
企業が行うべき花粉症対策とは?生産性低下を防ぐ具体策を解説
花粉が飛散する時期になると、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ、くしゃみなどの症状が出て、家を出るのがつらいという人は少なくありません。
症状の大半は仕事を休むほどではないものの、「頭がぼんやりして、判断力が鈍る」「何度も鼻をかまなくてはならず、作業効率が落ちる」といった状態を引き起こし、仕事の生産性を低下させる原因になります。
多くの従業員がこうした状態に陥れば、企業に大きな経済的損失を与えることになりかねません。そのため、企業は花粉症を組織における健康課題のひとつと捉え、積極的に対策していくことが大切です。
本記事では、花粉症が社会問題となっている現状や政府の取り組みを踏まえて、従業員の生産性低下を防ぐために企業が行うべき花粉症対策を具体的に解説します。
目次[非表示]
- 1.花粉症は生産性低下につながる社会問題
- 1.1.花粉症は、体が花粉を異物と認識することによる抗原抗体反応
- 1.2.花粉症の有病率
- 1.3.花粉症による経済的な損失
- 2.政府による花粉症対策
- 3.政府による花粉症に対応する働き方の推進
- 4.企業が実践できる花粉症対策
- 4.1.花粉が市内に持ち込まれないようにする
- 4.2.空気清浄機や加湿器を活用する
- 4.3.換気のタイミングに注意する
- 4.4.テレワークを活用する
- 4.5.花粉飛散量の表示ランクによって早めの対策をする
- 4.6.花粉症手当の導入を検討する
- 5.適切な花粉症対策で従業員の生産性を上げ、健康経営を目指そう
花粉症は生産性低下につながる社会問題
日本において花粉症は「国民病」ともいわれ、罹患率が非常に高いアレルギー疾患です。生活に及ぼす影響の大きさから社会問題ともいえる花粉症は、どのようなメカニズムで発症するのでしょうか。有病率や、花粉症によって生じる経済損失とともに解説します。
花粉症は、体が花粉を異物と認識することによる抗原抗体反応
花粉症は、体内に侵入した花粉に対して体が起こす抗原抗体反応によって発症します。人間の身体に備わっている抗原抗体反応とは、侵入した異物から体を守るための働きです。異物(抗原)を察知すると、それに対する抗体をつくり、花粉を排除しようとして、くしゃみや鼻水、涙といった症状が生じるのです。通常、こうした反応は体にとって良いことですが、過剰に反応が出ることによって、生活の質の低下につながります。
多くの花粉症の原因として知られているのは、春に飛散のピークを迎えるスギやヒノキの花粉でしょう。これらの花粉は風に乗って飛ばされ、都市部においても大量の花粉が飛散します。
ただし、花粉症を誘発する花粉はさまざまで、飛ぶ時期も春だけではありません。ブタクサやヨモギは秋にピークを迎えるほか、ススキをはじめとしたイネ科の植物は、地域によってほぼ一年中花粉が飛んでいる場合もあります。
飛散する花粉の種類や時期は地域によっても異なるため、従業員が住む地域やオフィスがある地域の花粉の飛散状況に気を配り、対策を進めることが大切です。特に、スギやヒノキなどの花粉が増える時期は、花粉症に悩まされる従業員が増えることを前提として早めの対策を考えておくとよいでしょう。
【参照】環境省「花粉症環境保健 マニュアル 2022」|環境省(2022年3月)https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/2022_full.pdf
花粉症の有病率
国内で花粉症を有する人の数は、正確には判明していません。ただし、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした「鼻アレルギーの全国疫学調査2019」によると、1998年の有病率が19.6%、2008年が29.8%であったのに対し、2019年には42.5%となり、10年ごとに約10%ずつ増加しています。
こうした現状に伴い、花粉症を含むアレルギー性鼻炎にかかる医療費も大きな額となっています。厚生労働省が公表している直近の推計データでは、保険診療が約3,600億円(診察などの医療費が約1,900億円、内服薬が約1,700億円)、市販薬が約400億円でした。
【参照】厚生労働省 健康局がん・疾病対策課「花粉症対策」|厚生労働省
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kafun/dai1/02siryo2.pdf
花粉症による経済的な損失
