銘柄の概要

まず、「健康経営銘柄」という制度のアウトラインを、最新の2021年版の資料をもとに見てみましょう。
この制度は、前述のように経産省と東京証券取引所が共同で運営しており、2014年度に初めての選定が行われ、翌年最初の22銘柄(企業)が公表されています。
健康経営銘柄に選定されるには東京証券取引所の1部・2部上場企業(※TOKYO PRO Marketを除く)であることが前提です。

健康経営に取り組む施策の内容はもちろんですが、東証による財務指標スクリーニングも通過しなければなりません。ROE(自己資本利益率)や社外への情報開示など経営状態の健全性も要件に含まれます。
選定されるのは当初、1業種1社が原則でしたが、現在は複数の企業が選ばれています。2021年は29業種48社に上っています。

健康経営銘柄に選定されると企業のイメージアップや職場環境の改善なども見込まれて、企業業績の向上も期待できることから、選定企業は投資先として注目されます。要は経産省と東証に「魅力ある企業」と紹介されるようなもので、その効果は非常に大きいものになります。また「銘柄」各社の取り組みは各種メディアで取り上げられることも多く、健康経営の普及に向けたアンバサダー的な役割も担っています。

上場企業以外でも認定可能な「健康経営優良法人」とは

前述の通り、「健康経営銘柄」の選定を受けるには東証1部または2部に上場する必要があります。この点がもっともハードルが高いと感じる企業も多いでしょう。未上場企業でも、優良な健康経営に取り組むことで顕彰を受けられる制度が、「健康経営優良法人(ホワイト500、ブライト500含む)」です。
これは「非上場企業や医療法人、中小企業等幅広い法人を対象とする選定制度を設立すべき」との声により2016年より始まった制度です。いわゆる経済3団体(日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所)を含む財界組織、日本医師会、日本看護協会などの医療団体、その他企業等で組織する「日本健康会議」が認定等の運営を行っています。大規模法人向けの「ホワイト500」と、中小規模法人向けの「ブライト500」の2部門があります。

2022年はどう変わる? 2021年版 健康経営銘柄の選定基準とフロー

道路に2020、2021、2022とペンキで書いてあるロードマップ

2021年に選定された企業はどのような基準で選ばれたのでしょう。また2022年はどのように選定される見通しなのか、選定フローを紹介します。

2021年版 健康経営銘柄の選定基準

ここからは、健康経営銘柄の選定基準について、最新の情報をもとに探ってみます。
まず、経済産業省が実施する健康経営度調査に参加、回答することが第一歩です。この調査は、健康経営優良法人ホワイト500で行われるものと同じ内容です。続いて以下の要件、ステップで選定が進められます。

  1. 健康経営度調査の要件を満たすこと
    ・健康経営度調査の結果が上位20%に入り、かつ、必須項目をすべて満たしている企業を銘柄選定企業候補として選定する。
    ・重大な法令違反等がある場合には選定しない。

  2. 東証による「財務指標スクリーニング」等で要件を満たすこと
    ・ROE(自己資本利益率)の直近3年間平均が0%以上の企業を対象とし、ROEが高い企業には一定の加点を行う。
    ・前年度回答企業に対しても一定の加点を行う。
    ・社外への情報開示の状況についての評価を行う。
    ・各業種最高順位企業の平均より優れている企業についても銘柄として選定する。

  3. 経済産業省及び東京証券取引所が共同で銘柄を選定

健康経営銘柄2021の選定

出典:経済産業省『「健康経営銘柄2021」の選定方法について』を加工して作成

なお、上記のほかにも詳細な「選定要件」があります。詳しくは10月下旬マイナビ健康経営「ステップ」にて公開予定の「【2022年版】健康経営優良法人とは?概要・認定要件・事例から長所と短所を解説」をご覧ください。

2022年の選定フローは?

