
働きがい改革とは?働き方改革との違いやメリット、事例を紹介
国が主導する「働き方改革」により、従業員の働き方の選択肢を増やす企業が増えました。しかし、労働環境を整備するだけでは、従業員エンゲージメントは高まりません。従業員は単に「働ける」だけではなく、「働きたい」と感じられる環境を求めているからです。
従業員のモチベーションや企業へのロイヤリティを高め、生産性の向上や離職率の低下につなげるためには、「働きがい」に注目した組織づくりが大切です。
本記事では、働きがい改革と働き方改革の違いや、働きがい改革に取り組むことのメリット、具体的な実践方法、企業事例を詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.働きがい改革とは、従業員が仕事にやりがいを持てる状態を目指す取り組み
- 2.働きがい改革と働き方改革の違い
- 3.働きがいのある会社を構成する要素
- 4.従業員の働きがいを高める3つのキーワード
- 4.1.達成
- 4.2.承認
- 4.3.自由
- 4.4.心理的安全性が高い職場環境になる
- 4.5.従業員エンゲージメントが高まる
- 4.6.企業の業績向上につながる
- 4.7.離職率の低下や優秀な人材の確保につながる
- 5.働きがい改革の実践方法
- 5.1.柔軟な働き方を採用する
- 5.2.個人の適性に合わせた人材配置を行う
- 5.3.公平な評価制度を設ける
- 5.4.従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
- 6.働きがい改革の事例
- 6.1.フレキシブルでオープンな企業文化を推進する(シスコシステムズ)
- 6.2.社内の国際イベントを通してエンゲージメント向上を図る(DHLジャパン)
- 6.3.従業員がみずからキャリアを形成するためのサポートを行う(アメリカン・エキスプレス)
- 7.健康経営を実現させるには、働きがい改革の実践が欠かせない
働きがい改革とは、従業員が仕事にやりがいを持てる状態を目指す取り組み
働きがい改革とは、従業員が仕事にやりがいや価値を感じて働ける状態を目指す取り組みです。働きがい改革を実施することは、従業員のモチベーション向上に直結し、組織全体のパフォーマンス向上にも寄与します。
そもそもモチベーションは、「外発的モチベーション」と「内発的モチベーション」に大別できます。
「外発的モチベーション」は、報酬や評価、労働環境、福利厚生など、外部からの働きかけによって高まるものです。「この仕事を成功させれば、報酬アップが見込める」「目標を達成すれば、上司に評価される」といった感情の動きは、外発的モチベーションに分類されます。
一方、「内発的モチベーション」は、自身の内面から湧き上がる興味や関心によって引き出されます。「デザインの仕事が好きで、最新の考え方や技術にふれることがおもしろくてたまらない」「会社のビジョンに深く共感しているため、仕事を通じてそれを体現できることに価値を感じている」といった感情の動きは、内発的モチベーションによるものです。
どちらのモチベーションも働きがいに影響を与える重要な要素ですが、それぞれに特徴があります。外発的モチベーションは即効性がある一方で、持続しない場合も少なくありません。それに対して、内発的モチベーションは自身の意思が原動力となるため長く持続しやすいといわれます。
働きがい改革では、特に内発的モチベーションを高めることが重視されています。内発的モチベーションが向上することで、従業員は高いモチベーションを維持しながら主体的に業務に取り組めるようになるでしょう。その結果、従業員個々の成長だけでなく、企業全体の成長にもつながることが期待できます。
働きがい改革と働き方改革の違い
働きがい改革と類似した言葉が「働き方改革」です。両者には、目的の違いがあります。厚生労働省は、働き方改革を「働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにするための改革」と定義しています。つまり、働き方改革が目指すのは、従業員が安心して働けるようにするための労働環境の整備です。
一方、働きがい改革の目的は、従業員が感じる「働きがい」を高めることです。仕事に対して感じる価値、業務への興味、新たな知見を得る喜びなど、従業員一人ひとりのモチベーションを高める要因を見つけ出してアプローチすることで、「この会社で仕事を続けたい」という気持ちを引き出します。
