雇用シェア(従業員シェア)が社会に広がる理由やメリットとは?活用したい制度を紹介

雇用シェア(従業員シェア)のメリットと社会に広がる理由とは?活用できる助成金制度も紹介

コロナ禍以降、雇用シェア(従業員シェア)が社会に広がっています。雇用シェアが活用される理由やメリット、企業が活用できる制度などを解説します。

目次[非表示]

  1. 1.雇用シェア(従業員シェア)が広がる背景とは?メリットや制度も解説
  2. 2.企業間で従業員を共有する雇用シェア(従業員シェア)
  3. 3.中国と日本における雇用シェア(従業員シェア)の広がり
    1. 3.1.企業の動きに呼応して、中国の地方政府も雇用シェア(従業員シェア)を推進
    2. 3.2.中国に続き、日本にも雇用シェア(従業員シェア)が広がる
  4. 4.雇用シェア(従業員シェア)が活用される理由
    1. 4.1.出向元企業のメリット
    2. 4.2.出向先企業のメリット
    3. 4.3.出向する従業員のメリット
  5. 5.雇用シェア(従業員シェア)の活用事例
    1. 5.1.北海道で行われている雇用シェア(従業員シェア)
    2. 5.2.宮城県石巻市で行われている雇用シェア(従業員シェア)
    3. 5.3.富山県で行われている雇用シェア(従業員シェア)
      1. 5.3.1.・情報収集と提供
      2. 5.3.2.・企業間の人事交流にまつわる相談窓口の設置
      3. 5.3.3.・マッチング成功で奨励金支給
  6. 6.雇用シェア(従業員シェア)で従業員の雇用と信頼を守ろう

雇用シェア(従業員シェア)が広がる背景とは?メリットや制度も解説

新型コロナウイルス感染症の拡大以降、従業員の雇用と、自社の大切な労働力を守る働き方として、「雇用シェア(従業員シェア)」が活用されるようになってきました。雇用シェアとは、企業が一時的に事業を縮小するにあたり、余剰となった人員を他企業とシェアする手法を指します。

ここでは、社会に広がっている雇用シェアが活用される理由やメリットのほか、雇用シェアで活用できる制度などについて解説します。

企業間で従業員を共有する雇用シェア(従業員シェア)

雇用シェア(従業員シェア)は、「在籍出向」の仕組みを使って、2つの企業で従業員を共有する働き方です。出向する従業員は、出向元企業と雇用関係を結んだまま、出向先の企業とも雇用関係を結びます。
そのため、出向元企業は、業績が悪化しても従業員を解雇せずに済み、業績が回復した際には自社に戻ってきてもらうことができます。

在籍出向に似た言葉に「転籍出向」がありますが、転籍出向は出向元企業との雇用関係を解消して出向先企業と雇用関係を結ぶ点で在籍出向とは大きく異なります。

​​​​​【おすすめ参考記事】

  在籍出向が企業と人材を守る?健康経営に役立つ働き方を解説|ステップ – 企業と人を健康でつなぐ コロナ禍の影響で、新しい働き方として在籍出向が注目されてきています。在籍出向の仕組みや転籍との違いのほか、在籍出向が健康経営に役立つ理由について解説します。 株式会社マイナビ

中国と日本における雇用シェア(従業員シェア)の広がり

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2020年2月頃の中国は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、外出が厳しく制限されていました。自ずと、外食産業をはじめとする店舗型の事業者は営業を停止せざるをえず、経営に大きなダメージを受けます。

一方、スーパー・飲食店のオンラインショップや、生活用品を販売・配達するECサイトでは、売上が急激に上昇。自宅で巣ごもり生活をしながら食料品や生活必需品を購入するニーズの増加に伴い、瞬く間に人手不足が進みました。

このように、社会全体における労働受給のバランスが大きく崩れ、人員不足に陥った企業が休業中の企業に声をかける形でスタートしたのが雇用シェア(従業員シェア)です。中国で雇用シェアがどのように広がっていったのか、詳しく見ていきましょう。

企業の動きに呼応して、中国の地方政府も雇用シェア(従業員シェア)を推進

コロナ禍が中国の外食産業に与えた影響は甚大でした。武漢市の封鎖からわずか1週間後、大手外食チェ―ンがキャッシュフローの急激な悪化を公表するほど、混乱した状況だったようです。

中国の清華大学と不動産大手・恒大集団の共同研究所である恒大研究院は、外出自粛が中国の伝統的な祭日である春節に重なった2020年2月、中国全土の外食産業が1週間で被った損失を推算。春節期間の売上が例年の半分になると仮定して見積もりをしました。その額は、5,000億元にも及びます(当時の人民元と円の平均レート1元=16円で計算すると約8兆円)。