2021年8月30日に、経産省は「健康経営銘柄2022」の申請受付を開始しました。スクリーニングのポイントなど、2022年版の詳細な改訂内容については確認できませんが、選定に向けた大まかな選定フローは2021年と同じようです。
ただし、2021年時には健康経営度調査の回答後に、選定基準を満たした法人が改めて健康経営顕彰制度に申請するフローとなっていましたが、2022年度では回答と申請が統合されています。

2022年度選定において、申請までの具体的な日程は次のとおりです。

健康経営度調査回答期間 2021年8月30日(月)~2021年10月25日(月)17時
選定・認定時期 2022年3月頃(予定)

参照:「健康経営銘柄2022」及び「健康経営優良法人2022」の申請受付を開始しました|経済産業省

健康経営銘柄を目指すメリット・デメリット

実績資料を基に議論するスーツの男性と女性の手

健康経営銘柄のメリットを詳しく紹介するとともに、デメリットの有無についても見てみましょう。

選定によるメリット

ここまで、健康経営銘柄、健康経営優良法人の制度の概要と、銘柄の選定プロセスを見てきました。ここからは改めて、これらの顕彰を受けるメリット、そしてデメリットについても考えていきます。

経産省ウェブサイトの「健康経営の推進について」には、健康経営銘柄、もしくは健康法人優良法人ホワイト500(大規模法人向け)に選定・認定された企業が感じたメリットが紹介されています。

資料によると、社外的効果として、取り組みや銘柄選定の事実を公開することで、取引先・投資家からの高評価を得たことや、取り組みについて社長への講演や取材の依頼が増えたといった事例が挙げられています。企業イメージの向上を実感している企業が多いようです。
メディアへの露出が増えることによる宣伝効果も見逃せないでしょう。

また社内的効果としては、健康経営に関する取り組みがそれ以前より浸透し、従業員の健康に対する意識が向上したとの意見が多く見られます。それに伴い労働時間適正化や有給取得率も向上し、結果として働き方環境の改善にもつながっているとの声が多くありました。
社員の健康状態が向上し医療費が少なくなった企業の例や、生産性が向上した企業の例も挙げられています。

健康経営銘柄選定による株価のメリットは?

健康経営銘柄に選定されるには、前述したように、東証1部、2部(TOKYO PRO Marketを除く)上場企業であることが条件です。そのため、株価との関係も気になるのではないでしょうか。

経産省が公開している資料によると、三菱UFJモルガンスタンレー証券の調査において、過去の選定銘柄は価格変動比率(ボラティリティ)が低い傾向にあるとしています。
株価の安定性があり、下落リスクが低いといえるため投資家は安心して投資を行いやすいでしょう。また、純資産より純利益での株価対比の割安度が高い傾向もあります。これにより利益(稼ぐ力)が強く、競争力に優れていると推測できます。

今後もこうした傾向が続けば、「健康経営銘柄=安定的、かつ競争力に優れた銘柄」と認識される可能性が高まります。自社においても健康経営銘柄に選定されることで株価にも良い影響を与えるかもしれません。

デメリットはあるのか?~健康経営銘柄の選定のためにやるべきこと~

一方、選定を受けるには、要件に沿って社内の体制を整えなければならないことがあります。こうしたコストをデメリットと感じる企業もあるかもしれません。

経営側は健康経営銘柄の選定を受けるにあたり「経営理念・方針」と「組織体制」整備を適切に行うことが必須です。具体的には以下のような取り組みが注目されます。

  • 経営理念・方針の明確化……社内外への発信、トップランナーとしての積極的な取り組み
  • 組織体制……健康づくり責任者の役職が適切であること、保険者(協会けんぽ等)、産業医・保健師との連携体制の構築 など。

さらに、新しい方向性として健康経営度調査において、「情報開示の促進」「業務パフォーマンスの評価・分析」「スコープの拡大」の3点が盛り込まれました。「スコープの拡大」というのは、自社のみならず取引先の健康経営の取り組みを支援している、社会全体の健康へ寄与している、などの点を評価する、というものです。取り組みが自社の従業員にとどまらないことは、広域、かつ長期的な視点での企業経営が必要です。アンバサダー的な健康経営銘柄企業は、より先進的な取り組みが求められるということでしょう。

