働き方デザイナー・越川慎司×澤円が語る、働きがい改革とは?
目次[非表示]
- 1.働き方デザイナー・越川慎司×澤円が語る、働きがい改革とは?
- 2.働きがい改革とは?
- 3.働きがいを高める3つのキーワード
- 4.従業員の働きがいの見つけ方
- 5.働きがい改革と健康経営
- 6.トップ5%社員に共通する仕事の考え方
- 6.1.目的のことだけを考える
- 6.2.弱みをさらす
- 6.3.挑戦よりも実践や実験を目指す
- 6.4.意識変革はしない
- 6.5.ギャップから逆算して何をするか決める
- 7.トップ5%社員が働きがいを維持するための健康習慣
- 7.1.良質な睡眠を確保する
- 7.2.ルーティーンを取り入れる
- 7.3.戦略的な休憩で集中力を維持する
- 8.ワークライフハーモニーとは?
- 9.自分にとっての幸せの定義が働きがいの実現につながる
- 10.3つの働き方で未来の激しい変化を乗りこなす
- 10.1.変化に気づくこと
- 10.2.働き方のオプションを増やす
- 10.3.自分軸のキャリアを作る
- 11.「Bring.」のYouTube動画で働きがいや働き方について考えよう
働き方デザイナー・越川慎司×澤円が語る、働きがい改革とは?
近年、各企業では「働き方改革」によって、従業員の働きやすさが実現されつつある一方、若い世代を中心に離職率は増加しています。
企業が成長していくためには、働きやすさを整えるだけでなく、従業員一人ひとりが幸せに働くためにどうすれば良いのかを、本質的に考えていくことが必要です。
本記事では、近年大企業を中心に広がる「働きがい改革」を実施する上でのヒントについて、働きがい改革の提唱者であり株式会社クロスリバーの代表取締役社長・越川慎司さんと、元日本マイクロソフトの業務執行役員で、株式会社圓窓の代表取締役・澤円さんの対談をお届けします。
※本記事は、YouTubeチャンネル「Bring.」における、対談動画を再編集し、ダイジェストでご紹介します。
<プロフィール> |
<プロフィール> 澤円(さわ・まどか) |
働きがい改革とは?
澤円:まず始めに、越川さんが提唱している「働きがい改革」とは、どのようなことを指すのか教えてください。働き方改革とはどう違うのでしょうか?
越川慎司:働きがい改革とは、働き方改革のひとつです。働き方改革は、近年多くの企業が取り組んでいる方法で、労働時間の是正や正規・非正規の格差解消、多様で柔軟な働き方の実現を柱としています。一方の働きがい改革は、雇用環境の改善だけではなく、業務における成果から達成感を得て、従業員の満足度を高めることに焦点をあてるものです。
働きやすさを実現する働き方改革が企業視点であるのに対して、働きがい改革は従業員視点であり、企業の幸せと従業員の幸せの両立を図っている点が大きな違いです。
これまで私たちが815社の企業で行った従業員満足度調査では、職場環境の働きやすさだけを追求しても、実は企業の成長につながらないというデータが出ています。
例えば、「リモートワークの回数を増やしてほしい」「最新のパソコンを導入してほしい」といった従業員の不満を埋めることに力を注いでも、実は企業に対する満足度は上がらないんです。また、単に長時間労働を抑制して残業をなくしても、売上自体が下がって若手社員のモチベーションも下がってしまう。
つまり、企業の成長を考えると、働きやすさを整えるだけではなく、従業員が幸せに働くためにはどうすれば良いかを本質的に考えていく必要があるのです。
働きがいを高める3つのキーワード
澤円:越川さんの企業では、さまざまな調査を行って、働きがいが高まる要因を分析されてきたわけですよね。ぜひ、そこを具体的に伺いたいです。
越川慎司:私たちのクライアント企業で働く17.3万人に聞いた「幸せを感じる瞬間」から、働きがいの要因を分析してみると、「達成」「承認」「自由」という、働きがいを高めるための3つのキーワードが見えてきました。
