ゼロゼロ融資、借りた企業の状況は?返済の開始時期とピークや返済に向けた対策を解説

ゼロゼロ融資、借りた企業の状況は?返済の開始時期とピークや返済に向けた対策を解説

文/斎藤 勇 ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士

コロナ禍で多くの企業の資金繰りを支えたゼロゼロ融資の返済が、本格的に始まろうとしています。そこで今回は、ゼロゼロ融資を含めた新型コロナ関連融資の借り入れ・返済の状況を、調査結果などをもとにファイナンシャルプランナーの斎藤 勇さんが解説します。あわせて、1月10日に始まった中小企業庁借り換え保証制度など、返済に向けた対策についても考えてみましょう。

目次[非表示]

  1. 1.ゼロゼロ融資とは
  2. 2.民間企業の半数が利用したコロナ関連融資
  3. 3.ゼロゼロ融資の返済はすでに始まっている
  4. 4.ゼロゼロ融資返済に向けた対策は?補助金、借り換え保証制度など
  5. 5.早めの準備が大切。政府の窓口や補助制度・サービスの活用も検討しよう

ゼロゼロ融資とは

ゼロゼロ融資について簡単におさらいしてみましょう。

ゼロゼロ融資とは、新型コロナウイルス感染症の拡大で売上が減った企業を支援するための融資です。金融機関に支払う利子は公的機関が3年間負担し、返済できない場合も信用保証協会が肩代わりする、実質無利子(利子ゼロ)・無担保(担保ゼロ)だったことから「ゼロゼロ融資」と呼ばれました。

ゼロゼロ融資が始まったのは2020年です。当初は日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関が手掛けていましたが、2020年5月からは民間の金融機関も融資できるようになりました。民間の金融機関は2021年3月、政府系金融機関は2022年9月に受付を終了しています。

民間金融機関の融資の概要を見ると、融資の対象になるのは新型コロナウイルスの影響で売上が減った個人事業主と小・中規模事業者で、融資上限額は4,000万円(拡充前は3,000万円)、融資期間は10年以内、そのうち元金の返済が猶予される据え置き期間は5年以内といった内容でした。

民間企業の半数が利用したコロナ関連融資

ゼロゼロ融資は、コロナ禍で多くの企業の資金繰りを支援してきました。株式会社帝国データバンクの調査によると、新型コロナウイルス関連融資(ゼロゼロ融資を含む・以下同じ※1)を「現在借りている」企業は49.2%で、「すでに全額完済」の1.3%を合わせると、約半数の企業が融資を受けていました(図1)。「現在借りている」と回答した企業は、原材料高騰や円安の影響を受けた「家具類小売」(77.8%)、「旅館・ホテル」(75.9%)、「飲食店」(74.2%)、「繊維・繊維製品・服飾品小売」(73.7%)など、個人消費に関連した業種で高くなりました。

※1)新型コロナ感染症の拡大に対応して実施された政府系金融機関と民間金融機関による金利や返済条件が優遇された融資。日本政策金融公庫の「新型コロナ特別貸付」「新型コロナ対策資本性劣後ローン」など、政策投資銀行と商工中金の新型コロナ関連「危機対応融資」、民間融資のうち信用保証協会の「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」を通じた保証付き融資などがある。

図1:新型コロナ関連融資の借り入れ有無

新型コロナ関連融資の借り入れ有無新型コロナ関連融資の借り入れ有無
出典:株式会社帝国データバンク「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2022年8月)」
※全国2万6,277社を対象にした調査で、有効回答企業数は1万1,935社(回答率45.4%)。2022年8月18日~8月31日に実施。

また、中小企業庁が公表している資料によると、2020年1月から2022年2月までの時点で、日本政策金融公庫は約97万件・約16兆円の融資を承諾、信用保証協会は約195万件・約37兆円の信用保証※を承諾しています。そのうち、民間の金融機関が実施したゼロゼロ融資による信用保証は約137万件・約23兆円で、リーマンショック時の緊急保証を上回っています(図2)。※2022年9月末終了時点では、43兆円と推計。

図2:日本公庫の融資承諾件数と信用保証承諾件数

日本公庫の融資承諾件数と信用保証承諾件数日本公庫の融資承諾件数と信用保証承諾件数
出典:中小企業庁「第1回金融小委員会事務局資料(今後の間接金融のあり方について) 2022年2月17日」

日本政策金融公庫の信用保証の申請件数の推移を見ると、ゼロゼロ融資が始まった直後の2020年4月から6月にピークを迎えています(図3)。その後は減少傾向になりましたが、民間の金融機関によるゼロゼロ融資の申込期限が迫ってきた2021年1月から3月にかけて再び増加しています。ゼロゼロ融資の据え置き期間は5年以内ですが、3年以内で設定した中小企業が多いようです。ゼロゼロ融資の返済は既に開始している企業も多いですが、仮に据え置き期間を3年で設定していると、ピーク時に融資を受けた企業の返済が始まる2023年夏ごろから、返済が本格化してくる可能性があります。

