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戦略マップで健康経営の解像度を上げ、人づくりに挑む八天堂の情熱

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)
取材・文・編集/百谷 伶奈(ナレッジリング)


冷やして食べる「くりーむパン」で全国的に知られる株式会社八天堂は「八天堂は社員のために お品はお客様のために 利益は未来のために」というクレド(信条)を掲げ、健康経営にも積極的に取り組んでいます。健康経営優良法人 中小規模法人部門(ブライト500)に4年連続で認定され、健康経営関連の取材機会が年間50件近くあるなど、高い注目を集める同社。健康経営にかける思い、具体的な施策内容、推進のポイントなどについて、同社人事部で部長を務める前田昌巳さんに伺いました。

前田昌巳(まえだ・まさみ)


株式会社八天堂 人事部部長。
2021年に前職を定年退職し、株式会社八天堂に中途入社。人事部に所属し、採用、育成、労務、健康経営など人事全般の業務に従事。
自身のパーパスは「世界中に感動を届ける志を持って行動できるひとづくり」。そのためにも自分自身が、仕事を通じて「世の中に感動を伝播させる志」で行動することを大事にしている。


目次[非表示]

  1. 1.経営危機を経てたどり着いた唯一無二のクレド
  2. 2.「人づくり」の精神に健康経営がマッチ
  3. 3.健康経営の要は、働きがいがある職場づくり
    1. 3.1.エンゲージメントサーベイの質問項目(一例)

経営危機を経てたどり着いた唯一無二のクレド

当社は、1933年に広島県三原市で和菓子屋として創業しました。先代が和洋菓子屋に転換後、現在の代表取締役である3代目森光孝雅が開店したパン屋は、一時は繁盛しましたが、その後、経営危機に直面します。厳しい局面を迎える中で森光社長が「会社の存続意義は何か」という命題と向き合い、当社のクレド「八天堂は社員のために お品はお客様のために 利益は未来のために」が生まれました。そして、2008年には看板商品である「くりーむパン」が誕生しました。
このクレドに基づいた考え方や価値観は『八天堂BOOK』という冊子にまとめ、入社時に全社員に配布。朝礼での読み合わせなどを実施することで、形骸化しないよう会社として活用の機会を設けています。
 
当社の事業内容としては、スイーツパンの企画・製造・販売を行うと同時に、日本はもちろんのこと海外にも販売拠点を持ち、移動販売や百貨店での催事、ECサイト、体験型の食のテーマパークなどを含めたさまざまな手段でお客様のもとに商品をお届けしています。基幹商品は「くりーむパン」ですが、単にたくさん売ればいいと考えるのではなく、食のイノベーションを通した「人づくり」の会社であることを何よりも大切にしています。事業はあくまでもその手段であり、社員一人ひとりの人間的成長を重んじ、地域社会に貢献することが本質的な目標です。
こうした背景から、地域貢献に直結する業態にも積極的にチャレンジしています。2023年の創業90周年を迎えたアニバーサリーイヤーには、地元である三原市への感謝を込めて「八天堂cafe」をオープン。当社の商品をアレンジしたカフェ営業に加え、手土産コーナーなどもあり、地元の皆様の憩いの場として地域活性化につながればと思っています。また、グループ会社である株式会社八天堂ファームでは、障害者や生活困窮者が農業分野での活躍を通じて社会参画する「農福連携事業」にも取り組んでいます。

「人づくり」の精神に健康経営がマッチ

当社の森光社長は三原商工会議所の会頭も務めているのですが、そこでの勉強会がきっかけで、2019年から健康経営に取り組むようになったと聞いています。健康経営の考え方は、食のイノベーションを通した「人づくり」の会社でありたい――という当社の思いに通じるものがあり、すぐに社内で取り組みがスタートしました。その内容は、健康経営優良法人 中小規模法人部門(ブライト500)で現在までに4年連続で認定を受けるなど、ありがたいことに社外からも高い評価を頂いています。

健康経営をはじめたきっかけを語る前田昌巳さん

まず私たちは、健康経営の活動でめざすべき姿を言語化しました。それが「社員一人一人が、健康で、八天堂の価値観である八覚の心得で考え、行動することで、労働生産性の高い、明るく楽しい日本一の職場づくり」という定義です。これを実現するために、次の3軸で健康経営に取り組んでいます。

  • 社員の心身健康維持向上(社員の主体的な健康づくり支援)
  • ワークエンゲージメントの改善と向上(働き甲斐の醸成)
  • インクルージョンと労働支援(働き方と業務効率化の改善)

「社員の心身健康維持向上」は健康経営における基本であり、中でも定期健康診断は、社員の健康状態を把握するために非常に重要な取り組みだと認識しています。当社では、かつて受診率が7~8割にとどまる時期もありましたが、現在では特定保健指導を含めてほぼ100%を達成しています。受診率が改善した背景には、健診日のリマインドメールを送るなど社内コミュニケーションを地道に強化したことがあります。健康診断で再検査が必要になった社員に対しては、必ず受診するよう本人に声かけをし、再診断結果を会社にも共有してもらうようお願いしています。
 
また、2023年からは健診車を導入し、提携医療機関から離れている事業所まで来てもらうことで、忙しい中でもより効率的に検査を受けられるようにしました。ただ、実は一つ失敗もあり……。健診車を導入した際、特定保健指導が依頼内容に含まれていないことに気付かず、その部分は「受診率0%」になってしまったのです。新たな取り組みにおいては、十分なチェックが不可欠だという学びになりました。現在、健診車で特定保健指導にも対応してもらえるよう調整を図っています。

