働き方の多様化にどう取り組む?企業のメリット・デメリットを解説

働き方の多様化にどう取り組む?企業のメリット・デメリットを解説

日本の経済成長は、「終身雇用」「年功序列」に代表される独特の雇用慣行に支えられてきました。しかし、少子高齢化による労働人口の減少、働く人の価値観の変化などを背景として、従来の画一的な働き方は現実と乖離しつつあります。

多様な働き方を用意することは、長期にわたる人材の獲得や定着、生産性の向上などを目指す企業にとって、いち早く取り組むべき重要な課題だといえるでしょう。
本記事では、働き方の多様化に向けた企業の取り組みや、働き方の多様化に対応するメリット・デメリットのほか、企業が行うべきことについて解説します。

目次[非表示]

  1. 1.働き方の多様化が進む背景とは?
  2. 2.働き方の多様化に向けた企業の取り組み
    1. 2.1.テレワーク
    2. 2.2.フレックスタイム制
    3. 2.3.短時間勤務・短時間正社員
    4. 2.4.時差出勤
    5. 2.5.副業・兼業
    6. 2.6.ジョブ型雇用
    7. 2.7.業務委託
    8. 2.8.フリーアドレス
    9. 2.9.時間単位の有給休暇の取得
    10. 2.10.週休3日制
  3. 3.働き方の多様化で広がる、身だしなみ規制の緩和
  4. 4.働き方の多様化による企業のメリット
    1. 4.1.従業員の生産性が向上する
    2. 4.2.コストを削減できる
    3. 4.3.人材の獲得率や定着率が高まる
    4. 4.4.企業のブランドイメージが向上する
    5. 4.5.従業員のスキルアップやアイディア創出につながる
  5. 5.働き方の多様化による企業のデメリット
    1. 5.1.定着するまで労力と時間が必要
    2. 5.2.管理職に負担がかかりやすい
  6. 6.働き方の多様化のために企業が行うべきこと
    1. 6.1.労働環境の整備
    2. 6.2.効率的なITツールの活用
    3. 6.3.オフィスの規模や場所の見直し
    4. 6.4.マニュアルを整備する
  7. 7.働き方の多様化を進め、健康経営を実現しよう

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働き方の多様化が進む背景とは?

働き方の多様化を大きく進展させるきっかけになったのが、2019年から順次施行されている働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)です。少子高齢化や慢性的な長時間労働のほか、介護・育児と両立しながら働く人の増加、正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差など、日本の労働市場における諸問題を改善する目的で改正されてきました。
同法の施行によって、労働基準法や労働安全衛生法、労働者派遣法などが改正され、時間外労働の上限規制やフレックスタイム制の拡充、正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇差の禁止など、大きな変化がありました。

こうした動きを加速させたのが、新型コロナウイルス感染症の拡大です。これによって、企業は従業員の安全を確保しつつ、事業を継続させる方法を探らなければならなくなりました。
それまで当たり前に行われていたオフィスへの通勤が困難になったことで、多くの企業がテレワークに対応したことは記憶に新しいのではないでしょうか。コロナ禍が収束してからも、テレワークを働き方のひとつとしている企業は少なくありません。

また、近年は、性別や年齢、国籍にかかわらず、すべての人の価値観を尊重し、それぞれが個性や能力を発揮するダイバーシティの推進が注目されています。
多様な背景を持つ人がそれぞれの働き方で成果を出せるようにするには、ライフスタイルや能力に合わせて働き方を選び、キャリアアップを目指せる環境づくりが不可欠です。

【参照】厚生労働省「働き方改革関連法に関するハンドブック(時間外労働の上限規制等について)」|厚生労働省(2023年2月)
https://www.mhlw.go.jp/content/001140961.pdf

働き方の多様化に向けた企業の取り組み

働き方改革に向け、仕事をする時間や場所、雇用形態など個人に合った働き方ができるよう、企業はさまざまな取り組みを実施しています。ここでは、働き方の多様化に向けて、多くの企業が導入している代表的な取り組みの例を介します。

