
「雇用維持」だけではない在籍型出向の可能性。社会全体で「人を育て、企業を活性化する施策」となる理由
「マイナビ出向支援」は、雇用過剰な状態にある企業と人手を求める企業とをマッチングし、企業と社員が納得できる出向をサポートするサービスです。今回の事例では、コロナ禍における雇用維持のため「在籍型出向」を実施した株式会社BTX(出向元)と、社会貢献の一環として在籍型出向の受け入れを推進する株式会社CAMPFIRE(出向先)をご紹介します。在籍型出向を通じて両社が感じている、雇用維持のみに止まらない新たな可能性とは――。
文/吉田大悟 撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo) 編集/ステップ編集部 |
【お話を伺った方々】
- 橋本昌彦さん(株式会社BTX 代表取締役社長)
- 久保田慶さん(株式会社CAMPFIRE HR部部長)
〈出向元〉 株式会社BTX 2000年設立。「心豊かな世界の実現に貢献する」旅行会社として、ハネムーンの企画販売を行う「笑顔創造事業」、社内旅行など法人企業へ旅を提案する「元気創造事業」、訪日外国人旅行客の日本滞在をサポートする「インバウンド事業」の3つの事業を展開。 |
〈出向先〉株式会社CAMPFIRE 2011年設立。国内最大級のクラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営。あらゆるファイナンスニーズに応えるべく、“資金調達の民主化” をミッションに、個人やクリエイター、企業、NPO、大学、地方自治体などの様々な挑戦を後押ししている。 |
在籍型出向は「あなたに会社にいてほしい」というメッセージ
在籍型出向を決めた理由や期待を語る出向元のBTX社長、橋本昌彦さん
マイナビ出向支援を知り、在籍型出向を検討したきっかけを教えてください。
BTX・橋本さん:当社はハネムーンのプランニングをメインとする旅行会社で、海外旅行による売上が8割を占めます。そのため、コロナ禍による渡航制限や自粛により、仕事がほとんどなくなってしまったのです。
マイナビさんから出向支援のご提案をいただいたのは2020年のことです。当時は雇用調整助成金でなんとか全員の雇用を守れていましたが、2022年になっても先々の状況は不透明。そうしたなか、雇用調整助成金が廃止になることを知り、このままでは雇用継続が困難になることから、マイナビ出向支援にコンタクトを取りました。
CAMPFIRE・久保田さん:私はテレビで企業間の在籍型出向が始まっていることを知って、興味を持っていました。というのも、当社は地域創成や日本経済の活性化をミッションとしており、人事の立場からもなにかできることを探していたのです。当社が在籍型出向を受け入れることで、コロナ禍で苦境に立たされる企業の雇用を守るアクションを起こせると思ったことがきっかけですね。ネットで検索してマイナビ出向支援を見つけ、「マイナビさんなら安心して相談できる」と思って問い合わせをしました。
在籍型出向を受け入れる意義を話すCAMPFIREのHR部部長、久保田慶さん
在籍型出向の検討から、実施に至るまでの過程はスムーズに進めることができましたか?
CAMPFIRE・久保田さん:在籍型出向の推進は国の方針でもありますから、経営陣からは「ウチっぽくていいね」とほとんど議論なく承認をもらえました。とはいえ、その要因として助成金の効果は大きいですね。即戦力人材ならともかく、半年間の出向期間では業務を覚え、チームに浸透し、これからというところで戻ってしまうわけです。助成金がコストの大部分をフォローしてくれるから、Goが出せるというのが正直なところです。
逆をいえばネックはコストだけであり、それ以外は解決されているわけです。現場レベルの受け入れ体制もスムーズでした。当社の人材採用では、部署ごとの人件費予算を設定し、求めるスキル、人数について年間の人材計画を立てています。ただし、在職型出向については、人材計画に含めず採用できることとしました。どの部署も人手不足ではなくとも多忙ですし、出向元企業にとって辞めてほしくないエース級の人たちだと思うので「ぜひウチに回して欲しい」という声が上がり、歓迎されましたね。
BTX・橋本さん:出向元である当社の場合は、概ねスムーズですが、残念なことも起こりました。出向者数を10名と決め、候補者に声がけを行ったのですが、退職者を出してしまいました。原因は明らかで、上司が素っ気ない伝え方をしてしまったのです。
伝え方ひとつで、社員は「自分は不要なのか……」と失望してしまいます。そうではなく、「あなたには将来も会社に残って欲しい。でも、仕事がない今は他社で活躍し、成長して戻ってきて欲しいのだ」と丁寧に伝えるよう徹底するべきでした。
それが、これまで社員の雇用維持に努めてきた私の本心です。在職型出向の導入は人件費削減が目的ですが、社員の成長とこれからの活躍を楽しみにしています。退職は残念でなりませんが、一方でこちらの事情を汲んで、10名が出向を承諾してくれたことに改めて感謝しています。
第三者によるヒアリングだからこそ、社員の本音を引き出せる
出向先のマッチングは、どのように行われたのですか?
