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社員の草の根活動が巻き起こした、都築電気における「健康経営の旋風」に学ぼう

撮影/和知 明 (株式会社BrightEN photo)
取材・文・編集/中澤 仁美(株式会社ナレッジリング)

2017年度から現在まで健康経営優良法人(ホワイト500)に認定され続けるなど、従業員の健康を維持・増進することに力を入れてきた都築電気株式会社。その背景には、「組織なし・予算なし・知識なし」の状態から健康経営に貢献してきた、一人の社員の存在がありました。周囲を巻き込みながら精力的に活動を展開し、1,500人規模の企業で変革を起こした方法について、奥野洋子さん(総務人事統括部人事部人事厚生課長 )に伺います。

都築電気株式会社 総務人事統括部 人事部 人事厚生 課長 奥野 洋子(おくの・ようこ)

奥野 洋子(おくの・ようこ)

都築電気株式会社 総務人事統括部 人事部 人事厚生課長。
2012年に早稲田大学大学院法学研究科修了後、都築電気株式会社に入社。営業、新規事業企画、経営企画、総務人事などの部署を経て現職。2016年より健康経営推進に係る活動を開始し、働き方改革と連動させながら、1人当たり総実労働時間約160時間削減などに貢献してきた。2019年~2020年経済産業省 次世代ヘルスケア産業協議会 健康投資ワーキンググループ 健康投資の見える化検討委員会委員。


目次[非表示]

  1. 1.「ド根性」な会社で、改革に向けた一歩を踏み出す
  2. 2.有効な「ワイガヤ」のために持ちたい戦略的目線
  3. 3.総実労働時間7.26%削減を達成!会社の変化を実感
  4. 4.「愚直な取り組み」も継続し、真に健康な企業へ

「ド根性」な会社で、改革に向けた一歩を踏み出す

当社で健康経営の取り組みが始まったのは、私が新卒入社して5年目となる2016年のことでした。当時の都築電気は、良くも悪くも「ド根性」な社風。1人当たりの総実労働時間が平均2,064時間というデータもあり、業界内でも高い水準でした。また、在職中に心身に不調をきたしてしまう従業員も一定数おり、経営層も大変胸を痛めていたそうです。こうした背景もあり、2016年当時の中期経営計画には、3本の柱の一つとして「健康経営」が掲げられました。
 
ところが、それから数カ月たっても、なかなか具体的な取り組みが始まりません。「心身ともに健康に働きたい」「後輩に自分と同じ働き方をさせたくない」という思いが強くなっていった私は、自分からアクションを起こしてみようと一念発起。幸いにも当時、私は新規事業の企画担当者で、業務の一環として新しいことにチャレンジしやすい環境だったのです。さっそく、現場社員で意見を出し合ってアイデアをまとめる場を設けさせてほしいと、当時の専務に提案。その後押しを受けて、コーポレート部門をはじめとした各部門の役員の承認を得ることができました。


健康経営の取り組みを始めるきっかけを語る奥野さん

自分だけで具体的な健康経営の企画をまとめるのではなく、話し合いの場をセッティングしようと考えたのには理由があります。入社5年目の一般社員だった私は、健康経営に生かせる十分な知識や予算を持たないことはもちろん、仲間も足りていませんでした。まずは社内に仲間をつくり、それぞれの職種に合った働き方を検討した上で、「当社の最適解」へたどり着きたい――。そんな思いから、各部門で信頼が厚いインフルエンサー的な存在の人々に声かけし、「ワイガヤ」を実行しようと考えたのです。
 
ご存じの方も多いと思いますが、「ワイガヤ」とは本田技研工業で培われてきた議論の手法で、結論が簡単には出しにくいようなテーマについて、気軽にワイワイガヤガヤと意見を出し合うものです。ワイガヤを通して、働き方の現状や理想の在り方を忌憚なく話し合い、皆が腹落ちした状態で改善案を探っていくことをめざしました。さっそく第1回のワイガヤで、経営層と一般社員の間に連携窓口となるインタラクティブな組織が必要なことが浮き彫りになり、参加メンバーを中心に「健康経営推進ワーキンググループ」を発足することになりました。

