副業OKにする企業のメリットは?副業制度について詳しく解説
2018年、厚生労働省のガイドラインに副業・兼業に関する規定が新設されたのをきっかけに、副業を解禁する企業が増加しました。副業には、従業員のスキルアップ・モチベーションアップのほか、本業以外で得た知見がビジネスアイデアの創出につながる可能性があるなど、さまざまなメリットがあります。
本記事では、健康経営の観点からも推奨される副業について、企業のメリットや副業制度のポイント、適切な運用の仕方などを詳しく解説。副業をOKとしている企業の事例についても紹介します。
【参照】厚生労働省「副業・兼業」|厚生労働省(2022年10月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
目次[非表示]
- 1.副業制度とは、副業を認めるにあたって会社が定めた制度
- 1.1.企業が労働者の自由を制限できるケースもある
- 1.2.副業と兼業の違い
- 2.副業がタブー視されていた背景
- 3.企業が副業を容認するようになった背景
- 3.1.働き方改革の影響
- 3.2.副業を希望する人の増加
- 4.副業のメリット
- 4.1.従業員にとっての副業のメリット
- 4.2.企業にとっての副業のメリット
- 5.副業OKにする場合のデメリット
- 6.副業解禁に向けて企業が行うべきこと
- 6.1.従業員のニーズを把握する
- 6.2.仕組みづくりをする
- 7.副業を解禁している企業の事例
- 8.従業員の満足度を高める副業は、健康経営の観点からも効果的
副業制度とは、副業を認めるにあたって会社が定めた制度
副業とは、現在勤めている会社の業務とは別に、本業の勤務時間以外を使って別の仕事に従事することをいいます。
副業制度とは、副業を認めるにあたって会社が定めた制度のことで、副業の扱い方、ルール、申請フローなどが明記されます。最近では、社内の別部署の業務も兼務することを「社内副業」と呼び、自社内での副業を推奨する企業も増えました。
政府が働き方改革の一環として推進する副業は、企業にとって避けては通れないものとなってきています。
企業が労働者の自由を制限できるケースもある
労働者が勤務先の労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由です。厚生労働省は、企業や、企業で働く人が副業を取り入れる上で、現行の法令のもとで注意すべき労働時間管理や健康時間管理などについてまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成しています。
2020年には、副業・兼業におけるルールを明示すべくそのガイドラインを改定。2022年には、副業・兼業をする多様なキャリア形成を促すべく、さらなる改定が行われました。
ガイドラインでは、副業が増加傾向にあること、またその目的は経済的な理由からキャリア志向によるものまでさまざまであることに触れ、「過去の裁判例から、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由である」と明言しています。
その上で、各企業において労働者の自由を制限できるケースとして、下記の4つを挙げています。
<労働者の自由を制限できるケース>
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
【参照】厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」|厚生労働省(2022年7月)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
副業と兼業の違い
厚生労働省のサイトでも「副業・兼業」と並列で表記されているように、副業と同時に聞くことが多いのが兼業です。
一般的には、それぞれに対して下記のようなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。
・副業
あくまでも現職がメインであり、サブとして副業がある状態。副業は本業のない休日や余暇を利用して行う。
・兼業
仕事のメインとサブの区別が曖昧で、どちらにも同程度の比重を置いている状態。複数の仕事を同列で掛け持ちする。
実際のところ、副業と兼業はほぼ同義で使われており、明確な違いはありません。中小企業庁の「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業 研究会提言」では、「兼業・副業とは、一般的に、収入を得るために携わる本業以外の仕事を指す」としています。
【参照】中小企業庁経営支援部創業・新事業促進課経済産業政策局産業人材政策室「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業 研究会提言」中小企業庁(2017年3月)
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hukugyo/2017/170330hukugyoteigen.pdf
副業がタブー視されていた背景
副業元年とも呼ばれる2018年以降、多くの企業が副業の許可を推進しました。その一方、依然として副業を認めていない企業も少なくありません。背景には、日本型雇用と呼ばれる「終身雇用制度」「年功序列」の影響があると考えられます。
終身雇用制度は、企業の業績が悪化して倒産しない限り、従業員を定年まで雇用し続ける制度です。年齢や勤続年数に応じて役職と賃金が上がっていく年功序列と併せて老後までの安定した生活を保障したことで、従業員は多少過酷な労働条件であっても企業の成長のために力を尽くすようになりました。
日本の戦後復興の礎となった高度経済成長は、「就職」ではなく「就社」の仕組みの中で実現し、現在のシニア層に大きな成功体験を残したのです。その結果、経済が右肩上がりに拡大する時代が終わっても、副業はお世話になっている会社に背く行為のように捉えられ、タブー視する風潮がありました。
