健康経営フォーラム2024 イベントレポート

「健康経営フォーラム2024 健康経営への期待」イベントレポート ー新しい循環・持続、成長へのイノベーションー

撮影/和知 明 (株式会社BrightEN photo)
取材・文・編集/百谷 伶奈(株式会社ナレッジリング)

2024年10月28日、浅草橋ヒューリックホール(東京都台東区)にて「健康経営フォーラム2024」が開催されました(NPO法人健康経営研究会主催)。会場に用意された300席は、すべて満席。また、健康経営を支援するサービス事業者19社が会場前にブースを構え、来場者との交流を図りました。活況を呈した本フォーラムの内容をレポートします。

目次[非表示]

  1. 1.【開会のあいさつ】従業員に響く「本質的な施策」を求めて
  2. 2.【講演1】会社風土に根差した健康経営実践
    1. 2.1.「人間尊重」を原点に多様な施策を展開
  3. 3.【講演2】「働くひとのミカタ」が実践する人的資本とは
    1. 3.1.自社オフィスを進化、新規事業の立ち上げにも
  4. 4.【パネルディスカッション】行政・企業・自治体の政策と健康経営への期待

【開会のあいさつ】
従業員に響く「本質的な施策」を求めて

NPO法人健康経営研究会 理事/株式会社マイナビ取締役 常務執行役員 山本智美氏

超高齢社会を迎えた日本において、人手不足は加速度的に進行し、大手企業であっても人材の確保・定着に苦戦しています。複雑多様化する社会課題を解決するためにイノベーションを起こすという観点でも、企業を成長させるには「人への投資」が不可欠であり、その実践が問われるようになりました。そこで注目されているのが、人材を資本として捉えて最大限に価値を引き出し、中長期的な企業価値の向上につなげる「人的資本経営」です。
 
人的資本経営を実現するためのポイントの一つが、働き方の選択肢を広げること。リモートワーク、時短勤務、フルフレックスタイム制など、柔軟な働き方が当然のように求められています。さらに副業、出向、企業間留学などの仕組みを生かせば、社員は本業以外で経験を積み、企業も異業種から新たな知見を得ることができるでしょう。また、中途市場は過去最高の活況(※)で、人材サービスの内容も多様化。女性、シニア、外国人の活用を含めて、多様性を高めることで企業価値を向上させています。退職した元社員「アルムナイ」の採用やリファラル採用も盛り上がっています。

【出典】中途採用状況調査2024年版(2023年実績)| マイナビキャリアリサーチLab (2024年03月25日)
   
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240325_71337/

うまでもなく、両立支援は企業の必須アジェンダとなります。女性活躍推進を進めてきた企業はビジネスケアラー支援策などの導入も早く、仕事と介護・育児の両立に悩む従業員の離職を防いでいます。いずれのケースにおいても重要なのが、従業員に響く本質的な施策が打てているかということ。そのためのヒントを、本フォーラムから得ていただければ幸いです

【講演1】会社風土に根差した健康経営実践

出光興産株式会社
人事部健康推進グループリーダー兼健康保険組合 常務理事 久々宮岳志氏


「人間尊重」を原点に多様な施策を展開

私は入社以来30年間、アグリバイオ事業に取り組んできましたが、60歳目前でキャリアチャレンジ制度を活用して健康推進のグループリーダーに転身しました。この領域では初心者だった私が健康経営を実践してこられた背景には、人を中心に考える企業風土が根付いていたことがあります。「人間尊重」を経営の原点としてきた当社では、従業員全員が主役という意識が自然に育まれてきました。健康経営においてもトップダウンというよりは、各部署に配置された「人事担当役職者」が人事関連業務のハブ的存在となり、健康課題の把握や対策に協力。結果的に、直属の上司以外にもメンタル面の不調などを相談しやすい環境が整ってきました。

【出典】当日投影資料より抜粋

注力している施策の一つが、従業員のやりがいの醸成です。従業員と経営層が全社的な課題に関して意見交換を行う「Nextフォーラム」や、経営の状況について経営層が従業員に直接説明する「タウンホールミーティング」などを定期的に開催。若手社員から社長に対して厳しい質問をする場面も多く見られ、風通しのよさを実感しています。また、各部署の業務内容を紹介する社員向けの展示会「ジョブフェスティバル」では、約50の部署がブースを出展し、個々人の視野を広げるきっかけに。全社員の2割強が訪れる盛況で、若手社員のやりがいスコア向上につながりました。個々の悩みに対しては「ライフキャリアサポートセンター」が支援。人事評価に影響がないという心理的安全性が確保された状態でライフキャリアコンサルタントに相談ができ、一人ひとりの自律的なキャリア形成を支えています。これらの施策は、年1回のアンケート調査で効果測定も行っています。

