企業の未来を変える健康経営のメリットとは?取り組み方も解説

健康経営とは?メリットや企業の体制に取り入れる方法、注意点を解説

健康経営とは?メリットや企業の体制に取り入れる方法、注意点を解説

健康経営は、企業の未来を変える取り組みです。健康経営のメリットについてあらためて解説するとともに、具体的な取り組み方も紹介します。

目次[非表示]

  1. 1.健康経営とは?メリットや企業の体制に取り入れる方法、注意点を解説
  2. 2.企業の未来を変える健康経営のメリットとは?取り組み方も解説
  3. 3.健康経営とは?
    1. 3.1.健康経営が始まった背景
    2. 3.2.経済産業省による健康経営への取り組み
    3. 3.3.健康経営がクローズアップされている背景
  4. 4.健康経営が企業にもたらすメリット
    1. 4.1.生産性の向上
    2. 4.2.企業イメージの向上
    3. 4.3.ロイヤリティの向上
    4. 4.4.優秀な人材の採用
    5. 4.5.健康経営の各種認定制度によるインセンティブ
    6. 4.6.中小企業が健康経営に取り組むメリット
    7. 4.7.中小企業ほど、1人分のマンパワーが貴重である
    8. 4.8.属人化している業務の担当者損失を防止できる
  5. 5.健康経営が個人にもたらすメリット
    1. 5.1.健康維持・増進
    2. 5.2.エンゲージメントの向上
    3. 5.3.業務の効率化によるワークライフバランス向上
  6. 6.健康経営を取り入れるべき企業
    1. 6.1.従業員の健康状態の悪化が大きなリスクになる企業
    2. 6.2.年齢層が高い企業
    3. 6.3.離職率が高い企業
  7. 7.健康経営に取り組むにあたって注意すべきポイント
    1. 7.1.短期では効果が見えにくい
    2. 7.2.従業員の協力が必要
    3. 7.3.個人情報の管理コストが高まることも
  8. 8.健康経営の各種認定制度
    1. 8.1.健康経営優良法人(ホワイト500・ブライト500)
    2. 8.2.健康経営銘柄
    3. 8.3.地方自治体の認証
  9. 9.健康経営への取り組み方
    1. 9.1.1. 経営陣の理解を得る
    2. 9.2.2. 会社全体に重要性を周知する
    3. 9.3.3. 健康宣言の実行
    4. 9.4.4. 環境整備
    5. 9.5.5. 施策実行
      1. 9.5.1.<具体的な施策例>
    6. 9.6.6. 取り組み評価
  10. 10.健康経営の具体的な取り組み内容
    1. 10.1.健康診断受診率向上
    2. 10.2.健康診断の再検査・特定保健指導の受診勧奨
    3. 10.3.ワーク・ライフ・バランスの改善
    4. 10.4.病気の治療と仕事の両立を支援
    5. 10.5.従業員同士のコミュニケーションを促進
    6. 10.6.食生活の改善や運動の促進
    7. 10.7.メンタルヘルス不調と長時間労働への対応
    8. 10.8.女性が働きやすい環境の実現
    9. 10.9.分煙と喫煙率低下の取り組み
    10. 10.10.新型コロナウイルス感染症などの感染症対策
  11. 11.従業員は資源でなく資本。健康経営は避けては通れない経営手法です

企業の未来を変える健康経営のメリットとは?取り組み方も解説

「健康経営」を国が主導・推奨していることはご存じでしょうか。2006年に提唱された当初は、法令遵守や安全配慮義務などの観点から自社の従業員の健康と安全を守ることに主眼が置かれていましたが、現在では無形資産である「人」に積極的に投資することで企業を成長させ、社会発展につなげる戦略として多くの企業が取り組み始めています。

生産性の向上によって経営面でも大きな成果が期待できる健康経営は、企業の未来を変える取り組みだといっても過言ではありません。ここでは、健康経営のメリットについてあらためて解説するとともに、具体的な取り組み方も紹介します。

【参照】経済産業省 商務情報政策局ヘルスケア産業課「企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~ P1」|経済産業省(2016年4月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf

健康経営とは?

