
介護のための時短勤務とは?制度の利用期間や就業規則について解説
介護と仕事の両立が必要な時代、介護を理由に仕事を辞めざるを得ない介護離職は、企業・個人双方にとって大きな課題です。その対策のひとつが、介護のための時短勤務制度です。これは、所定労働時間を短縮することで介護と就業の両立を可能にする仕組みで、事業主には法的な対応義務も課されています。
本記事では、介護のための時短勤務制度の概要に加え、制度の対象者や利用可能な期間、就業規則への反映方法、制度導入のメリット・デメリット、運用時の注意点まで詳しく解説します。
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目次[非表示]
- 1.介護のための時短勤務とは?
- 1.1.育児・介護休業法における短時間勤務制度等の措置
- 1.2.短時間勤務のパターン
- 2.介護のための短時間勤務制度の対象となるのは?
- 2.1.対象者
- 2.2.対象となる家族
- 2.3.育児・介護休業法における「要介護状態」
- 3.介護のための短時間勤務制度が利用できる期間と回数は?
- 4.短時間勤務制度について就業規則で定めておくべきこと
- 4.1.賃金や社会保険の取り扱い
- 4.2.所定労働時間
- 4.3.労使協定における除外者
- 5.短時間勤務制度の申請手続き・社内フロー
- 6.短時間勤務を導入する企業のメリット・デメリット
- 6.1.短時間勤務導入のメリット
- 6.2.短時間勤務導入のデメリット
- 7.短時間勤務制度の運用についての注意点
- 7.1.有給休暇は原則として通常どおり付与する
- 7.2.介護に関するハラスメントを予防する
- 8.まとめ:介護のための時短勤務制度を適切に整備・運用しよう
介護のための時短勤務とは?
介護のための時短勤務とは、育児・介護休業法にもとづいて事業主に義務付けられている「短時間勤務制度等の措置」のひとつで、要介護状態にある家族を介護する労働者が所定労働時間を短縮できる制度です。
この制度は、仕事と介護の両立を目的としており、企業には労働者の希望に応じて柔軟な勤務形態を提供する義務があります。
ここからは、「育児・介護休業法における短時間勤務制度等の措置」および「短時間勤務のパターン」について解説します。
育児・介護休業法における短時間勤務制度等の措置
先述した「短時間勤務制度等の措置」では、企業が以下から1つ以上を導入することが求められます。どの制度を導入するかは企業に委ねられていますが、従業員の介護の実情に応じた制度を設計することが重要です。
<短時間勤務等の措置>
- 所定労働時間を短縮する制度(短時間勤務制度)
- フレックスタイム制度
- 始業または終業時刻の繰り上げ・繰り下げ制度(時差出勤の制度)
- 労働者が利用する介護サービスの費用を助成、その他これに準ずる制度
短時間勤務のパターン
前項で紹介した「短時間勤務制度」には、企業の実情や労働者の介護状況に応じてさまざまなパターンがあります。具体的な勤務形態の種類は以下です。
<短時間勤務制度の種類>
- 1日の所定労働時間を短縮する制度(例:8時間勤務を6時間に短縮)
- 週または月の所定労働時間を短縮する制度(例:週40時間を30時間に調整)
- 週または月の所定労働日数を短縮する制度(例:隔日勤務や、特定曜日のみの勤務など)
- 労働者が個別に勤務しない日や時間を申請できる制度
【参照】e-Gov法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000076#Mp-Ch_9
介護のための短時間勤務制度の対象となるのは?
介護のための短時間勤務制度を適切に運用するには、対象の労働者とその家族の範囲を正しく理解することが重要です。ここでは、介護のための短時間勤務制度の対象について解説します。
対象者
介護のための短時間勤務制度の対象となるのは、要介護状態にある家族を介護するすべての労働者です。ただし、「日雇い労働者」は除きます。また、労使協定で適用除外とされた「入社1年未満の労働者」や「所定労働日数が1週間に2日以下の労働者」も対象外となります。
対象となる家族
介護のための短時間勤務制度を利用するには、家族が要介護状態にあることが条件となります。対象となる家族として認められる範囲は、配偶者や父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。なお、配偶者には事実婚の相手も含まれます。
育児・介護休業法における「要介護状態」
家族の「要介護状態」とは、育児・介護休業法において次のように定義されています。
「負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」
つまり、一時的な体調不良や入院などは該当せず、日常的かつ継続的に介護を要する状態であることが条件です。
なお、具体的な判断基準としては、医師の診断書や介護保険の要介護認定の結果などを参考にすることがあります。そのため、申請時に必要な書類や確認方法について、企業側であらかじめ運用ルールを定めておくことが大切です。
介護のための短時間勤務制度が利用できる期間と回数は?