その混乱した状況に普及していったのが、雇用シェア(従業員シェア)です。雇用シェアを活用すれば、休業中の企業は社員に支払う賃金の負担を軽減しながら雇用を継続でき、人員不足の企業は短期的な人員増強に迅速に対応できるとあって、導入する企業は急速に拡大しました。

この動きを見た中国の地方政府も、積極的に雇用シェアを進めようと、支援策を展開。例えば、深圳(シンセン)市では、10人以上・1ヵ月にわたって雇用シェアを実行した企業に対して、最高10万元(約160万円)の補助金を支給する政策を打ち出しました。

中国に続き、日本にも雇用シェア(従業員シェア)が広がる

日本でも、2020年4月に緊急事態宣言の発出と不要不急の外出自粛要請がなされ、数ヵ月前の中国と同様に雇用のミスマッチが生じます。そこで、休業や事業の縮小によって余剰労働力が発生した飲食店などのサービス業と、出前需要が増加したデリバリー業界などとのあいだで、雇用シェア(従業員シェア)が行われるようになりました。

アルバイト従業員の雇用確保、出前需要への対応のほか、飲食店とデリバリー業界が交流することで双方の業務理解が進む副次的効果もあり、さまざまな業界や自治体がこれに追随します。群馬県や鳥取県では、地元で休業中のホテルや飲食店の社員を、農家が雇用する動きも見られました。

中国で雇用シェアが始まった当初は、高度な知識や専門的な技術を必要としない単純作業がシェアの対象となっていましたが、日本ではより広範な業界で、社員教育の一環としても活用されている現状があります。

コロナ禍が収束した後も、市場の需給バランスの調整や、異業種から学ぶ仕組みとして、雇用シェアが社会に定着する可能性は高いでしょう。

【参照】産業能率大学「中国企業の最新動向から学ぶ!「従業員シェア」とは?」|学校法人産業能率大学総合研究所(2021年6月)
https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/feature/202106/24-01.html

【参照】経済産業省「新型コロナウイルスの影響を踏まえた経済産業政策の在り方について」|経済産業省(2020年6月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sokai/pdf/026_02_00.pdf

雇用シェア(従業員シェア)が活用される理由

日本において雇用シェア(従業員シェア)の仕組み自体は新しいものではなく、製造業を中心とした一部の業界では活用されていました。しかし、そのほとんどは業界内での雇用シェアが目的でした。

一般社会にこの仕組みが広く浸透し、活用されるようになったのは、前述のとおり、新型コロナウイルス感染症の拡大がきっかけです。外出自粛要請に伴う移動制限で事業が縮小され、人員が余ってしまった航空業界や観光業界が雇用シェアを利用し、巣ごもりで需要が拡大した物流業界などへ従業員を出向させるケースが目立つようになりました。

政府も、出向元と出向先の両方に対して賃金や教育費用などの一部を助成する「産業雇用安定助成金」を2021年に創設し、雇用を守る在籍出向を支援しています。コロナ禍で需要が減少した企業へ在籍出向の活用を呼び掛けたことも、雇用シェアの普及を後押ししたといえるでしょう。

また、出向元の企業だけでなく出向先企業、出向する従業員、三者すべてにメリットがあることも、雇用シェアが活用されている理由のひとつです。具体的には、下記のようなメリットがあります。

出向元企業のメリット

  • 企業が従業員の雇用を維持できる
  • 出向期間を満了した従業員は自社に戻るため、出向元企業は業績回復後に新たな採用活動をしなくてよい
  • 出向元企業は従業員の優れた技術や、豊富なノウハウを失わずに済む
  • 出向元企業、従業員が他社の知見を吸収できる
  • 出向元企業は業績が悪化しているあいだ、人件費の負担を軽減できる

出向先企業のメリット

  • 出向先企業は人手不足の際にも、採用コストや教育コストをかけずに即戦力を確保できる
  • 従業員の賃金や社会保険料は出向元企業との協議のもとで負担し合うため、出向先企業は人件費削減につながる
  • 出向先企業が出向元企業のノウハウや技術を自社に取り入れることができる
  • 出向してきた従業員が、出向先企業で働く従業員の刺激になり、社内が活性化する
  • 出向先企業は出向元企業とネットワークを構築できる

出向する従業員のメリット

  • 従業員は転職せずに、異なる業界・異なる職種で経験を積むことができる
  • 従業員は雇用が維持されるため、期間満了後は出向元の企業に戻ることができる
  • 出向元企業の業績回復を待つあいだも、従業員は仕事を続けることができる
  • 出向した従業員の人脈が広がる​​​​​​​

