「健康経営セミナー」開催レポート(前編) 優良事例を通して健康経営への理解を深めよう!

優良事例を通して健康経営への理解を深めよう!

「健康経営セミナー」開催レポート(前編)
2024年3月12日、全国健康保険協会広島支部主催、株式会社マイナビの「マイナビ健康経営」と初コラボによる「健康経営セミナー」がオンラインで開催されました。そのレポートをお届けします。前編の内容は、健康経営の生みの親である平野治氏と、健康経営の伝道士である熊倉利和氏が登壇した基調講演の要旨です。

多くの事業者が健康経営に取り組む広島県

健康経営に熱心な企業を就職先として選ぶ学生が増えているなど、社会の健康経営に対する関心が広がり、その取り組みを支援する制度も生まれています。その一つが経済産業省による「健康経営優良法人認定制度」。広島県では、「健康経営優良法人2024」を取得した事業者が大規模法人部門で45社、さらに中小規模法人部門で480社と全国9位の結果で、健康経営に熱心な県の一つだといえます。

松原真児氏(全国健康保険協会広島支部 支部長)氏による開演のご挨拶
全国健康保険協会広島支部 支部長 松原真児氏による開演のご挨拶


基調講演に先立ち、松原真児氏(全国健康保険協会広島支部 支部長)は次のようにあいさつしました。
「生産年齢人口の減少による人手不足、働き方改革、ハラスメント対策など、企業経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした課題を解決するには、従業員に長く元気に働いてもらうことが欠かせません。健康経営の取り組み方に悩んでいる事業者も多いと思いますが、本日のセミナーが皆さまの健康増進と事業発展につながれば幸いです」
 
本セミナーでは、オンライン上で参加者にアンケートする試みも行われました。「あなたにとって、あなたの会社は大切な家族や友人を誘って一緒に働きたいと思える会社ですか?」という質問に対しては、「思える」「どちらとも言えない」の順に回答が多く、「立場としてどちらとも言いにくい」という声もわずかにありました。

【基調講演1】 2024年健康経営の深化とさらなる進化
―これまでの「健康経営」とこれからの「健康経営」―
平野治氏(NPO法人健康経営研究会 副理事長)

基調講演1:2024年健康経営の深化とさらなる進化―これまでの「健康経営」とこれからの「健康経営」― 平野治氏(NPO法人健康経営研究会 副理事長)

「人を資本として生かす」視点が健康経営の基本

健康経営の概念は、日本に長寿企業が多いことにヒントを得て考案しました。国内には創業100年を超える企業がたくさんあり、その数は世界的に見てもトップレベルです。まさに日本人が長い歳月をかけて信用・信頼を築いてイノベーションを繰り返してきた証であり、それを実現してきた「人の力」に注目し、経営戦略として生かすことを考えたのです。
 
そもそも健康経営とは、人材を資本と捉え、企業の成長と社会の発展に寄与させることを意味します。人に投資して従業員の健康度やパフォーマンスを高める、経営戦略の一つとも言い換えられるでしょう。だからこそ、他社の取り組みをそのまま当てはめるのではなく、自社の特性に合った独自の戦術で進めていく必要があるのです。また、いわゆる健康管理をすることだけが健康経営ではありません。健康経営の概念を図式化した「健康経営ピラミッド」 が示すように、働きやすさ、働きがい、生きがいを従業員が実感できるような施策を打つことが肝心です。
 
少子高齢化に伴う労働力の減少は、どの産業においても切実な問題です。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、2056年までに東京都の人口約2倍分に相当する約2500万人が減っていると予測され、当然ながら経済成長も鈍化する見通しです。この危機を乗り越える策の一つが、人的資本を最大限に活用すること。企業の資本として「ヒト・モノ・カネ」が挙げられますが、「ヒト」の活用が最も遅れています。従業員の力をどこまで引き出し、顕在化させるのか、企業として真剣に考えるフェーズに差しかかっています。

ミクロ&マクロの視点から健康経営を考えよう

健康経営を推進するためには、まずはミクロの視点に立つことが重要です。いくら平均株価が上昇して好景気だと言われても、消費者が実感を得られていなければ意味がないのと同じです。皆さんは、日本における預金目的の第1位が「病気・災害への備え」であることを知っていましたか? これは、個人の不安感が強い時代であることの表れではないでしょうか。「何となく疲れている」「生きているというより、生かされている感じがする」「話をする相手がいない」など、まずは従業員が抱える実感から課題を見出し、解決法を探ることが大切です。
 
だからこそ、健康経営の第一歩としては、社内のコミュニケーションを活性化することに力を入れてほしい。WHO(世界保健機関)が健康を3つの側面から捉えている(社会的健康、身体的健康、精神的健康)ように、企業の健康経営においても、従業員の健康を「病気や不調がない」というだけでなく、パフォーマンスやアクティビティーの向上、コンディションの調整といった視点から幅広く捉えることが肝心です。健康診断やストレスチェックなどに限定せず、社内のコミュニティーやコミュニケーションの状況を再確認することをお勧めします。

