病院売却増加の社会的背景とは?売却方法と注意点、メリットを解説

病院売却増加の社会的背景とは?売却方法と注意点、メリットを解説

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後継者不足などを背景に、医療機関の休廃業が増えています。その社会的背景や、地域の生活に影響を与えない病院売却の進め方のほか、売却時の注意点を解説します。

病院売却増加の社会的背景とは?売却方法と注意点、メリットを解説

後継者や医師・看護師の不足などを背景に、小規模な医療機関を中心に休廃業する病院やクリニックが増えています。小規模ながら地域に密着した医療機関の休廃業は、地域住民の生活に大きな影響を与えます。それらの医療機関は、住民の健康はもちろん、雇用も担う重要な存在でもあるからです。

そこで、検討したいのが、「事業承継」や「事業の売却」を行って病院を残すことです。ここでは、病院売却が選択されている社会的背景のほか、病院売却の進め方と注意点をご紹介します。

事業承継と事業譲渡の違いとは?

経営者である病院の理事長が経営を退くにあたって、病院を残そうとする場合、「事業承継」か「事業譲渡」のいずれかの方法が考えられます。まずは、それぞれの特徴を押さえておきましょう。

事業承継

事業承継は現理事長から後継者へ、事業を継承する方法です。子供や孫、配偶者、血縁関係にある親族などが経営を引き継ぐ「親族内承継」と、いっしょに事業を行ってきた取締役、役員、従業員、承継を目的に社外から採用した人材などに引き継ぐ「親族外承継」があります。

事業譲渡

事業譲渡は、子供などの後継者がいない場合や、子供に事業承継の意思がない場合などに、事業を行う意思のある第三者を見つけて事業を譲り渡す方法です。少子高齢化となっている日本では後継者がいないケースも増え、近年はよく事業譲渡が選択されています。

事業承継は病院やクリニック全体が承継の対象になるのに対して、事業譲渡は事業の一部、もしくは全部など、譲渡の対象を選択することができます。

病院売却が選択されている社会的背景

近年、なぜ病院の売却を検討する経営者が増えているのでしょうか。考えられる要因をいくつか挙げていきましょう。

経営難で承継がためらわれる

病院の経営難を背景に、承継を見送るケースがあります。医療制度改革によって収入源である診療報酬が引き下げられ、多くの病院やクリニックの経営が悪化しました。

これに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルス感染症の拡大による市民の受診控えです。政府の補助金によって一時的に損益差額が改善しても、抜本的な診療報酬のプラス改定がなければ長期的な見通しが立たないと日本医師会は訴えています。

収支が赤字の場合、理事長は親族や従業員への事業承継を心情的にためらうものです。こうした場合には、地域社会に必要な医療機関や従業員の雇用、培ってきたノウハウなどを残しつつ、売却益を得られる病院売却が検討されます。

【参照】日医ニュース「診療報酬の大幅なプラス改定を求める提言をまとめる」|日医on-line(2021年12月20日)
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/010392.html

後継者不足で病院の承継ができない

病院やクリニックの後継者不足には、大きく2つの理由があります。1つは、「医師である」ことが後継者の条件となることです。医師になるには受験戦争を勝ち抜いて医学部に入る必要があり、さらに開業医となるには患者に信頼される人間性を身につける必要があり、その道のりは容易ではありません。

少子高齢化でそもそも子供が少ない今、親子間での医院承継は、今後ますます難しくなっていくとみられます。

もう1つは、子供による継承が当たり前ではなくなっていることです。価値観の多様化によって、理事長の子供が医師ではない別の職業を選んだり、医師になっても開業医を敬遠して勤務医になったりするケースが増えています。
こうした後継者問題は、第三者に病院を売却することによって解決することができます。

後継者不足は、医師の高齢化により早急に対応しなければならない問題でもあります。

厚生労働省が公表している「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によれば、施設の種別ごとに医師の数を見た場合、診療所では60~69歳が最多となっています。このことから、多くの医療機関で高齢化が進み、今後の経営の在り方を考える時期にさしかかっていることがわかるでしょう。
一方で、日医総研が2019年に公表したデータでは、診療所の8割以上が「調査時点で後継者が決まっていない」と回答しています。

後継者不足は、多くの医療機関にとって喫緊の課題であり、理事長の万が一に備える選択肢のひとつとして事業譲渡が検討されています。

【参照】厚生労働省「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」P6|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/index.html

