
メンタルヘルスケアとは?企業に求められる対策や施策、事例を紹介
従業員の心身の状態は、パフォーマンスに大きな影響を与えます。不調を放置すれば、生産性の低下やトラブル、ケガなどを招く可能性もあり、やがては休職や退職につながることがありえます。メンタルヘルスケアを軽視していると、企業にとってかけがえのない資産である人材の未来が揺らぐばかりか、労働損失や医療費増大によって企業や社会にも負のインパクトを与えるおそれがあるため、早めの対策が重要です。
本記事では、企業がとるべきメンタルヘルスケア対策について紹介します。メンタルヘルスケアが重要視されている背景やメンタルヘルスケアの効果、企業に求められるケア、企業側のメリットなどと併せて詳しく見ていきましょう。
目次[非表示]
- 1.メンタルヘルスケアとは?
- 2.メンタルヘルスケアが重要視されている背景
- 2.1.メンタルヘルスケアの効果
- 2.2.職場の生産性低下を防止できる
- 2.3.従業員の心の健康維持・促進ができる
- 2.4.リスクマネジメントになる
- 2.5.ビジネスケアラーや子育て中の従業員を支援できる
- 2.6.企業の競争力や人材獲得力を向上させる
- 2.7.CSRを果たせる
- 3.メンタルヘルスケアには3つの段階がある
- 4.企業に求められる4つのメンタルヘルスケア
- 4.1.従業員自身でストレスを予防する「セルフケア」
- 4.2.管理監督者が職場のストレス要因を改善する「ラインによるケア」
- 4.3.セルフケアやラインによるケアをサポートする「産業保健スタッフ等によるケア」
- 4.4.外部の機関やサービスを活用する「事業場外資源によるケア」
- 5.企業が注視したいメンタルヘルス不調の兆し
- 5.1.体調の変化
- 5.2.アプセンティーイズム
- 5.3.プレゼンティーイズム
- 5.4.様子の変化
- 6.メンタルヘルスケアを推進する企業側のメリット
- 6.1.採用力を強化できる
- 6.2.ハラスメントの防止につながる
- 6.3.ホワイト企業認定を目指せる
- 7.メンタルヘルスケアの施策例
- 7.1.ストレスチェックとパルスサーベイの実施
- 7.2.メンタルヘルス研修の実施
- 7.3.専門家によるサポート体制の構築
- 8.メンタルヘルスケアの取り組み事例
- 8.1.株式会社中央コーポレーション:1on1の実施や残業時間の上限規制による精神的負担軽減を実行
- 8.2.株式会社プロデュース:業務分担を仕組み化し、資格保有者の業務負担を軽減
- 8.3.株式会社エボルブ:相談室の設置や、緑の多いオフィスへの移転を実施
- 9.まずは4つのケアから、メンタルヘルス対策に取り組もう
メンタルヘルスケアとは?
メンタルヘルスケアとは、心の健康を維持するための活動のことです。厚生労働省は、下記のようにメンタルヘルスケアを定義しています。
<メンタルヘルスケアの定義>
全ての人がいきいきと働けるような気配りと援助をすること。また、そのような活動が円滑に実践される仕組みを作り、実践すること。
仕事をする中で、ストレスを感じたり、悩んだりすることは誰でもあるでしょう。しかし、そうした「ちょっとした波風」が慢性的に続くと、心の防波堤は少しずつ削られ、やがて決壊してしまいます。
メンタルの不調というと、パニック発作や強迫観念などを含む神経症性障害や、統合失調症などの病名をまず思い浮かべる方が多いかもしれませんが、病名はつかなくても何らかの心の変調を感じている状態であればケアすべき対象に含まれます。
メンタルヘルスケアは、働いている全ての人に対して行う必要があるのです。
【参照】こころの耳「メンタルヘルスケアとその実践の意義」|厚生労働省
https://kokoro.mhlw.go.jp/attentive/atv003/
メンタルヘルスケアが重要視されている背景
健康というと、痛みがない、体が軽いといった体調が良い状態などが真っ先に思い浮かびます。
しかし、「身体の健康」と「心の健康」は密接に関係しており、どちらが欠けても心身ともにすこやかな状態を維持することは困難です。
1947年に採択されたWHO憲章は、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが満たされた状態にあること(公益社団法人日本WHO協会仮訳)」と健康を定義しています。
「メンタルヘルスの問題は、心の弱い人や繊細な人に起こるものだ」という誤った認識はいまだに残っているものの、うつ病による休職や自死、過労死の増加などを受け、日本社会においても少しずつ心の健康に注目が集まるようになったといえるでしょう。
厚生労働省の2021年の「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、働く人の53.3%が「仕事や職業生活に強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答しています。従業員が感じているメンタル不調が重症化しないうちに、企業は喫緊の課題としてメンタルヘルスケアに取り組む必要があります。