雇用シェア(従業員シェア)の活用事例

政府の積極的な支援の動きを受けて、各自治体も雇用シェア(従業員シェア)の支援に取り組んでいます。

続いては、各自治体でどのような支援が行われているのか、活用事例を見ていきましょう。

北海道で行われている雇用シェア(従業員シェア)

北海道は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって観光客が激減しています。旅館やホテルなどの宿泊業、レストランなどの飲食業、お土産品を作る製造業などが打撃を受ける一方、北海道の基幹産業である農業では、農繁期に向けて人手不足が深刻化していました。

事業の継続や雇用維持に頭を悩ませる観光関連業と、人手不足に苦しむ農業、食品加工業、運送業などとのあいだで雇用のミスマッチが発生していることに着目した北海道庁は、業界を結ぶ人材マッチングサイト「北海道短期おしごと情報サイト」を開設。

短期的に働きたい方、副業したい方なども含めて応募をし、短期バイトや在籍出向の形で雇用シェア(従業員シェア)を促進しました。

2022年4月時点のマッチング実績は、277名に上ります。

【参照】北海道庁「北海道短期おしごと情報サイト」|北海道庁(2022年4月19日)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/jzi/oshigoto.html

宮城県石巻市で行われている雇用シェア(従業員シェア)

新型コロナウイルス感染症の拡大は、漁業・水産業界にも影響を及ぼしました。海外からの入国が規制されたことによって、重要な労働力だった外国人技能実習生を確保できなくなり、事業の継続が困難になる水産事業者が相次いだのです。

そこで、石巻市が窓口となり、コロナ禍による休業や営業縮小で雇用維持に苦しむ宿泊業・飲食業、サービス業などから、採用に苦戦する水産事業者への人材マッチングを実施。経営状況や休業状況、業務内容に応じて、副業、業務委託、在籍出向の中から最適な方法を提案できるようにしました。

これは、長年にわたって潜在的な労働力不足にあえいできた漁業・水産業界にとって画期的な試みであり、コロナ禍をきっかけとした新たな労働力確保の手法として注目されています。

【参照】石巻市「石巻市水産業人材マッチング事業 今こそ、職に交流を。」|石巻市産業部水産課(2021年2月)
https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10453000/http___webmail.city.ishinomaki.lg.pdf

富山県で行われている雇用シェア(従業員シェア)

富山県は、余剰人材がある企業と人手不足の企業をつなぐ窓口として、雇用維持のための人事交流支援事業を展開しています。人事交流支援事業が行っている主な支援は、下記の3つです。

・情報収集と提供

雇用の維持・継続が難しい企業と、雇用を拡大したい企業の情報をそれぞれ収集し、管理。富山県人材活躍推進センターのウェブサイトに情報を掲載しています。

・企業間の人事交流にまつわる相談窓口の設置

在籍出向の形で企業間の人事交流をした場合、どのような契約が必要なのか、労働条件はどのようにすべきなのかといった疑問・質問を解決するため、社会保険労務士による相談窓口を設置しています。

・マッチング成功で奨励金支給

形式的な支援で終わらず、雇用の継続につながるよう、奨励金も設定。マッチングが成立し、受け入れ企業で人材が1ヵ月以上就業した場合、受け入れ企業に対して1件につき10万円の奨励金が支給されます。

また、富山県では、「富山県在籍型出向支援補助金」を創設し、国の産業雇用安定助成金の支給が決定した事業主に対して、出向に要した賃金の一部を補助しています。

【参照】とやま移住・就職総合支援ポータルサイト「雇用維持・継続のための人事交流・人材派遣支援について」|富山市(2020年6月)
https://toyama-lifework.jp/_wp/wp-content/uploads/2020/06/32df15d507c0c2e4a464e66e71e96a93.pdf

雇用シェア(従業員シェア)で従業員の雇用と信頼を守ろう

雇用シェア(従業員シェア)で大切な従業員の雇用を守りましょう。

雇用シェア(従業員シェア)は、企業にとって大切な従業員の雇用を守り、経営が苦しいときでも彼らのやり甲斐を失わせることなく、信頼関係を維持できる仕組みです。

国や自治体による支援も豊富で、雇用シェアに前向きな企業も増えてきました。

出向元企業、出向先企業の双方に助成がある産業雇用安定助成金も活用しながら、雇用シェアで業績回復後の発展に向けた地盤固めをしてみてはいかがでしょうか。

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<監修者>
丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のM&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。

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