経済産業省は、健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義しています。

これは、現場で働く人々が心身共に健康な状態で仕事に取り組める環境を作ることが、長期的に見ると企業の成長と利益につながるという考え方です。

そもそも、健康経営はどのような背景で始まり、経済産業省はどのような取り組みを行っているのでしょうか。下記でNPO法人健康経営研究会の成り立ちから確認をしていきます。

健康経営が始まった背景

健康経営は、2006年にNPO法人健康経営研究会の提唱によって始まりました。なお、「健康経営」という言葉は、NPO法人健康経営研究会の登録商標となっています。健康経営が始まった背景には急速に進行する日本の高齢化がありました。高齢化に伴って増大する健康保険料の企業負担や、深刻な人手不足といった課題に対応するには、現役で働いている段階から企業が従業員の健康に配慮し、心身共にすこやかな状態で定年を迎えてもらわなくてはなりません。

人手不足が進んで働き手が減る中、一人にかかる負荷が増大することによって心のバランスを崩したり、体調が悪化したりといったメンタルヘルスの問題が顕在化しつつあったことも、健康経営の誕生を後押ししたと考えられます。

しかし、健康経営が登場した当初は、「従業員の健康は従業員自身が管理するもの」という考え方が一般的で、ほとんどの企業は福利厚生を「コスト」と捉えていました。

そんな状況の中、人手不足が長期化し、採用活動も難化の一途をたどっていくと、「今いる従業員を大切にし、心身共に健康な状態で長く働いてもらうこと」の重要性に多くの経営者が気づき始めました。現在では、健康経営に対する企業の関心はますます高まりつつあります。

【参照】「未来を築く、健康経営-深化版:これからの健康経営の考え方について-」|(NPO 法人健康経営研究会健康長寿産業連合会 健康経営会議実行委員会(2021年7月)
https://kenkokeiei.jp/documents/HealthManagementToBuildTheFurure.pdf

経済産業省による健康経営への取り組み

企業理念にもとづき、大切な資産である従業員の健康に投資することは、従業員のモチベーションを向上させます。その結果、従業員一人ひとりのパフォーマンスも向上することで組織は活性化し、業績向上や株価向上といった好循環へとつながるでしょう。

経済産業省は、「健康経営銘柄」の選定や「健康経営優良法人認定制度」の創設など、健康経営に取り組む優良法人の社会的価値を高める取り組みも実践しています。こうした取り組みの対象に選定され、投資家にとっても魅力ある企業として世に紹介されることで、企業は長期的な価値向上が期待できるのです。

【参照】経済産業省ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」|経済産業省(2022年6月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeiei_gaiyo.pdf

健康経営がクローズアップされている背景

健康経営が近年ますますクローズアップされている背景には、どのようなものがあるのでしょうか。大きく影響しているのは、定年の上限年齢引き上げに伴う組織の高齢化と、プレゼンティーズム(疾病就業)の増加、ワーク・ライフ・バランスを重視する社会的な機運の高まりです。

  • 組織の高齢化
    組織が高齢化している背景のひとつとして、2021年4月に施行された高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(改正高年齢者雇用安定法)があります。この改正により、「高齢者の希望があれば70歳まで働ける」制度の整備が、2021年4月からの企業の努力義務となっているのです。

    組織内の高齢者の割合が極端に高まれば、若手の抜擢が難しくなるといった組織の膠着(こうちゃく)化などの問題が多発する可能性があります。また、従業員の健康課題が増加する可能性も高まるでしょう。