介護のための短時間勤務制度は、介護の長期化や反復的な支援が必要となる場合にも対応できるよう設計されています。具体的には、対象家族1人につき、制度の利用開始日から連続する3年間であれば、2回以上にわたって利用することが可能です。
例えば、家族の介護のために一度短時間勤務を開始し、その後いったん通常勤務に戻った場合でも、3年以内であれば再度同じ家族について短時間勤務を申し出ることができます。
【参照】厚生労働省「短時間勤務等の措置について」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/shortworking/index.html
短時間勤務制度について就業規則で定めておくべきこと
介護のための短時間勤務制度を導入する際には、制度内容を就業規則に明記し、全従業員に周知することが法的に求められます。労働基準法第106条により、就業規則の内容を労働者に周知することは使用者の義務とされており、短時間勤務制度も例外ではありません。社内イントラネットへの掲載や書面での配布、電子メールによる通知などによって、適切に周知しましょう。
ここからは、短時間勤務制度に関して就業規則に盛り込むべき主要な事項について解説します。
賃金や社会保険の取り扱い
介護のための短時間勤務制度を導入する際は、賃金や社会保険の取り扱いについて、就業規則などにあらかじめ明確に定めておくことが重要です。これらは労働者の生活に直結するため、制度の導入時には特に丁寧な対応が求められます。
まず、労働時間の短縮に伴い、事業主によるその時間分の賃金の支払いついては就業規則の定めによります。また、具体的な賃金計算方法については、あらかじめ制度の内容と併せて労働者に説明し、合意を得ることが望ましいとされています。そのため、賞与・昇給・退職金といった待遇面についても、短時間勤務中の取り扱いを明確にし、就業規則または賃金規程などに定めた上で周知することが必要です。
また、社会保険については、短時間勤務によって報酬が一定以上減少した場合、標準報酬月額の随時改定(月額変更届)の対象となることがあります。随時改定の要件を満たす場合は、事業主がすみやかに日本年金機構に対して届出をすることが必要です。これにより、労使双方の保険料負担が実際の報酬額に応じて見直されることになります。
所定労働時間
介護のための短時間勤務制度を導入する際は、短縮後の所定労働時間を明確に定めておくことが必要です。特に、始業・終業時刻や休憩時間の取り扱いについては、就業規則や勤務時間規程に具体的に記載し、従業員に周知することが求められます。
あわせて、短時間勤務者に対する時間外労働(いわゆる残業)の扱いにも注意が必要です。育児・介護休業法では、短時間勤務者に対して残業を一律に禁止しているわけではありません。しかし、労働者が「所定労働時間を超える労働の免除」を申し出た場合には、事業主はこれを拒否できず、免除された労働者に対して残業を命じることはできません。したがって、免除の申出手続きなどについても、制度の一環として就業規則に明記し、周知しておくことが望まれます。
制度の実際の運用にあたっては、管理職やシフト調整を行う担当者への教育を行い、現場での誤運用が生じないよう徹底することも重要です。
労使協定における除外者
介護のための短時間勤務制度は、先述のとおり「日雇い労働者」が除外対象とされています。また、「勤続年数が1年未満の労働者」「週の所定労働日数が2日以下の労働者」を適用除外とするためには、必ず労使協定でその旨を定めることが必要です。また、協定の内容は就業規則や社内規程にも明記し、従業員に適切に周知することが求められます。
【参照】厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533.html?utm_source=chatgpt.com
短時間勤務制度の申請手続き・社内フロー
介護のための短時間勤務制度を円滑に運用するには、手続きや申請から承認までの流れを明確にしておくことが不可欠です。
まず、申請は会社所定の「短時間勤務申出書」などの書面を用いて行います。申出書には、申請者の氏名や所属、対象家族の続柄・要介護状態、希望する勤務時間帯・勤務日数、利用開始日および期間などを記載します。申請期限については、「制度開始の〇日前までに提出する」といったルールを就業規則や社内規程に明記しておくと、運用上のトラブル予防につながるでしょう。