達成
達成は、「決められた期間内に目標を達成した」「プロジェクトを完遂した」など、何らかの行動目標をクリアすることです。達成が働きがいにつながる人も多い一方、私たちの行った調査では、56%の人が達成する際の行動目標を持っていないことがわかりました。
行動目標がないと、何をもって達成になるかがわからないため、日々の具体的な行動目標を設けることが非常に重要です。
承認
承認は、仕事をすることによって誰かに認められ、感謝されたという実感です。お客様に「ありがとう」と言われたり、上司に褒められたりすることが、仕事をする上での働きがいにつながる人は多いでしょう。
自由
自由は、仕事において裁量権があり、主体的に業務に取り組めている状態です。ただし、責任と自由は表裏一体なので、責任を果たして成果を上げることができて、初めて自由が与えられます。
これら3つのキーワードは密接に関わり合っているため、目標を「達成」することによって「承認」され、承認されることによって「自由」を勝ち取るという流れが理想といえます。
組織の中にはさまざまなタイプがいて、仕事において「達成」「承認」「自由」の何を重視しているかは、人それぞれです。リーダーは、メンバーが何を重視しているのかを見極めて、適切なサポートをすることが大切です。
従業員の働きがいの見つけ方
澤円:マネージメントを行う人が、メンバーの働きがいを見つけたいと考えたとき、どのような働きかけをすると良いのでしょうか?
越川慎司:私自身、たくさんの行動実験を積み重ねてきましたが、まずは1on1の頻度と密度を高めることが必須です。単に雑談を通して関係性を構築する方法もありますが、業務における行動目標をいっしょに設定すると、主体性を引き出すことができます。
一昔前の上司と部下のあいだには絶対的な上下関係があり、部下は「指示どおり行動する」ことが美徳とされてきました。しかし、メンバーにやりがいを見いだしてもらうには、自分の達成したいことを自由に話せるフラットな関係性の構築が欠かせません。
マネージャーは、1on1において腹を割って話せる関係を作ることが大切です。メンバーを動かすのではなく、課題解決に向けて共創することを意識する必要があります。
ただし、マネージャーはただでさえ労働時間が長いため、何らかの時間を減らして対話の時間を確保しなくてはなりません。働く時間のうち、39%は社内会議が占めているといわれています。無駄な社内会議があれば減らして、対話の時間を作るといいでしょう。
働きがい改革と健康経営
澤円:「健康経営」という言葉がさまざまな企業で重視されるようになりました。働きがい改革と健康経営の関係性について、あらためて教えてください。
越川慎司:私たちの調査では、働きがいを感じている人のほうが、そうでない人に比べて病気で休職する比率が25%も少ないことがわかっています。つまり、働きがいを高めることが企業の健康経営に直結し、人材の維持につながるということです。人材がすこやかであれば仕事の効率も上がり、売上の伸長も期待できます。
人材を失わないための守りの経営ではなく、売上や利益を確実に伸ばしていくという観点でも、働きがいは大きな影響を与えるものだと思います。
トップ5%社員に共通する仕事の考え方
澤円:越川さんの著書「AI分析でわかった トップ5%社員の習慣」の中では、ビジネスパーソン1万8,000人の調査結果をAI分析して、効率良く成果を出す人の共通点を導き出されています。それらの共通点についても、お話を伺いたいです。
越川慎司:まず、トップ5%社員というのは、各企業の人事評価トップ5%で、3年連続以上成果を出し続ける人たちを指します。働きがいを感じながら仕事をする彼らに共通している考え方は、「目的のことだけを考える」「弱みをさらす」「挑戦よりも実践や実験を目指す」「意識変革はしない」「ギャップから逆算して何をするか決める」の5つです。
