健康経営×SDGsセミナー開催リポート

持続可能な企業経営のキーワードは「健康経営」「SDGs」~「健康経営×SDGsセミナー」開催リポート~

2021年3月25日(木)、オンラインで「健康経営×SDGsセミナー」(主催:NPO法人健康経営研究会、健康経営会議実行委員会 後援:株式会社マイナビ)が開催されました。

「SDGs」「健康経営」という話題のテーマを取り上げたこともあり、当日は約400人が視聴するという注目度の高さでした。本セミナーでは、日本ノハム協会専務理事の筒井隆司さん、NPO法人健康経営研究会副理事長の平野治さんの2人が講師を務め、それぞれの講演後には2人によるディスカッションも行われました。参加者からの質問が相次ぎ盛り上がった本セミナーの内容を、ダイジェストでお届けします。

※SDGs=Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影・編集/ステップ編集部

セミナー1:持続可能な商品やサービスを開発するSDGs経営とは何か?

筒井隆司さんプロフィール写真

<講師プロフィール>
筒井隆司(つつい・りゅうじ)
一般社団法人日本ノハム協会 専務理事

1982年、ソニー株式会社入社。22年間で5カ国に滞在し、海外支社のマネジメントを経験。2015年からはWWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)の事務局長に就任。「人類が自然と調和して生きられる未来」を目指して環境保護などに取り組む。その後、日本ノハム協会専務理事に就任。SDGsに取り組んでいる企業や組織とのパートナーシップを築くとともに、個人に対する普及啓発にも力を入れている。

「SDGsと聞くと難しそうなイメージを持たれるかもしれませんが、『皆で一肌脱ぎ、社会を良くすることに本業を通して関わる活動』だと思ってもらうといいでしょう」―。
筒井氏は、この一言でSDGsに付随する難解なイメージを和らげ、本題へと移っていきました。

世界の足並みが乱れがちだからこそSDGsが誕生した

今、地球上では気候変動、生物多様性の破壊、人口爆発といった変化が起こっており、私たちはこれ以上、同じように生活していくわけにはいきません。2015年に採択されたパリ協定は、「産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃未満に抑える」という内容です。気温が2℃上昇するというのは、人間の体温でいうと+5℃に相当します。皆さんの平熱が36℃から41℃になったと考えてみてください。おそらく、フラフラで何もできないでしょう。

また、環境問題により多くの生物が減少・絶滅に追い込まれています。生態系の循環が滞ると、例えば受粉が行われにくくなるなどして、食糧生産の面でもマイナスになります。こうした危機的な状況に将来の世代を追い込むわけにはいかず、何としてでも今のうちから解決の道筋を付ける必要があります

SDGs経営について話す筒井隆司さん

しかし、世界的な人口爆発が事態を難解にしています。ここ75年の間に世界の人口は約3倍、国の数は約4倍に膨れ上がりました。人や国の数が増え、生活圏・文化圏が多様化すると、世界が一つの目標に向かって力を合わせることがますます難しくなります。だからこそ、SDGsという大きな目標を掲げ、各国の足並みをそろえようとしているわけです。

パリ協定は、196の国・地域すべてが合意するという非常に珍しいかたちで成立しましたが、これは新しい時代に向けてポジティブな兆しだといえるでしょう。金融業界でも投資原則、融資原則、保険原則が変わり始めています。世界でSDGsを実現するためには年間で約750兆円が必要とされていますが、各国政府は約50兆円しか都合できませんでした。ところが、民間の活力を導入したことによって、約3300兆円もの資金が集まったのです。

SDGsを経営に「実装」しよう

このように世界の潮流が大きく変わる中、日本の企業が生き残るためにはどうすればいいのでしょうか。従来は財務諸表など数値化できるものを判断材料にして、企業の状態を把握してきました。しかし、数字として表れない部分――経営者の人格、社員の健康やモチベーション、ステークホルダー(利害関係者)との信頼関係などについても注目されるようになってきています。数値化されない以上、客観的な把握や比較は困難という問題はあるものの、これらの定性的な要素を踏まえつつ、多面的に企業の健康を整えていくことが大切です。

その上で、これからの企業経営に重要なことは、SDGsなどで示された「長期社会ビジョン」を自社の「長期経営ビジョン」に落とし込んでいくことです。そして、その長期経営ビジョンを見据えて、どんな人材が必要なのか、どんな商品やサービスを提供していく必要があるのか考えていきます。このようにしてSDGsを経営に取り込み、企業の発展性・持続可能性を高めていくことを「SDGs経営」と呼びます。その実現のためには、未来を起点にして現在のことを考えるバックキャスティング思考が求められます

とはいえ、SDGs経営だからといって、まったく新しいことを行うのではなく、日本ならではの良さを生かしていきたいものです。私たちの日本社会は、先のこと、周りのことを考える精神で成り立ち、持続してきました。いわば、もともとSDGsに親和性があるわけで、これからも社会を大事にする、社会に貢献するという気持ちを大切に、持続可能な生き方を日本から世界へ発信していきましょう。

セミナー2:人の健康を会社資本と位置付ける健康経営とは何か?