【参照】厚生労働省「令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」|厚生労働省(2022年7月)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r03-46-50_gaikyo.pdf
【参照】公益社団法人日本WHO協会「健康の定義」|公益社団法人日本WHO協会
https://japan-who.or.jp/about/who-what/identification-health/
メンタルヘルスケアの効果
メンタルヘルスケアによって従業員の心の健康状態が向上すると、本人が理想とするキャリアプランを実現できるようになるだけでなく、組織や社会にもプラスの影響があります。ここでは、具体的なメンタルヘルスケアの効果を5つご紹介します。
職場の生産性低下を防止できる
メンタルヘルスに不調をきたすと、脳の機能が落ち、集中力や決断力、判断力などが鈍り始めます。何をするのもおっくうになって遅刻が増えたり、休みがちになったりと、勤怠に変化が生まれることもあるでしょう。
早い段階で従業員の変化に気付き、適切なメンタルヘルスケアを実施できれば、仕事の効率や仕事能力を取り戻すことも期待できます。
従業員の心の健康維持・促進ができる
組織としてメンタルヘルスケアに取り組むと、従業員一人ひとりが自分と周囲の人のメンタルヘルスに目を向けるようになり、不調のサインに気付くのが早くなります。
初期の不調に対する対処のしかたを学べば、悪化を防ぎ、心の健康を維持・促進することも期待できます。
リスクマネジメントになる
従業員がメンタル不調に陥り、就業不能な状態、あるいは就業していても生産性が著しく低下した状態になると、労働力不足による生産性と業績の低下を招きます。
労働環境の改善を含めたメンタルヘルスケアの推進は、企業が持続可能な組織であるためのリスクマネジメントの一環であるといえます。
ビジネスケアラーや子育て中の従業員を支援できる
ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族や親族の介護に従事する人のことです。ビジネスケアラーは企業の中核を担う働き盛りの従業員であることが多く、その中には重責を担っている管理職も少なくありません。
また、小さな子供の育児と並行して仕事をする従業員も、企業の中核を担う層といえます。
介護労働の当事者として介護に携わる時間や、子育ての時間が長くなれば、責任のある仕事をまっとうすることが難しくなったり、生産性が低下したりする可能性もあるでしょう。結果として、やむなく離職を選ぶケースも少なくないといえます。
なお、優秀な人材が介護によって力を発揮できなくなることによる経済損失額は、約9兆円に上るとされています。ビジネスケアラーの数は、ピークを迎える2030年時点で約318万人になると推計され、人的資本投資やダイバーシティ確保の視点からも早急な対処が必要です。
また、6歳未満の子どもがいる世帯のうち夫婦共に雇用されている世帯において妻の家事関連時間は、夫の約 3.4 倍という調査結果もあり、男女間で仕事と育児の両立にはまだ偏りがみられます。さまざまな生活環境にいる従業員を支援するという視点でもメンタルヘルスケアは重要といえます。
【おすすめ参考記事】
【参照】経済産業省「ビジネスケアラー支援に向けて「企業経営と介護両立支援に関する検討会」を開催します」|経済産業省(2023年11月)
https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231106001/20231106001.html
【参照】経済産業省「新しい健康社会の実現」|経済産業省(2023年3月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/013_03_00.pdf
【参照】厚生労働省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」|厚生労働省(2023年6月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/001108929.pdf
企業の競争力や人材獲得力を向上させる
メンタルヘルスケアは、人材を資本と捉えて価値を引き出す「人的資本経営」や、従業員の健康管理を戦略的に推進する「健康経営」といった投資上のキーワードにも深く関わります。
メンタルヘルスケアに継続的に取り組んでいけば、企業の競争力や人材獲得力の向上にも寄与するでしょう。
CSRを果たせる
企業は、事業を通じて自社の利益を追求するだけでなく、ステークホルダーに対してCSR(企業の社会的責任)を果たすことも大切です。
従業員の心身の健康維持は、CSRの代表的な活動のひとつであり、企業価値の向上につながる有意義な取り組みです。
メンタルヘルスケアには3つの段階がある
メンタルヘルスケアには3つの段階があり、段階ごとに適切な予防や対処があるとされています。メンタルヘルスケアの3つの段階である「一次予防」「二次予防」「三次予防」について見ていきましょう。