参考になればと成功だけではなく失敗も語ってくださいました

その他にも、提携病院での臨床心理士によるメンタルカウンセリングを実施したり、健康増進に役立つセミナーを多数展開したりしています。例えば、広島県の事業で地元の薬剤師を紹介してもらい、協会けんぽから送られてくる「ヘルスケア通信簿」の結果をもとに、運動習慣と疾患を結び付けて解説する勉強会を実施しました。こうしたセミナーは広島本社を会場として設定することが多いのですが、それだけでは一部にしか情報が行き届きません。工場や店舗など全拠点の社員が聴講できるよう、講師の許可を得てオンライン配信したり、録画したものを共有したりしています。また、人事部や部門長から告知を行い、参加率を上げることにも力を入れています。

健康経営の要は、働きがいがある職場づくり

事業を通した人づくりを志す当社にとって、健康経営の中でもとりわけ重視しているのが「ワークエンゲージメントの改善と向上」です。めざすのは、社員が仕事にやりがいを感じ、熱心に取り組む中で、仕事から活力を得ている状態です。そのための施策の一つが、温かい職場風土づくり。社長が根っからの人好きということもあり、以前には毎月誕生日を迎える社員と飲みに行く習慣があったほどです。コロナ禍もあり現在では形を変えて、誕生日動画配信や月間MVPの表彰などを行っています。
 
また、各人の業務遂行能力を上げるため、新たな分野や職務で必要なスキルを習得するリスキリング(reskilling)の推進に注力する他、社内における成長基準やキャリアパスを見える化し、社員一人ひとりが思い描くキャリアパスを歩めるよう目標達成に向けた支援も行っています。人事考課制度も工夫し、半年ごとの評価の際には、成果だけではなく能力や仕事への姿勢まで勘案することで、成長意欲を高めるようにしています。さらに、業務に関係のある資格の取得を推奨し、合格時には受験料の8割を支給するなど、自己啓発も後押ししています(社命による取得の場合は全額会社負担)。
 
こうした取り組みの効果測定をすることも欠かせません。当社で実施しているエンゲージメントサーベイでは、活力、熱意、没頭という3つの切り口からオリジナルで設問を作成し、社員の満足度や成長度を把握しています。2021年から2023年にかけての変化を見ると、例えば以下に挙げた3つの質問では、肯定的な回答をする社員が年々上昇している状況です。

エンゲージメントサーベイの質問項目(一例)

  • 活力(主体的な行動)
    →「仕事でいろいろ工夫したり、アイデアを出したりしていますか?」など
  • 熱意(貢献意欲と行動)
    →「自分の仕事に誇りを感じますか?」など
  • 没頭(達成感、成長実感)
    →「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じますか?」など


画像:八天堂ホームページ「福利厚生と健康経営」よりマイナビ健康経営で加工

また、ここでは詳しく触れませんが、「インクルージョンと労働支援」においても多数の施策に取り組んでいます。女性活躍研修の開催・参加促進、障害者雇用推進、短時間勤務や在宅ワークの導入、変形労働制の導入など、さまざまな背景を持つ社員が働きやすい環境を整えている道中です。

戦略の解像度を上げ、健康施策を「深化」させる

健康経営に取り組んでみて感じたのが、社員の健康推進を図るために新しい施策を増やし続けるよりも、すでに着手している施策を健康経営の観点から再定義することの重要性です。施策を実施すること自体が目的にならないよう、「そもそも何のために取り組むのか?」をしっかりと話し合うことに時間をかけてきました。その結果として、さまざまな要素の全体像が分かるよう構成しながら作り込んだのが「戦略マップ」であり、当社の健康経営における指針となっています。

画像引用:八天堂ホームページ「福利厚生と健康経営」

毎年、健康経営優良法人認定に申請するタイミングが、社内の健康経営に関する状況を見直すよいきっかけになっています。会社としてのありたい姿を定義し、戦略マップも作成しましたが、それで終わりではありません。具体的な達成指標をどうするかなど、PDCAを回しながら健康経営の「解像度」を上げていくことが求められます。そうして一つひとつの施策を深め、徹底していくことが大切なのだと思います。また、たとえ健康経営関連の調査結果がよかったとしても、そこに社員の主体性が伴っていなければ意味がありません。より高みをめざすには、会社が手取り足取り指示を出すのではなく、社員1人ひとりが健康への意識を自分事化し、全社一丸となって取り組んでいくことが重要だと感じています。


健康経営優良法人認定の申請を社内の取り組みの見直し機会にし、結果だけではなく社員の主体性を大事に、全社一丸となって取り組んでいる

そして何より、実際に社員が「成長できた」と実感できる場面を増やしていきたいですね。社員が心地よく働くことができ、物心両面での豊かさを実現できてこそ、「三方よし」の精神で企業としての使命を果たせるはず。当社の「あなたと出会えてよかったと一人でも多くの人に言って貰える人になる。」という人としての基本理念を実現するためにも、今後ますます健康経営に力を入れていきたいと思います。


株式会社八天堂の「健康経営」について、詳しくはこちらをご覧ください。
※株式会社八天堂のWEBサイトに遷移します。
https://hattendo.jp/shop/pages/welfare.aspx



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