目的のことだけを考える
トップ5%社員は、共通して目的のことだけを考える人が多いといえます。例えば、顧客に提出する資料は、作成することではなく相手に「イエス」と言ってもらうことが目的です。作成することに集中しすぎるとそれがゴールとなり、作業時間に対して成果が比例しません。目的に応じて、徹底して優先順位をつけることが大事です。
弱みをさらす
自分の弱みをさらせることは、トップ5%社員の強みです。多くの仕事は、一人で完結させることができず、周囲を巻き込んで進めていく必要があります。チーム戦に持ち込むことがスピーディーな課題解決のカギになります。だからこそ、自分の強みだけではなく弱みを進んで開示することで、周囲のサポートを得やすくなるのです。
挑戦よりも実践や実験を目指す
成功する人は、成功と失敗の2択ではなく、何度も失敗を繰り返した先に成功があると知っているため、失敗を恐れません。失敗が怖いと感じるときは「挑戦」ではなく、「実験」や「実践」をすると言い換える。なぜなら、実験や実践は、成功を目的としていないからです。そうした言葉に置き換えることで、行動に対するハードルが低くなるかもしれません。
意識変革はしない
一部の経営者が訴える意識改革は、5年も10年も時間がかかる上、それが実現できたかどうかを確認するのは困難です。小さな実践や実験をしてみて、「意外と良かった」と思えた瞬間が、意識が変わったときです。意識を変えようとするより、行動と実践をおすすめします。
ギャップから逆算して何をするか決める
トップ5%社員が手帳にスケジュールを書き込む際は、初めにゴールに印をつけます。実現したいゴールを明確にし、そこから逆算してタスクを埋めることによってマイルストーンが決まります。すると、進行状況に合わせてスケジュールをアジャストしながら進めていけるのです。
トップ5%社員が働きがいを維持するための健康習慣
澤円:トップ5%社員が働きがいを感じながら短い時間で成果を出せるのは、どのような理由があるのでしょうか。
越川慎司:成果を出している人たちは、働きがいを感じながらパフォーマンスを発揮するための仕掛けを意識的に取り入れています。具体的には、良質な睡眠やルーティーンの採用、戦略的な休憩など、業務時間内や普段の生活において実践できそうなことがいくつかあります。
良質な睡眠を確保する
トップ5%社員は、一般の人に比べて長く寝る傾向があります。私たちの調査では、一般の人たちの平均睡眠時間が5.4時間だったのに対して、トップ5%の社員は6.5時間でした。
仕事が忙しいときは睡眠時間を削るという発想になりがちですが、トップ5%社員は睡眠時間の確保を前提にタイムマネジメントをしています。それが結果として、仕事のパフォーマンスにもつながるのです。
ルーティーンを取り入れる
トップ5%社員がよく口にするのが「やる気をあてにしていない」という言葉です。彼らは、やる気があってもなくても、スムーズに仕事に取り掛かるためのルーティーンを持っています。
例えば、朝に歯を磨いて、観葉植物に水をあげる。次にコーヒーを入れて、パソコンを起動する。そうして、普段の生活習慣の中に、自然に仕事のルーティーンを組み込んでいくと、どんな気分であっても確実に仕事の初動が早くなるのです。
戦略的な休憩で集中力を維持する
トップ5%社員の特徴として、集中力の維持がうまい点も挙げられます。例えば、2~3時間集中して資料を作るとすごく達成感がありますが、そこで集中力を使い切ってしまうと、次の仕事の集中力を維持することが難しい。これに対して彼らの戦術は、疲れる前に休むということです。
45~50分程度で作業をして、少し休憩をしてからまた作業に入る。そうすることで、朝から夕方まで集中力を維持できるのです。
ワークライフハーモニーとは?
