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人材育成とは?課題や階層別の計画、具体的な方法を解説

慢性的な人手不足の中で企業が経営目標を達成するには、人材の能力を高める「人材育成」が重要です。パフォーマンスの高い人材を育成できれば生産性が上がり、業績向上につながることが期待できます。
 
人材育成をする際には、自社が抱える課題を踏まえて育成の方向性を検討し、戦略的に計画を実行することがカギとなります。今回の記事では、人材育成の課題や進め方、目標の立て方、具体的な人材育成方法などについて解説します。

目次[非表示]

  1. 1.人材育成とは、業績向上に貢献するような人材を育てること
  2. 2.人材育成の課題
    1. 2.1.指導する人材が足りない
    2. 2.2.育成しても成果が出ない
  3. 3.人材育成を成功させるために、人材は資源ではなく資本と捉える
    1. 3.1.企業価値の向上につながる人的資本経営
  4. 4.人材育成の計画の立て方
    1. 4.1.新卒~若手従業員の育成
    2. 4.2.中堅従業員の育成
    3. 4.3.リーダー・管理職の育成
  5. 5.人材育成の目標の立て方
    1. 5.1.目指すべき姿の設定と現在の姿を、定量的に把握するためのポイント
  6. 6.人材育成の具体的な方法とは?
  7. 7.人的資本に則った企業の人材育成事例
    1. 7.1.オムロン:企業の付加価値に責任を持つ人事で人財活躍を支援
    2. 7.2.ソニーグループ:多様な個を軸とした人事戦略を実行
    3. 7.3.伊藤忠商事:労働生産性を創る人材戦略と明確なKPI
  8. 8.人材育成で人的資本に投資し、中長期的な企業価値向上を実現しよう

人材育成とは、業績向上に貢献するような人材を育てること

人材育成とは、経営目標の達成や業績の向上に貢献する人材を育てることです。
在籍している従業員の仕事の能力が高まれば生産性が上がり、企業の持続的な成長の実現につながっていきます。育成対象となる従業員側も、手厚い指導を受けることで会社に対するロイヤリティが高まり、学びを活かして成果を出すことでモチベーションが上がる好循環が生まれるでしょう。結果として、早期離職を防ぎ、人手不足の解消も期待できます。

人材育成は、新入社員、中堅社員、マネージャー、経営陣のように、育成対象となる階層によって行うべき内容が異なります。
例えば、新入社員に対する人材育成では、社会人としてのマナーの習得をはじめとした基礎的な内容が中心です。一方、管理職層に期待するのは組織を牽引するリーダーとしての働きであり、チームメンバーを指揮・管理する高度なマネジメント能力や、企業の指針を組織に浸透させる力などを磨く人材育成を行う必要があります。
このように、対象となる層ごとに合わせて教育の機会を与えるのが人材育成の特徴です。

人材育成の課題

今後、少子高齢化や働き方の多様化で、この国は人手不足がさらに進むことは確実です。人材獲得競争はさらに激化し、優秀な人材の獲得に向けて、これまで以上にコストと労力が費やされることになるでしょう。

こうした状況を踏まえると、既存人材の能力を引き上げる人材育成が大きな意味を持っていることがわかります。しかし、「人材育成に取り組んでも結果が出ない」「人材育成に取り組みたいが実行できない」と悩む企業は少なくありません。
企業が人材育成に取り組むにあたっての課題は、下記の2つが挙げられます。

指導する人材が足りない

教える側の人材が足りていないことは、人材育成においてよくある課題のひとつです。
指導する立場の上役は存在していても、当人が自身の知識を人に伝えるノウハウが不足していたり、対象者に身に付けてほしい新たな技術について理解が乏しかったりすれば、満足な研修を行うことはできないでしょう。
そのため、教育する内容が基礎的なレベルに終始してしまい、本来の目的である高度専門人材の育成に結び付かないことも考えられます。

育成しても成果が出ない

「何のために、どんな人材を育成するのか」が不明確だと、研修内容にばらつきが出たり、企業のビジョンや経営戦略に沿わない研修になったりして、本来期待するような成果につながらないでしょう。
このような場合、ゴールが設定されていないために進行度や習熟度も把握できず、計画を修正しにくいことも問題です。
人材育成に取り組む際には、育成に取り組む期間を設定し、定量的な目標を設定した上で実行に移すことが重要です。

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人材育成を成功させるために、人材は資源ではなく資本と捉える

人材育成は、育成する人材について、管理対象の「資源」ではなく、投資対象の「資本」と捉えることから始まります。

人材が持つ優れた資質や技能、アイディアなどは、企業の成長に貢献する可能性のある形のない資産です。所有する不動産や機械設備といった目に見える物を指す有形資産だけでなく、こうした無形資産も企業価値を高める要素であると考え、投資対象の資本と捉えることを「人的資本」といいます。