10人以上の従業員を雇用する企業に作成義務のある就業規則の見本「モデル就業規則」には、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定があったことからも、副業に対する世間の見方がうかがえます。
2017年1月には、当時の一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)の会長であった榊原定征氏が、「兼業による仕事のパフォーマンスの低下」「情報漏洩のリスク」などの課題を挙げて、推進しない立場を表明しています。
【参照】厚生労働省「モデル就業規則について」|厚生労働省(2022年11月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html
企業が副業を容認するようになった背景
経団連が2022年10月に公表した「副業・兼業に関するアンケート調査結果」によれば、回答企業の70.5%が副業を認め、17.5%が認める予定があると回答しています。
ここまで副業を容認する動きが広がった背景には、大きく下記の2つの理由が挙げられます。
働き方改革の影響
2017年、厚生労働省より「働き方改革実行計画」が打ち出されました。この中で、「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第2の人生の準備に有効」として推奨されたのが副業・兼業です。労働者の健康に留意しつつ、副業・兼業を認める方向でガイドラインを策定していく考えが明記され、モデル就業規則から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」の一文が削除されました。
2018年のモデル就業規則は「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」との一文に差し替えられています。
副業を希望する人の増加
政府の動きに伴う新たな価値観の醸成や、率先して働き方の多様化に取り組む企業の影響で、副業を希望する人は年々増加しています。コロナ禍で収入が不安定になり、先行きに不安を感じる人が増えたことも、副業への関心が高まった理由のひとつでしょう。
【参照】一般社団法人日本経済団体連合会「副業・兼業に関するアンケート調査結果」|一般社団法人日本経済団体連合会(2022年10月)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/090.pdf
【参照】株式会社マイナビ「「働き方、副業・兼業に関するレポート(2020年)」|株式会社マイナビ(2020年10月)
https://www.mynavi.jp/news/2020/10/post_28795.html
副業のメリット
副業を解禁することには、従業員と企業、双方にメリットがあります。ここでは、副業で得られるメリットをそれぞれの立場から見ていきましょう。
従業員にとっての副業のメリット
従業員の視点に立つと、副業のメリットは大きく下記の4つがあります。
・離職せず別の仕事を経験できる
例えば本業が営業職で、エンジニアの仕事に挑戦したい場合、これまでは転職しか方法がありませんでした。しかし、安定した本業を手放してのチャレンジは、心理的な面でも採用ハードルの面でも難度が高いものです。
一方、副業であれば、現職を離職せずに興味のある仕事を経験することができます。副業で得た視点が本業に良い効果を与えることも期待できるでしょう。
・本業の所得を支えにして、自分がやりたいことに挑戦できる
「やりたいこと」が即「稼げる仕事」になるとは限りません。スキルが身につくまで、本業の所得を支えにしながら自己実現の方法を追求することもできます。
・所得が増加する
副業をすることで総収入のアップが期待できます。経済的な不安がある人や、将来に向けてより収入を増やしたい人にとっては大きなメリットです。
・リスクを低減しながら将来の起業・転職に向けた準備ができる
副業であれば本業の収入で生活を安定させたまま、新たな知見、スキル、人脈を得てキャリア形成することができます。将来的に起業や転職を考えている人の準備期間としても副業はおすすめです。
企業にとっての副業のメリット
企業にとっての副業のメリットは、大きく下記の4つが挙げられます。
・従業員のスキルor能力質向上
副業で他社の業務に従事した従業員は、社内では得られない知見やスキルを習得します。その結果、従業員の仕事の質が上がり、他社で得た知識やスキル、経験を自社の業務に活かしてもらうことができるでしょう。
・自律性・自主性の向上が期待できる
変化が激しく、先行きが不透明な時代の中、社会ではみずからのキャリアを主体的に開発する「キャリアの自律性」が求められています。副業を推奨すると、従業員は自分のキャリアへの興味が高まることで、企業に対して過度に依存することがなくなり、自律性・自主性の向上が期待できます。
・優秀な人材の獲得・流出を防げる
多様な働き方ができると従業員の満足感が高まり、離職防止につながることが期待できます。副業によって力をつけた従業員が増えれば、企業の競争力も高まるでしょう。
・事業機会が拡大する
副業をする従業員は、社外から新たな情報や人脈を仕入れ、現職に活かすことも可能となります。それらは斬新なビジネスアイデアの創出や、既存事業の見直しにつながる可能性も高く、事業機会の拡大が期待できます。
副業OKにする場合のデメリット
従業員、企業双方にメリットの多い副業ですが、導入にあたっては注意すべき点があります。
従業員にとっての副業最大の問題は、ワークライフバランスの確保が難しくなることです。本業の勤務時間以外を副業にあてるため、必然的に労働時間が長くなり、プライベートとの両立や健康管理がしにくくなるでしょう。
また、自社の情報漏洩の懸念もあります。秘密保持契約を結んで自社の情報を無断で提供しないことを確約させておくことが大切です。
いずれにせよ、本業に支障をきたさないよう、労働時間の把握・管理をはじめとするルールを設定しておく必要があります。
副業解禁に向けて企業が行うべきこと
注意点や配慮すべき点はあるものの、副業には従業員・企業の双方に一定のメリットがあります。続いては、副業を解禁するにあたって、企業はどのような準備をする必要があるのかを確認していきましょう。
