医院承継とは?メリットやトラブル対策を解説

医院承継とは?メリットやトラブル対策を解説

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地域医療とスタッフの雇用を守る上でも、医院承継は正しく行う必要があります。医院承継のメリットのほか、よくあるトラブルやその対策を紹介します。

医院承継とは?メリットやトラブル対策を解説

どの地域にも、親から子供へ、時には子供から孫へと承継され、患者さんも2代、3代と通い続ける地域密着型のクリニックがあるものです。しかし、「地域に欠かせないクリニックをなんとか存続させたい」と考えて医院承継に踏み切ったものの、思わぬトラブルに発展してしまうケースも少なくありません。

ここでは、医院承継が増えている背景や医院承継のメリットのほか、よくあるトラブルやその対策を紹介します。

医院承継にはどのようなパターンがある?

医院承継とは、すでに開業している既存の医院の運営を、別の医師が引き継いで理事長になることです。承継のパターンは、「親族内承継」と「親族外承継」の2つがあります。

親族内承継

子供が同業である場合、第一選択肢となるのが子供への承継です。承継してくれる子供がいない、子供はいるが医師ではない、または医師だが当人が理事長になることを拒否している、専門としている医療分野が異なるといった場合には、子供以外の親族内承継が第二の選択肢となります。

親族外承継

医院で働いてくれていた親族外の医師や、開業の場所を探している第三者の医師に医院を譲るパターンが、親族外承継です。医院を残したい理事長と、できるだけ早く開業したい第三者の医師とのあいだでニーズが合致すれば承継は実現します。後継者不足の現在では、医院承継の現実的な手段だといえるでしょう。

なお、医師ではない人でも、知事の認可を受けることができれば理事長になることは可能ですが、そうした事例は全国的にもごくわずかです。

医院承継が増えている背景

医院承継が増えている背景には、医師の高齢化が背景にあると考えられます。厚生労働省が公表している「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 によると、年齢階級別、施設別の医師の数は下記のとおりです。

  病院
(医育機関附属の病院を除く)
医育機関附属の病院 診療所 合計
29歳以下 1万8,788人 1万383人 207人 2万9,378人
30~39歳 3万5,752人 2万4,213人 4,543人 6万4,508人
40~49歳 3万5,719人 1万3,360人 1万8,305人 6万7,384人
50~59歳 3万2,028人 6,219人 2万9,027人 6万7,274人
60~69歳 2万118人 2,164人 3万734人 5万3,016人
70歳以上 9,286人 97人 2万1,020人 3万403人
平均年齢 47.0歳 39.0歳 60.0歳 49.9歳

【出所 】厚生労働省「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」P6を基に加工|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/index.html

医師の平均年齢を施設の種別ごとに見ると、病院が47.0歳、医育機関附属の病院が39.0歳であるのに対して、診療所は60.0歳と高くなっているのが特徴です。

さらに、診療所の医師は10万3,836人中60歳以上が5万1,754人と半数近くを占めています。街の医院でも医師の高齢化は着実に進行しており、医院承継のニーズも年々増加しているといえるでしょう。しかし、少子化が進む昨今では、後継者不足からやむなく休廃業を選択する医院も少なくありません。

医院承継における理事長のメリット

医院を承継する最大の目的は、医院を存続させることといえます。それ以外には、理事長にとってどのようなメリットがあるのか、具体的に見ていきましょう。

患者さんに迷惑がかからない

親族や第三者の後継者が医院を承継し、同じ場所で医療の提供を続けられれば、患者さんに迷惑がかからないことがメリットです。医院の絶対数が少ない地域では、1つの医院の休廃業が住民に大きな影響を及ぼします。医院承継を行えば、慢性的な疾患で長年通院している高齢者や、小さい子供のかかりつけ医として頼りにしている家族など、地域の人々の生活を支え続けることができるでしょう。

スタッフの雇用を継続できる

現在の理事長の引退から間を置かずに経営が承継されれば、医院を支えてくれているスタッフと、スタッフの家族の生活を守ることができます。医院を休廃業するということは、そこで働いてくれているスタッフの雇用を守れなくなるということです。急に廃業を決めれば、スタッフは新たな勤務先を探す時間がないまま収入を失ってしまいますので、医院承継は早いうちに準備をしたほうがいいでしょう。

代々引き継いできた医院を残すことができる

地元で長く続いた医院を残すことができれば、理事長の心理面の負担を減らすことにつながります。「医院の名前を残したい」「名前は残らなくても、この場所に医院を残しておきたい」という理事長の思いを救うという意味でも、医院承継は有用です。

医院承継における後継者のメリット

医院承継をすることで、後継者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。こちらは大きく、4つのメリットがあると考えられます。

