なぜクリニックは口コミ低評価になるのか?受付スタッフの接遇力向上がカギ

なぜクリニックは口コミ低評価になるのか?受付スタッフの接遇力向上がカギ

文/人見 玲子 ビジネスマナー研修講師 キャリアコンサルタント

最新の設備がそろい、先生の知識や対応も申し分ないのに低評価をつけられているクリニックの口コミには、受付スタッフへの不満が投稿されているのをしばしば目にします。今回は評価改善のカギとなる受付の接遇を改善する方法を、株式会社コントレール代表 ビジネスマナー研修講師の人見 玲子さんが解説します。

目次[非表示]

  1. 1.なぜクリニックは近所で悪評が立ったり、口コミで低評価をつけられたりするのか
    1. 1.1.スマートフォンなど、ツールが普及していること
    2. 1.2.来院者の気持ちがマイナススタートであること
  2. 2.接遇力向上の必要性
    1. 2.1.第一印象の重要性
  3. 3.立ち居振る舞い
    1. 3.1.【好印象な立ち居振る舞い8つのポイント】
  4. 4.言葉遣い
  5. 5.まとめ

なぜクリニックは近所で悪評が立ったり、口コミで低評価をつけられたりするのか

クリニック経営において、抱えやすい課題のひとつに「口コミ評価が低評価になる」というものがあります。来院者からの低評価は新規来院者を遠ざける要因になり、クリニックにとっては死活問題。一体どうして低評価がつくのか、これにはいくつかの要因が挙げられます。

スマートフォンなど、ツールが普及していること

人は不満や怒りを感じたとき、どこかでその感情を発散したくなる生き物です。家族や近所の人に話すだけでなく、手元にあるスマートフォンひとつで簡単に自分の感情を発信することができるようになりました。
こうしたツールの普及により、今までは近隣住民の話題のひとつだった口コミが、現在はより多くの方に届きます。口コミの数があればあるほど情報に信ぴょう性が増し、雪だるま式に情報が集まってくるのです。

来院者の気持ちがマイナススタートであること

クリニックの来院者(患者様、付き添いのご家族など)はクリニックを「楽しみに」来院していません。診断や治療への不安、苦痛を抱えていることが考えられ、不満や怒りを感じやすい状況にあるのです。また、個人情報保護法施行や、医師や医療に関する不祥事報道などで、来院者の目はかつてとは比べものにならないほど厳しくなっています。こうした感情が前提としてあるため、低評価になりやすいという点があるのです。

飲食店や宿泊施設を選ぶように、クリニックもインターネットの口コミサイトを利用し、レビュー・点数・ランキングなどを参考に選ぶ人が増えた現在、口コミのすべてに信ぴょう性がある訳ではありませんが、悪評でクリニックの価値が下がる事態は避けたいものです。

接遇力向上の必要性

現在、クリニック選びの選択権は来院者側にあるといっても過言ではありません。以前から「歯科医院の数はコンビニエンスストアより多い」という話をよく耳にしますが、実際にクリニック(一般診療所※・歯科診療所)の数を調べてみると、コンビニエンスストアの数よりも多いことがわかります。(2022年7月現在)

※診療所とは無床もしくは19床以下のものを指す(医療法第1条の5第2項)

一般診療所数:98,928院
歯科診療所数:67,744院
コンビニエンスストア数:55,914店

今やクリニックもサービス業のひとつといわれ、単なる「接客」ではなく、お客様一人ひとりに満足していただくための「接遇」が求められます。お客様に選ばれるクリニックへの第一歩として、なかでも受付スタッフの「接遇力向上」は必須事項なのです。

第一印象の重要性

来院者に最初に接する「受付スタッフ」の役割は大変重要です。なぜなら、受付スタッフの第一印象が、その後の診療を含む印象にも大きな影響を与えるからです。これは、「良くも悪くも最初に与えられた情報がその後の情報に影響を及ぼす」という「初頭効果」(ポーランドの心理学者ソロモン・アッシュが1946年に提唱)のためです。つまり、最初に良い印象を持っていただくと「あとが楽」ということです。

第一印象が決まる時間は約3秒と大変短く、また主に視覚情報で決まるといわれています。
まずは第一印象を高めるため、以下のポイントを徹底しましょう。

【第一印象をアップする3つのポイント】
・笑顔:マスク着用でも笑顔とわかるよう、「目」も笑っている安心感のある優しい笑顔
・身だしなみ:医療従事者としてのプライドが感じられる清潔感のある身だしなみ
・挨拶:感染対策のパーテーション越しでも、お客様の心に届く歓迎感のある挨拶

受付スタッフが全員で意識するとともに、お互いに気づいたことを素直に指摘し合えるような職場環境(組織風土)作りも重要です。

立ち居振る舞い

背筋の伸びた美しい姿勢はお客様に好印象を与えるだけでなく、自分の心身の健康にも良い影響を与えます。常にお客様から「見られている」意識を持ちましょう。また、不要な音は立てないなど、心身の不調を抱える患者様への配慮が感じられる振る舞いも大切です。