図3:日本政策金融公庫・信用保証の申請件数

日本政策金融公庫・信用保証の申請件数日本政策金融公庫・信用保証の申請件数
出典:中小企業庁「第1回金融小委員会事務局資料(今後の間接金融のあり方について) 2022年2月17日」

ゼロゼロ融資の返済はすでに始まっている

先述の帝国データバンクの調査によると、新型コロナ関連融資を「現在借りている」と答えた企業のうち、約7割が返済を開始しています。ただ、返済を始めたばかりの企業が多く、融資の返済状況は「5割以上返済」が13.3%にとどまり、「3割未満返済」が42.3%を占めています。また、「未返済・今後返済開始」が32.6%に達し、返済がこれから本格化してくる様子がうかがえます(図4)。

図4:融資の返済状況

融資の返済状況融資の返済状況
出典:株式会社帝国データバンク「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2022年8月)」
※全国2万6,277社を対象にした調査で、有効回答企業数は1万1,935社(回答率45.4%)。Nは新型コロナ関連融資を「現在借りている」企業5,871社。2022年8月18日~8月31日に実施。

新型コロナ関連融資を「現在借りている」企業の返済見通しは、85.5%が「条件通り全額返済できる」と考えています。ただ、「返済が遅れる恐れがある」(5.2%)や「金利減免や返済額の減額・猶予など条件緩和を受けないと返済は難しい」(4.8%)、「返済のめどが立たないが、事業は継続できる」(1.1%)、「返済のめどが立たず、事業を継続できなくなる恐れがある」(1.0%)など、12.2%が「返済に不安」を感じており、その割合は2022年2月調査時の9.0%から増加しています(図5)。ゼロゼロ融資の返済が本格化するのに合わせ、事業継続が困難になる企業が増えてくることが懸念されます。

図5:新型コロナ関連融資の今後の返済見通し

新型コロナ関連融資の今後の返済見通し新型コロナ関連融資の今後の返済見通し
出典:株式会社帝国データバンク「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2022年8月)」
※全国2万6,277社を対象にした調査で、有効回答企業数は1万1,935社(回答率45.4%)。Nは新型コロナ関連融資を「現在借りている」企業5,871社で、2022年2月は5,964社。2022年8月18日~8月31日に実施。

ゼロゼロ融資返済に向けた対策は?補助金、借り換え保証制度など

ゼロゼロ融資に限らず、融資は計画通りに返済していかなければなりません。ゼロゼロ融資の返済がこれから始まる場合には、早めに対策を立てておく必要があります。

対策としては、売上増加を目指して採算が取れる事業を拡大、事業転換、新規事業を立ち上げるといった、積極的な事業展開で収益を増やしていくのが理想ですが、厳しい事業環境にある中で、売上の増加は見込が立ちづらいというケースが多いのではないでしょうか。そのため、まずは経費の削減や役員報酬の減額といった身を切る対策が必要になります。営業利益が出る体質に転換することは必須です。

それでも返済のめどが立ちそうもない場合には、補助金、助成金、2023年1月10日から始まる借り換え保証制度などがあります。
経済産業省が設けている「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」に給付金や補助金、資金繰りの相談をするといいかもしれません。保証限度額の別枠化で資金調達が可能になる「セーフティネット保証制度」の利用や、月々の返済額の減額・返済の延期ができる「条件変更」で、資金繰りが改善する可能性があります。

また、人員が過剰気味の企業から、人手不足が生じている企業への出向をサポートする「在籍型出向支援」や転籍(転職)支援のサービスもあります。一定の条件の在籍出向をさせた場合にもらえる「産業雇用安定助成金」や、その中でスキルアップのための出向なら「スキルアップ助成金」もありますし、削減した人件費を融資の返済に回すことができるため、こうした出向支援サービスの利用も検討するといいでしょう。

中小企業庁は1月10日にゼロゼロ融資の借り換え保証制度を開始します。計画書の提出や、売上高の減少など条件がありますが、保証限度額は1億円、元本返済猶予期間は最大5年となっています。

早めの準備が大切。政府の窓口や補助制度・サービスの活用も検討しよう

ゼロゼロ融資に限ったことではありませんが、融資の返済に向けて、早めに資金繰りをしておくことが大切です。必要に応じて金融機関や専門家への相談、公的な補助制度の活用も視野に入れ、無理のない返済計画を立てていきましょう。

【プロフィール】
斎藤 勇

オフィスISC代表
ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士
保険や貯蓄、住宅ローンなど、お金にまつわる疑問や悩みごとの相談に応じている。不動産取引では不動産投資を通じて得た豊富な取引経験をもとに、売り手と買い手、貸し手と借り手、それぞれの立場でアドバイスを実施。趣味はマリンスポーツ。モットーは「常に感謝の気持ちを忘れずに」。

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