イノベーションへとつながる越境学習、そのメリットと注意点

イノベーションへとつながる越境学習、そのメリットと注意点

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今、企業の人材育成の場で、越境学習が注目されています。移り変わりの激しい時代を生き抜く力を備え、ビジネスパーソンとしての成長を促すその人材育成法について解説します。

イノベーションへとつながる越境学習のメリットやパターンを解説

近年、「越境学習」という言葉が企業の人材育成の場で注目されています。越境学習とは、従業員にこれまでとは違う仕事の環境を用意し、それにより移り変わりが早い時代を生き抜く力を備え、ビジネスパーソンとしての成長を促そうという人材育成法です。

今回は、企業にイノベーションを起こす越境学習のメリットや、実際に行う前に確認しておきたい点などを解説します。

越境学習とは?

現職とはまた違った慣習や考え方を持つ新たな環境で、これまでにない学びや視点を得ることが、越境学習の目的です。そこで得たものを自社に持ち帰ることで、組織の変革や新事業の創造につなげることのできる人材が育つというのも、メリットのひとつです。他社に籍を移して学ぶケースの場合は、「企業間留学」「他社留学」と呼ばれたりもします。

また、他社への越境だけでなく、自社内で配属先や担当領域を変えることを、越境学習と呼ぶこともあります。

越境学習のパターンを紹介

越境学習は、他社で学んだり、自社内で今までとは異なる環境で学んだりするほかに、いくつかパターンがあります。越境学習の代表的なパターンを挙げてみます。

1. 在籍出向

在籍出向は、出向元(現職)にも籍を置いたまま出向先で勤務することを意味します。最近では、コロナ禍で事業縮小を余儀なくされた航空会社や旅行会社が採用し、注目されるようになりました。

完全に籍を移す「転籍出向」とは異なり、従業員は出向元と出向先の企業の両方と雇用契約を結ぶことになります。それにより、あらかじめ定めた出向先との契約期間が満了になった時点で、出向元に戻って働くことができるのです。

2. 企業間留学(他社留学)

企業間留学(他社留学)は、現職を辞めることなく、従業員が一定期間他社で勤務することを意味します。最終的には、留学する従業員を通じて、互いの組織の活性化を目指すのがひとつの目的です。

また、在籍出向と違う点は、従業員は留学先の企業とは雇用契約を結ばず、企業間で研修契約を結ぶだけなので、留学先は賃金支払いなどの義務が発生しません。

3. 社内副業

企業内で複数の事業を行っている場合、事業部ごとに文化や考え方が違ってくるのは珍しいことではありません。これを利用し、従業員が事業部の異動や他部署の仕事を兼任することで、自社内で在籍出向や企業間留学と同じ効果を得られることがあります。これを、社内副業と呼びます。

4. ワーケーション

新型コロナウイルス感染症拡大に伴うテレワークの広がりを受け、観光需要の喚起につながる新しい働き方として、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた「ワーケーション」が注目されるようになりました。働く場をリゾートや観光地に移し、いつもの仕事をリモートワークでこなす働き方です。

例えば、地域貢献の場などに参加して学びを創出する、ワーケーションプログラムなども実施されています。そうして、日常とは違う場に身を置き、普段はできない体験や出会いから気づきや学びが得られる点で、越境学習のひとつに分類できます。

5. プロボノ

プロボノとは、ラテン語で「公共善のために」を意味するPro Bono Publicoの略称です。各領域の専門家がボランティア活動を行うことを指し、普段の仕事で習得済みの知識やノウハウを活かして活動に取り組む点が、一般的なボランティア活動とは異なります。

2010年前後から国内でも積極的に行われるようになり、2011年の東日本大震災では、弁護士などの有資格者が被災地へと足を運び、専門知見を活かしてのボランティア活動が行われました。

越境学習としてのプロボノは、こうした動きが企業に広がったもので、現在では多岐にわたる業界や業種で推奨されています。従業員のプロボノを支援することで、企業はCSR(企業の社会的責任)を達成し、結果的に企業価値を高めることができる点もメリットとして挙げられます。

【参照】特定非営利活動法人 サービスグラント「プロボノの現状と今後の展望」|特定非営利活動法人 サービスグラント
https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/report33_ikenkoukan_3_4.pdf

6. その他

勉強会やワークショップ、ビジネススクール、社会人大学といった、就業時間外で行うことの多い交流や学びの場も、越境学習に通じます。

個人の交流が主体にはなりますが、多様な業界から人が集まり、さまざまな知見やスキルを持つ人材とともに学ぶことで、これまでになかった気づきが得られ、やはりそれを自社に持ち帰ることができるのです。

越境学習が注目される理由とは?

