健康経営認定2025年度の改訂ポイントは?主要認定項目を詳細解説
人材に対する投資の多寡が企業評価の重要な判断材料となっている現代、新たに健康経営優良認定法人を目指そうと考えている方もいるのではないでしょうか。
健康経営優良認定法人の要件は、時代背景などを踏まえて改訂が行われています。2024年7月23日に経済産業省が開催した「健康・医療新産業協議会・第12回健康投資ワーキンググループ」では、2025年度における健康経営顕彰制度の改訂ポイントや、認定要件などが取りまとめられました。
本記事では、2025年度における健康経営優良認定法人の要件改訂の方向性やそのポイント、主要な認定項目などについて解説します。
【参照】経済産業省「第12回 健康投資ワーキンググループ」|経済産業省(2024年7月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/012.html
目次[非表示]
- 1.健康経営が拡大している背景
- 2.健康経営優良法人2025年度の主要改訂ポイント
- 3.健康経営優良法人・大規模事業者向けの改訂点
- 3.1.PHR(Personal Health Record)の活用促進
- 3.2.40歳未満の従業員の健診データの提供
- 3.3.質の向上に向けた意識醸成
- 3.4.柔軟な働き方の促進
- 3.5.海外法⼈を含めた健康経営推進に関する実態把握
- 3.6.育児・介護と就業の両⽴⽀援
- 3.7.常時使⽤しない⾮正社員等を対象に含めた企業の評価
- 3.8.若年層からの健康意識の啓発(プレコンセプションケア)
- 4.健康経営優良法人・中小規模事業者向けの改訂点
- 4.1.ブライト500申請法⼈フィードバックシート公開
- 4.2.新たな顕彰枠の設定
- 4.3.⼩規模法⼈への特例制度の導⼊(特例内容)
- 5.健康宣⾔事業未実施の国保組合・共済組合等加⼊法⼈への対応
- 6.健康経営優良法人2025年度改訂の影響と展望
- 7.健康経営優良法人の改訂は、自社の健康経営の取り組みを見直すチャンス
健康経営が拡大している背景
昨今、中小企業、大企業を問わず、健康経営の重要性に対する認識が高まり続けています。「健康経営優良法人2024(中小規模法人部門)」に認定された中小企業の法人数は前年度と比較すると2,721法人も増加しました。同様に認定数が増加している大企業には、健康経営の考え方を社会に普及させていく役割が求められています。
なぜ今、多くの企業が健康経営を目指しているのでしょうか。その背景には人材に対する企業の認識の変化があります。
かつて企業にとって人材は消費する資源であり、その採用や育成にかかる費用はコストとして捉えられてきました。しかし、2006年に国連で「ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)」が新たな投資の観点として紹介されたことを契機に、世界の投資家たちの関心はサステナビリティ(企業の持続可能性)にシフトします。サステナビリティとは、環境・社会・経済の3つの観点をもって世の中を持続可能にしていくという考え方です。
企業が社会に信頼され、必要とされるためには、市民から選ばれる商品やサービスを生み出し続けなければなりません。しかし、その企業の従業員が健康でなければ、社会に向けて継続的に価値を提供することは困難です。
こうした流れを受け、自社の人材を人的資本と考え、その健康管理への投資を惜しまない健康経営を推進する企業が増加しました。長期的に企業価値を高め、健全な資本市場の確立によって持続的な社会を実現するには、人材を「資本」と捉える必要があるという機運が高まってきたのです。
人材に投資するということは、企業と社会の未来に投資することだともいえるでしょう。こうしたことから、昨今では健康経営を「サステナビリティを果たすための活動の一環」と捉える企業が増えています。
【参照】経済産業省「健康経営の推進について」|経済産業省(2024年3月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/240328kenkoukeieigaiyou.pdf
健康経営優良法人2025年度の主要改訂ポイント
2025年度の健康経営優良認定法人においては、「人」をはじめとした無形資産や⼈的資本が企業の競争⼒の源泉として重要になってきていることを受け、「⽇本経済社会を⽀える基盤としての健康経営」を目指して制度設計や調査票の内容などを見直しています。
健康経営優良認定法人の大規模事業者向けでは、健康経営および個人の健康・医療・介護などに関する情報を一元的に管理・活用する「PHR(パーソナルヘルスレコード)の活用促進」や、「常時使⽤しない⾮正社員等を対象に含めた企業の評価」などの項目が新設され、「柔軟な働き方の促進」における小項目の追加などが行われています。
また、中小規模事業者向けでは、新たな顕彰枠が拡大したほか、⼩規模法⼈に対する特例制度の導⼊による要件の緩和などが行われました。
改訂のポイントは、大きく下図の3つです。
【出典】経済産業省「健康・医療新産業協議会第12回健康投資WG事務局説明資料(今年度施策及び調査等の⽅向性について)」|経済産業省(2024年7月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/012_02_00.pdf
次項からは、大規模事業者、中小規模事業者それぞれの改訂点について、詳しく解説します。
健康経営優良法人・大規模事業者向けの改訂点
まずは、大規模事業者向けの改訂点から見ていきましょう。健康経営優良法人・大規模事業者向けの改訂点は、下記の8つです。
<大規模事業者向け改訂点>
- PHR(Personal Health Record)の活用促進