厚生労働省「働き方改革のポイントをチェック!」|厚生労働省
https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/point.html
働きがいのある会社を構成する要素
働きがいのある会社とは、具体的にどのような会社を指すのでしょうか。ここでは、働きがいに関する調査・分析を30年以上にわたり、世界約100ヵ国で実施する専門機関「GPTW(Great Place to Work)」が公表している、働きがいのある会社を構成する5つの要素を紹介します。
信用
働きがいのある会社を構成する要素のひとつが、マネジメント層への「信用」です。マネジメント層のコミュニケーションや誠実さ、能力などに対する、従業員の評価を指標とします。
従業員にとってマネジメント層は、組織の理念やビジョンを体現し、みずからを評価してくれる存在です。組織の掲げる方向性とマネジメント層の言動が合致し、評価や処遇に対して納得感が持てていれば、組織に対する信頼が育まれます。結果として、モチベーションが高まり、従業員はやりがいを持って働くことができるでしょう。
尊重
マネジメント層による「尊重」も、働きがいのある会社を構成する要素です。これは、マネジメント層から従業員へのサポートや配慮に対する評価を指標とします。
マネジメント層が一方的に目標を設定したり異動を決めたりすると、従業員は「自分の意思や経験が軽んじられている」と感じ、組織から気持ちが離れてしまいます。従業員の思いをくみ取る努力をし、希望に沿ったキャリアを描けるよう支援することが重要です。意欲に応じて、より専門的なスキルを磨ける機会やポジションを検討しましょう。
公正
働きがいのある会社を構成する要素として、マネジメント層からの扱いが「公正」であることも挙げられます。これは、従業員が職場で感じる公平性や中立性などをもとに評価します。
評価基準にばらつきがあったり、同じ成果を出しても評価に差があったりすると、従業員に不満が生じることも少なくありません。反対に、公平で適切な処遇が受けられていると、続けて成果を出そうという意欲が高まり、やりがいにつながるでしょう。偏りのない評価制度を設けるとともに、マネジメント層が共通の評価軸を持つことが大切です。
誇り
従業員の仕事に対する「誇り」も、働きがいのある会社を構成する要素です。従業員自身が仕事や組織に誇りを持っているかどうかを評価します。
従業員がプライドを持って仕事に取り組んでいる状態は、やりがいを感じやすい状態といえます。自分たちが社会に対してどのような価値を提供しているのかを言語化したり、顧客からのフィードバックを従業員に伝え、仕事の意義について解像度を上げたりするなどの取り組みが効果的です。
連帯感
働きがいのある会社を構成する要素として、従業員が職場で感じる「連帯感」も挙げられます。これは、職場内のコミュニティの質や親密さなどを評価します。
ともに働く上司や仲間が組織に対する不満を言っていたり、理念に反する態度をとっていたりすると、モチベーションが高い従業員の働きがいも失われることにつながるでしょう。反対に、仲間が一致団結してひとつの目標を追っている環境下では、「同じ志を持つ仲間がいる」という連帯感が生まれ、働きがいを実感しやすくなります。
【参照】Great Place To Work® Institute Japan「『働きがいのある会社』を構成する5つの要素」|Great Place To Work® Institute Japan
https://hatarakigai.info/hatarakigai/gptw_model/
従業員の働きがいを高める3つのキーワード
前項で「働きがいのある会社を構成する要素」について解説しましたが、従業員自身の働きがいを高めていくにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、働きがい改革の提唱者のひとりである株式会社クロスリバーの代表取締役社長・越川慎司氏が、クライアント企業で働く17.3万人を対象に調査、分析した結果見えてきたと話す、従業員の働きがいを高める3つのキーワードについて紹介します。
達成
