自己肯定感の第一人者・中島輝×澤円が語る、自己肯定感の本質とは?
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自己肯定感の第一人者・中島輝×澤円が語る、自己肯定感の本質とは?
自己肯定感とは、ありのままの自分を受け入れ、肯定する感覚のことです。自己肯定感ブームの先駆者として知られている心理カウンセラーの中島輝さんは、「自己肯定感が高いと、あらゆる状況の中で肯定的な側面を見いだし、アクティブに生きていくことができる」と話します。
本記事では、自己肯定感を構成する「6つの感」や、それらを高めるメソッドの解説を通して、自己肯定感の本質を紐解きつつ、現代人に多い「うつ感情」の要因と対処・予防する方法について、心理カウンセラーの中島輝さんと、元日本マイクロソフト業務執行役員で株式会社圓窓の代表取締役である澤円さんの対談をお届けします。
<プロフィール> 自己肯定感の第一人者、心理カウンセラー、自己肯定感アカデミー代表、資格発行団体torie代表、肯定心理学協会代表。 |
<プロフィール> 株式会社圓窓代表取締役、元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。 |
※本記事は、YouTubeチャンネル「Bring.」における、対談動画を再編集し、ダイジェストでご紹介します。
自己肯定感とは?
澤円:まず、近年非常に注目が集まっている自己肯定感とは、どのような感覚を指すのでしょうか?
中島輝:自己肯定感とは、「生きよう」とか「幸せになりたい」という生きる基本の力です。私たち人間というのは、否定的な環境や人間関係、経済状況、健康状態においても、肯定的な側面を見いだすことができます。
つまり、目の前の事柄に対して解釈を変えることができるのです。そうした根源的な感覚を、自己肯定感と呼んでいます。
澤円:自己肯定感を高めるということは、ポジティブ思考とは違うのでしょうか?
中島輝:ポジティブ思考との違いは、「ネガティブであることを否定しない」という点です。一般的にポジティブ思考というのは、ネガティブなことをポジティブなことに変換しようとするものです。
一方、自己肯定感は、ネガティブであってもポジティブであっても、それらをまるごと含めて「生きること」だと捉えます。多様な感情を抱くことそのものが生きているということなので、そこから最終的に肯定的な側面を見つけて、積極的に生きていければそれで良いというのが、自己肯定感の考え方です。
自己肯定感を構成する6つの感
澤円:中島さんが提唱されている、自己肯定感の「6つの感」について詳しく教えてください。
中島輝:6つの感とは、自己肯定感を構成する6つの感覚のこと。6つの感がそれぞれ、「根」「幹」「枝」「葉」「花」「実」の役割を果たし、「自己肯定感の木」を作っているとイメージできます。
自己肯定感は、苦しみや悲しみ、つらさを緩やかに受け止めて跳ね返す、心の免疫力でもあります。6つの感がそろうことで、心の免疫力が高まって外部からの影響を受けにくくなり、生きる力、自己肯定感が育まれるのです。
反対に、それぞれの感覚がダメージを受けると、木全体のバランスが崩れるため、それぞれについて理解しておくことが大切です。
自尊感情
自尊感情は自己肯定感の木の根にあたる部分で、自分のことを価値ある存在として肯定的に捉える感情です。自尊感情が高いことは、自分自身の存在や目の前の仕事に満足し、やりがいや生きがいを見つける原動力になります。
自己受容感
木の幹にあたる自己受容感は、自分を丸ごと受け入れられる感覚のことです。自分の良いところも悪いところも、強みも弱みも、すべてまとめて私である。そのように、ありのままの自分自身を認められることが自己受容感です。
自己効力感
自己効力感は、幹から派生する枝の部分にあたり、自分の力を信じる感覚です。幹である自己受容感が高まって自分を認められるようになると、失敗や困難に直面しても、自分なら必ずできると思えるようになります。
自己信頼感
木の枝となる自己効力感が育つと、その先に自己信頼感の葉が芽吹きます。自己信頼感というのは、いわば自分がここに存在することに対する自信です。その自信があれば、自分の可能性に蓋をせずに挑戦できます。
自己決定感
木の枝や葉が育つと、自己決定感という花が開きます。自己決定感とは、物事を自分で決められる感覚です。自己決定感が高まれば、自分の望む人生を自分で選択し、自分だけの花を咲かすことができます。内発的な動機付けがどんどんわき上がってくる状態になるでしょう。
自己有用感
自己有用感は、自己肯定感の木に成る実の部分です。自分は誰かにとって有用な存在であり、役に立てていると信じられる自己有用感が育つと、自分以外の誰かのために貢献する、利他的な行動につながっていきます。
自分を他者と比べてしまう理由
澤円:仕事やプライベートで多くの人と関わる中で、人と比べる経験というのは誰しもあると思います。僕自身も、イケてる人を見ると「自分なんか」と思うことがありますが、そもそも他者と比べて自信を失ってしまう人が多いのはなぜでしょう。
中島輝:社会背景のひとつとして、近年はSNSの普及があるのではと感じます。SNSは、投稿者が見せたい自分、きれいな自分だけを切り取って可視化していることが多いです。そうした極端な一面だけが浮き彫りになっているSNSを見ることで、無意識に他者と自分を比較して、嫉妬のような感情が生まれることがあるでしょう。
これに対して、自己肯定感が高い状態は、他者ではなく、昨日の自分や目指すゴールに向かう自分が比較対象になります。SNSを見て誰かと比較して落ちこんだとしても、「もしかして今は自己肯定感が低い状態かもしれない」と、まずは自分で気づくことが大事です。
澤円:今はさまざまなSNSのプラットフォームが用意されているおかげで、他者と比較しやすい環境にあるのですね。しかし、他者と比較して落ち込む自分自身すら受け入れること。つまり自己受容をすることが、自己肯定感を高めることにつながる手段となるのだと理解できました。
自己肯定感を高める4つの窓
澤円:自己肯定感を高めるために、私たちが日常において実践できることはありますか?