  • プレゼンティーズムの増加
    プレゼンティーズムとは、心身の不調を抱えながら業務を行う状態のことを指します。従業員が心身の健康上の問題を抱えたままであれば、業務パフォーマンスは上がらず、高い成果も期待できない状況が続くでしょう。
    従業員の健康にまつわるコストのうち、プレゼンティーズムによる生産性損失の割合は非常に大きいといわれています。プレゼンティーズムは可視化しにくく、従業員自身からの聞き取りが必要なため、すぐに対処できるものではありません。企業が上記のような諸問題の解消を検討することも、健康経営に注目が集まる理由の一つとなっています。

  • ワーク・ライフ・バランスの推進
    「子育てや介護と両立できず、仕事を諦めた」「ハードワークで心身の健康を害した」など、仕事と生活のバランスに苦しむ人は少なくありません。政府は、「ワーク・ライフ・バランスと経済成長は車の両輪である」として、企業や個人、国、地方公共団体などが取るべき施策の大枠を示す「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を定めました。
    同憲章では、ワーク・ライフ・バランスの実現を「明日への投資」と捉えて前向きに取り組むよう企業に求めています。ワーク・ライフ・バランスが整えば、競争力と活力の源泉である人材の確保・育成・定着が期待でき、組織の生産性向上につながる可能性が高まるからです。こうした社会的な背景も、健康経営への関心の高まりに一役買っていると考えられます。

【参照】厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903ー1_00001.html

【参照】経済産業省「健康経営オフィスレポート」|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf

【参照】内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室「仕事と生活の調和 推進サイト」|内閣府
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/charter.html


健康経営が企業にもたらすメリット

企業が健康経営に取り組めば、さまざまなメリットが生まれます。具体的にどのようなメリットが生まれるのか見ていきましょう。

健康経営とは?メリットや企業の体制に取り入れる方法、注意点を解説

生産性の向上

同じ業務でも、健康で前向きな従業員が担当する場合と、心や体調が不安定な従業員が担当する場合ではパフォーマンスが異なります。当然ながら、心身共に安定していて仕事に前向きな従業員のほうが、業務のスピードが速く正確性にも優れているはずです。

病気などで欠勤する従業員が減れば、欠勤した従業員のフォローのために無理な働き方をする人も減ります。リソースのしわ寄せが来ることへの不満も解消され、職場全体の活性化につながるでしょう。

企業イメージの向上

経済産業省は、健康経営に前向きな取り組みをしている上場企業を「健康経営銘柄」に選定するほか、優良な健康経営を実践している大企業、および中小企業を「健康経営優良法人」として認定しています。

これにより、対象となった企業は「従業員の健康を第一に考え、健康経営を実践している企業」というイメージが強くなり、社会的なイメージがアップします。

また、近年は大企業や金融機関を中心として、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)や、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への取り組みの有無で取引先を評価する傾向が高まっている事実も見逃せません。
CSRやSDGsの中でも、労働時間や労働条件に関することや、ジェンダー平等に関することは、健康経営と密接に関係しています。取引先と良好な関係を構築していく上でも、健康経営の推進は有効であるといえるのです。

ロイヤリティの向上

現代のワークスタイルに関するニーズの多様化に対応し、働きやすい環境を整えると、従業員は会社に対する信頼度を高め、ロイヤリティが向上します。結果として、どうすれば会社に貢献できるかを考えて行動できる従業員が増え、経営に良い影響を与えてくれるでしょう。

優秀な人材の採用

就職活動や転職活動を行う若い働き手は、給与額や休日・休暇、職種、勤務地などに加えて、「待遇・福利厚生」を吟味して志望する企業を決定する傾向があります。ワークライフバランスが重視される今、従業員の勤務環境や健康に配慮していることは、就職・転職希望者からの高評価につながる重大ポイントなのです。

健康経営を実践している企業は、入社志望者が集まりやすく、優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。

健康経営の各種認定制度によるインセンティブ

健康経営には、「健康経営優良法人」などの認定制度があります。認定を取得することにより、世間へ健康経営に取り組んでいることをアピールできたり、ビジネスに有効な優遇措置を受けられたりと、さまざまなインセンティブを享受できます。
各種認定制度のインセンティブとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。下記に、その一例を挙げました。