越川氏が提唱する、従業員の働きがいを高めるキーワードのひとつが「達成」です。これは、目標を実現させたり、プロジェクトを完遂したりするなど、みずから設けた行動目標をクリアすることを指します。仕事において達成の機会が多くあるほど、やりがいを感じやすくなるでしょう。物事を達成するためには、具体的な目標の設定を欠かさずに行う必要があります。
承認
従業員の働きがいを高めるキーワードとして、「承認」も挙げられます。これは、自身の仕事を通して、他者に認められ、感謝されたという実感です。顧客から「ありがとう」と言われたり、上司から褒められたりすることで、働きがいを感じる人は少なくありません。マネジメント層は、日々の業務において意識的に承認の機会を設ける必要があります。
自由
「自由」も、従業員の働きがいを高めるキーワードのひとつです。仕事における自由な状態とは、裁量権を持ち、主体的に業務に取り組めている状態を指します。先に述べた行動目標の「達成」によって組織から「承認」され、それによって「自由」を得るといった流れができると、働きがいはさらに高まりやすくなります。3つのキーワードのうち、どれを重視するかは従業員によって異なるため、マネジメント層がそれを見極めて適切に支援することが重要です。
【おすすめ参考動画】
「働きがい改革」で20代の離職率は下げられる! 「達成」「承認」「自由」の3つのキーワードが意味するもの【越川慎司】
働きがい改革を推進するメリット
働きがい改革は、企業が成長する上でさまざまなプラスの効果が見込めます。ここからは、企業が働きがい改革を推進するメリットを紹介します。
心理的安全性が高い職場環境になる
働きがい改革を推進するメリットのひとつが、心理的安全性が高い職場環境になることです。働きがいのある職場では、組織の中で従業員一人ひとりの存在が認められている実感が生まれやすくなります。他者の反応を過剰に気にする必要がないため、自由に自分の意見や考えを発信でき、個人のパフォーマンスの向上が見込めます。
従業員エンゲージメントが高まる
働きがい改革を推進するメリットとして、従業員エンゲージメントが高まることも挙げられます。個人のやりがいや志向性に沿って業務が進められることで、従業員は仕事に対する満足度を感じやすくなるでしょう。また、組織に尊重されていると感じ、企業に対するエンゲージメントの向上が期待できます。
企業の業績向上につながる
企業の業績向上につながることも、働きがい改革を進めるメリットです。働きがい改革を通じて企業に対する信頼や愛着を深めた従業員は、「会社に貢献したい」「より良い仕事をしたい」と考えるようになります。結果として、生産性が高まり、商品やサービスの質が向上し、市場における優位性につながることも期待できるでしょう。
実際、厚生労働省が過去に実施した調査においても、従業員の働きがいに配慮している企業のほうが、そうでない企業に比べて業績が良いという結果が出ています。
【参照】厚生労働省職業安定局「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」|厚生労働省(2014年5月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000482135.pdf
離職率の低下や優秀な人材の確保につながる
働きがい改革は、離職率の低下や優秀な人材確保につなげる上でも効果的です。仕事にやりがいを感じられる企業で働いていると、「長く働いてよりスキルを高めたい」といった意欲が高まりやすくなります。また、離職率の低下や業績向上といったプラスの成果が市場においても注目されるようになると、優秀な人材が集まる可能性も高まるでしょう。
働きがい改革の実践方法
働きがい改革をする上では、働き方や人材配置をはじめ、さまざまなポイントがあります。ここからは、働きがい改革の具体的な実践方法について見ていきます。
柔軟な働き方を採用する
働きがい改革を行うには、柔軟な働き方の採用が大切です。特に、仕事と育児や介護を両立する従業員がいる場合は、テレワークや裁量労働制、フレックスタイム、短時間勤務などの制度の導入を検討しましょう。一人ひとりの従業員に向けて、働き方の選択肢を広げることで、多様な従業員がスキルを活かしながらやりがいを持って働けるようになります。
個人の適性に合わせた人材配置を行う