花粉症を発症すると仕事の効率が落ち、本来のパフォーマンスを出しきれない状態が続くことも少なくありません。そのため、罹患者が多ければ多いほど、企業の経済的な損失は大きくなるリスクが考えられます。
パナソニック株式会社が推計する「花粉症による労働力低下の経済損失額2024」によれば、花粉症による経済的損失は1日あたりで「約2,340億円」におよぶことがわかりました。
同社が2020年に行った「社会人の花粉症に関する調査」では、花粉症が仕事のコンディションに「影響している」と答えた人が全体の79.0%、1日のうち花粉症の影響で仕事のパフォーマンスが低下していると感じる時間が平均約2.8時間でした。それらの結果を踏まえ、国税庁の民間給与実態統計調査や、総務省統計局による労働力調査をもとに推計された経済損失額から、企業に及ぼす花粉症の影響は大きいことがうかがえます。
【参照】パナソニック株式会社 コミュニケーションデザインセンター「花粉シーズン本番!パナソニック『花粉症による労働力低下の経済損失額2024』を発表~その経済損失額は、1日あたり『約2,340億円』~」|パナソニック株式会社
https://panasonic.jp/topics/2024/03/000000887.html
政府による花粉症対策
政府は多くの国民を悩ませる花粉症問題の解決に向けて、2023年に「花粉症に関する関係閣僚会議」を設置しました。ここからは、政府が解決への道筋として示している「花粉症対策の3本柱」について見ていきましょう。
発症等対策
発症等対策は、花粉症を発症した個人の治療に関する対策です。政府は関係学会と連携しながら、診療ガイドラインの改定や、抗ヒスタミン薬などを用いた対症療法などの医療・相談体制の整備に取り組むとしています。また、舌下免疫療法や皮下免疫療法といったアレルゲン免疫療法に関しても、患者に向けてWebサイトやそのほかの手段を通じて情報提供をする方針です。
発生源対策
発生源対策は、花粉の飛散量が圧倒的に多いスギに対する対策です。政府は2033年までに、スギの人工林を2割減少させることを目指し、既存のスギの伐採・植え替えを加速させ、伐採したスギ材の活用を進めるとともに、花粉が飛散しにくい苗木の生産拡大も推進しています。
飛散対策
飛散対策は、民間事業者が行うスギ花粉飛散量の予測精度を上げるための対策です。発生源の状況把握を強化するためにデータの調査地点を増やすほか、花粉飛散予測のためにスーパーコンピューターやAIの活用などを進めています。また、人力による花粉飛散量の実測の持続可能性を高めるため、画像解析による測定方法の開発にも取り組んでいます。
【参照】政府広報オンライン「政府の花粉症対策3本柱 効果的な対策のために」|内閣府
https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/kafunnsyou/#syndrome
政府による花粉症に対応する働き方の推進
各省庁が花粉症問題の解決に向けて取り組みを行う中、経済産業省は生産性向上の観点から企業の花粉症対策を推進しています。企業による取り組みの後押しのため、2023年には「健康経営優良法人認定制度」の評価項目に花粉症対策が追加されました。
具体的には、従業員の通院や薬の購入、免疫療法などに対する補助や支援のほか、空気清浄機の設置などによる職場での花粉症対策や、花粉飛散量が多い日の在宅勤務の推奨、花粉症に対するセミナーの実施といった取り組みが対象となります。
実際、2023年に経済産業省が公表したデータによると、多くの企業が花粉症による生産性低下を防ぐ取り組みを行っています。中でも最も多かったのは「空気清浄機の設置など職場での花粉症対策を実施している」(56.5%)という回答でした。続いて多かったのは、「対症療法(服薬など)に対する補助・支援をしている」(24.0%)、「花粉症に関するセミナー等教育を実施している」(20.2%)、「花粉症に合わせた柔軟な働き方を認めている」(19.6%)でした。
そのほかの取り組みとしては、「産業保健スタッフによる社内SNSや社内報などで花粉症対策に関する情報を発信」「花粉飛散量の情報提供」などが挙げられます。このように従業員の花粉症対策を経営的な視点で捉え、何らかの対策を講じる企業は今後も増えていくでしょう。
【参照】経済産業省 近畿経済産業局「『健康経営優良法人認定2024』について」|経済産業省(2023年8月31日)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shiga/kenkou/ev/r05k1-kenkoukeiei2024.pdf