一次予防:メンタル不調の発症を未然に防ぐために行う
一次予防は、従業員に明確な心の変調がない状態のときに、メンタル不調の発症を未然に防ぐために行う取り組みです。長時間残業など従業員の不調につながるおそれがある勤務環境の改善や、ストレスチェックによる意識の向上とセルフケアの促進などがこれにあたります。
二次予防:メンタル不調の早期発見を目指す
二次予防は、メンタル不調の早期発見を目指す段階です。重症化する前に本人や周囲が変化に気付き、相談窓口や産業医などにつながることで悪化を防ぎます。
三次予防:休職中の従業員の職場復帰をサポートする
メンタルヘルスの不調が原因で、休職を余儀なくされた従業員の職場復帰をサポートするのが三次予防です。メンタルヘルスの不調は、再発や合併症が起こる可能性もあるため、医療的な支援やカウンセリング並びに職場環境を整えます。
対策としては、テレワークの導入や部署の異動、定期的なカウンセリングの実施などが考えられます。
【参照】地域・職域連携推進関係者会議資料「職場におけるメンタルヘルス対策について」 | 厚生労働省(2017年12月7日 )
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000188314.pdf
企業に求められる4つのメンタルヘルスケア
基本となるメンタルヘルスケアは、大きく4つに分けられます。これは、厚生労働省が2015年に示した「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」の中で提示されたもので、「セルフケア」「ラインによるケア」「産業保健スタッフによるケア」「事業場外資源によるケア」が該当します。
企業に求められる4つのメンタルヘルスケアについて、詳しく見ていきましょう。
【参照】厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」|厚生労働省(2015年11月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf
従業員自身でストレスを予防する「セルフケア」
セルフケアは、従業員みずからが取り組むケアです。忙しく働いていると、自分の中のストレスのサインを見過ごし、状態を悪化させてしまいがちです。企業は、従業員がストレスやメンタルヘルスについて正しく理解して早期発見し、適切なケアが行えるよう支援します。
例えば、年に1度の実施が義務付けられているストレスチェックやストレスマネジメント研修などが一般的な取り組みとして行われています。
管理監督者が職場のストレス要因を改善する「ラインによるケア」
ラインによるケアとは、従業員の上位職位者である管理監督者が行うケアのことです。管理監督者は、従業員がなぜメンタル不調をきたしたのかを考え、相談にのったり、原因となる職場環境に手を入れて改善したりします。
管理者自身の知識向上のため、メンタルヘルスケア研修などを実施するのもおすすめです。
セルフケアやラインによるケアをサポートする「産業保健スタッフ等によるケア」
産業保健スタッフ等によるケアは、セルフケアやラインによるケアのサポートを主目的とし、事業場内の産業医や衛生管理者などが行うメンタルヘルスケアです。
研修の企画・運営、従業員のためになる制度づくりなども担います。
外部の機関やサービスを活用する「事業場外資源によるケア」
事業場外資源によるケアとは、メンタルヘルスケアを専門とする外部機関を利用する方法です。従業員が先輩や上司、社内窓口への相談がしにくい場合や、会社に知られたくない場合に有効です。
企業が注視したいメンタルヘルス不調の兆し
メンタルヘルス不調の早期には、いくつかの兆しがあります。メンタルヘルス不調の早期発見のために、よくみられる変化をご紹介します。
体調の変化
心の不調は体の不調に直結しています。心に何らかの変化が起きると、体には下記のような変化が起こることがあります。
<体調の変化の例>
- 倦怠感
- 頭痛
- 便秘
- 食欲不振、食欲増進(体重減少、体重増加)
- 睡眠不足
- 生理不順
普段からこうした変化が出やすい人も、職場環境と併せて思い当たる節がある場合は、メンタル不調の可能性を考慮して改善に取り組みましょう。
アプセンティーイズム
アプセンティーイズムは、世界保健機関(WHO)が提唱した健康問題に起因するパフォーマンスの損失を示す指標で、健康問題による欠勤、遅刻早退などのことです。
食生活の偏りや生活習慣の乱れ、不調を抱えているのに医療機関を受診しないといった健康意識の低さのほか、残業過多による疲労の蓄積、ストレスに伴う睡眠障害などが、メンタルヘルス不調に起因することもあります。
【参照】経済産業省「健康経営オフィスレポート」|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf
プレゼンティーイズム