働きがい改革では、個人の適性に合わせた人材配置も重要です。1on1などを通して、従業員が思い描くキャリアパスやスキル、仕事において大切にしている価値観などを把握し、適性に合ったポジションに配置しましょう。得意分野で能力を最大限に発揮できるよう導くことによって、従業員のやりがいは高まります。
公平な評価制度を設ける
公平な評価制度を設けることも、働きがい改革においては必須です。評価基準を明確に言語化することに加え、個人によって基準がぶれないよう、評価者の研修をすることも必要となります。また、できる限り複数の評価者が評価することで、公平性を確保することも大切です。働きに見合った評価は、従業員の納得感や信頼感につながり、成長意欲を高めます。
従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
働きがいのある職場づくりには、従業員同士のコミュニケーションも欠かせません。社内報や社内SNSなどの導入、社内イベントの実施などが効果的です。組織に一体感があり、助け合いの風土が根付くと、「仲間のためにがんばろう」「チームの売上を伸ばしたい」といった気持ちも芽生えるでしょう。業務の連携がスムーズになり、組織全体の業績アップにもつながる可能性があります。
働きがい改革の事例
近年では、働きがい改革を推し進める企業が増えています。ここからは、GPTWの「2024年版 日本における『働きがいのある会社』ランキング」において、紹介されている企業の事例を見ていきます。
フレキシブルでオープンな企業文化を推進する(シスコシステムズ)
シスコシステムズ合同会社では、フレキシブルでオープンな企業文化を目指して働きがい改革を行ってきました。具体的な取り組みとしては、社内のオープンなコミュニケーションを育むため、聴くスキルを訓練するトレーニングのほか、どこでも働ける環境を整備するため、新年会などの社内イベントをオンラインで行うといった試みです。
それらの取り組みは、「すべての人にインクルーシブな未来を実現する」というパーパスにもとづくものであり、多くの従業員が働きがいを感じられる組織づくりに貢献しています。
社内の国際イベントを通してエンゲージメント向上を図る(DHLジャパン)
DHLジャパン株式会社では、社内の国際イベントを通して従業員エンゲージメントの向上につなげる取り組みを行ってきました。アジア各国の代表選手がシンガポールに集まる社内スポーツ大会「Asia Cup」が定期的に開催されており、2023年は日本を含む約1,500人が参加しました。
同社では、こうしたイベントを通して「人と人をつなぎ、生活の向上に貢献する」というパーパスを体現し、従業員エンゲージメントの向上を促進しています。
従業員がみずからキャリアを形成するためのサポートを行う(アメリカン・エキスプレス)
アメリカン・エキスプレスでは、主体的にキャリアを考える「Own My Career」の考えにもとづく取り組みが続けられてきました。同社には、自分のキャリアは自分でつくろうという文化が根付いています。社員の主体的なキャリア選択を推奨するため、独自のフレームワークを導入しながら、さまざまなサポートを提供してきました。
ポジションに空きが発生した場合は社内公募を優先するなど、公平でオープンなキャリア開発の機会があることで、若手人材も納得感を持って働ける仕組みづくりが行われています。
【参照】Great Place To Work® Institute Japan「2024年版 日本における『働きがいのある会社』ランキング ベスト100」|Great Place To Work® Institute Japan
https://hatarakigai.info/ranking/japan/2024.html#modal-l-03
健康経営を実現させるには、働きがい改革の実践が欠かせない
近年、多くの企業に広がる働きがい改革は、従業員の仕事に対する満足度を高め、企業と従業員の幸せを追求する取り組みです。働きやすさを改善する働き方改革と合わせて実行することで、従業員の企業への信頼が深まり、モチベーションや生産性向上につながります。積極的に実践し、従業員が健康的に働ける環境づくりを進めましょう。
「マイナビ健康経営」は、人と組織の「ウェルネス(健康)」をさまざまなサービスでサポートしています。働きがい改革に取り組む際には、ぜひお気軽にご相談ください。