中島輝:自己肯定感が一番高いのは、赤ちゃんです。赤ちゃんは二足歩行や言語の獲得をする過程で、何度も失敗をしながら、それでもやり抜く強い力がある。これは、人間が本能として自己肯定感を持っているということにほかなりません。
つまり、私たちはどんなに自己肯定感が低い状態であっても、本来持ち合わせている自己肯定感を取り戻すことができる、そしていつからでも高めることができるということです。
自己肯定感を高めるには、「4つの窓」というメソッドがあります。これは、不快な感情から自身を解放し、能動的に心地良い行動をとるための方法です。4つをすべて実践する必要はないので、どれかひとつでもできそうだと思うものに取り組めば、自己肯定感は少しずつアップしていくと思います。
一瞬×他力
一瞬×他力は、他者の力を使って今この瞬間にできることです。例えば、仕事で心身が疲れてネガティブな気持ちのとき、花屋に寄ってオレンジや黄色など、暖色系の花を1輪買って帰ります。それをリビングに飾るだけで、気持ちがスッとして華やぐでしょう。
一瞬×自力
一瞬×自力は、自分の力を使って今この瞬間にできることです。例えば、「疲れた」「最悪」といった言葉を繰り返していると、どんどん心もネガティブな思考や感情に変わっていきます。その口癖を「なんとかなるよ」「今日は最高!」と、ポジティブな言語に変えていくことが大切です。
習慣×自力
習慣×自力は、自分の力で継続的に取り組むことです。心理学用語に「リフレーミング」という言葉がありますが、これは枠組みを変えるということで、具体的には短所を長所に切り替えていきます。
例えば、「せっかち」は「アクティブに行動できる」、「のろま」は「慎重に物事を進められる」と捉えることができます。何か出来事があるたびに、良いところ探しをすることが重要です。
習慣×他力
習慣×他力は、他者の力を借りて継続的に取り組むことです。これには、新たな人間関係に積極的に参加していくことが大切です。例えば、ボランティアをしてみる、何かを学びに行くなど、自分がポジティブになれる人間関係の中に飛び込んでみることがおすすめです。
うつ感情とは?
澤円:ここまで自己肯定感を高める方法についてお話を伺ってきましたが、近年多くの人が抱えるといわれる「うつ感情」について教えていただきたいです。そもそもうつ感情というのは、どのようなものなのでしょうか?
中島輝:私のところに相談に来る方々を見ていても、近年うつ感情を抱える人は少なくありません。うつ感情とは、「ストレス以上うつ病未満」の状態を指す言葉です。
うつ感情は長く継続するわけではなく、急激に重くなるわけでもありません。例えば、「ストレスが溜まっていて、今日は会社に行きたくないな」と思う日があったとしても、なんとなく乗り越えられて、それから数日経つとまた同じような感情が押し寄せてくる。それを繰り返している状態を指します。
うつ感情の原因のひとつとして考えられるのが、現代人に多い「◯◯をしすぎ」です。うつ感情を抱きやすい人は、「がんばりすぎ」「気遣いしすぎ」「正しいことを求めすぎ」といったケースが多く、ストイックに物事を考える人が多いです。
澤円:僕はグローバルな企業にいたので、これは特に日本人の特徴だと感じます。キーワードに「とりあえず」という言葉が出てくると、日本人は「やる」を選びがちなんですよね。「とりあえず会議しよう」「とりあえず資料を作ろう」とか、「しすぎ」がどんどん増えていく傾向があると思いました。
中島輝:本当にそのとおりで、その状態が続くと、タスクが増えて時間がなくなっていきます。その結果、ストレスが高止まりしてパフォーマンスが低下し、うつ感情が増幅していくのです。
うつ感情を対処・予防する方法
澤円:程度の差があるものの、多くの人がうつ感情を抱えています。実際に対処あるいは予防する方法はあるのでしょうか?
