エイジフレンドリーとは?企業に必要な取り組みや補助金について解説
少子高齢化による労働力不足を補いたい企業の意向と、長い老後生活への経済的・健康的な不安から就労の継続を希望する高齢者自身の意向が相まって、シニア世代の雇用者数は年々増加しています。「令和6年版高齢社会白書」によれば、総人口に占める65歳以上の割合は29.1%でした。
こうした中、高齢労働者が安心して働き続けられるよう、その特性に配慮した職場づくりを目指す「エイジフレンドリー」が企業に求められています。
本記事では、エイジフレンドリーを実現したい企業に向け、具体的な取り組みや補助金の対象となる施策などについて詳しく解説します。
【参照】内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)」|内閣府(2024年6月)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/06pdf_index.html
目次[非表示]
- 1.エイジフレンドリーとは、働く高齢者の特性に配慮すること
- 2.エイジフレンドリーの目的
- 3.エイジフレンドリーが求められる社会的な背景
- 3.1.高齢者・女性の労働力人口の増加
- 3.2.労働災害が多い業種での高齢就業者の増加
- 4.エイジフレンドリーにおいて企業に求められること
- 4.1.安全衛生管理体制を確立する
- 4.2.職場環境を改善する
- 4.3.個別の健康状態や体力を把握する
- 4.4.安全衛生教育を実施する
- 5.エイジフレンドリーにおいて労働者に求められること
- 6.エイジフレンドリーの実現に必要なこと
- 6.1.多様な働き方を推進する
- 6.2.産業保健の重要性を若手従業員にも理解してもらう
- 6.3.ストレスチェックを定期的に実施する
- 6.4.メンタルヘルスの維持を目的とした研修を行う
- 6.5.従業員同士のコミュニケーション促進を図る
- 7.⾼齢者を含む労働者が安全に働ける取り組みへの補助金「エイジフレンドリー補助金」
- 7.1.高年齢労働者の労働災害防止コース
- 7.2.転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース
- 7.3.コラボヘルスコース
- 8.エイジフレンドリーを重視して、より良い職場環境を作ろう
エイジフレンドリーとは、働く高齢者の特性に配慮すること
エイジフレンドリーとは「高齢者の特性を考慮した」を意味する言葉であり、年齢を問わず誰もが安心して働ける安全で健康的な職場づくりのことを指します。
エイジフレンドリーは、WHO(World Health Organization:世界保健機関)や欧米の労働安全衛生機関で使用され、国内では2020年に厚生労働省から「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」が示されました。
【参照】厚生労働省「「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を公表します」|厚生労働省(2020年3月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10178.html
エイジフレンドリーの目的
エイジフレンドリーは、働く高齢者や社会的弱者を守るための取り組みです。
労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち60歳以上の労働者の割合が増加傾向にあることや、労働災害発生率が若年層に比べて高年齢層で高いことなどを受けて推進されるようになりました。労働災害では、特に転倒災害、墜落・転落災害の発生率が高く、女性で顕著にみられます。
少子高齢化が続く日本では、高齢者や女性の労働者が今後も継続的に増加することが見込まれており、エイジフレンドリーな職場づくりはどの企業にとっても喫緊の課題です。
【参照】厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン概要(エイジフレンドリーガイドライン)」|厚生労働省(2020年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000608124.pdf
エイジフレンドリーが求められる社会的な背景
エイジフレンドリーの取り組みが進む背景には、2つの社会的な問題があります。具体的に日本ではどのようなことが問題となっているのか見ていきましょう。
高齢者・女性の労働力人口の増加
日本の15~64歳の人口を示す「生産年齢人口」は、少子高齢化の影響で年々減少を続けています。一方、働いている人、あるいは働く意思があって就業機会があればすぐ働ける人の割合を示す国内の労働力人口(15歳以上の就業者と完全失業者の合計数)は増加傾向にあります。
労働力人口の増加は、これまで労働力に含まれていなかった65歳以上の高齢者や、女性の労働参加が進んだことによるものです。