当社では石油以外の事業分野も拡大しており、柔軟な発想ができる人材の育成に力を入れています。共創・連携のため社内のつながりを活性化しようと、社内での副業や交流を奨励。就業時間内に他部署の仕事を手伝うことがある他、部門間交流のために会社が会食の費用を負担する仕組みもあります。私自身が活用したキャリアチャレンジ制度で、部署間異動することももちろん可能です。さらに、従業員の活動範囲は社外にも及んでおり、越境学習では従業員が週1回の出向で地域の仕事を担い、地元の活性化に寄与するだけでなく、従業員自身もさまざまな気づきを持ち帰ることを期待しています。2024年4月には、キャリアにつながるという考えの下、従業員を力強くサポートしています。

【講演2】「働くひとのミカタ」が実践する人的資本とは

株式会社オカモトヤ 代表取締役社長 鈴木美樹子氏



自社オフィスを進化、新規事業の立ち上げにも

1912年に文房具屋として創業した株式会社オカモトヤは、オフィスの専門商社。今までもこれからも、働く人を支えることが当社の使命です。当社では2015年から「健康経営優良法人認定」「ホワイト企業認定」「くるみん認定」などの第三者認証取得を大義としてうまく活用しながら、働き方改革を進めてきました。特に時間を要したのは残業時間の削減で、留守番電話への切り替え時間を早めるなど、毎年コツコツと工夫を積み重ねています。また、男性の育児休業についても取得率100%を達成。休業する社員と同じグループのメンバーに「ミカタ手当」として月2万円を支給したり、当事者によるオンライン座談会を開催したりして、相互理解を後押ししています。
 
働く環境にもこだわりがあります。その一例が、2018年から取り組んだオフィスのABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)化。これは、業務や気分に応じて働く場所などを自ら選択できるワークスタイルのことで、フリーアドレス化を進めると同時に座席のバリエーションを拡充しました。また、DXを進める中で「ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)」の認証も取得し、収納が必要な書類量を大幅に削減した上、外出先などでも安全性を保ちながら働けるように。現在では全社のフロアを集約し、ハイブリット勤務を採用しています 。

【出典】当日投影資料より抜粋

Well-Being経営においては、現在「anybody can enjoy」というフレーズを掲げています。これを実現するため、社長と社員の「テレフォンショッキング」(オンライン配信)、推し活イベント、ファミリーデーなどの施策で、社内コミュニケーションの活性化を図りました。また、私自身が二度の出産を経て感じた「女性特有の健康問題による働きにくさ」が原点となり、新規事業「Fellne(中小企業向け女性活躍推進支援サービス)」を立ち上げることに。性差なく働ける環境の構築を実現すべく、製品・サービスの提供や空間開発に取り組んでいて、導入企業数は現在約100社になります 。

当社の新オフィスでは、「Fellne」ブランドを通して新たな働き方を提案。性別に関係なく使用できる休憩用の「セルフメンテナンスブース」や、メンテナンスをサポートするアイテムを常備した「アメニティーバー」を設置しています。休憩できるエリアを執務エリアの動線上に設置することで、休むことの後ろめたさを緩和し、オンとオフのグラデーションをつくったイメージです。人生100年時代と言われる今、働く上で生じる心身の課題を解消し、誰もがより長く健康に働けることをこれからもめざします 。

イベントでは、岡田邦夫氏、出光 久々宮岳志氏、オカモトヤ 鈴木美樹子氏によるトークセッションで各社の取り組みを深堀り


【パネルディスカッション】
行政・企業・自治体の政策と健康経営への期待

フォーラムの後半ではさまざまな分野の有識者が登壇し、健康経営にまつわるキーワードをもとにパネルディスカッションを行いました。ファシリテーターを務めたのは、NPO法人健康経営研究会 副理事長の平野治氏です 。
 
〈登壇者〉

  • 浜松市 ウエルネス推進事業本部 本部長 松下直樹氏
  • 株式会社ゴールド・ニッポン研究所 代表取締役社長 松崎豊氏
  • 経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 課長補佐 山崎牧子氏
  • 健康経営優良法人認定事務局(日本経済新聞社)芹澤知子氏

平野:社会構造の変化に伴い、企業の経営戦略や働き方にも変革が求められています。かつて人材は代替可能なコストと捉えられてきましたが、現在では代替不可能な人的資本であり、「人財(Human Capital)」であるという認識が広まってきました。これからの新しい社会づくりに向け、健康経営に求められるものは何か。本日は、関連する複数のキーワードから議論を膨らませていければと思います。