この考え方を原則として人材育成に取り組むと、人材育成の優先順位が高くなり、予算、人員、時間を割きやすくなります。
また、どんな人材を育成したいかが明確になり、育成の方向性がぶれるリスクも減っていくでしょう。

企業価値の向上につながる人的資本経営

人材を資本として捉える人的資本の考え方に基づき、人的資本に戦略的な投資を行って企業価値向上につなげる経営の在り方を「人的資本経営」といいます。経済産業省も人的資本経営を推進していますが、欧米に対して日本は、今なお有形資産への投資が中心であり、未来を見据えたアプローチが遅れている状況です。

ビジネス環境が急激に変化する今、中長期的な企業価値向上を見据えた人的資本経営は、企業の持続的な成長のカギを握る取り組みであり、人的資本の観点で行われる人材育成はその根幹となる取り組みだといえるでしょう。

【参照】経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」|経済産業省(2024年1月)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html


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人材育成の計画の立て方

人材育成の計画は、育成対象の階層別に立てることが重要です。ここでは、「新卒~若手」「中堅」「リーダー、管理職」の3つの階層ごとに、それぞれの特徴と課題を踏まえた計画の立て方を解説します。

新卒~若手従業員の育成

新卒から若手といわれる世代は、「ミレニアル世代(1980~2000年前後生まれ)」と「Z世代(1990年後半~2000年代生まれ)」に大別できます。

2つの世代に細かな違いはありますが、ITとの親和性の高さは共通した特徴です。ITを通して多様な価値観に触れていることから、特にZ世代は一方的なルールの押し付けを好まないとみられています。また、昇進を目指さない働き方を表した「静かな退職」といわれる現象が、アメリカのZ世代を中心に広がっていることも見逃せません。
静かな退職とは、実際に退職をするわけではなく、退職が決まった従業員のような余裕を持った精神状態で働くことを指しています。

マイナビ「2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査」の結果を見ると、Z世代は昇進を望まないといっても、自分の業務スキルのレベルを高めていく志向はあるようです。そこには、終身雇用が前提ではない「VUCAの時代」において、高いスキルを身につけて自律的にキャリアを築こうとするZ世代の姿勢がみえてきます。

新卒〜若手従業員の育成では、こうした世代の特徴を踏まえ、「育成の目的や期待できる効果」を明確に伝えることがポイントです。例えば、従業員のキャリア構築に役立つ社内公募制度を拡充させていく、またはリスキリング支援を通じて従業員が新しいスキルを学び直す機会を提供することも効果的といえます。
さらには、職位や責任の幅を柔軟に加減できる人事制度を導入することも、若手従業員の育成ニーズに合致しているといえるでしょう。Z世代を中心とした若手従業員には、一人ひとりに合わせた人材育成を導入することが重要です。

【参照】マイナビキャリアリサーチLab「Z世代の「管理職離れ」は本当か?最新調査から読み解く「Z世代が望むキャリアアップ」」|株式会社マイナビ(2024年3月)
https://career-research.mynavi.jp/column/20240311_71523/

【参照】マイナビキャリアリサーチLab「2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月)」|株式会社マイナビ(2024年2月)
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240214_69742/

中堅従業員の育成

中堅社員の年齢層は、20代後半~30代で役職についていない従業員を指すことが多く、求められる役割も企業によってさまざまです。しかし、マネジメント能力や問題解決能力を身に付け、教えられる側から教える側に回るべき世代でもあるといえます。
具体的には、上司の補佐や後輩の支援ができ、部署内の業務の推進といった幅広い役割も求められる部署の中心的な存在です。

中堅社員に対しては、まず自分のキャリアの現在地を明確に認識させましょう。自分の持つスキルレベルを一覧化したスキルマップを活用することで、目指すキャリアパスに対する現在のレベルをもとに、行うべきことを把握しやすくなります。中堅社員として上司の右腕となり、チームから信頼される人材になるためには何が必要かを本人が明確に捉えていることが重要となります。

キャリアへの展望がない、あっても消極的な人材に対しては、意識改革につながる機会を与えるため、リスキリングや越境学習を勧めることも選択肢のひとつです。

【参照】HR Trend Lab「中堅社員の役割とは?求められるスキルやあるべき姿について解説」|株式会社マイナビ(2023年12月)
https://hr-trend-lab.mynavi.jp/column/human-resource-development/6436/

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リーダー・管理職の育成

リーダーや管理職になると、自身の業務で高い成果を出しつつ、チームメンバーの業績も高める働きが求められます。また、事業や組織について、視座の高い意見や提言を求められることも多くなるでしょう。
そのため、業務スキルとマネジメント能力をバランス良く磨いていくことが重要です。