BTX・橋本さん:出向候補者が決まると、すぐにマイナビさんが個々の社員と適性や要望についてヒアリングを行ってくれました。社内の人間が相手では正直な要望が言いづらく、また「この会社はどう? 先方も来て欲しがっている」という提案が実質の強制力になり得ます。マイナビさんが代理人となって彼らの要望を聞き、それに見合う企業の提案と調整を行うことで、納得のいく意思決定ができたと思います。
というのも、CAMPFIREさんに当社社員2名が出向するというのは、私にとっては想像もつかない意外な展開なのです。彼らは旅行が好きで当社に入社し、ハネムーンの企画部門で活躍していた若い人材ですから、要望・能力の面で当然のように「出向先も旅行業界を希望する」と思っていました。
「出向者には『あなたには残ってほしいから、他社で成長してきてほしい』と伝えることが大事」(橋本社長)
しかし、マイナビさんのフィードバックによれば、コロナ禍の需要減に対する旅行業界の課題を彼らも感じており、異業種で新しい学びを得ることを望んだのです。自社でヒアリングをしたのでは引き出せない考えや要望だったかもしれません。私自身、コロナ禍では旅行業とは異なる事業にもトライしましたが、一筋縄ではいきません。その点でも彼らの発想と成長、今後の活躍にとても期待しているのです。
出向先の決め手は、どんな点だったのでしょうか?
BTX・橋本さん: CAMPFIREさんへの出向の決め手は、会社規模や業務内容より、環境と人だと聞いています。現場の方に面接していただき、とても雰囲気がよく安心感があったそうで、本人たちもCAMPFIREさんで働くのを楽しみにしていました。
CAMPFIRE・久保田さん:それは嬉しい反応ですね。実際、当社に出向いただく方にとって、既存社員とのコミュニケーションや受け入れ体制に壁は感じにくいと思っています。当社は新卒採用を実施せず、中途採用のみ。つねに幅広いバックボーンやキャリアを持つ方を求めています。また、推計で3〜4割の社員が副業をしていますし、パラレルワークとして業務委託で働く人も多く、多様な人材を仲間として受け入れる風土があります。
「受け入れがスムーズなのは、もともと多様な人材が働く職場だから」(久保田部長)
出向候補者との面接でも、人事としてはキャリアにこだわっていません。本人の意欲や、クラウドファンディングに関わる事業への関心を見て、最後は配属先の部長クラスが直接会って、「一緒に働きたいと思えるか」といった人柄を基準に判断してもらっています。むしろ、業務委託と比較して、在籍型出向の方は当社業務へのフルコミットが期待できる人材としてポジティブに捉えています。目標設定や評価制度も社員と変わりませんし、在宅勤務手当や福利厚生もなるべく社員と同じ条件に設定していますね。
BTX・橋本さん:出向元として、ありがたいお話です。その企業風土に加え、CAMPFIREさんはフルリモートワークを実現されていますよね。おかげで、当社社員も大阪の自宅で働いており、こうしたCAMPFIREさんの先進性は私にとっても驚きが多いです。業界のなかだけにいては得られない、新しい発見や成長があると思います。社員が半年間でなにを感じ、なにを学ぶのか——彼らの成長が本当に楽しみです。
三社が連携し、出向者をサポートできることが理想
出向元として、在籍型出向について感じている心配や不安はありますか?