健康経営銘柄 2021年選定企業の事例

方向を指し示すロングヘアの若い女性

最後に、具体的な事例を見てみましょう。2021年に経産省から健康経営銘柄に選定された企業で行われた取り組みについて紹介します。

自社開発の健康アプリを活用して医療費削減/日通システム株式会社

自社開発の健康管理アプリを活用し、狙い通り医療費削減に成功しました。
アプリによる健康づくりのカギは、禁酒や禁煙など健康促進にかかわる行動により健康ポイントを付与するものです。月間ランキングや年間表彰を実施することで従業員のモチベーションを高めるユニークな取り組みを行っています。

健康経営のKPIを立て、PDCAを実施/オムロン株式会社

日本を代表するSDGs企業であるオムロンは、立石文雄会長自身がESG・サステナビリティ責任者で、健康経営での取り組みも進んでいます。同社は「運動」「睡眠」「メンタルヘルス」「食事」「タバコ」を5つの重要テーマとして指標化、KPIを設けPDCAサイクルにより効果の最大化を図っています。また年度ごとの注力テーマを設けています。2020年度は「運動」でしたが、2021年度はコロナ禍による不安やストレスを考慮して「メンタルヘルス」が注力テーマに採択されました。国内外で就業時間内にボランティアの機会を設けるなど、社会貢献活動による社員のモチベーションアップも盛んです。

健康づくりマネジメントシステムの導入/花王株式会社

7年連続で選定されている同社は、社の健康実務責任者・産業医・看護職等の連携体制が安定しています。また、2009年から運用している健康づくりマネジメントシステムは、個人が特定できない形で健康データを統計的にまとめています。健康アップだけでなく個人情報にも気を配った体制は一歩先を行った取り組みでしょう。
腰痛、膝の痛みと歩き方の関係を分析、リスクが発見された社員に改善提案を送るなどもしています。

健康管理の見える化で実践的に取り組む/富士フィルムホールディングス株式会社

近年ヘルスケアや医薬品、高機能材料で知名度を増した企業グループ。健康状況を事業所ごとに見える化した「健康通信簿」やグループ共通の「数値目標の設定」など客観的な数値を活用し、健康推進にコミットしています。喫煙対策としてはオンラインによる禁煙プログラムや禁煙パッチ・禁煙ガムの無償配布など実践的な取り組みを行っています。

ボトムアップ型の取り組みで効果を検証/TOTO株式会社

全国の事業所に在籍する産業医・保健師・健康管理担当者が半期に一度集まる「ヘルスケア推進ワーキング」を開催。健康管理・メンタルヘルスの取り組みについて共有・意見交換することでレベルアップを図るとともに、その知見や効果検証の結果をボトムアップ型で生かす取り組みを定着させています。

全事業所内の全面禁煙を実施/大日本住友製薬株式会社

喫煙対策では三次喫煙のリスク低減までを見据えて施策を実施しています。2019年3月末には全国事業所内全面禁煙を実現、喫煙率低下の効果を得ています。また、女性従業員にメールを送信し、乳がんや子宮頸がんなどの女性が発症することの多い疾患の積極的な受診を促進。婦人科検診の受診率が大幅に上昇しました。

まとめ :健康経営銘柄のメリットは社内外にわたる

オフィス街と重なるように歩いていく人々のシルエット

健康経営銘柄に選定されると、日本の健康経営をけん引する役割を担うことになります。対外的には企業イメージやブランディング戦略に寄与し、社員採用にも大きな影響を与えるものです。医療費の削減、また、労働時間適正化や有給取得率の向上など労働環境の改善も期待できます。少子高齢化によって労働力不足が懸念されるなか、健康経営の視点はますます重要になってくるでしょう。健康経営を取り入れるなら、健康経営銘柄を目標、もしくは取り組みを参考にしてみてはいかがでしょうか。

横山 晴美(よこやま・はるみ)
ライフプラン応援事務所代表 AFP(アフェリエイティッド・ファイナンシャル・プランナー) FP2級技能士
2013 年にファイナンシャル・プランナーとして独立。一貫して個人の「家計」と向き合う。お金の不安を抱える人が主体的にライフプランを設計できるよう、住宅や保険などお金の知識を広く伝える情報サイトを立ち上げる。またライフプランの一環として教育制度や働き方関連法など広く知見を持つ。

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