好印象を与える立ち居振る舞いのポイントを8つ紹介しますので、チェックリストとして日々意識してみましょう。

【好印象な立ち居振る舞い8つのポイント】

<受付カウンター内>
・カウンターに近づくお客様には先に気づき、すぐに作業の手をとめて対応する
・バインダーや健康保険証など、物の受け渡しは両手で行う(金銭授受は感染対策のため、金銭トレイの使用が望ましい)
・方向や、書類の中の指し示しは、指をそろえて手のひらで行う
・私語と誤解されるような会話は控える(待合室のお客様からは気になるもの。お待たせしている場合は特に注意)
・対応が終わったあとはすぐに下を向いたり座ったりせず、立ち去るお客様の背中を見送る(何かあればすぐに駆けつけることもできる)
<受付カウンター外>
・院内を歩く際は、背筋を伸ばして顔を上げキビキビ歩く(周囲への目配りも忘れず)
・着座や車椅子のお客様対応の際は、上体を前に倒すか、かがむなどしてお客様に目線を合わせる(見下ろさないように注意)
・お客様の前や後ろを通る際は、軽く会釈か目礼をし、「存在しないもの」として扱わない(会釈とは15度程度の軽いお辞儀、目礼とは目で会釈すること)

また、受付スタッフ同士のやりとりもお客様から見られています。私語だけでなく、先輩が大きな声や長時間にわたって後輩を叱責している姿など、お客様を不快にさせるような言動にも注意しましょう。

言葉遣い

心身に不調をきたしていたり、不安や苦痛を抱えていたりするお客様の中には、受付スタッフの言葉遣いに対して特に敏感な方も多いでしょう。お客様が受けとめやすい言葉遣いのポイントや、せっかくの対応が台無しになることもあるNGな会話例についても紹介します。

【好印象な言葉遣い3つのポイント】
クッション言葉:お客様に対して「お願い」、「お断り」、「質問」をする際は、文頭に「恐れ入りますが」、「失礼ですが」など申し訳なさを表す「クッション言葉」を必ずつける
依頼形:お客様にお願いをする際は、「~いただけますか」、「~お願いできますか」など「依頼形」を使う(人はお願いされたことはして“あげたく”なるもの)
肯定表現:否定的なことを伝える際は、「わかりません」→「わかりかねます」、「ないとできない」→「あるとできる」など、肯定表現を心がける(否定表現は「自分のことを否定された」ように聞こえやすいため)

表1:【NGな会話例】

NG例
言いかえ例
お支払いは現金でよろしかったでしょうか
お支払いは現金でよろしいでしょうか
お支払いはいかがいたしますか
お支払いはいかがなさいますか
5千円になります
5千円でございます
1万円からお預かりいたします
1万円お預かりいたします
1万円ちょうどお預かりいたします
1万円ちょうどいただきます
ここでお待ちいただくかたちになります
恐れ入りますが、こちらでお待ちいただけますでしょうか
パンフレットのほうお持ちいたしました
パンフレットをお持ちいたしました
お名前をいただけますか
失礼ですが、お名前をお伺いできますか
弊院のミスです
私どもの不手際でございます
お客様の勘違いです
私どもの説明不足かもしれません。もう一度ご説明させていただけませんでしょうか

ただし、どんなに正しい言葉遣いや会話であっても、お客様に届かなければ意味がありません。マスク着用や感染対策パーテーション設置により声が届きづらくなっている現在、以下の3点を意識して話しましょう。

・お腹から声を出す
・口を大きめに開きハキハキと発声する
・「間」(ま)を取ってゆっくり話す

まとめ

最後に、私が接遇研修講師として、クリニックや病院の覆面調査や研修登壇を通じ「接遇」の他にも大切だと思うことを3つあげたいと思います。

1つめは「行動力」です。行動を起こすためには「観察力」(「あの患者様、顔色が悪いな」と気づく)、「察知力」(「不安のせいかな」と察する)、「洞察力」(「初来院だから緊張されているのか」と見極める)が必要です。
そして、せっかく気づいたらそのまま放置せず「お顔の色が優れないようですが、何かお手伝いできることはありますか?初めてでご不安ですよね」などと声をかけましょう。「ま、大丈夫かな」をやめ、行動に起こしましょう。

2つめが「チームワーク」です。受付スタッフ同士はもちろんのこと、院長をはじめ、あらゆるスタッフの連携が取れていることが重要です。受付で気づいた診察前のお客様の様子や、お会計時の一言などの申し送りを徹底し、クリニック一丸となって接遇力の向上を目指しましょう。受付スタッフは「医師や看護師には言えない」クレームを受けることも多いもの。それらも必ず共有しましょう。

そして、3つめは私が最もお伝えしたいこと「凡事徹底」です。いつでも(忙しいときでも)、どこでも(たとえ病院の外でも)、誰でも(院長をはじめすべてのスタッフ)が当たり前のこととして挨拶、笑顔、正しい言葉遣いができる。それこそがお客様に選ばれるために最も大切なことではないでしょうか。

以上の3つも心にとめていただき、まずは受付スタッフの「接遇力向上」から始めてみてください。

【プロフィール】
人見 玲子(ひとみ れいこ)

株式会社コントレール代表
ビジネスマナー研修講師・キャリアコンサルタント

航空会社のグランドスタッフとして10年勤務。金融機関の研修企画・運営・臨店指導を経て2013年11月に独立起業。登壇回数は1,500回以上、受講者数は2万5千人を超える。現在は企業・自治体向けビジネスマナー(接遇・クレーム対応・コミュニケーション)研修を中心に覆面調査、執筆活動、キャリアコンサルティングを行う。

HP:http://contrail-hrd.com/

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