国民皆歯科健診とは?国が推進する背景と歯科健診の重要性を解説

国民皆歯科健診とは?国が推進する背景と歯科健診の重要性を解説

国民皆歯科健診とは、すべての国民が生涯を通じて適切な口腔ケアを受けられるよう、定期的な健診の義務付けを目指すものです。現時点ではまだ制度として確立されていませんが、導入に向けて具体的な検討を始めることを2022年に政府が公表し、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」にも盛り込まれました。

国民皆歯科健診が実現した場合、職場での歯科健診が義務化される可能性があるため、企業も経過を注視する必要があります。

国民皆歯科健診は、どのような目的で推進されているのでしょうか。また、企業が自社の従業員に対して口腔ケアを実施した場合、どのような効果が見込まれるのでしょう。

本記事では、国民皆歯科健診の導入に向けて検討が進む背景と現状、企業への影響などについて解説します。

【参照】厚生労働省「歯科保健課」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001080170.pdf

目次[非表示]

  1. 1.国民皆歯科健診とは、国民全員に対して歯科健診を義務付けること
  2. 2.国民皆歯科健診が必要とされる背景
    1. 2.1.口腔ケアに対する日本人の意識の低さ
    2. 2.2.口腔の健康と全身の健康の関連性
  3. 3.歯科健診の受診率が上がらない理由
    1. 3.1.義務ではないから
    2. 3.2.費用がかさむことへの懸念があるから
    3. 3.3.地域によっては歯科医師が不足しているから
    4. 3.4.歯周病に対する理解が広まっていないから
    5. 3.5.国民皆歯科健診に対する認知に時間がかかるから
  4. 4.国民皆歯科健診において企業と教育機関に期待される役割
    1. 4.1.企業に期待される役割:定期健康診断に歯科健診を組み込む
    2. 4.2.教育機関に期待される役割:継続的な口腔衛生教育の実施
  5. 5.企業が口腔ケアを推進した際のメリット
    1. 5.1.歯の痛みによる遅刻や欠勤が削減できる
    2. 5.2.中長期的に医療費を削減できる
  6. 6.国民皆歯科健診の今後の展望
  7. 7.健康経営の一環として、従業員の口腔ケアに取り組もう

国民皆歯科健診とは、国民全員に対して歯科健診を義務付けること

現在日本で歯科健診が義務付けられているのは、1歳半と3歳の乳幼児を対象とした歯科健診と、小学生~高校生まで毎年行われている歯科健診です。
一方で昨今、話題となっている国民皆歯科健診とは、歯科健診が義務化されていない大学生や社会人を含めた国民全員に対して歯科健診を義務付ける制度のことを指します。

国民皆歯科健診が必要とされる背景

政府は、2025年を目標として国民皆歯科健診の導入を目指しています。なぜ今、国民の「口腔」が重視されているのでしょうか。国民皆歯科健診が必要とされる背景を見ていきます。

口腔ケアに対する日本人の意識の低さ

厚生労働省と日本医師会は、1989年から「8020運動」を推進し、自分の歯(天然歯)を長く維持することの重要性を訴えてきました。
8020運動は、「80歳まで自分の歯を20本残す」ことを目標とした歯の健康づくり運動です。2017年には「8020」の達成者が半数に達し、一定の成果を上げました。
しかし、2022年に日本医師会が実施した調査によれば、過去1年間に歯科健診を受診した人の割合は58%で、30~54歳では半数に達していません。
この結果は、現役世代の歯に対する関心度の低さを如実に表しているといえます。高校卒業後は義務化されている歯科健診がなく、一人ひとりの自主性に任されているのが現状です。そのため、成人の歯科健診受診率は非常に低く、むし歯や歯周病などの口腔疾患を抱えている人が少なくないのです。

【参照】e-ヘルスネット「8020運動とは」|厚生労働省(2020年7月)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-01-003.html

【参照】厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査結果の概要」|厚生労働省(2023年)
https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001112405.pdf

口腔の健康と全身の健康の関連性

前項で述べたように、むし歯や歯周病といった口腔疾患を持つ成人は多く、歯を失う原因として最も多いのは歯周病、次いでう蝕(むし歯)です。
近年では、こうした口腔の疾患が、心疾患をはじめ呼吸器疾患、慢性腎臓病、骨粗鬆症、関節リウマチ、がんなどの全身疾患と関連していることがわかってきました。

つまり、口腔ケアをせず歯周病を放っておいた場合、さまざまな疾患を併発、あるいは悪化させる可能性があるということです。歯を失うことにより、咀嚼(そしゃく)機能や嚥下(えんげ)機能が低下すれば、脳への刺激が減ってアルツハイマー病のリスクも上がりかねません。
このように、口腔内の健康を軽視することは、高齢者の増加に伴って国の経済を圧迫している医療費をさらに増大させる原因につながります。歯科健診の普及に向けた取り組みは喫緊の課題だといえるでしょう。

