介護デイサービス×サッカーチームの異色タッグ、ダブルワークで実現

介護デイサービス×サッカーチームの異色タッグ、ダブルワークで実現

顔写真左から春田兼吾さん(一般社団法人AC君津 ゴールキーパーコーチ・運営アシスタントリーダー、デイサービスロフ金田店 生活相談員)、木下亮さん(株式会社R.O.F 代表取締役)、大西理仁さん(一般社団法人AC君津 代表理事)、ストランデル公子さん(Bunne Japan株式会社 代表執行役員、株式会社朝日ケアコンサルタント プログラムマネージャー)

ダブルワークや在籍型出向は、一時的な雇用過剰・人材不足を解消する手段としてはもちろん、いつもと異なる場に身を置いて学ぶ越境学習の機会になるという意味でも、大きなメリットが得られると考えられています。いち早くこうした取り組みを進めてきたデイサービスロフ金田店とアトレチコ君津(千葉県のサッカーチーム)の事例について、関係者の皆さんにお話を伺いました。

文/中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影/角田大樹(株式会社BrightEN photo)
取材・編集/ステップ編集部

【お話を伺った方々】
・春田兼吾さん(一般社団法人AC君津 ゴールキーパーコーチ・運営アシスタントリーダー、デイサービスロフ金田店 生活相談員)
・木下亮さん(株式会社R.O.F 代表取締役)
・大西理仁さん(一般社団法人AC君津 代表理事)
・ストランデル公子さん(Bunne Japan株式会社 代表執行役員、株式会社朝日ケアコンサルタント プログラムマネージャー)

【会社紹介】
デイサービスロフ金田店
千葉県木更津市中島2216
(予防)通所介護施設。燻製作りや果樹の手入れ、お菓子作りなど、思い思いの時間を利用者に提供している。「喫茶店」をコンセプトに、ご近所付き合いのように気楽に立ち寄れる空間作りをめざしている。

大きな木が生えている介護施設「デイサービスロフ」大きな木が生えている介護施設「デイサービスロフ」

目次[非表示]

  1. 1.人材不足の解消を図り、夢を追うことも応援
    1. 1.1.――アトレチコ君津の関係者が、デイサービスロフで働くようになった経緯を教えてください。
    2. 1.2.――まったくの異分野である介護施設とサッカーチームですが、人材を送ることへの戸惑いはありませんでしたか。
  2. 2.「サッカーコーチ&生活相談員」を実現するための工夫
    1. 2.1.――春田さんは2つの組織に所属しながらの介護職挑戦でしたが、どんな思いでしたか。
    2. 2.2.――介護の未経験者だった春田さんを支えるために、会社としてはどんなサポートを行ったのでしょうか。
  3. 3.マッチングしやすいのは「暮らし」に紐付く介護だから
    1. 3.1.――2つの役割を果たすことで、春田さんにはどんな変化や成長があったでしょうか。
    2. 3.2.――最後に、在籍型出向や異業種交流に興味がある企業の皆さんへメッセージをお願いします。

人材不足の解消を図り、夢を追うことも応援

――アトレチコ君津の関係者が、デイサービスロフで働くようになった経緯を教えてください。

ストランデルさん:まずは介護業界における在籍型出向の意義からお話しさせてください。私は、日本の介護業界を発展させるため、そしてすべての人がウェルビーイングを実現できるようにするため、日本で唯一のスウェーデン王国出身介護施設経営者であるパートナー(注:グスタフ・ストランデルさん)と共に、さまざまな活動をしてきました。そうした中で実感したのが、やはり人材不足の問題です。コロナ禍にあって、スポーツ関係者を含めて多くの業界の方々が活躍の場を失ったと知り、「在籍型出向というかたちで、一時的にでも介護業界に力を貸してもらうことはできないだろうか」という発想が生まれました。

とりわけ、夕方から練習が始まるクラブチームの関係者に注目しました。日中は介護職として働いて一定の収入を確保できれば、大好きなスポーツをやめずに済むかもしれません。一方、介護業界としても人材不足の窮地に救いの手が差し伸べられることになります。いわゆるwin-winの関係性を築けると確信し、知り合いのコーディネーターに千葉県の団体を紹介してもらったところ、実はすでに在籍型出向に近い取り組みが始動していたことが分かりました。話を聞いてみるとモデルケースになりうる素晴らしい事例だったので、私が代表を務める「介護求人コミュニティー※」などで情報発信させていただきました。

※介護求人コミュニティー:現職のスペシャリストたちのさらなる発展の場、そして介護業界に興味を持つ人に向けて情報発信する場として、Facebook上で展開している

木下さん:ある講演会をきっかけに大西さんと私がつながり、意気投合したことが、デイサービス×サッカーチームという異色タッグの始まりでした。最初のころはアトレチコ君津に所属するコーチの皆さんが、人手が足りずに困っていた当社デイサービスの手伝いを担当してくれていました。主に働く主婦層が時間を取りにくい、朝の送迎をクラブのスタッフがサポートすることで助け合いのチームビルディングが達成されていきました。少しずつ信頼関係が深まっていき、数年前からはゴールキーパーコーチの春田君がデイサービス内の仕事も担当するようになり、大学卒業後は正社員になってくれました。これまで、アトレチコ君津の関係者6人がアルバイトとして、3人が従業員として働いてきた実績があるほか、チームメンバーの保護者1人も就職しています。