〈気になる10のキーワード〉
女性活躍・事業承継・中小企業活性化・人的資本投資・健康経営優良法人認定・関
係人口・地域の活力・DX・ライフシフト・サーキュラーエコノミー


芹澤:「人的資本投資」についてお話ししたいです。講演を聞いてあらためて感じたのは、健康経営が扱う領域は非常に多様で、細やかに課題を把握する必要があるということ。画一的な働き方やルールが当たり前だった時代とは異なり、現在は個々人のパフォーマンスの最大化に焦点が合わさっています。一人ひとりが置かれた環境が異なるので、打ち手も変わるわけです。

山崎:そうした多様性の一つが「女性活躍」ですね。女性活躍が進む一方で、特定保健指導の対象者が男性になりやすい(項目の設定に改善の余地がある)など、いろいろな場面で偏りが見られます。女性の健康に関してさらに相互理解を進め、配慮し合える社会にしていく必要があるのではないでしょうか。経済産業省では、月経随伴症や更年期障害といった女性特有の健康問題に企業が何も策を打たないと、社会全体で年間3.4兆円もの経済損失が見込まれるという試算を出しました。損失額を明示することで企業の経営者層に注意喚起を促し、各企業で施策を推進してもらいたいと考えています。来年度には女性の健康施策で得られた成果について、健康経営の調査票でアンケートを実施して効果検証を行う予定なので、ぜひご協力いただければと思います。

松下:私からは「地域の活力」でお願いします。私が働く静岡県浜松市は、政令指定都市幸福度ランキングで2022年に総合第1位、健康寿命の調査でも高いランクを維持しています。こうした市の強みを一層発揮しようと、官民連携で「浜松ウエルネスプロジェクト」を推進。2つの官民プラットフォームを組織して「ウエルネスシティ(予防・健幸都市)」の実現に力を入れてきました。それが、関係団体と共に市民の健康増進や地域企業の健康経営推進などに取り組む「浜松ウエルネス推進協議会」と、地域の医療機関、大学、企業と共に官民連携社会実証事業などに取り組む「浜松ウエルネス・ラボ」です。健康と産業を掛け合わせることで持続的発展を図り、少子高齢化といった全国共通の課題解決に取り組むリーディングモデルになりたいと考えています。
 
芹澤:浜松市の企業数社にヒアリングをしたことがありますが、どこも熱心かつ緻密な取り組みをされていることに驚きました。例えば、地域のドラッグストアに行くだけで特定保健指導を受けられるといったことです。また、同業他社で横のつながりが強いなど、地域全体が互いに連携しながら健康経営の文化が醸成されていると感じました。

松崎:私は、専門であるロビーマーケティングの視点からお話しさせてください。そもそもロビー活動とは、政治家などの関係者に働きかけ、法律や制度に影響を与える活動のこと。正しい場所に正しい人をつなげていくことが何より大切で、社会全体をよりよくできるような公益性の実現をめざします。具体的な手法としては、課題整理やステークホルダーの意見の把握に始まり、情報をマッピングして戦略を立てていきます。そして、関係者を対象とした勉強会を開くことで、課題や解決の道筋を共有。メディアに取り上げてもらうなど、戦略的にPR活動を進めることも肝心です。健康経営の実践において、参考にしていただける部分があるかもしれません。
 
芹澤:松崎さんがおっしゃった「正しい場所に正しい人をつなげる」という考え方はとても重要だと感じます。考え方や働き方、組み合わせを変えたら、より少ない人数で仕事が成立した経験をお持ちの方は多いでしょう。1+1が2とは限らず、10になれることすらあるはず。国、自治体、企業いずれにおいても、減少の一途をたどる人材をどう生かせば皆が生き生きと暮らしていけるのか、という問題に挑まなくてはなりません。
 
平野:「競争時代」から「共創時代」へと社会が移行する中で、健康経営を推進する人同士がつながりを持ちながら、よりよい未来のために前進していけたらいいですね。

編集後記:
岡田邦夫理事長(NPO法人健康経営研究会)の「健康経営という概念が浸透することで、日本の産業保健は大きく変わるはず。本日得られた多くの知見から、自社に合うものを抽出・実践してほしいです」という言葉で締められた本フォーラム。参加者のアンケートでは「健康経営について多角的に学べた」「さまざまな企業や自治体の取り組みを知られる有意義な時間となった」といった声が多く聞かれ、当分野の見識を広げるまたとない機会になったようです。

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