また、多様性を好み、権力の押し付けや変化に弱いといったマネジメント対象の若手世代の特徴を考慮し、無意識の思い込みや偏見を表す「アンコンシャスバイアス」の解消や、業務の能率が落ちている「プレゼンティーズム」を生まない謙虚なマネジメント、チームメンバーの心の動きを敏感に感じ取ってケアできるメンタルヘルス系の知識の習得も必要となっていきます。

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人材育成の目標の立て方

人材育成は、目標を持って取り組むことで初めて効果が出るものだといえます。なお、目標を立てる際には、経営に貢献する人材を育てるという人材育成の原点に立ち戻り、経営戦略と連動するように人材戦略を組み立てていくことが重要です。
 
このとき、前述した「育成しても成果が出ない」という課題をクリアするため、経営戦略実現に向けた人材面の課題を特定した上で、定量的な目標を設定することも大切です。定量的な目標を定め、課題ごとにKPIを設定し、「目指すべき姿」の設定と「現在の姿」とのギャップを定期的に把握することで、人材戦略と経営戦略の乖離を防ぐことができるでしょう。

目指すべき姿の設定と現在の姿を、定量的に把握するためのポイント

「目指すべき姿」と「現在の姿」を把握するには、自社が目指すべき姿(To be)を企業文化として確立する必要があります。
事業の社会的な意義や企業としての価値を熟考し、企業理念に落とし込むとともに、持続的な企業価値の向上につながる従業員の行動や姿勢を企業文化として定義しましょう。

同時に、人材関連の改善につながるKPI、社員の特性情報といった人事情報基盤も整備しておくと、ギャップをすみやかに埋めることが期待できます。その際、各KPIでの目標や達成までの期間も明確に定めておくことが大切です。KPIの中でも特に重要な項目については、目標と進捗状況を一覧化しておくと、スムーズに定量把握が行えます。

【参照】経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~」|経済産業省(2022年5月)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

人材育成の具体的な方法とは?

人材育成には代表的な方法がいくつかあります。具体的には下記の8つが挙げられます。

■人材育成方法の例

 

OJT

実際の仕事を通して知識やスキルを身に付けていく育成法です。

Off-JT

セミナーなど、業務外で行われる研修を指します。

SD(Self Development)

従業員自身が自発的に行う、自己啓発のための学習のことです。

ジョブローテーション

人材育成計画に基づく配置転換を行い、複数の業務経験を積むことで多角的な視点が身に付きます。

越境学習

現職とは異なる環境に身を置き、これまでにない学びや視点を得る方法です。

アンコンシャスバイアス解消の研修

相手のパフォーマンスを低下させる、無意識の思い込みや偏見を解消するための研修です。

企業間留学

企業間の研修契約によって、従業員を他社に留学させて新たなノウハウの習得を目指します。

リスキリング

変化に適応するためのスキルや技術、能力を獲得するための学びのことです。

人的資本に則った企業の人材育成事例

最後に、人的資本に則って人材育成に取り組み、成功している企業の事例を紹介します。各社が具体的にどのような取り組みをしているか確認しておきましょう。

オムロン:企業の付加価値に責任を持つ人事で人財活躍を支援

大手電気機器メーカーのオムロン株式会社は、「われわれの働きで われわれの生活を向上し より良い社会をつくりましょう」とする企業理念を体現した実例をグローバル全社で共有し、理念の浸透を図っています。
また、人事が「企業の付加価値に責任を持つ」姿勢を示し、人材育成やエンゲージメント向上に向けた施策を実施しています。

ソニーグループ:多様な個を軸とした人事戦略を実行

大手電気機器メーカーのソニーグループ株式会社は、「Special You, Diverse Sony」を人事フィロソフィー(哲学)に、「個を求む」「個を伸ばす」「個を活かす」の3つの軸で人事戦略を体系化。
多様な個(人・事業)の成長の総和をグループ全体の成長と認識し、各社のCHRO(最高人事責任者)が執行役専務や人事総務担当とすり合わせをしながら人事施策を推進しています。

伊藤忠商事:労働生産性を創る人材戦略と明確なKPI

総合商社大手の伊藤忠商事株式会社は、企業価値に直結する人材戦略を整理し、戦略目標ごとに期待される成果を開示。
人的資本投資についてKPIと拡充施策を体系化し、効果を把握して継続的な見直しにつなげています。

【参照】経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集」|経済産業省(2022年5月)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf

人材育成で人的資本に投資し、中長期的な企業価値向上を実現しよう

不確実な未来に向けて歩みを進める企業が持続的に成長・発展するには、人材育成の取り組みが欠かせません。育成する人材を資本と捉え、それぞれの階層に沿った具体的な育成の実行をぜひ行っていきましょう。

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