――まったくの異分野である介護施設とサッカーチームですが、人材を送ることへの戸惑いはありませんでしたか。

大西さん:正直、最初は介護業界のことを何も知らなかったし、むしろマイナスイメージを抱いている部分も少なからずありました。しかし、デイサービスロフを見学したとき、認知症を抱える利用者さんに対しても「信じて、本人に考えてもらう」ポリシーを貫いていることに驚きました。そして、「心の成長」を大切にするアトレチコ君津でも子どもを信じて本人に考えさせることを重視してきたため、領域は違えども基盤となる理念が一致していることを実感したのです。代表である木下さんへの信頼感もあったため、春田を送り出すにあたって何の不安もありませんでした。

木下さん:「『私らしく生きる』を始めてみませんか?」が当社のコンセプト。年齢を重ねて、たとえ認知症になったとしても、その方の人格や歴史がなくなるわけではありません。利用者さんの自分らしさを引き出すことに向き合い続けてきたので、アトレチコ君津の育成方針を聞いたとき「絶対に共感し合える」と確信しました。お互いにメリットがあることはもちろん、代表同士で根本的な考え方を共有できていたからこそ、このマッチングは成功したのだと思います。

デイサービスロフ金田店のウッドデッキに集まり、この取り組みが始まった経緯を振り返る4人の男女デイサービスロフ金田店のウッドデッキに集まり、この取り組みが始まった経緯を振り返る皆さん。

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「サッカーコーチ&生活相談員」を実現するための工夫

――春田さんは2つの組織に所属しながらの介護職挑戦でしたが、どんな思いでしたか。

春田さん:正直、最初は迷いもありました。私は教員免許を持っているのですが、教育実習の一環で訪れた特別養護老人ホームで、スタッフの利用者さんへの接し方が、ただ時間内に問題を起こさず業務をこなすだけになっていました。それで、介護施設に対して悪い印象を抱いてしまっていたのです。
しかし、そのイメージはデイサービスロフの見学時に覆されました。第一印象は「まるでカフェみたい!」で、利用者さんにもスタッフにもたくさんの笑顔が見られたからです。素直に楽しそうな職場だと思えたし、せっかくの機会だから挑戦してみようと心が決まりました。大学4年時からアルバイトとして現場に入り、現在は当施設の生活相談員として勤務しています。もちろん、サッカークラブでの仕事も継続できており、いわゆるダブルワークのような状態です。

とはいえ、入職当初は右も左も分からず、先輩方はもちろんのこと利用者の皆さんにも教えを請いながら、少しずつ業務を覚えていきました。今でも心に残っているのが、食事作りの一幕です。料理が苦手でいつも味付けに苦戦していたのですが、ある日のマグロステーキを味見してもらったところ「今日はおいしいね」と言っていただいて……。味にこだわりがある利用者さんからの言葉だったので、なおさら感動がありました。また、移動介助や排泄介助などの介護技術についても、先輩方が利用者さん役を演じるロールプレイで丁寧に指導してくださいました。

介護施設の中でカフェ風の木のテーブル、いすに座り笑顔でのんびりしている利用者さんたちデイサービスの典型的なイメージから脱却し、おしゃれなカフェ風の内装を備えるデイサービスロフ金田店。

――介護の未経験者だった春田さんを支えるために、会社としてはどんなサポートを行ったのでしょうか。

木下さん:アルバイト時代に介護職員初任者研修を修了してもらったほか、正社員として入職後も継続的に学びの機会を提供しました。当社は事業の一環として研修も提供しているので、そうしたリソースを生かすかたちで、介護関連だけでなくチームビルディングやマネジメントも学んでもらったのです。また、資格取得の支援制度を設けているため、日中に勤務扱いで研修に行けることも大きかったのではないでしょうか。早々に生活相談員の資格要件を満たしてくれたので、デイサービスに不可欠な責任職として賃金ベースを上げることもできました。

コーチ職との両立を図る観点では、勤務時間の調整を行っています。18時から始まるクラブチームの活動に間に合うよう、他のスタッフより1時間ほど出勤・退勤の時間を早めることにしました(7時30分出勤、16時30分退勤)。本人の努力もあって周囲の理解が十分に得られており、「春田君がクラブチームの活動に間に合うようフォローしよう」という雰囲気が根付いているように思います。

大西さん:2つの役割を果たしながら、そして学生時代には授業や教育実習とも掛け持ちしながら走り続けることは、決して容易ではなかったでしょう。木下さんやスタッフの皆さんの温かいご配慮があってこそ実現できたことですが、やはり春田自身の努力も大きかったと思います。彼は私の教え子でもあるのですが、もともと一生懸命に頑張る素質が非常に強いタイプでした。だからこそ新しい環境でもやり抜けるという確信があったし、木下さんが彼の良さをさらに伸ばしてくれるだろうと期待していたのですが、想像以上の結果だったと思います。春田の活躍を受けて、同じような道をめざす後進が生まれているという意味でも、「1人目の選定」は大成功だったと思います。