患者さんを引き継げる

医院承継の形で開業する場合は、既存の医院で診ていた患者さんも引き継ぐことができるため、開業から一定の売上が見込めることがメリットといえます。開業にあたって最も難しいのが、患者さんの獲得です。開業後、患者さんの信頼を得て一定の売上を上げられるようになるまでには、相応の時間がかかるのが一般的です。特に、競合が多い地域などでは、患者さんの奪い合いが激しく、かかりつけ医として継続的に通院してもらえない可能性もあります。

医院承継をすれば、後継者は売上を上げることにとらわれず、心に余裕を持って診療に取り組むことができるでしょう。

実務に慣れたスタッフをそのまま雇用できる

スタッフがそのまま勤務することを望めば、スタッフの新規雇用にかかるコストや、研修の手間を削減することができます。長く働いているスタッフは、患者さんの情報をよく知っている傾向があることも、後継者にとっては大きなメリットです。

先の見通しが立てやすい

医院承継をすれば、患者さんがどれくらい来院するか、経費がいくらかかるかといった見通しが立ちやすくなります。勤務医や看護師の補強のほか、医療機器の補充といった、人材や設備に必要な投資も、事前に計画が立てやすくなるでしょう。

開業にかかる初期費用を削減できる

初期費用を抑え、資金を未来の投資に使うことができるのも医院承継のメリットです。医院承継なら、土地・建物にかかる費用はもちろん、人材の採用にかかる費用も削減でき、高額な医療機器を新たにすべてそろえる必要もありません。

医院承継でよくあるトラブル

理事長、後継者、双方にメリットがある医院承継ですが、残念ながらトラブルも多く発生しています。続いては、医院承継における代表的なトラブルをご紹介します。

親子間で相続がスムーズに進まない

理事長と子供のあいだで相続がスムーズに進まないケースは多々あります。開業医である理事長が亡くなった場合、自宅の不動産や預金と同じように、事業用資産もすべて個人資産として相続税の対象になります。事前準備もしないまま相続が発生すると、相続人は高額な相続税を支払うことになるため、理事長が元気なうちに相続税対策を始めておくことが大切です。

しかし、子供が複数いる場合には、この準備段階でさまざまな問題が起こることがあります。例えば、下記のような問題が起こると、医院承継が困難となる可能性があるため、相続税の準備は慎重に行っておく必要があります。

  • 相続人が財産分与に不満を持つ
  • 医院の後継者ではない相続人が、医院の土地と建物の一部を売却してしまい、医院運営に支障が出る

理念や診療スタイルが違うことによる患者離れ、スタッフの離職

医院の理念や診療スタイルが変わると、スタッフの退職や患者離れにつながる可能性があります。会社が経営理念や経営ビジョンで従業員を率いていくように、医院も独自の理念や診療スタイルでスタッフをまとめ、患者さんから信頼されなければなりません。

例えば、前任の理事長が患者さん一人ひとりの話にじっくり耳を傾けるスタンスで信頼を集めていたのに対し、後継者の理事長は短時間の診療で効率を優先するスタンスだった場合、そのギャップによって医院の評判が落ちるおそれがあります。

スタッフとの関係性が構築できない

医院のスタッフが努力して構築したシステムや、長年守ってきた仕事の流れへの配慮が後継者に欠けていると、集団退職が発生するおそれもあるので注意が必要です。

特に、スタッフと前理事長との信頼関係が厚く、理事長交代にスタッフの心理的抵抗感がある場合や、後継者が前理事長とは異なる独自のやり方で医院経営を推し進めるタイプの場合、注意が必要です。

患者さんへの説明不足による信頼感の喪失

患者さんに対して「事前の説明不足」があると、患者さんが医院から離れてしまいかねません。信頼していた理事長から急に別の理事長に変わり、診療スタイルもこれまでと異なれば、患者さんは疑問や不満を抱きます。

承継させる理事長が、「私は引退するけど、同じように糖尿病を診てくれる若い先生が来てくれますよ」といった説明を事前に患者さんにしておくと、患者さんの不信感を抑えながら後継者につなげることができるでしょう。医院内の掲示物や配布物なども、積極的に活用してください。

理事長の急病や急逝で、すぐに承継が必要になる

超高齢社会の現在では、理事長の急病や急逝ですぐに医院を承継しなければならないケースも増えてきています。万が一のことがあった際、後継者が決まっていないと、患者さんやスタッフを守ることができません。