テレワーク

働き方の多様化に向けて、近年多くの企業が取り入れるようになったのがテレワークです。テレワークとは、ICTを活用し、オフィス以外の場所で働くスタイルを指します。
自宅やコワーキングスペースなど、個人が都合の良い場所を選んで自由に働くことができます。

フレックスタイム制

働き方の多様化に向けて、フレックスタイム制を導入する企業も少なくありません。フレックスタイム制は、一定の期間についてあらかじめ定められた総労働時間の範囲内で、従業員自身が毎日の始業・終業時刻、労働時間を決定できる働き方です。

働き方改革の一環として、フレックスタイム制に関する法改正も行われ、清算期間の上限が1ヵ月から3ヵ月に延長されました。従業員は、3ヵ月の中で設定した総労働時間と、就労が必須となるコアタイムさえ守れば、好きな時間に仕事ができます。

【参照】厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」|厚生労働省(2023年2月)
https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf

短時間勤務・短時間正社員

働き方の多様化の取り組みとしては、育児・介護休業法上の短時間勤務(時短勤務)制度や、短時間正社員の制度も挙げられます。短時間勤務および短時間正社員は、一般的なフルタイムの正社員よりも1週間の所定労働時間が短い正社員のことです。どちらも正社員のキャリアを継続できるのが特徴です。

育児・介護休業法にもとづく短時間勤務制度は、一定条件下で企業に適用が義務付けられています。一方、短時間正社員は任意の制度で、育児や介護といった事情のみならず、例えば定年後の再雇用で働き続けたい高齢者が、ワークライフバランスを維持しながら働く場合などにも活用できます。

【参照】厚生労働省「「短時間正社員制度」導入支援マニュアル~人材活用上の多様な課題を解決~」|厚生労働省(2013年12月)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/var/rev0/0142/1974/201513018353.pdf

【参照】厚生労働省「短時間勤務等の措置とは」|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/shortworking/index.html

時差出勤

時差出勤も、働き方の多様化に向けた企業の取り組みのひとつです。時差出勤は、決められた時間内で始業・終業の時間をずらして出社する働き方です。
通勤や退勤の時間帯を混雑が少ないオフピークにシフトすることで、1日の総労働時間は変えずに業務効率や生産性の向上を図ることが可能です。

副業・兼業

働き方の多様化に向けて、副業や兼業を許可する企業も近年増えています。副業や兼業とは、2つ以上の仕事を掛け持つことです。企業に雇用されて行うものや、みずから起業して行うもの、請負や委任という形で行うものなどさまざまです。
いずれも、安定した収入を維持したままさらに収入を増やせるほか、異なるフィールドで新たな経験を積むことによって、主体的にキャリア形成できるというメリットがあります。

ジョブ型雇用

ジョブ型雇用も、働き方の多様化に向けて近年注目されている雇用方法です。ジョブ型雇用とは、採用後に職務を割り当てるメンバーシップ型雇用に対して、仕事の特性や専門性に見合う人材を採用するシステムです。
職務ごとに求められるスキルが明確であることから、求職者一人ひとりが得意分野を活かして能力を発揮できます。企業にとっても、社内では育成が難しい専門性の高い人材を採用できるでしょう。

業務委託

働き方の多様化に向けて、業務委託を取り入れる企業も少なくありません。業務委託とは、企業と雇用関係を結ばず、特定の業務において準委任契約や請負契約などを結んで働くスタイルです。準委任契約は業務の遂行、請負契約は仕事の完成によって報酬が支払われます。

業務委託を取り入れることで、企業側は必要な専門性や経験を外部人材でカバーできます。また、労働者側は自分の得意な分野でスキルを活かす働き方が叶うでしょう。

フリーアドレス

働き方の多様化に伴い、フリーアドレスの制度を取り入れる企業もあります。出社勤務時に固定席を持たず、その日、その時間に空いている場所を選ぶワークスタイルです。
在宅勤務を認める企業では、従来のように人数分の座席を用意してもフル活用されず、無駄が生じることも少なくありません。フリーアドレスの制度を導入することで、コストを抑えながら多様な働き方の実現につながります。
従業員にとっては、席が固定されていないからこそ、部署やチームを越えたコミュニケーションが期待でき、新たなアイディアや従業員同士のつながりが生まれやすい働き方でもあります。