また、申請書の受付後は、上長や人事部門による承認の手続きを経て正式に制度利用が開始されます。その一連のフローをあらかじめ確立しておくことが重要です。さらに、人事部門は関係部署と連携し、制度利用者の勤務体制や業務配分の調整を早期に行い、職場全体への影響を最小限に抑えることが求められます。
短時間勤務を導入する企業のメリット・デメリット
介護のための短時間勤務制度を導入することで、企業にはさまざまなメリットがある一方、実務上の課題も存在します。ここでは、あらためて制度導入による企業側のメリットとデメリットを紹介します。
短時間勤務導入のメリット
短時間勤務制度の導入は、介護による離職を防ぎ、貴重な人材の流出を防止する上で有効です。社員が介護と仕事を両立しやすくなることで、経験やスキルを持つ人材が社内にとどまり、組織の安定や生産性の維持にもつながります。
さらに、介護支援を含む柔軟な働き方の整備は、ダイバーシティ推進やワークライフバランスへの配慮として社外からの評価にもつながります。働きやすい企業としてのイメージが強まり、採用力の向上や企業ブランディングにも好影響をもたらすでしょう。
短時間勤務導入のデメリット
短時間勤務制度には多くのメリットがある一方で、導入・運用にあたってはいくつかのデメリットも伴います。まず、人材配置やシフト管理が複雑になりやすく、勤務時間が異なることで業務分担が偏るリスクがあります。特に複数名が同時に制度を利用する場合は、対応可能な人員の確保が課題となるでしょう。
また、短縮された勤務時間内で従来と同じ成果を求めるのは難しい場合もあり、業務の見直しや役割の調整が必要になる場合も考えられます。こうした課題に対しては、導入前の丁寧な制度設計と社内への十分な説明、導入後の見直し体制を整えるなどの対策が必要です。
短時間勤務制度の運用についての注意点
短時間勤務制度を形骸化させず、利用者が安心して申請・活用できる職場環境をつくるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、短時間勤務制度の運用についての注意点を解説します。
有給休暇は原則として通常どおり付与する
短時間勤務制度を利用している労働者であっても、年次有給休暇は労働基準法にもとづき通常どおり付与されます。具体的には、継続勤務6ヵ月以上かつ所定労働日の8割以上出勤していれば、勤務形態にかかわらず付与対象です。
ただし、短時間勤務者の有給休暇における「1日分」の賃金は、その人の所定労働時間に応じて算出されます。例えば、1日5時間勤務の場合、有給1日あたりの賃金も5時間相当となります。
なお、勤務形態に応じて、有給休暇を時間単位や半日単位で取得できるようにすることも検討可能です。特に時間単位の取得を導入するには、労使協定の締結が必要です。
介護に関するハラスメントを予防する
介護と仕事を両立する労働者に対する不当な扱いや嫌がらせは「ケアハラスメント(ケアハラ)」と呼ばれ、社会問題となっています。育児・介護休業法では、企業に対し、こうしたハラスメントへの防止措置を講じる義務が課されています。
例えば、短時間勤務者に対して、介護を理由に陰口を叩いたり冷遇したりすること、あるいは不当な人事評価や配置転換を行うことはケアハラスメントに該当します。これらを防ぐためには、相談窓口の設置や調査対応、行為者への指導、再発防止策の実施、ハラスメント教育の継続的な実施などが必要となります。ケアハラは職場の士気や信頼関係にも悪影響を及ぼすため、誰もが安心して制度を利用できる環境づくりが重要です。
【参照】厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
まとめ:介護のための時短勤務制度を適切に整備・運用しよう
日本社会全体の高齢化により、従業員が家族の介護を担う機会が増える中、短時間勤務制度の整備と適切な運用は企業にとって重要な取り組みです。そのためには、育児・介護休業法にもとづき、対象者や申請手続きのルールを就業規則に反映し、社内に周知する必要があります。制度が形だけのものとならないよう、社内フローや相談体制を整え、社員が安心して利用できる環境づくりを行いましょう。
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