人件費削減の方法とは?失敗しない従業員の雇用と企業の信頼の守り方

人件費削減の具体的な方法とは?メリット・デメリットを解説

経営が苦しいときに状況改善をする施策のひとつに人件費の削減があります。従業員の雇用を守り、企業への信頼を維持する、失敗しない人件費削減の方法について紹介します。

目次[非表示]

  1. 1.人件費削減の方法とは?失敗しない従業員の雇用と企業の信頼の守り方
  2. 2.人件費を削減するには?
    1. 2.1.人件費の種類
    2. 2.2.人件費率で適正な人件費を算出
  3. 3.人件費を削減するメリット
    1. 3.1.大幅なコストカットが見込める
      1. 3.1.1.<人件費以外に削減できる経費>
    2. 3.2.設備投資や新規事業開発に投資できる
    3. 3.3.銀行の評価が高くなることもある
  4. 4.人件費を削減するデメリット
    1. 4.1.会社の評判が下がる可能性がある
    2. 4.2.従業員のモチベーションが低下し、生産性が落ちる
    3. 4.3.退職者の精神的、経済的ダメージ
    4. 4.4.優秀な従業員が辞め、人手不足に陥ることも
  5. 5.従業員の雇用を守る人件費削減の方法
    1. 5.1.業務効率化ツールを導入する
    2. 5.2.外注を増やす
    3. 5.3.労働環境改善の取り組みを行う
    4. 5.4.ほかの固定費を見直す
  6. 6.人件費の削減に在籍出向を活用する
    1. 6.1.在籍出向の仕組み
    2. 6.2.在籍出向の意義
  7. 7.在籍出向を活用して、上手に人件費を削減しよう

人件費削減の方法とは?失敗しない従業員の雇用と企業の信頼の守り方

収益の減少で経営が苦しいとき、短期的に経営状況を改善する施策として人件費の削減があります。企業活動における経費のうち、人件費が占める割合は非常に大きなものです。人件費を削減できれば、一時的とはいえ経営の改善が見込めるでしょう。しかし、人材は企業にとって何ものにも代えがたい財産です。直近のリスクを回避することだけにフォーカスすると、優秀な従業員の離脱や人手不足、社会的な信頼性の低下など、企業として大きなダメージを負うことにもなりかねません。

ここでは、従業員の雇用を守り、企業への信頼を維持する、失敗しない人件費削減の方法についてご紹介します。

人件費を削減するには?

企業が人材を雇用すると、雇用を維持するためのさまざまな費用が発生します。この費用を、人件費といいます。人件費は、企業活動における重要な経費のひとつです。人件費と聞いて、一般的にイメージするのは給与や福利厚生費ですが、人件費削減を考える上では、より広範なコストに注目する必要があります。

一般的に、人件費にはどのような種類があるのでしょうか。人件費の内訳をひとつずつ確認していきましょう。

人件費の種類

  • 給与手当
    給与手当は、従業員の労働の対価として支払われる費用です。
  • 所定外賃金
    所定外賃金は、時間外労働手当(残業代)や休日手当、深夜労働の割増賃金などが含まれます。
  • 賞与、一時金
    毎月の給与手当とは別に支給されるボーナスやインセンティブなどは、賞与、一時金となります。
  • 福利厚生費
    福利厚生費は、従業員の慰安のためのレクリエーションや社員旅行のほか、慶弔金、結婚・出産の祝い金など、福利厚生を目的として企業が支払う任意の費用です。
  • 法定福利費
    法定福利費とは、社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)、労働保険(雇用保険、労災保険)といった、企業に法律上の支払義務がある費用です。
  • 採用教育費
    従業員を採用するための求人広告費や、採用後の研修に必要なテキスト代、外部講師に支払う報酬、講習会場費などは、採用教育費にあたります。
  • 退職金
    退職金は、従業員や役員が退職する際に、慰労の意味で支払われる費用です。退職手当や退職慰労金などと呼ばれることもあります。