後継者の選定や相談は、理事長が「まだまだ仕事はできる」と思っているうちから進めておくようにしましょう。

承継時のトラブルを回避するための対策

ここからは、医院承継のトラブルを回避するための対策をご紹介します。医院運営に支障をきたさないよう、事前に対策をしておきましょう。

承継前に条件や理念を確認する

医院承継を行う際には、理事長と後継者のあいだで条件や理念を確認しておく必要があります。承継後に「こんなはずではなかった」ということにならないよう、下記の3点について確認しておきましょう。

  • 費用面の合意を得る
    医院をどれだけの金額で承継するのか、費用面の合意は明確にしてください。現理事長が「承継してもらえるなら医院の売却費用はいらない」と言ったとしても、建物や医療機器が古かったり、必要な備品が足りなかったりすれば、リフォームや機器の買替え、買足しなどの費用が発生します。後継者は、現理事長が提示する費用額にかかわらず、一定のコストが発生することを想定しておきましょう。
  • 後継者の経営理念や診療スタンスを確認する
    理事長は、後継者がどんな理念を持って患者さんと接しているのか、普段の診療スタンスを確認しましょう。後継者の診療スタンスが、自身とスタッフ、患者さんにとって受け入れられるものであるかどうかは、承継の成功に大きく関わります。
  • 承継後のスタッフの処遇を決める
    理事長は、今働いているスタッフへの承継後の処遇についても、事前にコンセンサスをとっておきましょう。雇用を継続する場合、給与や待遇を維持するのか、それとも変更する可能性があるのかを決定し、事前にスタッフに伝えておくことが大切です。

後継者とスタッフの個別面談を設定する

医院承継後もスタッフの雇用を継続する場合、後継者とスタッフの個別面談の時間を設定しましょう。理事長交代の時期、今後の運営方針、処遇計画などを後継者自身の言葉で伝えることで、信頼関係の早期構築の一助となります。

患者さんには早めに医院承継を伝える

患者さんをそのまま引き継げることは、医院承継を決断する理由にもなりうる大きなメリットです。現理事長は、スムーズなバトンタッチができるよう、できるだけ早く患者さんに理事長が交代することを伝えましょう。慢性的な疾患などで定期的に通院している患者さんには、特に早めに伝えておくことをおすすめします。

専門家に相談する

親族内承継では、相続の問題を踏まえて計画を立てる必要があります。医院承継を考えたら、できるだけ早く専門家に相談しましょう。

中でも、医院の経営状態や、理事長の個人資産を把握している顧問税理士のアドバイスは有用です。また、税理士のアドバイスを踏まえた上で、医院承継や相続の専門家にも早めの相談を行うと、準備すべきことが明確化します。

事業用資産を承継する方法

個人診療所の医院では、事業用資産も個人資産として後継者に承継することになります。事業用資産を洗い出し、スムーズに承継できるよう、準備をしておくことが大切です。

事業用資産を承継する方法としては 、譲渡、賃貸、贈与の方法があります。

譲渡

事業用資産を承継する方法として、親名義の土地と建物、医療機器を子供に譲渡し、名義を変更することが挙げられます。親が譲渡所得税を支払い、耐用年数が残っている場合、子供は建物の取得費用を減価償却費として計上することが可能です。

賃貸

親と子供の生計が別である場合は、親名義の土地と建物、医療機器を子供に貸すという承継方法もあります。親には賃貸料が入り、子供は賃貸料を経費に計上することができます。

贈与

親名義の土地と建物、医療機器などを子供に生前贈与し、名義を変更することも、事業用資産を承継する方法のひとつです。
この場合、相続時に贈与額と相続財産の価額を合計して、相続税額を決めることになります。子供に贈与税がかかることがありますが、相続時精算課税制度 を活用すれば、2,500万円までなら非課税で贈与が可能です。

また、親族内承継ではなく、第三者に承継する場合はM&Aとなります。M&Aには、個人から個人はもちろん、個人から法人、法人から個人、そして法人から法人といった形態があります。

なお、入院治療を行うことができる小規模な医療施設の有床診療所は地域医療計画によって、病床規制の対象です。承継をする際は、入院患者が入院をしていることが条件となるため、使用していない病床を継承することはできません。

【参照】国税庁「税の情報・手続・用紙 No.4103 相続時精算課税の選択」|国税庁(2021年4月1日)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm

大切な医院と人を守れるような医院承継の実現を

医院承継は、医院の継続はもちろん、かかりつけ医として頼りにしている患者さんや、働いているスタッフの雇用を守るための選択肢のひとつです。承継させる側も承継する側も、医院承継を行う際のメリットのほか、よくあるトラブルとその対策を押さえておくことが大切です。

ご紹介した対策や、専門家のアドバイスなどを参考にしながら入念な準備を行い、大切な医院、患者さん、スタッフを守れるスムーズな承継を進めていきましょう。

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