社会の変化に伴い、従業員の仕事感も変化していることを受け、越境学習を導入する企業が増えています。続いては、越境学習が注目される理由とその背景について詳しく解説します。

製造業からサービス業へ、産業構造の変化

かつて日本がモノづくり大国として知られていたように、その成長は製造業や建設業といった第2次産業に支えられてきました。しかし、特にインターネット以降、インターネットに付随したサービス業が増えたこともあり、働く人に求められる能力は変わってきています。それは、「物を正確に作る能力」から、「柔軟な発想で斬新なサービスを生み出す能力」への変化といえるでしょう。

この能力は、日々の業務をこなしているだけでは、なかなか身につきません。従業員の一人ひとりが、刺激ある環境に身を置いて学ぶことで、初めて鍛えることができます。そうした学びを実現する越境学習は、企業が競争社会を勝ち抜いていく上で、有効な人材育成方法であるといえるでしょう。

イノベーションを牽引できる人材の必要性

組織の中にいるあいだは、企業ごとの慣習や仕組みがその組織固有であることには、気づきにくいものです。いつの間にか、皆がその枠組みの中での発想に終始してしまい、斬新な発想が必要な企画や新規事業が滞る、という場面を経験した方も多いと思います。

前述した「柔軟な発想で斬新なサービスを生み出す能力」には、そうした固定観念の存在に気づき、やわらかな発想で創造的に企画や事業を牽引していける能力も含まれます。

越境学習のメリット

ここからは、企業と従業員の双方から見た越境学習のメリットを見ていきましょう。

<企業側のメリット>

  • 組織にイノベーションを起こす人材育成ができる

    企業側にとって越境学習の最大のメリットとなるのが、人材の育成です。越境学習により、自社では習得できない業務経験やスキルを持った従業員を育てることができます。特に、ミドル世代やシニア世代のリーダーのもとで活躍の機会に恵まれない若手世代を、ベンチャー企業などに留学させてマネジメント経験を積ませることで、将来のリーダー育成にもつながります。

  • 他社のノウハウを採用できる

    越境学習を経た従業員は、他社での業務を通じて身につけたノウハウを自社に還元します。同じ業界の同じ業務であっても、会社によりやり方がまったく違うことは珍しくありません。そうした他社のノウハウを取り入れることで、業務の改善や効率化を図ることができるようになります。

  • 人材の流出防止につながる

    単に従業員に学びを推奨すると、他社に魅力を感じた従業員が離れてしまうリスクが発生します。しかし、企業が仕事や研修制度の一環として越境学習を取り入れることで、従業員は自社でのキャリア形成を前提として参加することになり、結果的に人材の流出につながりづらくなります。

  • ミドル世代やシニア世代を活性化できる

    今のような不確実な時代では、ミドル世代やシニア世代も、現在の環境で通用するスキルを磨き続ける努力が求められます。終身雇用の時代に入社し、長期間同じ仕事を続けてきた世代は、変化に順応する力が乏しくなりがちなもの。越境学習により、不活性化したミドル世代やシニア世代に刺激を与え、さらなるスキルアップを促すことができます。

<従業員側のメリット>

  • 自己成長やスキルアップにつながる

    自社のマニュアルや常識が通用しない環境で働くことで、従業員はみずからの強みと弱みを再確認することになります。そして、みずからの強みは今後の仕事の軸に、弱みはこれから獲得すべきスキルや経験の目安になり、自己成長やスキルアップにつながるのです。

  • 転職せずに自分の力を試せる

    転職するほど今の仕事に不満はないけれど、これまでに身につけたスキルが別の環境でどこまで通じるかを試したいと考えている人は、少なくないと思います。企業間留学・他社留学を選べば、転職のリスクを冒さず、今とは別の環境で自身の実力を試すことができるのです。

  • 仕事を客観視できる

    別の環境で働いたり、研修を行ったりすることで、元々の自分の仕事や就業環境を客観視できるようになります。それにより、自分や会社の良い点・悪い点が明確になり、中長期的視野でみずからのキャリアプランを構築できるようになるのです。

越境学習を始める前に確認しておきたい事項

越境学習を始める前に、いくつか確認しておきたい点があります。組織として体制を整え、従業員との相互理解にもとづいて実践することで、越境学習の効果をより高めることができるようになります。

1. 越境学習に従業員は納得しているか?