【参照】e-ヘルスネット「う蝕(うしょく)」|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-001.html

【参照】e-ヘルスネット「口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連」|厚生労働省(2020年8月)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-01-006.html

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歯科健診の受診率が上がらない理由

国民皆歯科健診は、2025年の導入を目指して予算の確保や具体的な手法の検討が進んでいます。ただし、2024年8月現在、導入時期は定かではありません。

歯科健診は、塩酸などを扱う一部の特殊労働を担う人への実施が義務付けられているのみで、自主的な受診以外に口腔内をチェックする機会はほぼありません。
自治体によっては、5~10年ごとの歯周疾患健診やクリーニングを促す取り組みが行われていますが、歯科健診の受診率は非常に低い状態が続いています。

歯科健診の受診率が上がらない理由としては、大きく5つ考えられます。ここからはその5つの理由について見ていきましょう。

【参照】歯科口腔保健の推進に係る歯周病対策ワーキンググループ「歯周病罹患状況及び自治体等における対策の状況を踏まえた今後の歯周病予防対策について」|厚生労働省(2023年11月)
https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000856878.pdf

義務ではないから

働き世代は仕事や家事、育児などに忙しく、歯科医院への通院時間を確保することが困難です。前述のように歯科健診も義務化されていないため、日々の生活を優先してしまう傾向にあります。

費用がかさむことへの懸念があるから

費用がかさむことへの懸念も歯科健診の受診率を低下させる理由の1つです。
特に低所得者層の場合、歯科健診を受けるためにかかる治療費に対する不安から受診に二の足を踏んでしまう可能性があります。

地域によっては歯科医師が不足しているから

歯科医師は地域偏在が顕著です。都心に歯科が集中する一方、地方には歯科がない地域も存在します。こうした格差を是正しなければ、すべての国民に質の高い歯科健診を平等に提供することはできません。

歯周病に対する理解が広まっていないから

歯周病はサイレントディジーズ(静かなる病気)とも呼ばれ、ひどくなるまで自覚しにくい病気です。また、歯周病と全身の健康との関連性は近年になって注目され始めたため、「痛みや違和感がなければ歯科に行く必要はない」と考えている人も少なくありません。

国民皆歯科健診に対する認知に時間がかかるから

国民皆歯科健診を行うにあたって、国は財源を確保しなければなりません。健診にレントゲン検査を含めるのか、クリーニングまで行うのかといった内容によっても予算が変わってくるほか、歯科医師がいない地域をカバーするための費用も時間も考慮する必要があります。国民皆歯科健診の推進が国民に完全に周知されていないことも、歯科健診の受診率向上を遅らせている遠因といえます。

なお、厚生労働省が歯科に係る領域で獲得した2024年度の予算は、前年度に比べて6.9%の増加となりました。「歯科口腔保健・歯科保健医療の充実・強化」では対前年度比で10.4%増額となっており、国民皆歯科健診に向けて前進していることがうかがえます。「歯科口腔保健・歯科保健医療の充実・強化」が進んでいることが周知されていけば、歯科健診の受診率はより向上していくでしょう。

【参照】公益社団法人日本歯科医師会「令和6年度歯科保健医療施策関係予算案について」|公益社団法人日本歯科医師会(2024年3月)
https://www.jda.or.jp/
https://www.jda.or.jp/jda/release/detail_234.html

国民皆歯科健診において企業と教育機関に期待される役割

国民皆歯科健診では、職場や教育機関がその担い手となることが想定されています。ここでは、国民皆歯科健診において企業と教育機関に期待される役割について見ていきます。

企業に期待される役割:定期健康診断に歯科健診を組み込む

企業には、定期健康診断に歯科健診を組み込むことが期待されています。定期健診におけるメニューの1つに歯科健診を含めれば、企業に属して働く人に歯科健診を義務付けることができます。これは、国民皆歯科健診の実現にむけた第一歩として、大きな役割になるといえるでしょう。

現在、定期健診で簡易的に歯周病のリスク評価ができるツールの開発も、厚生労働省などが支援をしています。こうしたツールを併用できれば、健診の内容を簡便化でき、企業の負担を減らしつつ歯科医療機関への受診につなげることが可能です。

【参照】公益社団法人日本歯科医師会「令和6年度歯科保健医療施策関係予算案について」|公益社団法人日本歯科医師会(2024年3月)
https://www.jda.or.jp/
https://www.jda.or.jp/jda/release/detail_234.html

【参照】厚生労働省「企画競争(歯周病等スクリーニングツール開発支援事業)」|厚生労働省(2023年4月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shinsei_boshu/choutatsujouhou/chotatu/e-oth-kikakukoubo/newpage_07078.html