プレゼンティーイズムは、勤怠には変化がないものの、心身に不調を抱えて仕事をしている状態です。慣れた業務の作業効率が低下する、何度も同じミスをする、締切りを守れないといった症状が出たら、プレゼンティーイズムを疑いましょう。
アプセンティーイズムと違って、プレゼンティーイズムは変化が可視化されないため、見過ごされがちです。しかし、2017年に厚生労働省保険局が実施した調査では、アプセンティーイズムよりプレゼンティーイズムによる損失のほうが明らかに大きいことが分かりました。本人や周囲は、プレゼンティーイズムの状態となっていないか異変に気付けるよう努力することが大切です。
【参照】厚生労働省保険局「データヘルス・健康経営を推進するためコラボヘルスガイドライン」|厚生労働省(2017年7月)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000171483.pdf
様子の変化
普段とは違う様子が見られるときも、心の不調の影響を考慮したほうがいいでしょう。
いつもは落ち着いている人がやけにせかせかと動き回っていたり、無口な人がやけに饒舌だったりするときは、性格の変化で片付けずに注視する必要があります。
メンタルヘルスケアを推進する企業側のメリット
メンタルヘルスケアには、推進することでさまざまなメリットがあります。メンタルヘルスケアを推進する企業側のメリットには、下記の3つがあります。
採用力を強化できる
昨今、求職者間では、応募する企業を選ぶにあたって、事業内容や仕事内容に加えて「従業員に対する姿勢」を重視する傾向が高まっています。
メンタルヘルスケアに積極的に取り組んでいることは、企業のイメージアップにつながり、優秀な人材を獲得しやすくなるでしょう。
【参考】2023年卒学生に調査!企業選びの本音に迫る|学生にとっての「安心・安定」「成長環境」とは? | マイナビ ヒューマンキャピタルサポネット(2022年10月17日)
https://saponet.mynavi.jp/column/detail/s_saiyo_s20221004170952.html
ハラスメントの防止につながる
メンタルヘルスの問題が、上司や先輩のハラスメントによるストレスから生じている場合、労働環境を改善することで間接的にハラスメントを防止することにつながります。
2020年、パワハラ防止対策を企業の義務とする労働施策総合推進法の改正案が成立しましたが、この法律に罰則はありません。ただし、不適切な指導があると判断されれば厚生労働省から勧告があり、対応次第では社名を公表される可能性があるため、リスクマネジメントとしても真摯に取り組むことをおすすめします。
【参照】厚生労働省北海道労働局 雇用環境・均等部「労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について」|厚生労働省
https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-roudoukyoku/content/contents/000756811.pdf
ホワイト企業認定を目指せる
労働環境が良い企業は、次世代に残すべき企業として、一般財団法人日本次世代企業普及機構(ホワイト財団)からホワイト企業の認定を受けられます。
認定を受けると企業イメージがアップし、採用や定着に良い影響を与えるほか、生産性の向上による業績アップや、製品・サービスの質向上による顧客満足度の向上も期待できます。
メンタルヘルスケアの施策例
メンタルヘルスケアの重要性は分かっても、まず何から手をつければいいのか、具体的な施策に悩む企業の担当者も多いでしょう。ここでは、メンタルヘルスケアにおける効果的な施策を3つご紹介します。
ストレスチェックとパルスサーベイの実施
ストレスチェックは、従業員が感じているストレスの程度を調べるための検査です。2015年より、50人以上の従業員を雇用している職場で年1回の実施が義務付けられました。検査結果は本人に通知され、メンタルヘルスの状態について本人の気付きを促します。管理者側は、検査結果に応じてストレスの原因となる職場環境の整備をすることができます。
また、パルスサーベイとは、従業員の満足度や心の健康度を把握するための検査です。変化の激しい時代、企業が手掛ける事業や勤務体制も目まぐるしく移り変わり、従業員の意識や考え方、価値観も刻々と変わっていきます。簡易的な質問に対する回答を定期的、かつ短期間に繰り返すパルスサーベイを行うことにより、従業員の心の変化をリアルタイムで把握することができます。従来の課題だった集計・分析の手間も、ITの進化とともにさまざまなツールが登場したことによって、かなり削減されました。
現在では、多くの企業が従業員のエンゲージメントを確認する目的で実施しています。
ストレスチェックとパルスサーベイを併せて実施すれば、短期的に変化する従業員の心身の状態を適切に把握し、メンタルヘルスの変化を早期に察知して対策を講じることができるでしょう。
メンタルヘルス研修の実施