若年層に比べて体力面、身体機能面で劣る面もある高齢者や女性の労働者が増えたことで、企業はこれまで以上に職場の環境面への配慮が求められているのです。
【参照】内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)」|内閣府(2024年6月)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_1_1.html
労働災害が多い業種での高齢就業者の増加
就業者数全体に占める高齢者の数は、特に労働災害の発生件数が多い業種でも増加しています。厚生労働省が発表した2021年の「高年齢労働者の労働災害発生状況」によれば、陸上貨物運送事業、社会福祉施設、製造業の現場などで労働災害の高齢化率が顕著でした。
高齢者は、身体機能や筋力が低下することにより、わずかな段差に足をとられて大きなけがに発展することも少なくありません。また、回復までの期間も長期化する傾向にあります。労働災害が多い職場での高齢化率の上昇によって、働きやすい職場づくりの重要性はこれまで以上に高まっているといえます。
【参照】厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課「令和3年 高年齢労働者の労働災害発生状況」|厚生労働省(2022年5月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000943973.pdf
エイジフレンドリーにおいて企業に求められること
エイジフレンドリーを実践する上で、企業にはどのような工夫や取り組みが求められるのでしょうか。ここでは、エイジフレンドリーにおいて企業が意識したい4つのポイントを紹介します。
安全衛生管理体制を確立する
労働安全衛生法では、事業者の自主的な安全衛生活動によって労働災害を防ぐため、安全衛生管理体制を整備することを義務付けています。企業はその規模や業種に応じて、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者および産業医を選任しなくてはなりません。
経営層は、会社の方針として安全衛生管理体制を構築し、高齢者の労働災害を防止する方針を社内に示すとともに、必要なポジションに人員を配置しましょう。併せて、現場で感じるリスクや負担について、日頃から従業員への聞き取りをすることも大切です。
【参照】厚生労働省 新潟労働局「安全衛生管理体制のあらまし」|厚生労働省
https://jsite.mhlw.go.jp/niigata-roudoukyoku/library/niigata-roudoukyoku/jigyounushi/anzen/pdf/251007kanritaisei_aramashi_.pdf
職場環境を改善する
企業は高年齢労働者の立場に立って、職場環境を改善する必要があります。
例えば、急な階段には手すりをつける、荷物を持って行き来する動線上の段差にはスロープを設置する、といったことです。長時間の勤務や、薄暗い場所での勤務も体力や視力の問題で負担になる可能性があるため、シフトや勤務場所、作業スピードなどについても柔軟に調整する必要があります。
個別の健康状態や体力を把握する
高齢者と一言で言っても、持病の有無や体力の度合いは人によって異なります。定期的に健康診断や体力チェックを実施し、企業と従業員の双方で健康状況や体力の状況を客観的に把握しましょう。
また、健康診断や体力チェックの結果に応じて、下記のように無理なく働けるように検討することも重要です。
<個別の健康状態や体力の状況に応じた対応例>
- 高年齢労働者の状況に応じた業務を提供する
- 心身両面にわたる健康保持増進措置を講じる
安全衛生教育を実施する
労働安全衛生法では、事業者が労働者に対して安全衛生教育を行うことを義務付けています。文字だけでなく映像や写真などの視覚情報も駆使して、職場の安全と衛生についてわかりやすく指導しましょう。
なお、特に危険な業務に従事する労働者に対しては、特別な安全衛生教育を実施しなければなりません。
【参照】厚生労働省 長野労働局 各労働基準監督署「労働者への安全衛生教育の実施が義務付けられています」|厚生労働省(2022年9月)
https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/content/contents/kenanka_oshirase_aneikyouiku-gimu202209.pdf
エイジフレンドリーにおいて労働者に求められること
エイジフレンドリーを実践する場合、企業が一方的に働きかけるだけではなく、従業員との双方向型で取り組むことが大切です。
厚生労働省の「エイジフレンドリーガイドライン」では、従業員に対し、事業者が実施する労働災害防止対策の取り組みに協力するとともに、自己の健康を守るための努力の重要性を理解し、みずからの健康づくりに積極的に取り組むよう求めています。
企業は、従業員が日頃から自己の健康を意識し、企業の取り組みに関心を持つよう働きかけていく必要があります。
