銀行の外観

サステナブルファイナンスによる金融活動の変化 企業の資金調達への影響も

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文/横山 晴美 ライフプラン応援事務所代表 ファイナンシャルプランナー

近年、気候変動や経済格差などの社会課題への取り組みが世界的に広がっています。そうした背景から、金融が果たすべき責任として、「サステナブルファイナンス(持続可能な経済社会を支える金融)」の考え方が台頭しはじめました。とはいえ、「サステナブルファイナンス」とはどんなものなのか、わかりづらいと感じる人も多いかもしれません。今回は、サステナブルファイナンスについて、世界と日本の動向、そして企業へ与える影響を紹介します。

サステナブルファイナンスとは

金融市場の動きとコイン

サステナブルファイナンスとは、持続可能な経済社会を支える金融、もしくはそれらを構築するための取り組みのことを指します。20世紀の経済活動は企業利益を第一としており、資金面で経済を支える金融も同調していた側面があります。しかし、そうした考え方を土台とする経済社会は、気候変動や過剰な森林伐採などの地球規模の社会課題が生じる原因の一つでもありました。

そうした背景を受け、経済の在り方が見直されています。今後、持続可能な経済社会を考えるうえで、環境に最大限配慮していくことが求められるでしょう。経済活動に投融資という形で深くかかわる金融も例外ではありません。そのような考え方を基に、環境問題や経済格差などの社会課題(SDGs)の解決を誘導する金融活動が「サステナブルファイナンス」です。環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して投資していくESG投資とも関連性が高く、世界で注目され、徐々に動きが拡大してきています。

とはいえ、言葉は知っていても、内容はよく分からない、というケースも多いのではないでしょうか。サステナブルファイナンスの具体的な取り組みとしては、企業のサステナビリティ情報開示・基準整備などの促進が挙げられます。社会課題に積極的に取り組んでいる企業としての評価を促し、資金がいきわたるようなインフラ構築を目指す流れです。
サステナブルファイナンスの近年の流れや現状を解説します。

国際的なサステナブルファイナンスの動き

宙に浮く地球儀を指さす男性

近年、サステナブルファイナンスにおいて国際的な基準整備や枠組みの構築がなされています。3つの取り組みを紹介します。

1:TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)

気候変動関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures, TCFD)は、各国の中央銀行・金融当局や国際機関が参加する金融安定理事会(FSB)が2015年に設置したタスクフォースで、国際的な気候関連リスクに係る情報開示を促しています。

2020年12月、英国の金融行為監督機構は、TCFDが公表している基準に沿った情報開示の全面義務化を決定しました。2021年1月にはロンドン証券取引所上場企業(プレミアム区分)から義務化が開始。2025年までに、英国経済全体が情報開示の義務化を実現するとしています。日本においては、2022年4月からの東京証券取引所の市場再編にあたり、新たに誕生したプライム市場でTCFDが公表している基準に則った気候変動に関連する情報を開示することが推奨されています。

また、2017年12月にはNGFS(Network for Greening Financial System)も発足しました。これは気候変動リスク管理の在り方を検討するために設立された中央銀行・金融監督当局のネットワークです。NGFSは、気候変動に対する具体的なシナリオが提示されており、気候変動リスク開示を促進すると見られています。

2:PRB(責任銀行原則)

責任銀行原則(PRB)は、2019年9月に設立された国連が策定した金融機関向けの原則です。持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定が掲げる社会的目標と、銀行業務の整合を目的にUNEP FI(国連環境計画金融イニシアティブ)が策定しました。金融機関が環境・社会・経済に配慮をした投融資を行うことや、その実施状況を社会に開示することなどを求めるとした枠組みです。署名機関は欧米が中心ではありますが、2022年1月時点で日本でも大手銀行等7行が署名しています。

3:SFDR(サステナブルファイナンス開示規則)

2021年3月、EUで資産運用サービスを提供する金融機関や金融アドバイザー等が対象となる「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」が発効されました。開示内容は大きく「事業体」と「金融商品」に分かれ、それぞれサステナビリティリスクについての方針やサステナビリティへ悪影響などの開示を求めています。

EUの金融機関等を対象とした規定であり、今のところEUに拠点がない限り、国内企業には直接的な関係性はないといえます(※1)。しかしEUでの取り組みを受け、今後の同様の開示規定が国際的に定着する可能性が考えられます。今後、日本の資産運用サービスにおいても、サステナブルファイナンス関連の情報開示が進む可能性を加味した対策が必要でしょう。
※1:EUの金融機関から運用の再委託を受ける場合には、同様の情報開示が求められる可能性があります。

国際的なサステナブルファイナンスの枠組み(抜粋)

名称 主体 内容
気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD) 金融安定理事会 2015年12月設置 国際的な気候関連リスクに係る情報開示を促す
責任銀行原則(PRB) 国連環境計画金融イニシアティブ 2019年9月設立 持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定が掲げる社会的目標と銀行業務の整合を目的とした枠組み
サステナブルファイナンス開示規則(SFDR) EU 2021年3月発行 サステナビリティ関連の事業体や金融商品に対する開示規制

国際的なサステナブルファイナンスの枠組み(抜粋)
出典:環境省「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」「責任銀行原則(PRB)の署名・取組ガイド」
金融庁「第24回事務局参考資料(ESG要素を含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)について)」などを参考に筆者作成
URL:
(気候変動関連財務情報開示タスクフォース|環境庁)
(責任銀行原則(PRB)の署名・取組ガイド|環境庁)
(第24回事務局参考資料(ESG要素を含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)について)|金融庁)