- 40歳未満の従業員の健診データの提供
- 質の向上に向けた意識醸成
- 柔軟な働き方の促進
- 海外法⼈を含めた健康経営推進に関する実態把握
- 育児・介護と就業の両⽴⽀援
- 常時使⽤しない⾮正社員等を対象に含めた企業の評価
- 若年層からの健康意識の啓発(プレコンセプションケア)
各改訂点において、企業はどのようなことが求められるのでしょうか。改訂内容を1つずつ詳しく見ていきます。
PHR(Personal Health Record)の活用促進
PHRとは「Personal Health Record」の頭文字をとった略称であり、個人の身体情報や健康情報を記録したデータを指します。
高齢化が進展し、現役世代が減少する日本において、誰もが長く健康に働ける環境づくりは喫緊の課題です。
そこでキーとなるのが健康情報です。病院のカルテやお薬手帳などでばらばらに管理されているPHRをデジタルで一元的に管理できれば、患者自身が自分の情報を確認したり、疾病管理や妊娠・出産・子育てなどに関するアドバイスを得たりできるため、健康寿命の延伸や介護予防につながることが期待されています。
2025年度の健康経営優良認定法人には、PHR活用に向けた環境整備状況について尋ねる設問が追加されることになりました。今回までは設問のみで、PHRデータの具体的な活用状況は評価対象外となる見込みですが、将来的には必須項目となる可能性があります。
40歳未満の従業員の健診データの提供
若年層を対象とした健康管理を充実させることができれば、将来の特定保健指導対象者率の減少、生産性の向上などが期待できます。
そこで、2025年度からは、40歳未満の従業員の健診データを健康保険組合等保険者に提供していることが、健康経営優良認定法人における加点事由となる見込みです。健診データを共有することで、事業者と保険者が緊密に連携しながら労働者の健康管理等に取り組むことが期待されています。
【参照】北関東しんきん健康保険組合「【事業名:若年層向け生活習慣病予防事業 】」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001118584.pdf
【参照】経済産業省「健康・医療新産業協議会第12回健康投資WG事務局説明資料(今年度施策及び調査等の⽅向性について)」|経済産業省(2024年7月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/012_02_00.pdf
質の向上に向けた意識醸成
質の向上に向けた意識醸成とは、具体的に「経営層の関与の強化」と「アウトプット指標の重視」が該当します。それぞれどのようなことが求められるのか見ていきましょう。
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経営層の関与の強化
健康経営が持続的に効果を発揮するには、経営レベルでの議論によって継続的に取り組み内容を向上させる必要があります。
取締役会や経営会議等で議題として取り上げる内容の選択肢を具体化し、健康経営にまつわる議題の頻度や内容によって経営層の関与度合いが評価されることになりました。また、取締役会と経営会議等では取り上げる議題に違いがあることを踏まえ、「経営会議等」で健康経営を議題として取り上げていることがホワイト500の認定要件となっています。
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アウトプット指標の重視
これまで、成果を出すまでのプロセスや施策内容なども評価されてきましたが、今年度から結果重視の指標にシフトします。
アウトプット指標のみとなる設問には「受診勧奨」「ストレスチェック」「健康保持・増進に関する教育」「コミュニケーション促進」「⾷⽣活改善」「運動習慣の定着」があります。この中から、自社の状況を踏まえて成果に結びつきやすい方法を検討し、重点的に取り組むことが求められます。
柔軟な働き方の促進
さまざまなバックボーンを持つ従業員が健康的に働けるよう、在宅勤務・テレワークの導入や、育児・介護などの理由を問わず柔軟な働き方を実現する制度や環境の整備など、具体的な取り組みが評価されます。
また、心身不調への早期対処を目的として、通院などのために取得できる有給の特別休暇制度などの導入も推奨されます。
海外法⼈を含めた健康経営推進に関する実態把握
海外法人を持つ企業は、健康経営に注力している国と、その国での実施方針について回答する必要があります。ただし、設問に対するアンケートでの回答のみで、評価対象にはなりません。
育児・介護と就業の両⽴⽀援
育児休業は普及しているものの、介護と就業の両⽴⽀援は進んでいないとする調査結果にもとづき、「介護」へのフォーカスを目指して、大規模法人の健康経営度調査および申請書は、「介護」と「育児」が分割されます。
また、取り組みの促進に向け、経済産業省の「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」から具体的なアクションが選択肢として追加されました。具体的なアクションは3つのステップに分かれており、まず第一歩として「経営層のコミットメント」が置かれています。さらには「実態の把握と対応」、そして仕事と介護の両立に関する「情報発信」を3つ目の事項として設定しています。
【参照】経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」|経済産業省(2024年3月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/main_20240326.pdf
常時使⽤しない⾮正社員等を対象に含めた企業の評価