平野治さんプロフィール写真

<講師プロフィール>
平野治(ひらの・おさむ)
NPO法人健康経営研究会 副理事長、株式会社マイネム 代表取締役

資生堂、電通、NHK、リクルートなどのマーケティングに関わる中で、2005年にソーシャルマーケティングとして「健康経営」の概念を構築し、人の健康を会社資本と位置付ける新しいマネジメントの仕組みを提案。経済産業省が東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を選定するなど、「健康経営」は社会的な広がりを見せている。

「健康経営の根幹は、人という資本に投資し、企業価値や利益をリターンとして得ていくという持続可能な戦略です」。このように切り出した平野氏は、「人=資本」であることを丁寧に解説していきました。

人件費は人材への投資と捉えよう

「パラダイムシフト」(価値観の転換)と呼んでもかまわないくらいに今、社会が非常に大きく動いています。その変化の一つがワークスタイルです。従来は会社・社会のマネジメントの中に自分がいて、全体のモラルを大事にするところがありました。今は、自分がいいと思ったことをする、それが社会のためになるという考え方にシフトしていて、それに基づいて仕事や働く環境を選ぶ時代です。

健康経営について話す平野治さん

こうした環境にあって、経営の差別化を図るためには「人」にフォーカスすることが必要です。あらためて「人」を資本として捉え、どう最大化していくのか考えるのです。しかし、残念ながら、「健康経営にかかるお金は健康資本への投資である」といった考え方は十分に浸透していません。人件費をコストと捉えると削減圧力が働きますが、投資と捉えて社員の健康促進、能力や価値の向上につなげていけば、結果的に企業価値や利益を生み出し、その企業は発展していきます。

企業というものは、ともすれば「業界を守りたい」「業界内でのシェアを取りたい」という考えに固執しがちです。しかし、人それぞれが持つ共感や生きがいを発揮できるようにするには、業界という枠に縛られずやりたいことができる環境が必要です。人を流動的な資本ととらえ、企業間での配置転換・異動を行うこともあってしかるべきでしょう。特に中小企業では自社内での人材配置に限界があるので、それぞれの会社の持ち味をシェアしてお互いを高めていってほしいものです。

「自分のことだけ」では持続可能性は高まらない

また、企業というものは、どうしても企業利益が最優先となり、社会利益が後回しになりがちです。しかし、社会利益がなければ新しい市場は生まれず、市場がなければ事業はできません。「企業利益―社会利益―市場形成」という循環は持続可能性を秘めており、どれも欠けることのないようにしていく必要があります。他社との競争に勝ち、自社が独占するという方法では、結局は持続することができなくなるのです。

SDGs経営を実践する上では、17項目の中から自社にとって本当に必要なものを考える姿勢を持ってほしいと思います。日本は資源の国ではなく、知恵の国です。試行錯誤して新しいことを生み出したり創意工夫したりすることを得意としてきました。SDGsを基盤として、自社ならではの戦略を練り上げてください。その実践こそが、企業の持続可能性をより高めていくことにつながります。

ディスカッション:健康経営×SDGsを通じて新たに生み出すことができる共創価値とは何か?

筒井さん、平野さんそれぞれの講演が終わった後、2人がディスカッションする機会も設けられました。

SDGs、健康経営をテーマにディスカッションをする筒井さんと平野さん


筒井さん

「企業」は「なりわいをくわだてる」と書きます。一人ではできないことに皆で力を合わせて取り組む集合体なのです。その企業を経営するためには、「サプライチェーン」(供給連鎖)と「バリューチェーン」(価値連鎖)の違いをしっかりと意識しましょう。前者は目に見える要素から構成されるものですが、後者は所在する国、その治安、関係者の健康状態といった目に見えない要素も含みます。例えば、生産が滞ってしまったとき、その生産者だけを責めるやり方では生き残れません。バリューチェーンという視点で考え、目に見えない要素にも目を向けて安定性を高めることで、企業は成長していきます


平野さん

経営戦略をテーマにすると、いつもコストのことが話題になります。確かに、特に中小企業にとっては大きな問題です。しかし、健康経営で人に投資をすれば、最終的には自社の利益としてリターンが生まれます。市場の枠組みは変化していて、流動的に対応していかなければ時代の波に乗ることはできません。企業・業種の枠組みを超えて適材適所に人材を配置し、バリューチェーンの視点を持つことで、そこに奥行きや新しい変化が生まれてくるはずです。


筒井さん

持続可能な企業経営に向けて、大事なことが3つあると思います。1つ目は「超長期プラン」です。「こういう社会になったらいいな」というイメージを持つため、関与する人が積極的にアイデアを出すといいでしょう。2つ目は、SDGsに出てくるワード「マテリアリティ」(重要課題)です。企業が経済、環境、社会に対して著しいインパクトを与える課題、ステークホルダーの評価や意思決定に対して実質的に影響を及ぼす課題を意味しますが、このマテリアリティを非財務指標に関わるものを含めて特定し、ステークホルダーに開示していくことが求められています。そして、最後の3つ目は「人」です。先が見える人材を採用したり、上層部に意見できる人を活用したりすることは、新しい価値を生み出します。


平野さん

そうした3つの大事なことを守る中で、さまざまなステークホルダーと一緒に共創価値(creating shared value;CSV)を生み出していくわけですね。SDGsに関してはさまざまな情報が発信されていますが、それをただ受け取るだけではなく、関心や共感をもって見聞きすることも大切だと思います。そうすれば、「自分の事業では何ができるのか?」と考えるきっかけにもなるでしょうから。

画像:筒井さん

「バリューチェーンの視点で考える企業は成長していきます」と話す筒井さん

画像:平野さん

「健康経営で人に投資をすれば、自社の利益としてリターンが生まれます」と語る平野さん

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