エミーウォッシュを前に微笑む開発者の末吉隆彦さん

【開発者に聞く】笑顔になると除菌液がプシュッ!楽しく感染予防

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、にわかに注目度が高まった除菌液スプレー。

手動でスプレーボトルをプッシュするタイプや、手をかざすと自動で噴霧されるタイプなどが一般的ですが、「笑顔になると除菌液が出てくる」製品があるのを知っていますか?

その名もemmyWash(エミーウォッシュ)。2020年9月に販売が開始された同製品を開発したマイネム株式会社代表取締役の末吉隆彦さんにお話を伺いました。

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影/山本 未紗子(株式会社BrightEN photo)
編集/ステップ編集部

末吉隆彦さんプロフィール写真

末吉隆彦(すえよし・たかひこ)
マイネム株式会社 代表取締役/クウジット株式会社 代表取締役社長
1992年にソニー株式会社へ入社後、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)リサーチャーに就任。2007年、ソニーCSL初のスピンアウト企業となるクウジット株式会社を設立。
2015年、慶應義塾大学大学院SDM研究所の研究員となり、笑顔と経済に関する共同研究をスタート。2018年、笑顔作りの「社会装置」を手がけるマイネム株式会社を平野治氏と共同で創業。

「スマイルシャッター」の技術を生かした自動除菌液スプレー

エミーウォッシュの使い方は、極めてシンプルです。本体中央にある小さな鏡に顔を映して「笑顔」と判定されると、盤面のLEDライトが点灯。噴霧口に手を差し出すと、ノズルから除菌液が出てくる仕組みです。

ここで活用されているのが、「スマイルシャッター」として知られるソニーの顔画像認識技術※1。カメラが表情のパターンを認識し、0~100の数値で「笑顔度」を判定します。ただ、笑顔を作るのがあまり得意でない方もいますし、マスクを着用しているとどうしても笑顔の検知が難しくなります。

そこで、目尻やマスクなどがどのように動いたかという変化量もチェックすることで、複合的に笑顔を判定できるようにしました※2

※1 emmyWashは、クウジット株式会社の提供する IoH(Internet of Happiness)プラットフォーム、およびKART画像認識ソリューション、ソニー株式会社が開発した顔画像認識技術を利用している。
※2 判定に時間がかかる場合もあるため、基本的にはマスクなしでの利用を推奨している。

手を差し出し、笑顔が検知される除菌液が出てくるエミーウォッシュ

笑顔には、免疫力アップやポジティブ感情の伝播、幸福度の向上などさまざまな効能があると言われています。たとえ作り笑いであったとしても、口角を上げるという表情筋の動きそのものが脳の神経を刺激し、自然とポジティブな感情になりやすいと考えられています。

これは表情フィードバック仮説と呼ばれるもので、「幸せだから笑うのではなく、笑うから幸せになる」という人間のメカニズムに基づいています。また、笑顔は表情筋のトレーニングにもなるので、顔のリフトアップをはじめとするエイジングケアの効果も期待されます。

そしてもう一点、エミーウォッシュ最大の特徴ともいえるのが、利用された回数に応じて、感謝のお金という意味を込めて名付けた「emmy」(エミー)がemmyBank協会に貯められていくこと。

具体的には、笑顔1回につき1 エミー(0.5円換算)を売上金からプールし、エミーウォッシュを教育機関へ進呈するなど、社会課題を解決するための寄付財源として活用しています。自身の笑顔がその場を明るくするだけでなく、社会の中で回りまわって誰かのために貢献できるわけです。

「感謝のお金」を貯めて笑顔の循環経済を回そう

もともと私はソニーCSLでリサーチャーを務めていましたが、そのときの上司や同僚たちと一緒に同研究所初のスピンアウト企業としてクウジット株式会社を立ち上げ、位置情報やAI(人工知能)などの技術を応用したサービスを展開し始めました。

私たちが笑顔に注目した大きなきっかけは、2011年の東日本大震災。未曾有の大災害だからこそ笑顔の持つ力や価値を思い出してもらいたいと、東京都市大学や株式会社電通国際情報サービスと共同でチャリティーイベントを開催しました。