人件費の種類や名称は上記に限らず、多岐にわたります。企業における人件費がどう定められているかは必ず確認をしてください。

【参照】厚生労働省「労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます」|厚生労働省(2022年4月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000759761.pdf

人件費率で適正な人件費を算出

上記のように、人件費の内訳は多岐にわたります。1人雇用するごとにこれだけさまざまな費用がかかることを考えると、人件費を正確に把握しておくことの重要性がわかるでしょう。人件費の把握と管理を疎かにすると、経営にじわじわと悪影響を及ぼす可能性が高くなります。

それでは、適正な人件費はどのように求めれば良いのでしょうか。売上に対して人件費が占める割合(人件費率)は、下記の計算式で求められます。

人件費率(%)=人件費÷売上×100

適正値は業界によって異なるものの、法人企業統計年報の2015年度の調査によると、全産業の売上高人件費率は、14%程度でした。これを基準として、人件費率を大幅に上回る場合や下回る場合は、人件費の見直しをしてください。

【出典】法人企業統計年報「売上高人件費比率」|財務総合政策研究所
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/keyword/keyword_05.htm

人件費を削減するメリット

人件費を削減すると、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。ここからは、人件費削減の3つのメリットを具体的にご紹介します。

大幅なコストカットが見込める

企業が支払う経費のうち、人件費が非常に多くの割合を占めることは、上記でご説明したとおりです。人件費を削減すると、それだけで大幅なコストカットにつながります。

さらに、人員が減ると、人件費以外の経費も削減することができます。例えば、下記のような費用です。

<人件費以外に削減できる経費>

  • トイレットペーパー、ティッシュペーパーなどの日用品代
  • ボールペン、コピー用紙、封筒、名刺など事務用品代
  • デスク、椅子、携帯電話代、パソコンなどの備品代
  • グループウェアにかかる費用など

さらに、オフィスで働く人数が減ることで、現在より小規模なオフィスに移転できれば、賃貸料なども安くなる可能性があります。

設備投資や新規事業開発に投資できる

人件費の削減は、直近の経営難を改善する手法と思われがちですが、長期的な視野で業績回復を実現する手段として実行される場合もあります。

人件費に使われていた費用を、新規事業開発や社員の教育などにあてることで、企業の体力が向上することもあるのです。これは、企業の未来に向けて投資することによって、着実な業績回復を図る方法といえます。

また、削減した人件費の費用を、外注費や設備投資に回すのもひとつの方法です。既存社員の負担が減り、労働環境が改善されれば、生産性の向上につながるでしょう。

銀行の評価が高くなることもある

リストラや早期退職を募って従業員数を減らし、人件費を削減すると、決算書上では企業利益が黒字になることもあります。銀行の融資判断においては、決算書が黒字であれば高評価につながりやすくなるのです。

ただし、これはあくまでも一時的なしのぎであり、現実には利益が向上したわけではありません。新たに受けた融資は新規事業を行うなど有効活用し、銀行から利益の向上を評価されるように努力することが大切です。

人件費を削減するデメリット

人件費は、企業の屋台骨を支える人材が健康的に働き続けるために、必要不可欠な費用です。本来なら、十分に投資して従業員が働きやすい環境を作ることが望ましく、短絡的に削減に踏み切ることはおすすめできません。

どうしても人件費の削減を行う場合は、下記に挙げる4つのデメリットを伴うことに注意が必要です。

会社の評判が下がる可能性がある

会社都合で解雇を言い渡すリストラはもちろん、希望退職を募った場合でも、人員整理をしていることにマイナスイメージを抱く人は少なくありません。

特に、取引先などは、企業にとって欠かせない人件費を削減しているということに不安を抱き、取引の縮小を考える可能性もあるでしょう。「従業員を大切にしない企業」という印象が定着すれば、社会的な信頼を失い、採用や事業拡大の障壁になることも考えられます。