メンタルヘルスケアに関する研修も実施し、従業員一人ひとりが正しい知識を持ってみずからの内面と向き合える状態を作りましょう。「メンタルの問題は誰にでも起こりうること」という共通認識を持ち、発症する可能性がある症状と対処法を知っておけば、早めにセルフケアや「ストレスコーピング」などの対処につなげることができます。
ストレスコーピングは、ストレスの元にうまく対処しようとすることで、ストレスの原因そのものに働きかけて変化させる「問題焦点スコーピング」と、ストレスの原因に対するみずからの考え方を変える「情動焦点スコーピング」に分けられます。
具体的な方法については、下記の記事を参考にしください。
【おすすめ参考記事】
専門家によるサポート体制の構築
一次予防で防げなかった場合を想定して、産業保健スタッフや産業医、社内相談窓口などによるサポート体制も強化しておく必要があります。
社内にストレスの原因がある可能性も考えて、組織とは切り離された第三者による相談窓口や医療機関も活用できるようにしておくといいでしょう。
メンタルヘルスケアの取り組み事例
ここからは、メンタルヘルスケアに取り組む企業の事例をご紹介します。3つの事例から、どのような取り組みが効果を発揮するのか見ていきましょう。
株式会社中央コーポレーション:1on1の実施や残業時間の上限規制による精神的負担軽減を実行
株式会社中央コーポレーションは、橋梁や水門などの社会インフラの設計や製造、メンテナンスなどを行っている会社です。同社の社長は、自社で雇用する若手の喫煙率の高さを発端に、従業員みずからが「変わろう」と思える環境づくりの一環として健康経営優良法人を目指すことにしました。しかし、通常業務で忙しい従業員に協力してもらうには、取り組みの意義に納得してもらう必要があるとして、社長みずから情報収集をして少しずつ社内の理解を得ることができたそうです。
同社では、誕生日ミーティングや1on1ミーティングでコミュニケーションの機会を増やすほか、残業時間の上限規制による精神的負担の軽減にも取り組み、メンタルヘルス不調の予防につなげています。
【出典】こころの耳「株式会社中央コーポレーション(岩手県花巻市)」|厚生労働省(2023年10月)
https://kokoro.mhlw.go.jp/case/company/cmp123/
株式会社プロデュース:業務分担を仕組み化し、資格保有者の業務負担を軽減
主に高齢者向け介護支援施設運営事業を行っている株式会社プロデュースでは、介護業界の肉体的・精神的負担の大きさから離職と採用難が続いていました。そこで同社は人手不足を解消するために業務改善から取り組みました。具体例としては、資格保有者に業務負担が集中していたため、有資格者がするべき業務とそうでない業務を切り分け、マニュアルやチェックリストを活用した仕組み化を実施。
その結果、超時短労働者を含めた多くの職員で業務を分担できる体制を構築することができ、個々人のワークライフバランスが向上。また、職員の主体性を引き出す人材育成とコミュニケーションを取り入れたことで、互いに助け合い相談し合う雰囲気が会社内で醸成されたそうです。
【出典】こころの耳「株式会社プロデュース(福岡県北九州市)」|厚生労働省(2023年11月)
https://kokoro.mhlw.go.jp/case/company/cmp124/
株式会社エボルブ:相談室の設置や、緑の多いオフィスへの移転を実施
スマートフォンのゲームアプリ開発や、2Dアニメーションの制作などを行っている株式会社エボルブは、社員数約50名の平均年齢が28歳と若い人が大半を占める会社です。しかし、インドア派を自認する若手社員が多く、ヘルスリテラシーの低さを以前から問題視していました。そのため、体を動かすイベントや健康を意識したセミナーの実施、「なんでも相談室」の設置などでメンタルヘルス不調に配慮してきました。そんな取り組みをしている最中、コロナ禍によって相談室への相談が飛躍的に増加。一次予防では限界があるとして、個々人の努力に頼らず自然にできることを増やすゼロ次予防をスタートしました。
具体的には、部活を作る、話しやすい席配置にする、お出掛けランチDayを設定するといったソフト面に働きかける取り組みから始めたそうです。さらに、緑が多くコミュニティスペースのあるオフィスへの移転によるハード面の取り組みも実施した結果、相談室での面談時間は減少に転じました。
【出典】こころの耳「株式会社エボルブ(大阪府大阪市)」|厚生労働省(2023年2月)
https://kokoro.mhlw.go.jp/case/company/cmp113/
まずは4つのケアから、メンタルヘルス対策に取り組もう
従業員のメンタルヘルスケアは、従業員のキャリアを守り、企業の価値を高める有用な取り組みです。あらゆる情報が押し寄せてくる情報化社会でありながら、少し先の未来すら不確かな時代、働く人は誰もが少なからずストレスを抱えています。そんな時代の今だからこそ、従業員のメンタルヘルスケアの強化に取り組んではいかがでしょうか。
「マイナビ健康経営」は、人と組織の「ウェルネス(健康)」を総合的にサポートしています。メンタルヘルスケア促進に役立つ健康経営推進など、従業員のメンタルヘルス対策をお考えの際には、お気軽にお問い合わせください。