時間単位の有給休暇の取得

時間単位の有給休暇の取得も、働き方の多様化を後押しする取り組みのひとつです。労使協定により、有給休暇を時間単位で取得でき、上限は1年に5日分です。
通院や子供の行事、役所の手続きなど、丸1日休むほどではない用事で1日分の有給休暇を取得せずに済み、仕事と育児、介護などとの両立がしやすくなります。

週休3日制

働き方の多様化に向けて、週休3日制を導入する企業もあります。所定労働時間を短縮し、1週間のうちに3日間の休日を設ける制度です。
「仕事や育児、介護、病気の治療などと仕事を両立しながらキャリアアップを図りたい」「副業をしたい」「リスキリングにチャレンジしたい」といった、従業員のさまざまなニーズに応えられます。

働き方の多様化で広がる、身だしなみ規制の緩和

働き方の多様化に伴い、職場の身だしなみ規制を緩和して人材確保につなげる企業の動きが、近年目立つようになりました。
これまで、働く人に一定の身だしなみルールの遵守を求めてきた接客業や飲食業、小売業、販売業、介護業など、顧客との直接的なコミュニケーションが発生する業種においても、ヘアスタイルやヘアカラー、メイク、アクセサリー、服装、ネイルなどの規則を撤廃する動きが広がっています。

顧客に不快感を与えないことや、介護現場で利用者にケガをさせるリスクがないことなどを前提にした上で、身だしなみの自由度を高めることにより、従業員のモチベーションアップにつなげます。
「個性を尊重してほしい」「自分らしく働きたい」と考える人材の応募につながるため、ダイバーシティの推進と人材活用の観点からも有効な施策といえるでしょう。多様な個性が集うことで、職場の雰囲気が闊達になり、自由な意見が飛び交うことも期待できます。
働きやすい雰囲気が生まれることにより、求人の応募者が増加して採用費の削減にもつながります。

【参照】独立行政法人労働政策研究・研究機構|「フリーアドレスが浸透、服装や髪型はカジュアル化が進む 」(2024年10月)
https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2024/10/blm_special.html

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働き方の多様化による企業のメリット

働き方の多様化を進めることは、従業員にはもちろん、企業にもさまざまなメリットがあります。ここからは、働き方の多様化による企業のメリットを、具体的に見ていきましょう。

従業員の生産性が向上する

働き方の多様化による企業のメリットのひとつが、従業員の生産性の向上です。個々の従業員が「自分にとって最も働きやすいワークスタイル」を選べるようになれば、仕事に対するモチベーションが向上して生産性も高まります。より少ない労働時間で、より高いパフォーマンスを発揮できるようにもなるかもしれません。

コストを削減できる

働き方の多様化による企業のメリットとして、コストの削減も挙げられます。従業員が効率良く働けるようになることで長時間労働が是正され、時間外労働に伴う人件費を抑えられます。
また、テレワークを推進する場合は、オフィスの賃貸料や光熱費、従業員に支払う交通費などの削減につながるでしょう。

人材の獲得率や定着率が高まる

人材の獲得率や定着率が高まることも、働き方の多様化による企業のメリットといえます。激しい人材獲得競争が続く採用市場において、多様な働き方の推奨は、他企業と差別化できる重要なポイントです。
企業にとっては、豊富な経験や知識がありながら育児や介護との両立ができずに離職した人などを、貴重な戦力として採用できる可能性もあります。また、フレキシブルな働き方が可能になれば、従業員の定着率の向上につながるでしょう。

企業のブランドイメージが向上する

企業のブランドイメージ向上も、働き方の多様化によるメリットです。多様な働き方を導入することで、「従業員に優しい企業」「先進的な考え方で働き方改革を牽引する企業」といった企業イメージが浸透し、ステークホルダーから支持されやすくなるでしょう。
企業のブランディングにもつながりやすく、売上や採用にも良い波及効果が期待できます。