金融庁も動き出しているサステナブルファイナンス

資料を見ながら話し合うビジネスパーソン

国際的にサステナブルファイナンスへの注目が集まるなか、市場の動きを注視して政策を打つ金融庁においても、サステナブルファイナンスへの対応を迫られています。2020年12月、
金融庁は「サステナブルファイナンス有識者会議」を設置。2021年1月から8回にわたり議論を重ねました。
「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」から、サステナブルファイナンスの推進のために出された3つの検討課題を紹介します。

1:企業情報の開示

金融機関や投資家がESG要素を考慮した投資には、サステナブル情報の開示が必要です。そのため、金融庁は企業のサステナビリティ情報開示に関する統一的な報告基準の策定を進めるとしています。気候変動リスクに関する国際的な基準はTCFDが示しています。

2:市場機能の発揮

資金の流動性を高め、効率的な資金の配分という市場機能を発揮するための構想として、「グリーン国際金融センター」の実現が計画されています。これは、国内外の投資家が脱炭素等に資する投資判断を的確に行える環境を整備することが目的であり、世界から脱炭素分野への資金を呼び込む機能を担います。

具体的には、ESG関連債・投資関連情報の適切な提供、ESG評価・データ提供機関に期待される行動規範のあり方、国際的に信頼される基準の策定、グリーンボンド等の適格性を客観的に認証する枠組みの構築を目指しています。

3:金融機関の投融資先支援とリスク管理

サステナブルファイナンスが推進され、今後は企業規模に関わらず、気候変動への対応が求められるようになるでしょう。社会課題への取り組みとして、投融資を行う金融機関が果たすべき役割も大きくなります。

そのため、金融機関は投融資先の気候変動対応支援に向けて、ノウハウの蓄積やスキルの向上、分析ツールの開発などへの対応が求められます。気候変動リスクに関するガバナンス態勢の確立、気候変動のリスクと機会を考慮したビジネスモデル・戦略の策定、気候変動リスクの認識・評価・管理プロセスの構築、シナリオ分析の活用なども取り組むべきとしています。そうした背景から、金融庁も金融機関の取組みを支援する必要があるとして議論されています。

サステナブルファイナンス有識者会議の概要(抜粋)

項目 方向性
企業開示の充実 投資家・金融機関との建設的な対話に資する、サステナビリティ情報に関する適切な企業開示のあり方について幅広く検討を行うことが適当
市場機能の発揮 「グリーン国際金融センター」の実現により、世界・アジアにおける持続可能な社会の構築に向けた投融資の活性化に貢献
市場の主要プレイヤーが、期待される役割を適切に果たすことが必要
金融機関の投融資先支援とリスク管理 金融機関が、サステナビリティに関する機会とリスクの視点をビジネス戦略やリスク管理に織り込み、実体経済の移行を支えることが重要

サステナブルファイナンス有識者会議の概要(抜粋)
出典:金融庁「今後のサステナブルファイナンスの取組みについて」

現状、国際的な基準や枠組みが作られつつある段階であり、サステナブルファイナンスに対応している日本企業は少ないかもしれません。しかし東京証券取引所が「サステナブルファイナンス環境整備検討会」を設置するなど、日本でも着実に取り組みが進んでいます。企業はこれらの動向を注視し、情報開示や基準を満たすための取り組みなど、必要に応じた対応をしていくべきでしょう。

重要性が高まるサステナブルファイナンス

芽を出した植物を支える複数の人の手

サステナブルファイナンスとは「持続可能な経済社会を支える金融」を指すだけでなく、それを支える金融インフラ、もしくはそのような金融インフラの構築なども含む広い概念です。

お伝えしたようにサステナブルファイナンスの枠組みは、今後、徐々に金融の世界に浸透し、ESG投資を更に促進させていくと見られます。このような金融インフラの変化は、今後の企業の資金調達に、大きな影響を与える可能性があります。例えば、情報開示の質・量が十分ではないと金融機関・投資家が判断すれば、資金調達が難しくなるリスクを抱えることになるかもしれません。
指標となる「TCFDが公表している基準」、「SFDR」などについて理解を深める必要もあり、企業として自社の構想を確立するのには時間がかかるでしょう。未来を見越した資金のインフラ構築に向けて、まだ着手していない企業は積極的な対応が必要です。

まとめ : サステナブルファイナンスの意義を理解し、企業としての対応を

オフィス街に立つビジネスパーソン

サステナブルファイナンスが浸透することで、それに対応した経済市場が形成されると推測されます。今後、企業は自社の企業活動について「持続可能なビジネスモデルか」、「社会課題に配慮したものであるか」などをより強く意識することになるでしょう。取り組みによって金融機関や投資家からの信用を得られれば、資金調達が容易になるだけでなく、経済と環境の好循環の実現にも貢献できます。経済活動と社会課題の解決を両立させる企業体制を構築し、評価を高めていきましょう。

【プロフィール】
横山 晴美(よこやま・はるみ)
ライフプラン応援事務所代表 AFP FP2級技能士
2013 年に FP として独立。一貫して個人の「家計」と向き合う。お金の不安を抱える人が主体的にライフプランを設計できるよう、住宅や保険などお金の知識を広く伝える情報サイトを立ち上げる。またライフプランの一環として教育制度や働き方関連法など広く知見を持つ。

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