<健康経営の各種認定制度によるインセンティブの例>

  • 健康経営優良法人などの認定ロゴマークを使用できる
  • 公共調達・公共事業の入札時に加点がある
  • 自治体のWEBサイトや広報誌などに企業名が掲載される
  • 資金調達に際して、自治体や金融機関による金利優遇がある
  • 保険料が割引される

中小企業が健康経営に取り組むメリット

健康経営に対する取り組みでは大企業の施策が目立ちますが、実は中小企業にこそメリットが大きく、積極的に取り組むべきだといえます。その理由は大きく2つあります。

中小企業ほど、1人分のマンパワーが貴重である

少数精鋭の中小企業ほど、個々のパフォーマンスが全体に及ぼす影響は大きくなります。10人で1つの事業を回している中小企業と、100人が事業部に存在する大企業では、1人分のマンパワーの欠落によるダメージには大きな差があり、健康経営の必要性が高まります。健康経営は、中小企業の貴重なマンパワーを守る上でも有効です。

属人化している業務の担当者損失を防止できる

中小企業においては、業務が属人化する傾向もあります。従業員1人がカバーする業務範囲が広がれば、その1人が休職する時点でビジネスが回らなくなる可能性もあるでしょう。
採用難度が上がる昨今では、新たな人材の獲得も容易ではないはずです。属人化している業務が複数ある中小企業こそ、健康経営の推進はメリットを生みます。

健康経営が個人にもたらすメリット

ここまで、健康経営の実践が企業にもたらすメリットを紹介してきました。健康経営が軌道に乗れば、当然ながら働く個人にもさまざまなメリットがあります。健康経営に取り組むことは、企業と従業員、双方にとって幸せな環境を作ることでもあるのです。

下記より、健康経営が個人にもたらすメリットについても見ていきましょう。

健康維持・増進

従来のように、「健康管理は個人の責任」として各個人に一任された場合、積極的に自己管理に努める人もいれば、多忙を理由に多少の不調には気づかないふりをして働き続ける人もでてきます。

しかし、企業が経営方針として健康経営に取り組めば、従業員も自然とみずからの体調や内面と向き合い、セルフケアを実行するようになるでしょう。健康経営は、仕事に追われて体調管理を疎かにしていた従業員や、「自分は大丈夫」と健康管理に興味がなかった従業員にもアプローチすることができ、企業全体の健康維持・増進が実現します。

やがて、「企業が提供するプログラムがきっかけでマラソンを始めた」「健康診断の数値が気になり、お弁当を持ってくるようになった」といったように、従業員の自主的な動きも見られるようになるはずです。

エンゲージメントの向上

企業が自分たち従業員の健康のためにさまざまな取り組みをしているという事実は、会社に対する感謝や信頼につながり、ワークエンゲージメントを高めます。従業員は、みずからのスキルや経験値、知見を活かして企業に貢献したいと思うようになり、仕事に全力で取り組むようになるでしょう。

ワークエンゲージメントの高い従業員が増えると、個々の力が結集することで組織力が高まり、新たな事業領域への進出や業容拡大など、新たなチャレンジがしやすい土壌ができるのもメリットのひとつです。

業務の効率化によるワークライフバランス向上

健康状態の良い従業員は、みずからの仕事に集中し、最大限のエネルギーを注入して業務を遂行しようとする傾向にあります。一人ひとりがこうしたベストなパフォーマンスを発揮できれば、業務の精度や質を維持しながら業務完遂までにかかる時間を減らして、生産性向上に伴う業務効率化を実現できます。業務の質を保ちながら勤務時間が短縮されれば、従業員のワークライフバランス向上にもつながるでしょう。

健康経営を取り入れるべき企業

健康経営に取り組むことは、今後の企業経営にとって非常に有益です。一方で、健康経営を行うには費用や手間がかかるため、すべての企業が安易に導入を決められるわけではありません。