従業員のモチベーションが低下し、生産性が落ちる

従業員の賃金を一律カットすれば、一時的に人件費は抑えられます。しかし、労働時間や労働量は変わらないのに、給与やボーナスがカットされれば、従業員のモチベーションやエンゲージメントは当然ながら低下します。人件費削減の影響で、切磋琢磨してきた仲間や、恩義ある上司が退職や転職を選択することも、残された従業員の組織に対する不満を増大させ、生産性を低下させるでしょう。

また、人員が減った分だけ、1人あたりの業務量が増え、労働に見合う対価が得られなくなれば、退職を選ぶ人が増える懸念もあります。

退職者の精神的、経済的ダメージ

大切な従業員に対して退職勧奨をしたり、早期退職の希望を受諾したりするのはつらいものですが、退職する本人の苦しさはそれ以上です。特に、退職勧奨や整理解雇で声がかかった従業員の精神的ダメージは計り知れません。加えて、収入面の不安にもさらされることになります。

企業には、退職者と面談をして丁寧に背景を伝えたり、企業に貢献してきた従業員に対する最後の福利厚生や、他企業への雇用維持のサポートをしたりといった適切なフォローが求められます。

そこで、退職者への具体的なフォローとして、転籍出向サービスの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
転籍出向は、今働いている企業(出向元企業)との雇用契約関係を解消した上で、新しい企業(出向先企業)と雇用関係を新たに結ぶ出向の仕方です。

従業員と出向元企業との雇用関係は、雇用契約を解消した時点でなくなるため、人件費の削減につながります。従業員の退職後の生活を保障できる可能性があるという側面からも、従業員の雇用を守る人件費削減の方法のひとつといえます。

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優秀な従業員が辞め、人手不足に陥ることも

早期退職の募集に対して、誰が応募してくるかは実行してみないとわかりません。企業側が想定していなかった優秀な従業員が早期退職に手を挙げることも考えられます。売上の多くを担う人材や、リーダーシップがあって部下からの信頼が厚い人材が退職することによって、連鎖的にほかの従業員が辞めることもありうるでしょう。

適度な人員カットのつもりが、あっという間に人手不足の状態に陥る可能性もあります。

従業員の雇用を守る人件費削減の方法

ここまで、人件費削減のメリットとデメリットを見比べてきました。人件費削減によって起こりうるデメリットのほとんどが、リストラや給与カットといった人件費削減から生まれてきます。

人件費削減の本来の目的は、人を減らすことではなく、売上高に対して人件費が占める人件費率を下げることです。この基点に立ち戻って、従業員の雇用を守り、人件費率を下げる具体的な方法について考えていきましょう。

業務効率化ツールを導入する

人件費率は、業務の効率を向上させることによっても削減が見込めます。まずは、人件費を一つひとつ見直して、何が全体を圧迫しているのかを明らかにしましょう。

例えば、残業代や休日手当といった人件費が多いようなら、営業時間内に業務が終わるよう工夫することで改善が見込めます。業務手順を見える化し、非効率なオペレーションを洗い出していってください。

オペレーションの効率化には、新たなITツールの導入も一考の価値があります。単純で繰り返しの多いデータ入力を自動化してくれるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を利用する、紙ベースの書類管理をデータ化するなど、ITツールの導入で非効率な業務プロセスを削減することによって、業務スピードはアップします。

会議が多い場合や、1回の会議にかかる時間が長い場合は、グループウェアでの情報共有など、コミュニケーションツールでのやりとりを増やすことで、無駄な会議は減らすことができるはずです。

また、社内のシステムをクラウド化し、システムの保守・管理を担当していた人員を売上に関わる部署に異動させることも有効な人件費削減の手段です。

外注を増やす

残業や休日出勤が多いチームは、残業があることに慣れ、「残業ありき」で一日の業務を振り分けている可能性もあります。その際は、業務内容を抜本的に見直し、社内で行う必要がないものは思い切って外注することで効率化を図りましょう。