エイジフレンドリーの実現に必要なこと
エイジフレンドリーな職場を作るには、職場全体の理解と協力が不可欠です。特に、下記の5つを意識して取り組みましょう。
多様な働き方を推進する
短時間勤務や時差出勤といった多様な働き方を推進することは、個別の事情に対して柔軟な対応がしやすい職場環境へとつながります。
「病院に行ってから出勤したい」「体力的な問題で、夕方は早めに退出したい」といった高齢者のニーズに沿った働き方を尊重することは、エイジフレンドリーの実現に必要なことといえます。
産業保健の重要性を若手従業員にも理解してもらう
産業保健とは、従業員の健康状態や作業環境を把握し、業務による疾病の発症や悪化を防ぐことを目的とした活動のことです。
健康リスクを未然に防ぐことは、従業員の健康を守り、経営リスクを軽減する上でも重要な取り組みです。従業員一人ひとりに産業保健活動の重要性を伝え、自分や周りの人の働きやすさに配慮した環境づくりに率先して取り組む風土を育みましょう。
ストレスチェックを定期的に実施する
50人以上の労働者がいる事業場には、従業員がみずからのストレスの度合いに気づいて早期に対処できるよう、ストレスチェックを行う義務があります。
高年齢労働者は、職場内での世代間ギャップによる人間関係の悩みをはじめ、思うように作業ができないことに対する不安やいら立ちなどを抱えている可能性もあるため、定期的にストレスチェックを行って適切な対策につなげましょう。
メンタルヘルスの維持を目的とした研修を行う
メンタルヘルスの不調を放置すると、欠勤や休職、離職に至る可能性があるほか、うつ病や適応障害といった重い精神疾患を引き起こすことがあります。
従業員自身、あるいは周囲の従業員がメンタルヘルスの不調に気づけるよう、メンタルヘルスの正しい知識を学ぶための研修も実施しましょう。
従業員同士のコミュニケーション促進を図る
年齢を問わず闊達にコミュニケーションを取り合う風土があると、高齢者も世代差を気にせず会話に加わることができ、ストレスの軽減につながります。そのような風土ができ上がれば、仕事の情報交換や連携もスムーズになり、業務効率も上がるでしょう。
⾼齢者を含む労働者が安全に働ける取り組みへの補助金「エイジフレンドリー補助金」
エイジフレンドリーな職場を実現するには、設備の整備や研修の実施などを行う必要があります。そこで検討しておきたいのがエイジフレンドリー補助金です。ここでは、エイジフレンドリー補助金の3つのコースを紹介します。
高年齢労働者の労働災害防止コース
高年齢労働者の労働災害防止コースとは、60歳以上の高年齢労働者の安全性を確保するため、身体機能の低下を補う設備・装置の導入、およびその他の労働災害防止対策を実施した場合の費用を補助するものです。当該コースの具体的な内容は下記のとおりです。
<補助額>
補助率1/2、上限額100万円
<取り組み例>
- 段差の解消
- 階段への手すりの設置
- 重量物を搬送する機器の導入
- 熱中症リスクの高い事業場への休憩施設の整備
転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース
転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コースとは、労働者の身体機能低下による転倒や腰痛防止を目的とした補助金です。身体機能維持改善の専門家による運動プログラムにもとづいた身体機能のチェックや、専門家による運動指導などを行った場合の費用を補助します。
<補助額>
補助率3/4、上限100万円
<取り組み例>
- 転倒防止、腰痛予防のための医師や理学療法士による身体機能チェック・運動指導
コラボヘルスコース
コラボヘルスコースとは、医療保険者と事業者が積極的に連携し、良好な職場環境づくりと労働者に対する健康づくりを効果的・効率的に実行するための費用を補助するものです。当該コースの具体的な内容は下記のとおりです。
<補助額>
補助率3/4、上限30万円
<取り組み例>
- 健康教育、研修
- システム導入
- 栄養、保健指導
【参照】厚生労働省「「令和6年度エイジフレンドリー補助金」のご案内」|厚生労働省(2024年)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001158947.pdf
エイジフレンドリーを重視して、より良い職場環境を作ろう
高齢者を含む全従業員が安心して働ける仕組みを作るエイジフレンドリーは、少子高齢化が進む日本において重要度の高い取り組みです。エイジフレンドリーに取り組み、多様性を受け入れる企業風土を作ることができれば、健康経営の推進につながることも期待できるでしょう。
「マイナビ健康経営」は、人と組織の「ウェルネス(健康)」をさまざまなサービスでサポートしています。エイジフレンドリーや健康経営に興味をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
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