デジタルサイネージに笑顔を映すことで災地復興支援のチャリティープログラムに参加できる仕組みで、2013年度のグッドデザイン賞を受賞しました。

「笑顔を通して社会貢献できる方法を模索してきた」と話すマイネム株式会社代表取締役の末吉隆彦さん

しかし、こうした取り組みは一過性になりがちだったので、より長期的に笑顔を通して社会貢献できる方法はないかと模索するようになりました。そうしたとき、幸福学の分野でも高名な慶應義塾大学大学院の前野隆司先生と出会い、私自身も同大学院SDM研究所の研究員となって学び始めました。

この研究活動の中で生まれたのが「人を幸せにするおカネ(エミー&ゼニー)を創る」プロジェクトです。「ゼニー」は利益を極大化させる目的で使われるお金、「エミー」は笑顔で人々をつないで感謝を極大化するお金を意味します。

ここで、大昔の人類が使っていた「石のお金」を思い浮かべてみましょう。大きな物体を、貨幣として日常的にやり取りするのは難しいと思いませんか? 実は、あの石のお金は、現代的な意味での貨幣というよりも、「〇〇さんが△△をくれた」「□□のときに助けてもらった」というように、人間同士のギブアンドテイクを刻んで記録する媒体だったといわれています。

もともとのお金の起源は、感謝や信頼を示すシンボルだった――。これを現代に引き継ぐのが「エミー」であり、「ゼニー」に傾きすぎた現在の資本主義とのバランスを図ることが本プロジェクトの真意です。

そのためにスタートさせた初めての取り組みがエミーウォッシュ。単なる除菌液スプレーではなく、笑顔の循環経済を回すための「社会装置」と位置付けた背景には、こうした思いがあるのです。

「笑顔×〇〇」が生み出す社会像を提案し続けたい

エミーウォッシュは、2020年9月以降、全国の商業施設や小売店、クリニック、自治体などから注目していただき、すでに数百台を販売しています。そして、2021年2月時点で累計6万788エミーが集まりました。

エミーウォッシュを導入するときは、1台ごとに「お世話がかり」を登録してもらうことになっていて、その方を中心に管理やお手入れを行っていただくほか、「エミー」のカウントもお願いしています。

毎月、除菌液と一緒に送付される小冊子『emmyReport』に付属する専用のハガキを使用するか、本体のQRコードを経由して報告いただくかたちです※3

※3 月末までに報告がなかった場合は、契約している除菌液の本数の30%分(1本当たり350回×30%=105回)を利用したものとして記録している。

実際にエミーウォッシュを導入した皆さんからは、「笑顔が増えています」「楽しく続けられそうです」などとポジティブな声がたくさん届いています。

業種ごとに感じるメリットもさまざまなようで、サービス業では来店客との会話のきっかけ作りになったり、高齢者介護施設ではレクリエーション時のアイスブレイク効果があったりするようです。ある研究施設からは、「最初はみんな照れ臭そうでしたが、その様子からも新たな笑いが生まれました」という感想をいただきました。

「導入した企業からは『笑顔が増えた』といったポジティブなものが多い」と手応えを語る末吉さん

エミーウォッシュはSDGs※4の目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標6「安全な水とトイレを世界中に」、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の実現も目指しており、こうした点に興味を持つ経営者からも問い合わせをいただいています。

※4 2015年9月の国連サミットで採択された、持続可能な開発目標のこと。

エミーウォッシュは、本体上部の盤面をオリジナルデザインに変更することが可能です。会社の理念やロゴ、オリジナルイラストなどを配置して、個性あふれる「自分たちだけのエミーウォッシュ」として、愛着を持って使っていただけるとうれしいです。

当面は「社会装置」の第1弾として世に送り出したエミーウォッシュを広めていき、共感いただける方を増やしていくことが目標です。同時に、チャンスがあれば次の社会課題にも挑戦していくつもりです。私たちの技術力、そしてパートナーとなる企業や事業所の強みを生かしながら、「笑顔×〇〇」の新たな組み合わせを発見・提案し続けていきます。

盤面デザインを「マイナビ健康経営」オリジナルのものに変更したエミーウォッシュ

関連記事

新着記事