【参照】日医総研ワーキングペーパー「医業承継の現状と課題」P5|日本医師会総合政策研究機構(2019年1月8日)
https://www.jmari.med.or.jp/download/WP422.pdf

日本における医師不足の問題

世界トップの高齢化率で医療の必要性が高いにもかかわらず、日本の医師の総数は決して多くなく、先進諸国の中では最低に近い数字です。現場の医師の採用難に悩む医院も少なくありません。

医師が不足すれば、診療体制を縮小せざるをえず、経営状態は次第に悪化します。新たに医師を採用するのが難しい場合は、医師をすでに確保している医療機関に病院を売却して、体制を強化してもらう必要があるでしょう。

【参照】医療ニュース「コロナで医師不足鮮明に 抜本増に政策転換を」|全国保険医団体連合会(全国保険医新聞2020年6月5日号より)
https://hodanren.doc-net.or.jp/news/iryounews/200605_sisk3_cvd_doc.html

病院の修繕費用が出せないケース

建物の築年数が長い医療機関の中には、設備の老朽化や耐震性を改善するための修繕費やリフォーム代が必要になることがあります。収益が悪化している医療機関にとって修繕費は大きな痛手ですが、仮に廃業を選択したとしても、建物の解体費といった莫大な費用がかかります。

その点、事業譲渡であれば、現理事長は修繕費を売却先に託すことも可能です。また、クリニック売却で得た譲渡益を、次の事業やライフプランの資金にあてることもできます。

病院売却の進め方

ここからは、実際に病院を売却するときの流れに沿って、売却に必要なプロセスを詳しく解説します。プロセスを7つの項目に分けて紹介しますので、ひとつずつ見ていきましょう。

1. 経営状態について資料にまとめる

まずは、自院の状況を客観的に分析し、強みや特徴と併せて経営状態を資料に落とし込みましょう。売却に関わる専門家や買い手に対して、現状の課題と魅力をスムーズに説明することができます。

2. 専門家に相談する

収益が悪化している医院において、個人的に譲渡先を見つけるのは簡単ではありません。M&Aの支援を専門とする会社や、診療所経営のコンサルティングを行う会社などに相談をするのも有効な手です。病院売却のプロに相談することで、収益を改善できる潜在的な魅力が見つかったり、その価値を活かして経営を再建してくれる買い手と出会えたりする可能性が高まります。

また、病院売却には専門的な知識も必要になりますので、顧問弁護士や税理士にも相談しておくことをおすすめします。

3. 売るものと売らないものを決定する

事業譲渡では、売るものと売らないものを選択することができます。例えば、法人格を持って複数の医療施設を経営している場合、採算がとれない地域の医療施設だけを売却し、同じ法人格のまま、ほかの医療施設を運営することも可能です。「何を売って、何を残すのか」を決定しましょう。

4. 売却先を選び、交渉する

自院の購入を希望する医師が見つかったら、売却価格と売却の対象範囲、売却時期、スタッフの雇用継続の有無など、条件面をすり合わせます。合意に至らない項目があれば、細かい交渉を重ねて妥当な条件を詰めていきましょう。

なお、売却額に影響する可能性があるのは、次のような項目です。

  • 事業用固定資産
    土地は立地や形、広さ、建物は築年数や内装の状態が取引価格に関わります。土地や建物が賃貸契約の場合、買い手が契約も引き継ぐことになるため、売却後の賃料などについても相談しておきましょう。
  • 診療科目の種類や多さ
    高齢者の多い町でさまざまな疾患を診られる内科など、継続的な需要が見込める診療科は売り手の評価が高くなります。診療実績を振り返り、今後も見込まれる需要を整理しておきましょう。
  • スタッフの引き継ぎ
    医院と同時にスタッフを引き継げるかどうかもポイントです。業務に慣れたスタッフを買い手がそのまま引き継げれば、採用や教育にかかる手間とコストが削減されるため、売却額はプラスに働くでしょう。
  • マイナス資産の整理
    従業員への未払い給与や退職給付引当金、売却後に修繕が必要な箇所の修繕費用、古くなった機器や家具などの廃棄費用、資料の廃棄費用など、買い手の出費になるものは売却額に影響します。マイナス資産も整理し、売り手と買い手が納得できる売却額を詰めていきましょう。