【参照】経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG」|経済産業省(2023年12月7日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
企業が実践できる花粉症対策
花粉症は、業務効率を下げ、ミスを誘発する可能性が高く、企業の業績にもダメージを与えかねません。症状に苦しむ従業員を減らすために、企業はまず何から取り組めば良いのでしょうか。ここからは、企業がすぐに実践できる対策を紹介します。
花粉が市内に持ち込まれないようにする
花粉症を予防する上で重要となるのは、花粉への曝露を減らすことです。外出時に衣服などについた花粉をそのままにしてオフィスに入ると、室内に花粉が蔓延して、ほかの従業員にも影響を及ぼします。花粉が多く付着しているコートや上着類はオフィスに入る前に脱ぎ、軽くはたいてから持ち込むなどのルールを設けてもよいでしょう。洋服用のブラシなどを出入口に置いておくのもおすすめです。花粉が付着しやすいウールなどの素材に比べて、ポリエステルなどの化学繊維を使用した素材は、花粉が付着しにくくはたいて落とすことも簡単です。社内報などを活用して、そうした情報提供をするなどの方法もあります。
空気清浄機や加湿器を活用する
空気清浄機や加湿器の活用も、企業が実践できる花粉症対策のひとつです。室内に舞う花粉を除去する空気清浄機は、特に花粉が侵入しやすい出入口などに置くとよいでしょう。また、花粉に水分を付着させて下へ落としやすくする加湿器を使うのも有効です。加湿器を利用する際は、床に落ちた花粉をモップなどでこまめに取り除くとさらに効果が期待できます。
換気のタイミングに注意する
花粉症対策においては、換気のタイミングに注意することも大切です。花粉は、一日のうち昼前後に1回目のピークがあり、夕方に再びピークを迎えるため、その時間を避けて換気をする必要があります。また、風が強く空気が乾燥している日や雨が降った翌日、気温が高くよく晴れた日なども飛散量が増えやすくなるため注意してください。
なお、換気の際は窓を細めに開け、レースのカーテンなどを通して空気を入れ替えることで、花粉の流入を減らすことができます。
テレワークを活用する
企業の花粉症対策では、テレワークの活用も有効です。花粉の多い時期・時間帯の外出を減らすことができるよう、テレワークの導入を検討しましょう。会議のタイミングや業務の進め方を工夫してテレワークが可能となるように整備をすれば、育児や介護と両立して働きたい人にとってもより良い環境が構築でき、従業員エンゲージメントの向上につながります。
花粉飛散量の表示ランクによって早めの対策をする
花粉飛散量の表示ランクに応じて早期の対策をすることも、企業の花粉症対策においては重要です。日本花粉学会が策定した「花粉飛散量の表示ランク」で生活圏の飛散状況を確認し、状況に応じた対策をとりましょう。
「花粉飛散量の表示ランク」は、2023年に改訂され、「少ない」「やや多い」「多い」「非常に多い」「極めて多い」の5ランクで表示されるようになりました。こまめにランクを確認することで、「やや多い」になればマスクを着用する、「非常に多い」からはテレワークを選択するといった対策を従業員に推奨することが可能です。
花粉症手当の導入を検討する
企業ができる花粉症対策として、花粉症手当の導入も挙げられます。従業員が花粉症の対策をする際は、マスクやメガネ、抗ヒスタミン薬などに加え、クリニックでの治療費にも一定のコストが必要です。企業が花粉症手当を支給することで、従業員の負担も軽減し、業務の生産性向上も期待できます。また、従業員エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
【参照】環境省 厚生労働省「花粉症対策 スギ花粉症について日常生活でできること」環境省 厚生労働省(2024年1月)
https://www.env.go.jp/content/000194676.pdf
適切な花粉症対策で従業員の生産性を上げ、健康経営を目指そう
花粉症は、生産性を低下させる社会問題のひとつであり、企業にとっても適切な対策が欠かせません。近年は、政府も花粉症に対する企業の取り組みを推進しています。まずは各企業でできることから実践し、自社にあった花粉症対策を導入することで健康経営を目指して、従業員が高いパフォーマンスを発揮できるようサポートしましょう。
「マイナビ健康経営」は、人と組織の「ウェルネス(健康)」をさまざまなサービスでサポートしています。従業員の心身の健康向上につながる花粉症対策に取り組む際には、ぜひお気軽にご相談ください。