それでは、特に健康経営を取り入れるべき企業とは、どのような企業なのでしょうか。具体的な例をいくつかご紹介します。

従業員の健康状態の悪化が大きなリスクになる企業

健康経営に取り組むメリットが最も大きいのは、従業員の健康状態の悪化が経営の悪化に直結するような企業です。例えば、運転手の健康状態と安全運転の関連性が非常に高いバスやタクシー、電車、トラックなどの運転手は、寝不足や体調不良、不安定な精神状態を隠して出勤すれば、それが重大な事故につながる可能性が高まります。

従業員がぼんやりしている様子を度々見かけることがあったり、何度言っても小さなミスを繰り返したりする場合は、早めに健康経営に取り組むべきです。なお、「労働安全衛生(健康管理)」は、健康経営をかたちづくる土台であるとNPO法人健康経営研究会は公表しています。

【参照】NPO法人健康経営研究会「健康経営とは」|特定非営利活動法人健康経営研究会(2021年)
https://kenkokeiei.jp/whats

年齢層が高い企業

従業員の年齢層が高い企業も、健康経営の導入によって経営状況が改善するでしょう。少子高齢化が進む中、若手人材の採用が思うように進まず、ミドル層、シニア層の働きに依存している企業は多くあります。

ミドル層はまだしも、シニア層になると、高血圧や糖尿病といった慢性疾患を抱えながら働いている人の割合が高まります。生活習慣病以外の持病があったり、何らかの手術を経験したりしている人も少なくありません。

企業が健康経営に注力し、重要な働き手であるシニア層が元気に長く勤め続けられるようになれば、スキルのある従業員の労働人口減少を抑えることができます。

離職率が高い企業

他社と比べて離職率が高すぎるようなら、背景に何らかの問題があると考えられます。例えば、長時間労働や休日出勤が多い企業は、従業員の心身の負担が大きく、離職につながっている可能性が高いといえます。

また、遅刻や早退を繰り返していたり、休みがちだったりする従業員も、企業側が何もケアをしなければいずれ離職を選択するリスクがあるでしょう。頻繁に休む従業員のサポートをする人も、「本業に集中できない」「休んだ人の仕事を押しつけられている」と感じて、愛社精神が薄れてしまうかもしれません。

これらのことから、労働環境に課題を抱えている企業や、従業員の勤怠に問題がある企業、およびそれによって離職率が高まっていると考えられる企業は、健康経営導入のメリットが大きいと考えられます。

健康経営に取り組むにあたって注意すべきポイント

健康経営に取り組むにあたって注意すべきポイント

健康経営を推進するにあたっては注意点もあります。健康経営に取り組む際には、下記に挙げる3つのポイントを意識しましょう。

短期では効果が見えにくい

健康経営は、長期的な取り組みです。営業が掲げる月の目標や半期の目標などと違って、数値ですぐに判断できるものでもないため、取り組み始めてからしばらくは効果が見えにくいかもしれません。

もし、健康経営の取り組み後に離職率が低下したとしても、それまで行ってきた何らかの人事施策の効果が遅れて出てきた可能性もないとはいえず、健康経営との因果関係を示すのには時間がかかる場合があります。

従業員の協力が必要

健康経営にまつわる、ストレスチェックの結果や健康診断の結果は、個人のセンシティブな情報です。そのため、なぜ管理し、どのように情報を守るのかを従業員に丁寧に説明し、理解を得る必要があります。

また、健康経営を実践すると、定期的な健康診断をはじめ、ストレスチェック、企業が主催する運動プログラムへの参加、健康状況に関するアンケートの回答などへの協力を仰がなくてはなりません。そういったことも、従業員に事前に周知し、ポジティブに捉えてもらえるよう十分に説明しておくことが大切です。

個人情報の管理コストが高まることも

前述したとおり、健康経営を行う企業には、従業員個人のさまざまなデータを管理する義務があります。それらは他人に知られたくない情報であることを十分に考慮し、安全性の高い管理方法を考案しなくてはなりません。