従業員のニーズを把握する
副業を希望する従業員が社会的に増えているとはいわれますが、自社の実態は調査してみなければわかりません。自社内でどれだけの人が副業を希望しているのか、副業を希望している人はどんな点に期待し、またどこに不安を感じているのか、しっかり調査をして実態を把握しましょう。
仕組みづくりをする
副業を促進する上では、仕組みづくりが重要です。具体的には、下記のようなことを行っていきます。
・社内理解を促す
副業が許容されてきた世の中の流れや、副業を導入することによって期待できるメリットについて、経営層や事業部門と共有し、副業導入のコンセンサスを得ます。
・セミナーや勉強会など外部と接点を持つ機会を提供する
急に「副業解禁」と言われても、これまでの働き方から抜け出せない人や、自分の興味・関心の方向性がつかめない人は少なくありません。セミナーや勉強会への参加を促すなどして、一人ひとりが外の世界に目を向けられる状況を作りましょう。
・利用条件、利用ルールの明確化する
厚生労働省のガイドラインをもとに、副業制度を利用するための条件や利用ルールを定め、社内で共有します。このとき、副業・兼業を制限できる場合についても盛り込んでおくことが大切です。
・労働時間の管理方法を決める
会社には、従業員の労働時間を把握し、適切に管理する義務があります。通常の法定労働時間は1日に8時間、週に40時間までであり、これを超過した場合は割増賃金を支払わなくてはなりません。
労働基準法は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めているため、副業をしている従業員については本業の労働時間と副業の労働時間を合算します。
つまり、総労働時間が法定労働時間を超えたら割増賃金の支払義務が生じることになります。一般的には、後から労働契約を結んだ企業に割増賃金の支払義務があるとされることが多いでしょう。なお、副業先での労働時間については、労働者による自己申告や自己管理が現実的とされています。
【出典】厚生労働省「いわゆるマルチジョブホルダーに関する現行の労働時間規制について」|厚生労働省(2004年5月)
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/05/s0514-5b7.html
副業を解禁している企業の事例
副業を解禁する際には、ガイドラインのほか、すでに導入済みの他社事例が役立ちます。ここでは、サイボウズ株式会社とロート製薬株式会社の事例をご紹介します。
サイボウズの事例:副業を推奨し、副業の勤務時間や仕事のスケジュールのすべてを共有
サイボウズ株式会社は、グループウェアの開発・販売・運用を手掛けるプライム市場上場企業です。副業解禁のきっかけは、高い離職率でした。そこで同社は、給与の引き上げや業務の転換といった引きとめ策と併せて、「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」という人事制度にもとづき、働き方の多様化を促進しました。
<働き方の多様化の具体例>
・残業なし、短時間勤務、週3日勤務
・最大6年の育児休暇
・退社しても再入社できる育児休暇
・都合に合わせて働く場所と時間帯を選べるウルトラワーク
同社は、上記のような先進的な取り組みのひとつとして、副業も自由化しました。会社の資産を棄損する可能性がある場合を除いて、誰でも会社に断りなく副業をすることができます。
大きな特徴としては、「公明正大」「自立」を重視することが周囲との信頼関係を作るとして、副業の勤務時間や仕事のスケジュールのすべてを共有していることです。自社製品「kintone(キントーン)」で、副業の申請・許可もスケジュールも一括管理しています。
ロート製薬の事例:会社の枠を越えた社会貢献と自分磨きを推奨
一般医薬品やスキンケア用品などの製造・販売を手掛けるロート製薬株式会社。同社は2016年から、「社外チャレンジワーク」「社内ダブルジョブ」を実施し、会社の枠を越えた社会貢献と自分磨きを推奨しています。それぞれの具体的な内容は、下記のとおりです。
・社外チャレンジワーク
社外チャレンジワークは、本業を大切にしつつ、土日祝、および就業後の副業を認める制度です。2013年以降、食・農業や再生医療等の新規事業参入に挑んできた同社にとって、従業員の経験値アップは自社の飛躍にもつながることが期待されています。
・社内ダブルジョブ
社内ダブルジョブは、複数の部門・部署を担当できる制度です。元々、従業員の職務範囲を限定せず他部門と関わっていくスタイルを重視してきた同社ですが、より踏み込んで部署の枠にとらわれないスキルアップを後押ししました。この制度によって個人の成長のほか、仕事の質の向上が見込めるといいます。
【参照】中小企業庁経営支援部創業・新事業促進課経済産業政策局産業人材政策室「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言」|中小企業庁(2017年3月)
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hukugyo/2017/170330hukugyoteigen.pdf
従業員の満足度を高める副業は、健康経営の観点からも効果的
副業で成果を得ることは、従業員の自信につながり、本業でも成果を出しやすくなることが期待できます。働きがいやキャリアを重視してくれる企業に対しては、従業員のエンゲージメントも高まり、健康経営の観点からも効果が見込めるでしょう。
副業に近いメリットを得られる方法には、マイナビ健康経営が提供する「出向支援」「企業間留学」などがあります。他社で一定期間働くことで新たな知識やスキルが身に付けられ、自社の業務に活かしたり社内活性化につながったりする効果が期待できます。副業解禁を検討している企業は、出向支援と企業間留学の活用もをぜひご検討ください。
マイナビ企業間留学
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