常時使⽤しない非正社員・派遣社員なども組織の一員と捉え、幅広く健康施策を実施していることが新たに評価項目となります。対象者がいない場合は、その旨を選択できる項目があり、企業の従業員構成によって評価上不利に働くことはありません。
若年層からの健康意識の啓発(プレコンセプションケア)
若い世代の健康意識を高めることを目的として、プレコンセプションケア(プレコンセプションヘルス)に関する知見や取り組みの有無が問われます。具体的には、プレコンセプションケアに関する企業の意識を確認するためのアンケートが新設されます。
健康経営優良法人・中小規模事業者向けの改訂点
健康経営優良法人・中小規模事業者向けの改訂点は、下記の4つです。中小規模事業者向けの改訂点についてもそれぞれ詳しく見ていきましょう。
<中小規模事業者向け改訂点>
- ブライト500申請法⼈フィードバックシート公開
- 新たな顕彰枠の設定
- ⼩規模法⼈への特例制度の導⼊(特例内容)
- 健康宣⾔事業未実施の国保組合・共済組合等加⼊法⼈への対応
ブライト500申請法⼈フィードバックシート公開
「ブライト500」は、中小規模法人部門で健康経営優良法人に認定された企業のうち、特に優れた取り組みを行っている上位500社に与えられる称号です。
健康経営度調査に回答した大規模法人部門の企業、およびブライト500に申請した中小規模法人には、全法人における評価順位や偏差値等を記載したフィードバックシートが交付され、大規模法人部門ではその公開が求められてきました。
2025年度からは、中小規模法人の取り組み強化と裾野拡大を図るため、ブライト500申請法人に対しても公開が求められるようになります。
【参照】経済産業省「「健康経営銘柄2025」及び「健康経営優良法人2025」の申請受付を開始しました」|経済産業省(2024年8月)
https://www.meti.go.jp/press/2024/08/20240819001/20240819001.html
新たな顕彰枠の設定
ブライト500と通常認定の間に新たな冠となる「ネクストブライト1000」が設けられ、上位501位~1500位が選定されることとなりました。これにより、中小規模法人の顕彰はブライト500、ネクストブライト1000、通常認定の3層構造となり、通常認定からのステップアップの仕方が見えやすくなりました。
⼩規模法⼈への特例制度の導⼊(特例内容)
従業員数が少ない法人にも規模と実態に応じた健康経営の推進を促すため、⼩規模法⼈への特例制度が導入されることになりました。
具体的には、健康経営の具体的な推進計画における認定要件を4項目中2項目とすることなど、認定要件の緩和によって健康経営優良法⼈の申請間⼝が拡大されます。
なお、対象となるのは、「中⼩企業基本法における⼩規模事業者」およびその他法⼈格における従業員数5⼈以下の法⼈のみです。
健康宣⾔事業未実施の国保組合・共済組合等加⼊法⼈への対応
一部の国保組合や共済組合等は健康宣言事業を実施していません。また、自治体によっては、積極的な広報が行われていなかったり、宣言事業への参加期間が限られていたりします。こうした場合、健康経営に積極的でありたい企業が存在しても、その取り組みが困難になることがありました。
しかし2025年度からは、自治体で宣言事業を実施しているかどうかにかかわらず、自己宣言が認められるようになります。
健康経営優良法人2025年度改訂の影響と展望
ここまで、健康経営優良法人2025年度について、大規模法人・中小規模法人それぞれの改訂内容を紹介してきました。では、この改訂によって、企業にはどのような影響があり、どんな対応策をとるべきなのでしょうか。
今回の改訂では、大規模法人向け改訂点の「育児・介護と就業の両⽴⽀援」でふれたように、これまで実践してきた内容を踏まえて改善すべき点について設問が新設されています。
また、健康経営が持続的に効果を生むよう、経営層の関与について配点が増えるなどの変化もありました。
いずれの改訂も、健康経営の質の向上や、社会への浸透と定着を目的としています。企業はこの点を踏まえて、従来の施策の成果を見直し、より具体的な施策へとブラッシュアップしていかなければなりません。
しかし、健康経営優良法人2025年度の改訂で評価指標が多様化することは、自社の強みを活かして健康経営に取り組みたい企業にとっては絶好の機会ともいえます。中小企業に対する新たな顕彰枠の設定や、自治体における健康経営宣言実施の有無を問わない自己宣言の許可などは、これまで健康経営宣言の実施をためらっていた中小企業の取り組みの拡大にもつながるでしょう。
従業員への意識づけや行動変容を促すことの難しさ、中小企業のノウハウやリソース不足、取り組みの成果を定量的に示しにくいことなど、残された課題にも対応しながら、今後も日本の企業には健康経営を推進していくことが求められます。
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健康経営優良法人の改訂は、自社の健康経営の取り組みを見直すチャンス
近年、テレワークやフレックスタイム制などの普及により、従業員は自由度の高い働き方ができるようになりました。今後の企業には、従業員のライフスタイルに合わせた働き方を推奨しつつ、物理的に距離のある従業員に対しても健康に関する情報提供やサポートを行っていくことが求められるようになるでしょう。
健康経営優良法人の改訂は、自社の健康経営を見直し、時代に合う内容へと進化させる大きなチャンスです。この機会に、健康経営優良法人2025の改訂内容をチェックし、取り組みをアップデートさせてみてはいかがでしょうか。
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