広島けんぽ×マイナビ健康経営 健康経営セミナーイベントレポート 前編

基本の「き」から経営の未来を考える、健康経営セミナー2024開催レポート(前編)


撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)
取材・文・編集/百谷 伶奈(ナレッジリング)

2024年11月25日、全国健康保険協会広島支部主催の「健康経営セミナー」が、昨年に引き続きマイナビ健康経営とのコラボレーションイベントとして、オンラインで開催されました。健康経営の基本的な考え方や取り組み企業の具体例を紹介する中で、これからの経営の在り方を探る本セミナー。前編のレポートでは、NPO法人健康経営研究会 理事長の岡田邦夫氏による基調講演の内容を中心にお届けします。


健康経営は社会全体に共通した重要課題

松原真児氏(全国健康保険協会広島支部 支部長)

基調講演に先立ち、松原真児氏(全国健康保険協会広島支部 支部長)が開会のあいさつを行いました。広島県は、2024年度の健康経営優良法人認定制度において大規模法人部門で45社、中小企業法人部門で480社と合計525社が認定されていて、全国9位に位置しています。認定数は毎年増加しており、健康経営に関する取り組みが着実に浸透している県の一つです。

「少子高齢化が進み生産年齢人口が減少すると、健康保険への加入者も減り、保険料収入は減少します。一方で、保険給付費がかかる傾向にある高齢者は増加しているので、需給のバランスが崩れ、国民の健康と安心を支えてきた国民皆保険制度の存続そのものが危ぶまれる状況です。働き手に元気に長く働いていただくことは、事業主、従業員、協会けんぽに共通した課題であり、この解決に向けて実践を積み重ねていくことこそが健康経営なのです」(松原氏)。
 
セミナー開始時には、参加者に対して「あなたの会社の健康経営は浸透していますか?」というオンラインアンケートも行われました。結果は「とても思える」4%、「思える」27%、「どちらとも言えない」38%、「思えない」26%、「立場上どちらとも言いにくい」5%で、「どちらとも言えない」が最上位となり、まだ道半ばの企業が多い現状が示されました。

【基調講演】どうするの「健康経営」 岡田邦夫氏(NPO法人健康経営研究会 理事長)

岡田 邦夫氏 NPO法人健康経営研究会 理事長

人手不足などの問題がますます顕著になる少子高齢社会

人口動態の専門家は、1995年ごろから「急速に高齢化が進んで日本は大変なことになる」と各省庁の委員会などで危機感をあらわにしており、そうした内容は高齢社会対策基本法の前文にも含まれています。しかし、広く社会でその影響が危惧されるようになったのは、本当に最近のことではないでしょうか。
 
例えば、「2024年問題」として指摘されてきたのが、物流、建設、医療業界などにおける人手不足です。その処方箋として働き方改革が進み、労働時間に制限が設けられましたが、企業・医療活動が制約されることの弊害に鑑みた対策が求められています。また、団塊の世代(約800万人)が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」では、社会保障費の増大や医療・介護の需要増加など、さまざまな社会問題が生じます。中小企業の承継問題も多発し、廃業によって約650万人が雇用喪失、約22兆円のGDP喪失につながるのだとか。また、IT人材の不足も深刻で、DX化の遅れによる経済損失は年間最大12兆円に上ると指摘されています。

高齢者の健康リスクを抑え、元気に働ける職場へ

こうした状況を踏まえ、日本では「2040年には定年を70歳まで引き上げるべきでは」といった論議も進んでいます。従業員が高齢になっても元気で働ける職場づくりが、いかに重要か感じてもらえると思います。2023年時点で、雇用者全体に占める60歳以上の割合は約20%。そして、労働災害による休業4日以上の死傷者数について、約30%を60歳以上が占めており、この数値は上昇傾向にあります。特に健康課題を抱える従業員に対しては、産業医の意見も聞きながら就業上の措置を講じることが必要です。
 
また、年齢に伴って上がる認知症の発症リスクにも対応が求められるでしょう。具体的には、糖尿病や高血圧の予防・治療、禁煙、肥満の予防などによって、脳の神経病理学的損傷を減少させることが考えられます。そして、過剰飲酒の防止、聴力低下の治療、運動習慣や社会活動の維持といった取り組みで、認知機能を維持・改善することも期待されています。


画像元:基調講演1 どうするの「健康経営」 岡田邦夫氏(NPO法人健康経営研究会 理事長)投影資料 | 2024年11月25日時点

世代ごとに異なる「不安」や「死因」に向き合う

現代人が抱える不安の中身は、世代によっても大きく異なることをご存じでしょうか。若い世代は「仕事上の人間関係」、中年世代は「経済的な問題」、高齢世代は「体力の衰え」に対する不安が強いことが調査により判明しています。企業としても、職場のコミュニケーション活性化や従業員の体力づくりなどを意識した施策を展開していかなければ、働き手の多くは心身ともに疲弊した状態になってしまうことが懸念されます。
 