場合によっては、システムでデータの一元管理を行うなど、ある程度の初期投資が求められることも考えられます。

健康経営の各種認定制度

健康経営にはさまざまな認定制度があります。認定を受けることで、健康経営に積極的である姿勢や、具体的な取り組み内容を取引先などに向けて可視化することができます。
ここでは、健康経営に関する主な認定制度を、3つ見ていきましょう。

健康経営優良法人(ホワイト500・ブライト500)

健康経営優良法人は、健康経営に取り組む企業の中でも、特に優良な取り組みを実践している企業を認定する制度です。企業規模に応じて「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」があり、前者の上位法人には「ホワイト500」の冠、後者の上位法人には「ブライト500」の冠が付与されます。

健康経営銘柄

健康経営銘柄とは、東京証券取引所の上場会社の中から優れた健康経営の取り組みをしている企業を選定するものです。長期的な視点で企業の価値向上を重視する投資家に向けて「健康経営銘柄である」ことを紹介できれば、健康経営はさらなる促進が期待できます。

地方自治体の認証

健康経営は国だけでなく、地方自治体でも「健康経営優良法人」認定に向けた支援、認定を受けた事業者への支援を強化しています。入札加点や地域の金融機関と連携した個人ローンの優遇といったインセンティブのほか、独自の顕彰制度を設けている自治体も少なくありません。

健康経営への取り組み方

健康経営には、取り組みを主導する一部のチームだけでなく、すべての従業員の理解や協力が欠かせません。健康経営の実践が決まったら、企業全体で一体的に取り組めるよう、下記のプロセスをぜひ参考にしてください。

1. 経営陣の理解を得る

健康経営を導入するにあたって、まずは意思決定をする経営陣の理解を得ることをおすすめします。

健康経営を行うことによって企業の価値が向上すること、従業員のモチベーションがアップして生産性が向上すること、疾病率が下がって医療費が削減できることなど、企業側のメリットを丁寧に説明し、経営陣に「やる意味がある」と感じてもらうことが大切です。

ただし、闇雲に良さをアピールするだけでなく、取り組みにあたって必要な初期費用や、考えうるリスクなども説明したほうが理解を得やすくなります。健康経営を導入する際はプロジェクトチームを作り、プレゼンテーションの準備をしておきましょう。

2. 会社全体に重要性を周知する

健康経営には、従業員の協力も必要であることは前述したとおりです。せっかく経営陣が理解してくれても、従業員が無関心だったり、盛り上がりに欠けていたりすれば、イベントなどを実施しても期待する効果は得られません。

プロジェクトチームが中心となって、健康経営の重要性を企業内に周知していきましょう。

3. 健康宣言の実行

経営者が社内外に対して健康経営に取り組むことを宣言することも重要です。その際に実行する施策をいくつか示すと、従業員も行動しやすくなります。
また、全国健康保険協会や健康保険組合に「健康経営の宣言」を行うことも大切です。宣言を行うことで、「健康経営優良法人認定制度」にチャレンジできるようになり、インセンティブを受けられる可能性が高まります。

「健康経営優良法人認定制度」とは、経済産業省が優良な健康経営を実践している中小企業などを「健康経営優良法人」として顕彰する制度です。この取り組みについて詳しくは、経済産業省による2000年の事例集もご参照ください。

【参照】経済産業省「健康経営優良法人認定制度」|経済産業省(2022年3月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html

4. 環境整備

健康宣言を実行したら、準備段階のプロジェクトチームから、本格的に健康経営メインで取り組む担当者や部署を決定します。スタート時点での従業員データを確認・分析し、具体的な課題を把握して目標を定めましょう。

5. 施策実行

課題や目標を定めたら、次は具体的な施策を実行します。施策には下記のような例があるので参考にしてください。

<具体的な施策例>

  • ウォーキングの距離を競うなど運動プログラムを導入する
  • 食事についてアドバイスを受けられる機会を設ける
  • 健康意識を高めるセルフケア研修を実施する
  • 社内を禁煙にする
  • 有給の取得を推進する