残業を減らすことは、従業員のストレスを減らし、モチベーションを向上させることにつながるため、長期的な業務効率化も期待できます。

労働環境改善の取り組みを行う

残業が当たり前にならないよう、労働環境を工夫することも有効です。「ノー残業デー」などを実施し、会社全体で残業を減らす雰囲気を作り出しましょう。

一定の時間でオフィスの照明を落とす、人事担当者などが声をかけて退勤を促すといった仕組みも、決められた時間内に仕事をする意識を高めることに効果があります。

ほかの固定費を見直す

人件費以外の固定費でも削減できるものはないか、考えてみましょう。例えば、オフィスの備品代や広告宣伝費などの中に、経費をワンランク落としてもいいものや、減らしてもいいものがあるかもしれません。オフィスの賃料も見直してみる価値はあります。

長期的な経費削減を見据える場合、オフィスの照明をLEDに変更したり、空調設備を交換したりといった設備投資も検討することをおすすめします。

人件費の削減に在籍出向を活用する

従業員の雇用を守りつつ人件費を削減する方法として注目が高まっているのが、「在籍出向」です。コロナ禍で市場の需要が激減し、雇用余剰となった業界で働く人々を守るため、厚生労働省が積極的な利用を促したことで広く知られるようになりました。コロナ禍以前の在籍出向は、主に同業種間で行われていましたが、現在では異業種への出向が主流となりつつあります。

ここでは、在籍出向の仕組みについて解説していきます。

在籍出向の仕組み

在籍出向は、出向者の方が今働いている企業(出向元企業)との雇用関係を維持したまま、出向先企業で勤務する働き方です。「出向」と聞いてリストラを思い浮かべる人は多いと思いますが、在籍出向の場合、出向先で働いているあいだも出向元との雇用関係が維持されているため、出向元の経営状況が改善した時点で出向元に戻ることを前提としている点が特徴です。

在籍出向の意義

出向元企業は、従業員を在籍出向の形で他社に預けることで、「あなたは自社にとって大切な財産であり、必ず戻ってきてもらいたい人材である」という企業としての想いを伝えられ、経営状態が苦しいときや仕事がないときも従業員の雇用を守ることができます。出向する従業員も、企業に大切にされていることを実感し、誇りを持って出向期間を過ごすことができるでしょう。

出向先となる企業も、人材不足を優秀な人材で補える点は大きなメリットです。このことから、在籍出向は、出向元企業、出向先企業、出向者のすべてにとって価値のある仕組みであるといえます。

【在籍出向について更に詳しく知る】

  在籍出向が企業と人材を守る?健康経営に役立つ働き方を解説|ステップ – 企業と人を健康でつなぐ コロナ禍の影響で、新しい働き方として在籍出向が注目されてきています。在籍出向の仕組みや転籍との違いのほか、在籍出向が健康経営に役立つ理由について解説します。 株式会社マイナビ

在籍出向を活用して、上手に人件費を削減しよう

今回は、人件費削減のメリット・デメリットや、具体的な手法について解説してきました。業績が悪化した際、まずは固定費の削減を検討することも多いでしょうが、その場しのぎで人件費削減を行うとかえって企業の体力を奪いかねません。経営状態が改善した後のことも考慮して、売上における人件費率を上手に下げていくことが大切です。

また、人員整理によって企業の信頼性やブランドイメージを損なうことのないよう、人件費削減は慎重に行う必要があります。中長期的な成長を視野に入れて現状の改善を目指す場合は、雇用を守る在籍出向を検討しましょう。

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  出向者の給与はどう決める?企業間での取り決め、負担例を解説|ステップ – 企業と人を健康でつなぐ 企業が出向契約を結ぶ際には、出向者の給与支払いをどうするかを決める必要があります。出向者の給与の決め方や、出向形態ごとに異なる企業の給与負担例を紹介します。 マイナビ健康経営


<監修者>
丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のМ&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。


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