BTX・橋本さん:成長を実感できる出向先だからこそ、「戻りたくない」と感じてしまう可能性はあると思うのです。そのため、マイナビさんからは「帰属意識を絶やさないことが大切」とアドバイスをいただいており、出向元として毎月1回は面談の機会を設けることを勧められています。
ただ、個人的な気持ちとして「半年間、出向先の企業で精一杯頑張りなさい」といって送り出した以上「中途半端に私たちが関わっていいのか」、あるいは「余計な口出しをして、出向先のご迷惑にならないか」という懸念があります。
CAMPFIRE・久保田さん:ありがたいご配慮です。私たちのメリットから考えても月1回の面談なら、ぜひやっていただきたいです。なぜなら、出向先で気後れして私たちにいえない悩みなどもあると思うのです。そこは気心の知れた出向元の方がヒアリングで聞き出し、可能であれば私たちにも共有してもらえると解決策が見出せると思います。出向元・出向先・マイナビさんの三者でサポートできるなら、いいことですよね。
また、在職型出向では、私たち人事と出向元の企業様とのあいだで、毎月の勤怠の報告や給与計算、助成金のことなど、連絡をする機会は意外と多いのです。そういった機会に、企業間でも密なコミュニケーションを図れるといいですね。
在籍型出向は、個人と企業にとって財産となる学びを得られる
CAMPFIREさんでは、すでに多くの出向を受け入れていますが、実際に出向者はどのような意識で働いていると感じますか?
CAMPFIRE・久保田さん:当社が在籍型出向で受け入れた方々は、しっかり当社事業に共感して活躍してもらっていますが、正直なところ「学びに来ている」という姿勢を感じることは事実です。そこはやはり、当社がフルリモート勤務の定着した会社だからかもしれません。働き方やコミュニケーション、チームビルディングの方法など、フルリモートの運営に関心を持っている方が多いようですね。
毎月実施する従業員満足度調査でも、仕事の満足度に加え、成長実感のスコアが高く表れています。個人的な成長のみならず、出向元企業に戻ってからリモート推進を担うなど、組織を発展させるノウハウを期待されている人もいるようです。
出向者や出向元企業にとって、学びの場となっているわけですね。
CAMPFIRE・久保田さん:もともと在籍型出向の受け入れは「企業の雇用を守る」ことが目的でしたが、さらに一歩進んで、在籍型出向で「人材育成の一助になる」という社会貢献ができるのでは、と考えるようになっています。当社が先駆けとなって、日本の企業全体で人を育てていく空気を醸成できたらいいと思っているのです。
BTX・橋本さん:私も在籍型出向はコロナ禍における緊急措置として開始しましたが、社員や企業にとって新たな財産を得るチャンスになるのでは、と感じはじめています。先ほども申し上げたように、私たち旅行業界は、コロナ禍で需要がゼロに陥る体験をしました。では、収束すればもと通りかというと、今後も中国と台湾の関係や中米関係といった地政学リスクを抱えており、同様のことは起こり得るわけです。
持続的に企業を存続し雇用を守るためには、旅行以外の新たなビジネスも考えていく必要があります。今後、出向期間が終わってからの結果を見なければなりませんが、平常時より人事施策・経営施策として在籍型出向を導入するのも有用なのかもしれません。
CAMPFIRE・久保田さん:一方通行だけでなく、複数の企業間で人を出向させ合うことも考えられますよね。企業がお互いに刺激しあって企業間の関係性も広げていける、社会全体を活性化する取り組みになると思います。
BTX・橋本さん:おっしゃる通りで、在籍型出向を通じて企業間のコミュニケーションが生まれ、コラボレーションの可能性も出てきます。実際にいま、ある出向先の企業様と共同事業の話も浮上しており、業界の外の知見を得ることは経営レベルで様々な可能性を生み出します。ぜひマイナビさんには、これから在籍型出向を通じて生じる多様な事例をシェアしていただけたらありがたいです。
在籍型出向をきっかけに企業間のコラボレーションが生まれる可能性もあると語る久保田部長と橋本社長
編集後記
株式会社BTXの橋本社長は、コロナ禍における雇用維持のために在籍型出向を選択しましたが、他社での経験や刺激によって成長ができ、人材育成の観点での効果も感じているというお話が印象的でした。在籍型出向を受け入れる株式会社CAMPFIREの久保田部長も「在籍型出向で人材育成の一助になるという社会貢献ができるのでは」と話し、雇用を守るためだけではなく、人材育成の一環で在籍型出向を選ぶ企業が今後増えるのではないかと思いました。
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