企業の成長につながる!従業員のモチベーションマネジメントのポイント

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文/朝生 容子 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

モチベーションマネジメントは日々の業務にどのような影響を与えるのでしょうか。代表的なモチベーション理論やその実践方法、部下や出向社員のモチベーション維持・喚起で注意することなど、産業カウンセラーの朝生容子さんが解説します。

なぜモチベーションマネジメントが重要なのか

企業全体で成果を高めるために重要なことのひとつに、メンバーのモチベーションを高く維持、喚起することが挙げられます。そのため、モチベーションマネジメントは会社経営・チームマネジメントにおいて成果向上のカギであるといえるでしょう。

しかし、就業環境の変化が激しい現代では、従業員のモチベーションを個別に把握するのは難しくなりつつあります。従業員の多様性が高まるとともに、その価値観も多様になってきているからです。つまり、画一的なモチベーションマネジメントが通用しづらい時代といえるでしょう。だからこそ、企業は従業員一人一人のモチベーションについて、今まで以上に感度を高めていく必要があります。

モチベーションについては、ビジネス的な分野にとどまらず、心理学や教育学などの観点からさまざまな研究がされています。今回は、その中のいくつかをご紹介しつつ、どのように応用できるか、事例をもとに解説します。

モチベーションに関する代表的理論

ここでは2つポピュラーな理論を紹介しましょう。

心理学者フレデリック・ハーズバーグの「衛生要因・動機づけ要因」

不満をもたらす要因を「衛生要因」、満足をもたらす要因を「動機づけ要因」と定義し、両者は異なることを提唱しました。
衛生要因が満たされてもモチベーションがアップするわけではなく、不満が解消するだけです。満足度を向上させるには、動機づけ要因への働きかけが必要だ、としています。逆に、動機づけ要因を満たしても、不満は取り除かれません。モチベーションを高めるには、「衛生要因」「動機づけ要因」両方に働きかけが必要なのです。

図表1:衛生要因・動機づけ要因

図表1:ハーズバーグが提唱した衛生要因・動機づけ要因

図表1:衛生要因・動機づけ要因

心理学者エドワード・L・デシの「動機づけ論」

「動機づけ」には金銭や地位など、外部の報酬によって促される「外発的動機づけ」と、個人の価値観などにひもづいた「内発的動機づけ」がある、という理論です。

人事・報酬制度は外発的動機の代表的手段であり、ほとんどの企業で導入されています。汎用性が高く誰にでも実践しやすいメリットがある反面、受動的なために持続性が低いというデメリットがあります。

内発的動機は、仕事そのものの面白さや、お客様から感謝された時の喜びなど、自分の心の中で感じられるものです。自分の価値観に根差したものなので、外発的動機に比べ持続性が高いといわれます。

外発的動機と内発的動機は独立したものではなく、相互に影響し合う関係にあります。例えば、評価制度は、社員の成果達成意欲や成長意欲を刺激します。外発的動機で動いているうちに、自分なりの喜びや達成感(内発的動機)を見いだすこともあります。逆に、「報酬をもらう」といった外発的動機に基づく行動が、もともとあった内発的動機を阻害することもあるといわれています。

図表2:内発的動機・外発的動機

図表2:デシが提唱した内発的動機・外発的動機

図表2:内発的動機・外発的動機

失敗事例からモチベーションマネジメントを考える

従業員のモチベーションマネジメントには、こうした理論を活かしてどのような対応をとったら良いのでしょうか? 事例をもとに考えていきましょう。

事例:部下のモチベーションをダウンさせてしまった課長

私がカウンセリングしたSさんの事例をご紹介しましょう。

Sさんは、30代後半の男性です。新卒で入社以来、関東エリアで営業に従事していました。ある年、Sさんの勤める支店に、関西からY課長が赴任してきました。Y課長は入社以来、関西勤務だったため、Sさんとは初めて一緒に働くことになりました。

実直な性格でお客様との関係も良いSさんですが、昇格は同期と比べて遅れ気味。Y課長は何とかSさんに昇格してもらいたいと思い、熱心に指導しました。残業していれば様子の確認のために声をかけ、新規顧客の開拓に力を入れるよう、Sさんを叱咤激励したのです。

Sさん自身は、自分がお客様と誠実な関係を築けていることにやりがいを感じていました。また自宅と勤務先が近く、ワークライフバランスがとりやすいことにも満足していました。「昇格」はそれほど重視していないうえ、もし昇格に伴う異動で勤務先が遠くなることは避けたいと思っていたのです。

しかし、Y課長に「昇格のためにはもっと営業成績を上げなくては」とはっぱをかけられ、それに応えようとして残業が増えてしまいました。加えて、新規開拓を広げるようにと命じられたため、既存のお客様とこれまでのように十分なコミュニケーションをとる余裕がなくなってしまいました。

Sさんは徐々にモチベーションが低下。そのうちにメンタル不調を覚え、カウンセリングを受けることになりました。

この状況を衛生要因/動機づけ要因の観点で整理して考えてみましょう。

■Sさんの動機づけ要因
・既存のお客様との良好な関係
・ワークライフバランス

■Y課長が働きかけた動機づけ要因
・昇格(新規顧客への開拓)

部下の動機を見誤った典型的な例といえるでしょう。Sさんの持つ動機づけ要因とは違うものに働きかけをしているため、モチベーションアップにはつながりません。
また、Y課長が良かれと思って行った残業中のSさんへの声がけは、Sさんにとって衛生要因を阻害することになりました。「残業の邪魔をされた」と感じ、不満を募らせてしまったのです。

では、Y課長はどのようにモチベーションマネジメントをすれば良かったのでしょうか?