教育機関に期待される役割:継続的な口腔衛生教育の実施

教育機関には、幼少期からの継続的な口腔衛生教育の実施が期待されています。
「なぜ口腔疾患になるのか」「口腔疾患になるとどうなるのか」「予防するにはどうすればいいのか」といった内容を教育の一環として伝えることで、子供たちにも口腔ケアの意識が身につきます。

また、学校歯科健診の際に、生涯にわたって定期的に歯科健診を受診する重要性を伝えることも有効です。

企業が口腔ケアを推進した際のメリット

国民皆歯科健診の実施が義務化されるか否かにかかわらず、従業員の口腔ケアに取り組むと企業にも好影響がもたらされます。企業が口腔ケアを推進した際のメリットを2つ紹介します。

歯の痛みによる遅刻や欠勤が削減できる

従業員が定期的に口腔ケアを行っていないと、突然の歯の痛みで、遅刻や早退、欠勤を余儀なくされる可能性があります。

これは、企業にとって大きな損失です。しかし、日常の口腔ケアでトラブルを未然に防ぐことができれば、従業員に予定どおり稼働してもらうことができ、経営目標などへの悪影響も低減できます。
また、企業が定期的な歯科健診を支援していれば、欠勤や早退で勤務できない状態を示す「アブセンティーズム」だけでなく、健康問題が理由で生産性が低下している「プレゼンティーズム」の改善にもつながるでしょう。

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【用語集】

  プレゼンティーズム(プレゼンティーイズム) プレゼンティーズムの定義にはいくつかありますが、厚生労働省は「従業員が職場に出勤はしているものの、何らかの健康問題によって業務の能率が落ちている状況」としています。 My Wells (マイナビ健康経営)

【用語集】

  アブセンティーズム(アブセンティーイズム) アブセンティーズムとは、従業員が会社を病欠・病気休業している状態を指します。 My Wells (マイナビ健康経営)

中長期的に医療費を削減できる

口腔ケアを行わずに過ごしていると、むし歯や歯周病が悪化した状態で歯科に駆け込むことになり、通院が長期化して医療費がかさむ可能性があります。場合によっては、高度な外科治療や歯周病治療を行わなければ改善が見込めず、従業員が自費診療を選択せざるをえないことも考えられるでしょう。

一方、口腔ケアが定着した場合、定期的なメンテナンスや予防に通う人が増加して一時的に医療費は増えるものの、中長期的には大幅に医療費を削減できるといわれています。企業が従業員の口腔ケアを実施することは、従業員の生活を守るだけにとどまらず、社会貢献にもつながります。

国民皆歯科健診の今後の展望

現在、国民皆歯科健診の実現に向け、国はさまざまな取り組みを行っています。例えば、これまで自治体の歯科健診制度の対象に含まれておらず、歯周病の罹患率が高まりつつある20代、30代に対する歯周病健診の対象年齢拡大です。

また、2024年度からは、厚生労働省が「歯・口腔の健康づくりプラン」をスタートしました。
このプランで推進されている施策は下記の4つです。

<歯・口腔の健康づくりプランの施策>

  • さまざまなライフステージにおける課題に対する切れ目のない歯科口腔保健施策を展開するとともに、ライフコースアプローチにもとづいた歯科口腔保健施策の推進
  • さまざまな担い手が有機的に連携することによる社会環境の整備
  • 基本的な歯科口腔保健に関する情報収集体制と管理体制の確立
  • 各地域・社会状況等に応じた適切なPDCAサイクルを実行できるマネジメント体制の強化

今後、これらの施策が順次実行していけば、国民皆歯科健診も実現することとなるでしょう。

【参照】厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会、歯科口腔保健の推進に関する専門委員会「歯・口腔の健康づくりプラン推進のための説明資料(案)」|厚生労働省(2023年)
https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001074203.pdf

健康経営の一環として、従業員の口腔ケアに取り組もう

口腔内の健康維持は、日本社会における健康課題を解決する取り組みでもあり、これからさらに重要度を増していきます。国民皆歯科健診が計画どおり実行されるかどうかにかかわらず、健康経営の一環として従業員の口腔ケアを定期健診に組み込むなど、積極的な取り組みを検討してはいかがでしょうか。従業員の口腔内の健康を維持できれば、医療費の削減にも着実につながり、それは医療費を負担しているすべての企業や社会への貢献へとつながります。

「マイナビ健康経営」は、人と組織の「ウェルネス(健康)」をさまざまなサービスでサポートしています。従業員の心身の健康向上につながるトータル・ヘルスプロモーション・プランに取り組む際には、ぜひお気軽にご相談ください。

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<監修者>
丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のM&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。

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