介護施設の外にある小さな畑で野菜が育っている様子フィールドワークを積極的に取り入れているデイサービスロフ。畑仕事もその一つで、さまざまな作業を通して楽しみながら機能訓練を行うという。

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マッチングしやすいのは「暮らし」に紐付く介護だから

――2つの役割を果たすことで、春田さんにはどんな変化や成長があったでしょうか。

春田さん:利用者さんに対する尊敬の念が深まるにつれて、それが子どもたちへの指導にも影響したように思います。例えば、「認知症の人は何でも忘れてしまう」というのは誤解で、若いころから一生懸命やってきたことや、本気で好きなことは心に残り続けているものです。常に物事へ真剣に取り組むことの大切さを学びましたし、子どもたちに言葉でも背中でもそうしたメッセージを伝えられることの意義を感じています。

大西さん:他業種に触れることで、より指導の本質に迫ることができたのではないでしょうか。もともと当クラブでは、子どもの目線に合わせて指導することを徹底してきました。相手に寄り添うことに長けた春田がいっそう成長し、子どもたちや保護者から厚い信頼を得ていることを誇りに思います。彼が指導するゴールキーパーの子どもたちは、学年が上がってもチームで活躍を続け、最終的には指導者にまでなったケースもあります。

ストランデルさん:相手に寄り添い、目線を合わせるという姿勢は、認知症ケアにおいても非常に重要です。介護職に対してある種のハードルを感じる方もいるかもしれませんが、基盤となっているのは人として当たり前のコミュニケーションなのです。介護は「暮らし」に紐付く営みなので、どんな人や領域とも重なる部分があるはず。異業種だからと難しくとらえる必要はなく、代表同士の思いさえ一致していれば、むしろ多様な組織とマッチングしやすいと思っています。

木下さん:春田君が来てくれたことで、当施設にも興味深い変化がありました。利用者さんたちは「フレッシュな男の子」の存在で活気が出て、特に女性はおめかしする方が増えた気がします。女性ばかりの組織に男性が入ってくることのインパクトは大きいため、当初はスタッフたちの間にはちょっとした戸惑いがあったかもしれません。しかし、だからこそ多様性が育まれていき、議論が活性化するなどの前向きな影響がみられたように思います。

――最後に、在籍型出向や異業種交流に興味がある企業の皆さんへメッセージをお願いします。

春田さん:複数の役割をすることは大変でもありますが、多方面から期待され、育ててもらえる環境は貴重です。私の実感では、自身の成長スピードがとても速くなったように思います。このデイサービスを任される一人として、今後も利用者さんとスタッフが笑顔でいられる場所を守っていきたいです。

大西さん:一般的に、サッカークラブの仕事だけで生計を立てることはまだ難しいのが現状で、30歳ごろになるとチームを離れる指導者というのも珍しくありません。「チームに所属しながらもう一つの仕事を持つ」という選択肢は、これからスポーツ業界で主流になっていくのではないでしょうか。私たちもさらに強くタッグを組み、「コーチやOBや保護者がスタッフとして働き、夕方になったら子どもたちが来てサッカーできるようなデイサービス」を生み出せたら……と構想しています。

木下さん:おもしろい構想ですね。当社では観光農園業や自立支援事業なども展開しているのですが、そちらを経由してデイサービスに入ってくるアトレチコ君津のメンバーもいます。キャリアを縛ることなく、多様な道を提示できる会社でありたいと思っています。また、春田君の働き方を見て「複数の仕事を持つ魅力」が社内に浸透していき、副業制度を始めるきっかけにもなりました。スタッフの可能性を支援することは、これからの経営者にとって欠かせない視点になると感じています。

ストランデルさん:介護のような業界では「定められた枠の中でミスをしないこと」にばかり意識が向かいがちで、変わろうという動きが生まれづらいものです。だからこそ、こうした取り組みで異業種の方が参入し、刺激を与えることの意義は大きいでしょう。人材不足の解消にとどまらない効果を、今回のケースで感じることができました。日本人は入念な準備を好む傾向がありますが、思い立ったら始めてみて、やりながら調整していく姿勢も重要です。自分の思いに共感してくれる人を大切にしながら、ぜひ恐れずに挑戦してみてください。

人間にとって、いつか死が訪れるというのは絶対的なことです。だからこそ、死や病気を過剰に恐れるのではなく、限りある命を使いたいと思える何かを見つけ、本気になることが大切ではないでしょうか。多様なキャリアのあり方を受け入れてくれる職場が増えれば、多くの人がより自身の可能性を広げられますよね。これは若い人も、人生の大先輩も同じこと。最期の瞬間まで自分がハッピーでいるために、「死んでいく」のではなく「生きていく」ことを忘れないようにしたいものです。

取材時にいた経営者、スタッフ、コンサルタントの男女が横一列に並び、両手を顔の横まで上げて照れながら笑顔になっている様子株式会社R.O.Fと一般社団法人AC君津の交流は今後ますます深まり、先進的な事例として業界内外に影響を与えてくれそうだ。

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