まず、衛生要因の観点では、残業中に頻繁に話しかけるのは控えたほうが良いでしょう。話しかけること自体は、部下とのコミュニケーションを密にとるという意味で、必ずしも否定されることではありません。ただ、相手の状況を考慮せずに話しかけるのは控えるべきです。

では、残業中のコミュニケーション方法を改めたとしたら、Sさんのモチベーションは上がるでしょうか? 残念ながらそう簡単にはいきません。Y課長に対する不満は軽減できたかもしれませんが、もし依然として「昇格」を目指すように働きかけていたら、モチベーションは上がらないと考えられます。

上司は自分の先入観を取り払い、部下のモチベーション要因が何かを理解することが先決です。そのうえで、理解できた要因に働きかけていくことが重要です。
Sさんの場合は、ワークライフバランス重視しているため、転勤の可能性は低く裁量権の広い上位職があることを教示する、などが考えられるでしょう。

動機づけとなる要因は、個人の性格や価値観によってさまざまです。またその時々の状況によって変化もします。相手の動機がどこにあるのか、先入観なく見極めるためには、相手の様子をよく観察し、対話を通じて理解を深めていくことが重要です。自分では手がまわらない場合は、カウンセリングやメンターなど、社内の他のリソースを使うのも一案です。

在籍型出向をした社員のモチベーションマネジメント事例

上司と部下という個人レベルでの動機づけの例をご紹介しました。次は、さらに組織単位での動機づけの取り組みについて考えてみましょう。

最近、よく聞く言葉に「在籍型出向」があります。会社に大きな変化が起こった時、その危機を乗り越えるため、従業員が在籍したままで他社に出向するというものです。契約期間終了後は、原則として元の会社に戻ります。

この言葉が注目されている背景には、新型コロナウイルスへの各社の対応が挙げられます。コロナ禍による影響で、観光業界では、仕事が一時的に激減しました。そこで手の空いた人員を他業界に出向させるといった対策がとられました。こうした「在籍型出向」は、コロナ元年の2020年度には前年度の2.5倍になったといいます。

在籍型出向制度は、雇用維持という点で、会社をあげての衛生要因の確保と位置付けられます。さらに、「異なる業界での経験を将来元の会社に戻った時に活かす」というメッセージを投げかけることで、動機づけ要因として活用しようとしています。

しかし、こうした状況が長く続くと、モチベーション維持が難しくなってきます。出向当初は危機感もあり、高いモチベーションで新しい仕事に向き合ったものの、慣れない業務や環境への疲れがたまります。ひいてはモチベーション低下を引き起こし、メンタル不調や離職につながりかねません。

その対策として有効なのが、従業員の間に生じる不満や状況を適宜把握していくことです。すぐに有効な改善策がとれなかったとしても、自分の不安や不満を吐露する先があるということは、安心感につながります。

実際に、在籍出向制度を使った航空会社では、出向中社員の支援に特化した組織を設立したことが報じられました。相談に応じるとともに、出向者全員の面談の機会を設けたといいます。出向先での働き方に問題があるとみられた場合は、出向先企業と管理職とで相談し、職場の環境改善を図っているそうです。
在籍する会社の上司だけでなく、出向先を巻き込んでいることから、本気で従業員の環境に考慮していることが伝わってきます。

こうした会社の制度は、「外発的動機」への働きかけと位置付けられます。注目すべきは、それが従業員にとって、新たなやりがい(内発的動機)の発見につながる例がみられることです。

例えば、出向先の仕事の意味がわからなくなった相談者に対し、その職場を「飛行機内」と視点を変えるアドバイスをした例が報じられていました。

「内発的動機」というと、自分自身で模索するようなイメージがありますが、実際には外発的動機づけによる刺激が、内発的動機の発見につながることが多いのです。逆にいうと、上手に外発的動機づけを設計することで、内発的動機を喚起することができるのです。

まとめ

モチベーションは人によって多様です。また時間や年齢によっても変化します。相手のモチベーション要因を理解するには、先入観を排して臨む必要がありますが、そのメカニズムは共通しているのです。「衛生/動機づけ要因」や「外発的/内発的動機」のようなフレームワークを使うことで、個人に合わせたモチベーションマネジメントができるのではないでしょうか。

【プロフィール】
朝生容子(あそう・ようこ)
オフィス・キャリーノ代表
産業カウンセラー キャリアコンサルタント
慶応義塾大学卒業後、大手通信会社に入社。人材開発やマーケティング等に従事。その後、社会人向け教育機関に転職。企業研修部門において人材育成のコンサルティング、およびキャリア研修講師を担当。
キャリアコンサルタントとして独立後は、大学のキャリアクラス講師や若年者就労支援、研修講師などを担当。現在は、社会人向けの転職相談や企業向けのリーダーシップ育成研修の講師を中心に活動している。

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