5. 基本合意契約の締結

売り手側と買い手側、双方の希望する条件がほぼ固まり合意が得られたら、基本合意契約を締結して「基本合意書」と呼ばれる契約書にサインをします。

基本合意書には、主に下記のような内容が記載されます。

  • 売却の大まかな条件
  • M&A契約予定日
  • 事前に約束した期間中はほかの買い手候補者と接触しないこと
  • 基本合意契約の有効期限
  • 売却価格の決定方法
  • 基本合意契約を締結後に行われるデューデリジェンス(本契約前の監査)に関する事項

6. デューデリジェンスを受ける

デューデリジェンスは、買い手側が費用を負担し、専門家に買収先のリスクとその程度を調査してもらうものです。デューデリジェンスには、買い手の目的に応じてさまざまな種類がありますが、代表的なのは「財務デューデリジェンス(財務DD)」「税務デューデリジェンス(税務DD)」「法務デューデリジェンス(法務DD)」の3つです。それぞれどのようなものか見ていきましょう。

  • 財務デューデリジェンス
    財務デューデリジェンスは、財務状況を重点的にチェックするデューデリジェンスです。業績やキャッシュフローをもとに、不正な会計処理の有無、不良資産の有無、負債の大きさ、事業の将来性などを検討します。
  • 税務デューデリジェンス
    税務デューデリジェンスでは、法人税の滞納の有無や税務調査状況といった税務面を調べ、追徴課税が発生するリスクを調べます。
  • 法務デューデリジェンス
    法務デューデリジェンスは、定款や登記事項、各種規定といった法務面から、取引の障害になったり、買収先の医院の価値が下がったりする可能性がある問題点の有無について調査します。

売り手側にとってデューデリジェンスは、診療の合間や休診日に時間を取られ、資料の提出も数多く求められるなど、決して楽な業務ではありません。しかし、買い手側に安心感を持って購入してもらうためには、不可欠なプロセスです。調査には積極的に協力するようにしましょう。

7. 最終契約の締結をする

デューデリジェンスの内容を踏まえて、最終的な売却価格や条件について詰めの交渉を行います。売り手と買い手の双方がすべての項目に納得できれば、最終契約の締結となります。

病院売却における注意点

続いては、病院売却における注意点をご紹介しましょう。下記の項目を押さえておき、スムーズな売却につなげてください。

医療法人の種類を確認する

医療事業を法人化すると、「医療法人」になります。医療法人とは、病院や医師、歯科医師が常時勤務する診療所、または介護老人保健施設を開設することを目的として設立される法人です。

医療法人には社団と財団の2種類があり、社団の医療法人を「医療法人社団」、財団の医療法人を「医療法人財団」と呼びます。国内の医療法人のほとんどは医療法人社団ですが、一部に医療法人財団もあり、両者の合併はできないため注意が必要です。

売却の目的を明確にする

売却の相談や交渉には、事業譲渡の目的をしっかり定めてから臨みましょう。下記のような項目を押さえてから売却を進めてください。

<事業譲渡の目的>

  • 地域医療を守るため
  • 在籍する医師や看護師、スタッフの雇用を守るため
  • 目標額で売却し、次のステップの足がかりにするため

上記のように事業譲渡の目的を言語化すると「譲れない条件」が明確になり、交渉すべきポイントが見えてきます。譲れない条件には、例えば下記のような項目があるでしょう。

<譲れない条件>

  • できるだけ早く売却したい
  • 設定した価格を下げずに売却したい
  • スタッフの雇用継続を第一条件にしたい
  • 患者さんに負担をかけないよう、既存の診療科を継続してほしい

売却完了のゴールを設定する

病院やクリニックの売却は比較的成約率が高いといわれていますが、タイミングと条件次第では交渉が長期間に及ぶこともあります。

交渉期間が長引くほど赤字が膨らむ場合もありますので、あらかじめ期限を設定してスムーズな契約締結を目指しましょう。

雇用している医師、看護師、事務スタッフの処遇を決め、説明する

共に働く医師や看護師、事務スタッフへの処遇の決定にも、注意が必要です。事業を譲渡することを決めると、「譲渡が成功するかどうか」「こちらの希望どおりの価格で売却できるか」といった点ばかり気になってしまいがちです。

しかし、いっしょに働いてくれている医師や看護師のほか、コメディカルを含めた全スタッフの雇用に最後まで責任を持ち、売却後の処遇について誠意ある対応をとることは、雇用主の責務といえます。

医院の売却によってスタッフがつらい思いをすることがないよう、できるだけ雇用を継続する前提で買い手と交渉を進めましょう。給与面や診療科の変更などで折り合いがつかない場合は、スタッフを別の医療機関へ紹介することも考えます。