一方、マクロの視点においては、社会の変化を的確に捉えることが欠かせません。インターネットやスマートフォンが普及し、SNSで盛んに情報がやり取りされ、AIが急速に発展するなど、社会は目まぐるしく変化しています。また、人生100年時代といわれるようになり、「この会社で何をしたいのか?」「いつまで働くのか?」といった問いに向き合う必要性も生じています。おのずと個人の意識や行動も変わっていくので、それに企業として柔軟に対応することが求められます。
 
これからの時代、企業の評価において最重要になるのはTR(トラスト・リレーションズ)だと私は考えています。株主を基盤とするIR(インベスター・リレーションズ)からステップアップして、広く社会に信頼される企業をめざすためにも、健康経営の施策を一歩ずつ推し進めていくべきではないでしょうか。

【基調講演2】健康経営を推進することで得られる効果
熊倉利和氏(IKIGAI WORKS株式会社 代表取締役)

基調講演2:健康経営を推進することで得られる効果 熊倉利和氏(IKIGAI WORKS株式会社 代表取締役)

当社は、生きがいをもって働く人や組織を応援するメディアサイト「健康経営の広場」を運営し、健康経営に取り組む日本全国の経営者にインタビューを行ってきました。今回は、その中から広島県内の2社をご紹介します。

リライアンス・セキュリティー株式会社の事例

広島市内で警備業務やセキュリティーコンサルティングなどを手がける企業です。従業員の健康管理に熱心で、「健康経営優良法人ブライト500」を3年連続で取得しています。同社が健康経営に取り組むようになったきっかけは、立て続けに起こった悲しい出来事でした。頑張っていた従業員の突然死、病気による退職、熱中症による救急搬送――。こうした事態が二度と起こらないよう、社長の強い決意の下、自社ができる健康対策について考えるようになったのです。
 
まずは、常勤/非常勤を問わず全従業員に「健康状況申告書」の提出を義務付け(入社時および毎年)、一人ひとりの健康状態を把握。これは「会社が自分たちを守ってくれる」という安心感につながりました。次に、健康診断の受診を強く勧奨して、受診率を10年前の50%から100%近くにまで引き上げています。さらに、熱中症対策としてスポーツドリンクや塩タブレットの配布に始まり、ファン付きの空調服や速乾性Tシャツまで導入するように。現在ではメンタルヘルス対策にも注力しています。このように、自社の特性に沿った施策を、できるところから進めていくとスムーズです。

健康経営を推進するためには、取り組みをしっかりと評価することも大切です。同社では、各現場に上長が出向き、健康状況や熱中症対策の実施状況を巡察。実状を踏まえてPDCAサイクルを回すことで、より実効性を高めています。同社の取り組みが県内の労働局で紹介されてからは、従業員が自社に誇りを抱きやすくなり、健康経営への理解が一層進んだそうです。

リライアンス・セキュリティー株式会社 会社概要リライアンス・セキュリティー株式会社:https://www.reliance-s.com/


株式会社ファーストクリエートの事例

創立70年を超える総合建設業の松原組を中心に、飲食店や障害者サービス施設など幅広い事業を展開しているグループ企業で、「健康経営優良法人2024」に認定されています。もともと母体が建設会社ということもあり、けがや事故を予防するため安全管理は徹底していました。健康経営として最初に着手したのは、健康診断の受診率を100%にすること。当初の日程で受診できなかった従業員には、個別で就業時間内に予約を入れるよう労働安全衛生部が指導することで目標を達成。再受診も積極的にサポートしています。また、バイオスキャンと呼ばれる健康解析装置を導入し、従業員の健康意識をより高めるために活用しています。
 
さらに、本社、各支店、運営する施設などに、ストレス緩和や疲労回復の効果が期待できる高濃度酸素ルームを設置するというユニークな取り組みも行っています。月1回・1時間は就業中に利用可能(体調不良の場合は制限なし)だということです。従業員の気分転換に役立つだけでなく、地域の方々も利用できる仕組みを整え、従業員と交流する大切な接点にもなっています。
 
最近では、食糧危機に備えるという観点から、農業関連の取り組みにも挑戦。農地を借りる、農法を伝授してもらうなどして地域社会とのつながりを深めると同時に、農業専業者の雇用も行っています。地域全体を巻き込んで健康経営に取り組むことで、「企業の一員」という枠を超えて「地域の一員」という所属意識が従業員の中に育まれてきました。まさに健康経営のめざす姿だといえるでしょう。

株式会社ファーストクリエイト 会社概要株式会社ファーストクリエート:https://firstcreate.co.jp/


健康経営の成果は少しずつ見えてくる

このように健康経営を進めていくと、少しずつ成果が見えてきます。全国健康保険協会広島支部の資料によると、健康経営優良法人認定を取得している企業の年間医療費は平均よりも1人当たり2万円ほど低く、メンタル系疾患での受診者や退職者も少ないという結果が出ています。が実感できるまでには多少時間がかかるかもしれませんが、取り組む価値は大いにあります。ぜひトライしてみてください。


後編は以下のリンクからご覧ください。

  「健康経営セミナー」開催レポート(後編)実務担当者だから分かる健康経営の取り組み方とは? 2024年3月12日、全国健康保険協会広島支部主催、株式会社マイナビの「マイナビ健康経営」との初コラボによる「健康経営セミナー」がオンラインで開催されました。 マイナビ健康経営


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