従業員のスキルアップやアイディア創出につながる

働き方の多様化は、従業員のスキルアップやアイディア創出につながることもあります。
例えば、本業にはない視点や技術を副業で学ぶことによって、本業でスキルアップできたり新しい事業アイディアが生まれたりすることもあるでしょう。いっしょに働く同僚に学びが還元され、企業全体の底上げにつながる可能性もあります。

働き方の多様化による企業のデメリット

働き方の多様化には多くのメリットがある一方、デメリットもあります。働き方の多様化を推進する場合、デメリットにも目を向け、対策を検討することが必要です。ここからは、働き方の多様化による企業のデメリットを紹介します。

定着するまで労力と時間が必要

働き方の多様化を進める上でデメリットとして考えられるのは、業務フローやシステムの刷新が必要となることもあり、定着するまでに一定の労力や時間がかかることです。

多様な働き方は、「導入すること」ではなく「従業員に活用してもらうこと」がゴールです。制度を作っても、従業員のニーズや自社の風土、業務内容と合致しなければ定着は見込めません。
導入前に従業員のニーズを把握することはもちろん、導入後も継続的に従業員の意見を聴く機会を設け、活用しやすい制度へとアレンジしていくことが重要です。

管理職に負担がかかりやすい

管理職に負担がかかりやすいことも、働き方の多様化を推進する上でのデメリットです。従業員が多様な働き方をするようになると、管理職は勤務時間や出社の有無などを個別に把握しなければならず、負担が増える可能性もあります。
また、制度の活用が進まない場合は、従業員にヒアリングをして状況を把握したり、改善方法を検討したりすることも管理職の役割となるでしょう。

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働き方の多様化のために企業が行うべきこと

働き方の多様化を実現させるためには、企業が環境を整えたり新たなルールを設けたりすることが必要です。ここからは、働き方の多様化のために企業が行うべきことを具体的に紹介します。

労働環境の整備

働き方の多様化のために、まずは労働環境を整備することが大切です。そもそも、チームの業務内容が多すぎる場合、テレワークやフレックスタイム制、短時間勤務といった働き方を導入しても利用が進みません。
現在の働き方のどこに課題があり、どのようにアプローチすればそれぞれに合った働き方ができるのか、十分に検討することが大切です。

効率的なITツールの活用

働き方の多様化には、効率的なITツールの活用も必須です。特に、テレワークのようにオフィスを離れて働く場合、パソコンやイヤホンマイクなどの支給に加え、従業員同士のコミュニケーションツールや進捗管理ツールなども必要となるでしょう。
現在使用しているツールがある場合は、多様な働き方にフィットするかを、あらためて検証することが必要です。

オフィスの規模や場所の見直し

働き方の多様化のためには、オフィスの規模や場所の見直しも必要です。多様な働き方の導入によってオフィススペースに無駄が生じる可能性もあるため、オフィスの在り方自体を見直す必要があります。
オフィスをすべてなくすのではなく、まずはコワーキングスペースの活用をしてみるなど、オフィスを少しずつ縮小して物理的な拠点を残しながら柔軟に対応することをおすすめします。

マニュアルを整備する

働き方が多様化しても仕事の効率と品質が落ちないように、マニュアルを整備することが重要です。働く場所や時間が人によって異なると、業務の質や進捗をこまめに管理することが困難になる場合もあります。
従業員に対して共通のマニュアルを配布し、業務の進め方やチェック方法を統一することで、商品やサービスの品質を維持できるでしょう。

働き方の多様化を進め、健康経営を実現しよう

働き方の多様化は、長時間労働の抑制や休暇取得の推進につながり、従業員に身体的な休息と精神的な安定をもたらします。従業員が落ち着いて働けるようになれば、仕事に対するモチベーションが高まり、業務効率も向上する好循環が期待できるでしょう。
また、ライフスタイルや能力に合わせて多様な働き方を選び、キャリアアップを目指せる環境づくりは、従業員の企業に対するエンゲージメントを高め、休職や離職のリスクを低減する取り組みといえます。健康経営の一環として、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。

「マイナビ健康経営」は、人と組織の「ウェルネス(健康)」をさまざまなサービスでサポートしています。働き方の多様化の進め方などについても、お気軽にご相談ください。

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<監修者>
丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のM&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。

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