6. 取り組み評価

施策を実行した後は、定期的に参加状況や浸透状況を見直し、改善を図ったり、施策を追加したりします。健康経営は短期ではなく長期的に効果を判定していくものなので、少しずつでも取り組み内容をブラッシュアップしていきましょう。

健康経営の具体的な取り組み内容

健康経営に取り組む場合、まずはストレスチェックなどのデータから従業員の健康課題を把握し、自社に合った施策を実行することが大切です。ここでは、健康経営の具体的な取り組み内容をご紹介します。

健康診断受診率向上

健康診断受診率の向上は、従業員の健康課題の把握につながる取り組みであり、健康経営の第一歩です。受診率実質100%は健康経営優良法人認定基準の一つでもあるため、積極的に推進しましょう。

健康診断の再検査・特定保健指導の受診勧奨

健康診断は受けたままにせず、再検査や特定保健指導の受診につなげることが大切です。従業員が再診しやすいよう、再診のための休暇を付与するといった取り組みも効果的でしょう。

ワーク・ライフ・バランスの改善

従業員がワーク・ライフ・バランスを維持できる労働環境の構築には、企業による健康経営への取り組みが欠かせません。まずは労働時間を中心に、従業員の働き方を見直しましょう。

病気の治療と仕事の両立を支援

プレゼンティーズムの改善には、病気の治療と仕事を両立できる仕組みが必要です。病を抱えた従業員のための相談窓口や、通院・入院のための休暇制度などを整えましょう。

従業員同士のコミュニケーションを促進

従業員が前向きに仕事に取り組めるか否かは、職場の環境や人間関係が重要なカギを握っています。社内イベント等を通じて、従業員同士のコミュニケーションを活性化させることをおすすめします。

食生活の改善や運動の促進

健康の基本は、食事と運動のバランスが取れた生活にあるといっても過言ではありません。社員食堂や健康に配慮した仕出し弁当の導入、スポーツジムの優待利用などを活用して、従業員の食事と運動の習慣を見直す機会を増やしていきましょう。

メンタルヘルス不調と長時間労働への対応

メンタルヘルス不調を引き起こしやすい長時間労働に対しては、重点的に取り組んで早期改善を図ることが望ましいといえます。
また、メンタルヘルス不調が発生した場合の早期対処も重要です。産業医による面談、就業環境の柔軟な調整、外部相談窓口の利用などを促しましょう。

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女性が働きやすい環境の実現

女性特有の健康課題に配慮し、働きやすい環境を整えることも重要です。月経に伴う不調、不妊治療による心身の負担、更年期障害の症状などについても社内で理解を深め、必要に応じて女性が休暇を申請できるようにしましょう。

分煙と喫煙率低下の取り組み

喫煙、受動喫煙による害についてはセミナーなどで周知し、喫煙率低下に取り組みます。まずは、喫煙スペースを完全に分け、分煙から取り組むといいでしょう。

新型コロナウイルス感染症などの感染症対策

新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染症による急な欠勤で業務に支障が生じないよう、感染予防の取り組みは日頃から徹底しましょう。手指消毒、状況に応じたマスクの着用などが有効です。

従業員は資源でなく資本。健康経営は避けては通れない経営手法です

働くことによって心身の健康を損なう背景には、さまざまな要因が考えられます。企業は、従業員のヘルスケアだけでなく、時代は「人的資源」から「人的資本」へと転換しているという視点を持つことも大切です。働きがいや働きやすさを高めるマネジメントへの移行を、ぜひ全社的に意識していってください。

今後は、人材への投資によって、自社に貢献したいと願う働き手を増やせるか否かが企業の命運を分けるといっても過言ではありません。人という資本が最大のポテンシャルを発揮できる環境づくりをすることが、企業の未来を築くことにつながるのです。

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<監修者>
丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のM&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。

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