先程、越境学習にはさまざまな形があることをご紹介しました。基本的に就業時間外での参加となるプロボノやワークショップ、ビジネススクールへの通学などは別として、在籍出向や企業間留学、他社留学のように別組織に所属して働く場合は、留学をする従業員との話し合いの場を事前に設けましょう。

特に、組織に対する愛着が深い従業員の場合、一方的に出向や留学を指示されることにより、「自分は会社に不要なのかもしれない」と感じてしまう可能性があります。特に、下記の3点については、従業員が納得するまで話し合いをするべきです。

  • 今回の越境学習の目的

    越境学習とは何か、また、企業側から声をかけた場合は選出の基準は何かといったことを従業員に伝えれば、相互理解が進むはずです。その上で、現職に籍は置いたままで、留学期間が終われば戻ってこられることも伝え、安心して臨んできてほしいと背中を押してあげましょう。

  • 今回の越境学習の意義

    「他社の技術を習得して、さらなるスキルアップを果たしてほしい」「それにより、将来的に次世代のリーダーの一人として活躍してほしい」など、越境学習を通して実現してほしい将来像を具体的に伝えると、従業員も越境学習を実践しやすくなります。

    さらには、そうした企業目線だけではなく、従業員自体にどんな変化が起こりうるのか、従業員にとっての越境学習の意義についても話しましょう。先にお伝えした従業員のメリットを参考に、自己成長につながることを伝えてあげてください。

  • 越境学習終了後の受け入れ体制

    繰り返しになりますが、従業員には「戻ってこられるかどうか」はもちろん、「戻った後はどこに配属されるのか」「以前と同じ仕事をするのか」といった点を伝え、安心感を得てもらうことが大切です。

    それと同時に、越境学習を終えた従業員が、スムーズに業務に戻れる環境も用意しておくことも伝えましょう。異なる経験をしてキャリアアップに近づいている社員を、ほかの社員がうらやむといった軋轢が生じないよう、終了後の環境整備も重要です。

2. 越境学習を自社都合だけで考えていないか?

越境学習を導入することの目的を、「自社に貢献できる人材」の育成だけに設定してしまうと、良い結果は得られません。組織の枠を超えて行うからには、従業員だけでなく、受け手側の企業にもきちんと目的を理解してもらい、互いにシナジーが生まれる状態を目指しましょう。

そのためには、単純に組織として育成したい人を選ぶのではなく、該当者が越境学習を自発的に望むかどうかを確認しておくのも重要です。そのモチベーション次第で、越境留学先での就業態度も変わるでしょうし、それが受け手側の企業内で、自社の評判が上がることにつながります。

3. 従業員が越境学習を志望する理由を確かめたか?

自発的に越境学習を望む従業員には、なぜ望むのかといった理由を確認しておきましょう。

例えば、下記のような理由が見え隠れしたら、現職への何らかの不満を糸口とした越境学習となってしまい、受け手側の企業にもマイナスの影響を与えかねません。

  • 現職のポジションや評価に不満があり、キャリアを模索したいと考えている
  • 現職の人間関係から逃れたい
  • 現職の収入に不満があるため、副収入を得たい
  • 将来に向けて転職先を探したい

「普段とは異なる場に身を置くことで、新しい知見を得る」という越境学習の意味を理解し、かつ越境学習によって組織に成果を還元できる人材かどうか、志望理由を聞くことで見極めましょう。

また、現職に対する不満がきっかけで越境学習を希望しているとわかれば、部署異動や配置換えなどの解決策を探ることもできます。

越境学習を前向きに捉える企業風土作りを進めよう

別の組織で学ぶ越境学習は、成長意欲の高い従業員のさらなる成長を促すことが可能です。従業員のモチベーションが高まるだけでなく、受け手の企業での自社の評判が高まるといった効果も期待できます。

社会の変化に柔軟に対応し、組織の成長を停滞させない実行力を持つリーダーを育てるためにも、異なる環境での学びはとても有意義だといえるでしょう。

一方で、まだ一般的には、越境学習の意味や意義が浸透しているとはいえないため、越境学習を前向きに捉える企業風土づくりから取り組む必要があります。

社外で得た経験や知見が、自社の組織や事業にどのように活きてくるのかをきちんと説明し、越境学習に対してポジティブな空気を醸成していくことが大切です。

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