有効な「ワイガヤ」のために持ちたい戦略的目線

カジュアルに話し合えることがワイガヤの魅力ですが、運営側としては入念な事前準備が欠かせません。まずメンバー選定においては、さまざまな立場から意見を出してもらうため、年齢、性別、職種、役職に多様性を持たせることがポイント。また、健康経営推進ワーキンググループをコアメンバーとし、第2回以降はそれ以外の社員にも順次ライトメンバーとして参加してもらうラウンドテーブル制を採用しました。「エンジニアに参加してもらうと所属部署の稼働率が下がってしまう」といった現実的な問題もあるため、可能な範囲で予算を確保するなど、参加障壁を一つひとつ丁寧に解消することが必要です。


メンバー選定から、意見が出やすい状態、参加者の実務の負担も考慮した綿密な準備で推進

そして、コアメンバーで検討を重ねて「生産性向上と心身ともに健康な働き方」を根底テーマに設定。さらに「テレワーク」「働く環境」「仕事の見える化」「残業」といった回ごとの議題も決定し、月1回のペースでワイガヤを開催していきました。事前にコアメンバーで「今回のゴール(=期待するアウトプット)」を徹底的に言語化しておくことで、当日のファシリテーションがスムーズになり、実のある話し合いにつながったと思います。
 
私たちの場合は、参加者を5~6人ずつ3グループに分け、それぞれにファシリテーターと議事録作成者(いずれもコアメンバー)を配置しました。議題について、まずは各現場の現状を率直に語ってもらい、次に理想の在り方についてブレインストーミングし、最後に改善策を検討するといった流れが基本です。これらの内容は社内のオンライン掲示板で全社員にフィードバックし、健康経営推進ワーキンググループとしての活動に透明性を持たせることも意識しました。
 
ワイガヤを開催する上で最も重要なことの一つが、心理的安全性の確保です。組織の中で理想や改善策を話そうとすると、「批判的に聞こえないだろうか」「誰かを傷つけているかもしれない」といった不安を感じやすいもの。特に、提案者にすべてを担わせるような「言ったもの負け文化」があると、誰もが建前でしか話してくれなくなってしまいます。この時間は本音で話して大丈夫であること、受け止め手としてコアメンバーが存在すること、出してもらった意見は大切に扱うことなどをしっかりと伝え、気負わずオープンに話してもらえる空間を整えることがポイントです。

総実労働時間7.26%削減を達成!会社の変化を実感


ボトムアップからトップダウンになり、健康経営の取り組みは定着。会社の変化を嬉しそうに語る奥野さん

有志の集まりだった健康経営推進ワーキンググループは、3年間で役割を全うしました。社長がトップを務めるかたちで2017年に「健康経営統括室」、2019年に「健康経営委員会」が発足したので、発展的解消だといえるでしょう。健康経営推進ワーキンググループの活動は、ゼロから改革を始める黎明期において有用なもの。ボトムアップは重要ですが、それだけに終始していれば、個別具体的な施策は出ても大局的な取り組みにつながりません。やるべきことが明確になった段階でトップダウンの統括的な組織を発足し、部署ごとの仕事に落とし込むことで取り組みを「定着」させる必要があるのです。
 
こうして健康経営を推進してきた結果、社内にはさまざまな変化が起きています。働き方改革の観点では、総実労働時間の7.26%削減を達成(2017年度と2019年度の比較)。目標値だった5%を上回る成果で、2020年からは総実労働時間平均1900時間以下に目標を切り替えました。「長時間労働が当たり前」「健康に時間を使うくらいなら仕事に励む」といった風潮が刷新され、皆の表情が明るく生き生きと変化したことを実感しています。
 
具体的に講じた施策としては、所定労働時間の短縮(7時間45分→7時間)、コロナ禍をきっかけにしたテレワークの浸透、サテライトオフィスの開設による移動時間の短縮など。また、以前から存在したものの形骸化していた「早帰りデー」も徹底しました。徹底を始めたばかりの水曜早帰りデー当日には社長が全フロアを回り、まだ残っている社員がいれば「早く帰りなさい!」と直接促す姿が印象に残っています。
 