中島輝:うつ感情を対処・予防する方法は、大きく3つあります。うつ病になってしまうと心の専門家のサポートが必要となるだけに、その手前のうつ感情を抱えている状態のときに、ぜひ対処していただきたいです。
憂鬱になることのメリット・デメリットを把握する
まず大切なのは、憂鬱だと思うことに対して、感情のままに動いた場合のメリット・デメリットを把握することです。例えば、「会社に行きたくないな」という憂うつな感情に襲われたとき、「会社に行かない場合、自分の今後の人生にどんなメリットとデメリットがあるだろうか」と客観的に考えます。つまり、感情を思考で乗り越えるということです。これがうつ感情を抱えたときに行う第1ステップとなります。
やりたいことを書き出し、1週間以内に実行する
やりたいことを洗い出し、1週間以内にいくつか実行することもおすすめです。がんばりすぎる人は、「べき」という思考でがんじがらめになりがちです。そうすると視界が狭まり、不安や心配、恐れの感情に支配される状態になります。そこから抜け出すため、まずは実現可能かどうかは考えず、やりたいことを書き出してみましょう。
そして、書き出したリストの中から、1週間以内にやれることをピックアップします。それをすぐに実行することで、がんばりすぎてあふれそうな心の容量を、少しずつ増やしていくことができます。
「ま、いっか」でうつ感情を予防する
うつ感情の予防法として有効なのは、「ま、いっか」という言葉です。過度にストレスを感じたときは、その言葉でいったん感情に区切りをつけ、そこから離れることも大切です。
これは、アドラー心理学でいう「課題の分離」という考え方にも通じます。「ま、いっか」と考えることは、逃避したり目をそらしたりすることではなく、きちんと「タスク分けをすること」だと考えていただきたいですね。そうすることで、新しいことを考える時間が生まれて前向きな思考が生まれていくはずです。
人間関係でメンタルダウンしない方法
澤円:メンタルダウンに直結することが多いのは、やはり人間関係だと思います。中島さんがよく言及されているアドラー心理学の根底にも、「すべての悩みは人間関係の悩みである」という概念があるといわれています。人間関係でストレスを抱えないためには、どのようなことができるのでしょうか?
中島輝:「他人と過去は変わらない」というアドラーの言葉があります。周りの人を自分の思うように変えられないことを前提に、自分と自分の未来を変えていく方向にシフトすることが大切です。
そのための方法としては、ネガティブなことをどんどん書き出すことです。人間は負の感情を溜め込むことによって、うつ感情を抱くようになります。「あの人のこういうところが嫌い」「腹が立つ」というように、自分の感じている感情をそのまま文章にして発散してください。人と価値観が違うことは当たり前なので、人に対してネガティブに思うことは、至って普通のことなのです。
感情という見えないものが可視化されることによって、落ち着く効果が期待できます。また、最後に書いた紙をぐしゃぐしゃに丸めて捨てる行動もポイントです。こうすることで、抱いていた感情が自分の人生において重要性が低いことを実感できます。
澤円:要は、自分自身が自分の味方であれば良く、周囲に敵がいるのは自然なことであって、それでも良いということですね。
中島輝さんが考える愛とは?
澤円:自己肯定感やストレスへの対処・予防法について伺ってきました。最後に、私たち人間が普遍的に持っている「愛」について、中島さんがどのように捉えているのかお聞かせください。
中島輝:いろいろな定義があると思いますが、自分の価値を認め、自分自身を大切に扱うこと。それと同時に相手の価値を認め、相手を大切に扱うこと。それが、愛なのだと思います。
私たちは自分の認知から他者を見るので、自分のことを大切に思えていないと、相手のことを見るときも価値のない部分にフォーカスしてしまいます。ですから、まずは自分自身に価値があると認め、自分を大切に扱うことが重要です。
澤円:一般的に愛というと、他者に対して持つものというイメージがあると思いますが、他者への愛と自分への愛は、両方フラットに持っているべきだということですね。
中島輝:はい。自己否定をすると他者否定に陥り、自己肯定をすると他者肯定につながる。その循環をどちらに持っていくかで、自分自身との関係や他者との関係はまったく違ったものになると思います。
アドラー心理学では、「幸福の三条件」というものがあります。具体的には、「自分のことが好き」「他人が好き」「誰かの役に立っていると実感すること」です。これは、自分も他者の存在も大切にして認めるということです。
この3つを整えることで幸福度が高まり、人生全体が良くなって、誰かにもっと喜んでもらいたいという感情も出てくると思います。つまり、愛は技術で作れるということなのです。
澤円:なるほど。そのためには自分と向き合い、心に正直になることが大切だと。そうすることで、他者に愛を与えられる自分になっていくということですね。ありがとうございました。
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中島輝さんと澤円さんの対談では、中島さんの愛の原体験ともいえる過去の話や、愛について考えたい人におすすめする書籍などについても語られました。より深く知りたい方はぜひ、対談動画もご覧ください。
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