すべてのスタッフに雇用の目処がついたら、一人ひとりに売却の経緯について説明し、今後の希望を聞き取って最終的な処遇を決定してください。

病院売却に失敗してしまうケース

なお、病院売却には失敗するケースもあります。代表的な失敗事例としては以下の3つが挙げられます。

  • 売り手である現理事長が、売却条件を途中で大幅に変更し、交渉が破談する
    土地建物を新理事長へ賃貸する話しで交渉が進んでいたが、売却交渉の途中で現理事長が土地建物も譲渡すると条件を変更。結果的に売却額が高くなり破談となるケースがあります。
  • 売却先の候補者との契約締結が先送りになり、結果として閉院してしまう
    開業希望の個人医師に病院を譲り渡す予定で契約締結をしたが、その候補者が現職の退職交渉に難航。売却に時間がかかってしまい、結果的に病院の資金繰りが悪化し閉院となってしまうケースがあります。
  • 病院売却の交渉途中に現理事長の体調が急変し、交渉が破談する
    高齢の現理事長の体調が急に悪化したことで、売却時期の確定が不透明に。売却交渉が長引くだけでなく、病院の休診によって患者数が減り、譲渡対価が下がって交渉が破談となるケースがあります。

いずれのケースも病院売却の具体的なスケジュールや売却内容を早めに決定しておくことで、失敗が避けられる可能性もあります。病院売却を考えている場合は、早い段階から着手しておくようにしましょう。

病院売却におけるメリットとは?

病院を売却する最大の目的は、医院を存続させることといえます。現理事長と新理事長となる後継者にとってどのようなメリットがあるのか、具体的に見ていきましょう。

病院売却における現理事長のメリット

病院売却をすることで、現理事長にはどのようなメリットがあるのでしょうか。こちらは大きく、3つのメリットがあると考えられます。

  • 患者さんに迷惑がかからない
    親族や第三者の後継者が医院を承継し、同じ場所で医療の提供を続けられれば、患者さんに迷惑がかからないことがメリットです。
  • スタッフの雇用を継続できる
    現在の理事長の引退から間を置かずに経営が承継されれば、医院を支えてくれているスタッフと、スタッフの家族の生活を守ることができます。
  • 代々引き継いできた医院を残すことができる
    地元で長く続いた医院を残すことができれば、理事長の心理面の負担を減らすことにつながります。「医院の名前は残らなくても、この場所に医院を残しておきたい」という理事長の思いも救うことができます。

病院売却における後継者のメリット

病院売却をすることで、後継者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。こちらは大きく、4つのメリットがあると考えられます。

  • 患者さんを引き継げる
    病院売却の形で開業する場合は、既存の医院で診ていた患者さんも引き継ぐことができるため、開業から一定の売上が見込めることがメリットといえます。後継者は売上を上げることにとらわれず、心に余裕を持って診療に取り組むことができるでしょう。
  • 実務に慣れたスタッフをそのまま雇用できる
    スタッフがそのまま勤務することを望めば、スタッフの新規雇用にかかるコストや、研修の手間を削減することができます。長く働いているスタッフは、患者さんの情報をよく知っている傾向があることも、後継者にとっては大きなメリットです。
  • 先の見通しが立てやすい
    売却という形で病院を承継すれば、後継者は患者さんがどれくらい来院するか、経費がいくらかかるかといった見通しが立ちやすくなります。勤務医や看護師の補強のほか、医療機器の補充といった、人材や設備に必要な投資も、事前に計画が立てやすくなるでしょう。
  • 開業にかかる初期費用を削減できる
    初期費用を抑え、資金を未来の投資に使うことができるのも後継者にとってメリットとなります。病院売却という形で病院を承継すれば、土地・建物にかかる費用や、人材の採用にかかる費用を削減できる可能性があり、高額な医療機器を新たにすべてそろえる必要もありません。

事前準備と丁寧な説明を行い、後悔のない病院売却を

医院の存続は、地域にとっても、働くスタッフにとっても重要な関心事です。理事長に万が一のことが起きてから動き出すのではなく、健康に問題がない元気なうちから少しずつ準備を始めていってください。

また、売却にあたっては、スタッフに理解してもらえるまで丁寧に、真摯な説明をすることもポイントです。「ここで働いていて良かったな」「先生が信頼して後を任せるなら、私もこのまま働き続けよう」とスタッフから思ってもらえるような、理事長にとっても、働き手にとっても幸せな事業譲渡を目指しましょう。

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