例えば、出勤しているにもかかわらず心身の健康上の問題が作用してパフォーマンスが上がらない状態を指す「プレゼンティーズム」や、心身の不調 が原因による遅刻・早退・欠勤・休職などを指す「アブセンティーズム」は、健康経営における重要な視点と言えます。さまざまな世代において、労働生産性の低下を阻止する方法を検討していかなくてはなりません。


画像元:基調講演1 どうするの「健康経営」 岡田邦夫氏(NPO法人健康経営研究会 理事長)投影資料 | 2024年11月25日時点

さらに、ライフステージ別の死因を見ていくと、10~39歳までの死因1位は「自殺」となっています。働き盛りの人がメンタルヘルス不調などによって自殺に至っているという事実は、極めて大きな社会課題です。そして、40歳以降の死因では「悪性新生物」、つまりがんが第一位です。企業としても、自殺やがんという課題に向き合い、その予防をめざして対策を練る必要があるわけです。

国際比較で見る日本人の睡眠と労働生産性

日本社会が向き合うべき健康問題には「睡眠不足」もあります。睡眠時間の国際比較では、日本人の睡眠時間はアメリカ人と比べて、男性で約1時間、女性で約80分も少ないことが分かります。それにもかかわらず、日本の時間当たり労働生産性が約52ドルであるのに対して、アメリカは約90ドルと大きく差をつけられています。長時間労働をしても、睡眠時間が短い国は生産性が低いことが、世界各国の調査で明らかになっているのです。


画像元:基調講演1 どうするの「健康経営」 岡田邦夫氏(NPO法人健康経営研究会 理事長)投影資料 | 2024年11月25日時点

長時間労働、休日出勤、心理的ストレスなどで睡眠障害を抱えると、疲労感が増して身体活動量が減るだけでなく、食欲が旺盛になり内臓脂肪が増加することで、結果的に心筋梗塞などの病気を発症しやすくなるといった弊害も出ると言われています。日本の経営者は、従業員が生涯現役で働けるような労働環境について、あらためて考える必要があるのではないでしょうか。

健康経営が就職先を検討する際の「決め手」に

企業が健康経営に取り組むことは、社会からの評価につながるという側面もあります。就活生や求職者に対して「企業が『健康経営』に関して取り組んでいるかどうか、『健康経営優良法人』の認定を受けているかどうかは、就職先を決める際の決め手になりますか」というアンケートを実施したところ、「最も重要な決め手になる」が8.4%、「重要な決め手になる」が52%で、約6割の人が重視していることが分かりました。また、「心身の健康を保ちながら働けること」を望む求職者は、全体の半数以上を占めていることも明らかになっています。
 
実際、健康経営に取り組む企業に対する調査では、「従業員の健康状態の改善」「従業員の生活習慣・健康へのリテラシーの改善・向上」「企業ブランドイメージの向上」など、さまざまな効果が実感されていることも判明しています。


画像元:基調講演1 どうするの「健康経営」 岡田邦夫氏(NPO法人健康経営研究会 理事長)投影資料 | 2024年11月25日時点

健康に配慮した投資で、持続的な成長を実現しよう

企業として、従業員の健康に配慮した対策を講じることは安全配慮義務であり、経営責任であるとも言えます。会社の利益の一部を健康づくりなどの施策に投入する「利益投資」、仕事場や休憩室などを改善する「空間投資」、就業時間内に健康経営への啓発の時間を確保することなどを意味する「時間投資」という3つの観点から、自社の健康投資についていま一度見直してみましょう。


画像元:基調講演1 どうするの「健康経営」 岡田邦夫氏(NPO法人健康経営研究会 理事長)投影資料 | 2024年11月25日時点

人と人とのつながりや信頼関係から生み出される価値を重視する「ソーシャルキャピタル」の考え方が普及してきて、組織内のネットワークにも投資するべき時代が訪れつつあります。従業員同士が手を取り合い、心理的安全性を感じられる職場であれば、企業に対する帰属意識が増します。結果的に企業価値を上げるような行動が増え、社会への貢献度も上昇していくでしょう。近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の実践である、とも表現できるでしょう。経営者の皆さんには、戦略的に健康づくりへの投資をするという意識を持ち、率先して健康経営を進めてもらいたいと思います。

【後編はこちら】

  基本の「き」から経営の未来を考える、健康経営セミナー2024開催レポート(後編) 2024年11月25日、全国健康保険協会広島支部主催の「健康経営セミナー」が、昨年に引き続きマイナビ健康経営とのコラボレーションイベントとして、オンラインで開催されました。健康経営の基本的な考え方や取り組み企業の具体例を紹介する中で、これからの経営の在り方を探る本セミナー。後編となる本記事では、健康経営に取り組む好事例企業の主担当者にも登場いただいた、パネルディスカッションの様子を抜粋してご紹介します。 My Wells (マイナビ健康経営)


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