澤円:さまざまな企業の働きがい改革をサポートしてきた中で、越川さんは「ワークライフハーモニー」という考え方を提唱されていますが、これはどういうことでしょうか。
越川慎司:ワークライフハーモニーとは、ワークとライフの調和を図って互いの質を高めていくことです。ワーク・ライフ・バランスを否定するものではなく、ライフという大きな円の中にワークがあるというイメージです。
私の中でのワークライフハーモニーを実践する象徴的な存在が、実は澤さんなんです。SNSを拝見していても、いろいろな場所に住んだり、キャンプをしたりと、プライベートの生活が充実しておられます。
かといって、仕事がおろそかになっているかというと、むしろこれまで以上に成果を出し続けています。私生活が充実している人のほうが、仕事も充実しているのではと感じるようになりました。
澤円:そうですね。昔の働き方とは違い、ワークとライフが調和してきたと感じます。ワークとライフが共鳴し合って、両方ともどんどん大きくなって、人生全体の幸福につながる。そのようなメカニズムができると最高だと思います。
自分にとっての幸せの定義が働きがいの実現につながる
澤円:働きがいのある組織を作るためには、組織そのものの在り方が変わっていく必要がありますよね。
越川慎司:そうですね。近年は、組織で働く人の年齢や国籍、働く場所もバラバラとなっている中で、チームで目標を達成するには、働きがいの象徴である「幸せ」がキーワードだと考えています。
働くことによって一人ひとりが幸せを実感できれば、チーム力も生産性も高まるでしょう。実際、OECDの中で生産性が高いのは、ワークとライフが調和していて、就業後の家族との時間を大切にする北欧三国です。
今後は、従業員の幸せを搾取することで利益を上げるというスタイルではなく、仕事を通して一人ひとりが幸せを感じられる状態を目指すことが大切です。そうすることで、従業員にとって働きがいのある組織となっていき、企業の利益拡大や優秀な人材の離職を防ぐことにもつながるはずです。
澤円:幸せというキーワードが出ましたが、越川さんにとっての仕事と幸せについて教えてください。
越川慎司:実際にトップ5%社員に「あなたにとっての幸せは何?」と尋ねると、即答するんです。彼らの7割は人との関係性、つまり家族や友人と過ごす時間を生きがいとして挙げました。
そう考えてみると、やはり私にとっての幸せも家族を幸せにすることだと気づきました。自分にとっての幸せに気づき、そのために働く。さらに、働く上でも働きがいを感じて幸せを得る。それらは互いに、影響し合っているように感じます。
自分にとっての幸せをきちんと定義することが大切であって、それが働きがいの実現につながるのだと思います。澤さんにとっての幸せの定義は何ですか?
澤円:僕が幸せを感じるときは、とにかく誰かに喜んでもらえたときですね。ですから、仕事においてポジティブなフィードバックがもらえれば、それで幸せですね。
それと同時に、私生活では妻と過ごす時間や、一人で過ごす時間も重要です。確かに、ワークとライフにおける幸せを意識することで、仕事の生産性を高める意識や行動にもつながりそうですね。
3つの働き方で未来の激しい変化を乗りこなす
澤円:働きがいやワークライフハーモニーについてお話を伺ってきましたが、最後にこの先の働き方について伺いたいです。
越川慎司:私自身、自分の会社を立ち上げてから、さまざまな働き方について実験してきました。その中で見えてきた未来の働き方について、大事だと考えていることが3つあります。
変化に気づくこと
この先、社会の変化の激しさは、特にAIの進化も含めて、想像以上のものになると思います。不要な社内会議に費やしていた時間を、市場にアンテナを伸ばす時間にする。または、さまざまな働き方をしている人と交流することで、変化をキャッチアップしていくことが大切です。
働き方のオプションを増やす
変化に対応するために、働き方のオプションを増やすことも重要です。台風が来たらリモートワークをする、冬は暖かい場所でワーケーションをする。自分が望んだ働き方を選べるように、副業なども含めて、今から働き方の選択肢を増やす実験をしておくといいでしょう。
自分軸のキャリアを作る
変化を注視しつつ、そこに飲み込まれないよう、自分が主体のキャリアを作ることも大切です。会社や社会ではなく、自分の幸せを定義することによって働きがいを実感し、それを実現するための働き方を模索することが大切です。
澤円:これらを今から実践して、一人ひとりの働きがいと企業の成長が結び付く未来を創っていきたいですね。ありがとうございました。
「Bring.」のYouTube動画で働きがいや働き方について考えよう
越川慎司さんと澤円さんの対談では、二人が働きがいをもって仕事をするためのルーティーンや日常に取り入れられる具体的なコツなどについても語られました。より深く知りたい方はぜひ、対談動画もご覧ください。
マイナビ健康経営が運営する動画番組「Bring.」は、「働く人すべてをウェルビーイングに導いていくため」につくられる番組で、ビジネスパーソンの働き方や生き方におけるヒントを提供していきます。各分野において第一線で活躍するプロたちによる役立つトピックを、ぜひ動画からチェックしてください。
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