健康増進の観点では、産業保健体制の強化により、2017年度から現在に至るまで健康診断受診率100%を維持。受診結果をデータ化することで健康リスクが高い社員にアプローチできるだけでなく、全社における健康課題も抽出しやすくなりました。こうして得られたデータは、「健康経営戦略マップ」という形式で整理しています。特徴的なのが、「体重増加者割合55%以下」という指標。20歳以降に体重が10kg以上増えると生活習慣病のリスクが特に上昇するとされているため、重要な課題として扱っています。産業医やデータサイエンティストなどの専門職と連携し、当社の健康課題解決に向けて効果的な指標として機能するよう、ブラッシュアップしています。
 
健康増進については若い頃からの意識付けも大切なので、新入社員に対しても健康への計画的投資についてお話ししています。特に、これから入社してくるのは、コロナ禍によって大切なイベントをことごとくキャンセルされてきた世代。生活習慣の改善により免疫力を上げるといった話題がとても響くので、企業としても積極的に応援していきたいと思います。

「愚直な取り組み」も継続し、真に健康な企業へ

おかげさまで当社では、経済産業省が公表する「健康経営優良法人(ホワイト500)」に2017年から認定を受け続けてきました。こうしたポジティブな外部評価を得ることは、私たちのようなB to Bの企業にとって世間の皆さんに知っていただく貴重なチャンス。また、働き方改革による変化を周知すること自体が、自社の提供するDXサービスなどのアピール・受注につながっていくことも実感しています。オフィスに足を運んで都築電気の働き方やソリューションを体感できる「ライブオフィスツアー」も実施しているので、興味がある方はぜひチェックしてみてください。

【関連リンク】ライブオフィスツアーについては以下よりご覧ください。
※都築電気ソリューションのWEBサイトに遷移します。

  TSUZUKI NEW OFFICE ライブオフィスツアー|都築電気ソリューション 都築電気のライブオフィスツアーでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を体験いただけるデモを展示・ご紹介いたします。 |都築電気ソリューション


これから健康経営に取り組む担当者の方に伝えたいのは、「全体像が見える地図を描こう」ということ。施策が継続しないとか、いつの間にか立ち消えになるといった声をよく聞きますが、それは健康経営という概念が想像以上に大きく、やることが多いからだと思います。手当たり次第にスタートしても定着しない可能性が高いので、最初にPDCAの見通しを持つことがとても大切です。個人的には、森晃爾先生の『企業・健保担当者必携!! 成果の上がる健康経営の進め方』(労働調査会)や『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割。』(労務行政)などの書籍で、この領域の基礎を学ぶことがお勧め。その上で、自分が一番大切にしたいコアの部分を言語化したり、周囲の声に耳を傾けたりすることが大切ではないでしょうか。
 
また、ずっと同じ施策ばかりでマンネリ化してしまうという壁にぶつかったら、発想を転換することが有効です。そもそも組織の課題は、時間とともに変化するもの。例えば、当初は長時間労働が課題だったとしても、それがある程度解消した後は、育児や介護との両立支援、あるいはメンタルケアに力を入れる必要が出てくるかもしれません。大きな問題が解決することで他の問題が見えてくることは多いので、それに向き合い続けていきましょう。加えて、ステークホルダーを多様化させることもポイント。安全衛生、福利厚生、ダイバーシティ&インクルージョン、環境マネジメント、社会貢献など、各社オリジナルで取り組む企業のサステナビリティにつながる活動とコラボレーションすることで、人員不足の中であっても新しい施策の糸口が見えてきます。社内で異なる部署に協力を仰いだり、社外のアカデミア・専門家や協力会社の方とコラボレーションしたりしてみるのはどうでしょうか。
 
とはいえ、健康経営の中でも特に健康増進に関する施策は短期での成果が見えづらく、10年単位で見るような指標もあるほど。目新しい取り組みばかりではありませんが、それでも一つひとつ真摯に継続することが大切なのだと思います。まさに、塵も積もれば山となる、ですね。同じ時代に生まれ、同じ時代に働く者同士、共に「愚直な取り組み」を続けていきましょう。

都築電気株式会社の健康経営のお取組みの詳細は以下よりご覧ください。
​​​​​​​※都築電気株式会社のWEBサイトに遷移します。

https://www.tsuzuki.co.jp/sustainability/materiality/health/

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